第1222堀:こういう扱い

こういう扱い



Side:エノラ



やっと着いたヅフイア王国のアオク子爵領のアオク町。

よくあることだけど名付けのセンスって所詮こんなものよねー。

それより、あの馬鹿どもをハイデンで返品手続きして、押っ取り刀で引き返してユキたちに合流ってホント大変だったわ。

そしていよいよ、領主館に到着したのでバスを降りると……。


「「「お待ちしておりました」」」


と、仰々しく外に整列した子爵の使用人たちが出迎えをしてくれていた。

なんでこんな大仰なと一瞬思ったけど、ま、そうもいかないわよね。

ウィードとユキのことについてはヅフイア王国はよく知らないかもしれないけど、案内役がハイデン王国の外交官であるコドリッシさんな上に、ハイデン王国御三家たるカミシロ公爵家次女のカグラ、フィンダール帝国王家長女であるスタシアがいて、ハイレ教からは一司教に過ぎないけどこの私エノラ。

この土地で生きるなら無視できない立場の面々がそろっている。

そこに無礼などあってはいけないのだ。

それこそ子爵家がつぶされたり、果てはこの国がなくなる可能性だってあるから。


まあ、ユキがそんなことを要求するなんてほぼあり得ないんだけど、国として、さらにはその一地方を預かる身の貴族である限り当然のようにやらなくちゃならないのよね。

まあ、あのミコスを脅した馬鹿子爵みたいに。

ユキにはそんな気が無くても、キャリーやハイデン王国独自の判断でここのアオク子爵も同じように潰されてしまう可能性もゼロじゃない。

だからこうしたしっかりした出迎えが必要になる。


本当に貴族とか政治って大変よね。

ユキが下手に身分なんか持たずにとか関係なくこっそり進めたいって気持ちは分かるわ。

何せ……。


「エノラ司教様。お部屋はこちらになります」


私もこんな風にハイレ教の司教として、精霊の巫女として『格別の扱い』になるのよねー。

もちろんこれを断るのは簡単。

なんだけど、そう案内しろと指示を受けている使用人たちには何も落ち度はないし、私が断わったりするとあの使用人たちが困ることになるのよね。


「ありがとう」


なのでとりあえず素直に部屋の案内は受けておいて……。


「何か御用があればお申し付けください」

「では、さっそくで悪いですが、私の夫の元へ案内していただけますか?」

「え?」


私の言葉に驚きを露わにする使用人。

とはいえ、あくまで事実に基づきまっとうなお願いを私は伝えているだけ。


「私の夫の元です。ユキと名乗るウィードの王配で、私の夫でもあります。いいでしょうか?」

「は、はい!」


使用人は一瞬驚いた顔をしたけど、さすがはちゃんと教育されているようで速やかに案内を始める。

領主館は私たちのような来客があってもいいようにそれなりの大きさがあり多くの客間があるから、ほかのみんなも別の部屋に案内されているんでしょうね。

まあ、流石に人数が多いから一人一室とまでは行かず数人ごとに一緒になっている方が多いと思うけれど。

そんなことを考えていると、やっぱり同じように案内されている集団と出会った。


「あ、シェーラ」

「あら、エノラさん」

「あ、エノラお姉ちゃんだ」

「エノラーやほーなのです」

「そっちはそっちで大変そうね」


どうやらシェーラとアスリンたちは一緒だったみたい。

まあ、この4人は1セットだしね。


「大変ってわけじゃないわ。これがここで普通なのよ。精霊の巫女はね」

「王族と同じようなものですね。エノラさんもご苦労されたのですね」

「苦労というか、私は昔からこういうのが当たり前だったしね。それでシェーラたちもユキの所に?」

「ええ。別の部屋に案内されたので、旦那様のところに一度顔を出すのは当然です」

「一緒の部屋がいいってお願いしたんだけど、さすがにそんなに広い部屋はないって」

「仕方がないわよ。家でも別の部屋だし」

「むう、フィーリアが今度改造をするのです」


そりゃフィーリアならこともなげにできそうだけど、そうなると生活空間が一緒になるからリズムが崩れそうなのよね。

ついついゲームをして夜更かしするとかもあるし、そのあたりどうなのかしら?

家じゃ『大広間で寝る』って時もあるからそういうのでいいんじゃないかしら。


「あ、お姉たちだ」

「あら、ほんとね」

「皆さんどうしたのでしょうか?」

「私たちと同じではないでしょうか?」


すると、今度は案内されているヒイロたちとスタシアに出会った。

ああ、そういえばヒイロもここじゃ精霊の巫女だったわね。

それで別部屋か。


「そっちもユキの所でしょう?」

「そうだよー」

「じゃ、一緒に行きましょう」


ということで、私たちは合流してからユキがいる部屋に案内してもらうんだけど……。


「ところでスタシアはなんでヒイロと一緒なの?」

「ヒイロ達の中にここでの外交に強い者がいなかったもので、私がいた方がいいかと」

「ああ、そういうことね」


確かにシェーラの所はシェーラ本人もいるし、ラビリスもいる。

私は言わずもがなハイレ教の司教だし。

そうなるとヒイロとドレッサって組み合わせは確かにちょっと心許ないわね。

だからスタシアがいるわけか。

ということで、ヒイロたちとも合流してユキの部屋に到着すると……。


「いかがですか、お部屋の方は?」

「はい。このようなすばらしい部屋を用意していただいてありがとうございます」

「奥様たちも満足してくれるといいのですが……」

「心配しなくても大丈夫ですよ。みんな満足してると思います。なあ、エノラ」


そう扉越しに言われ、苦笑いしながら護衛の兵士に頼んでドアを開けてもらうと、ユキはにっこりと笑ってこっちを見ている。

アオク子爵はちょっと青ざめているようだけど。


「入っても?」

「ああ、と、座る場所はないけどいいか?」

「それぐらい平気ですよ」

「へいきー」


シェーラやヒイロたちは別段遠慮することもなくそのままスタスタと部屋の中に入っていく。

やっぱり流石に客間とはいえ20人近くも座れるような余裕はないわよね。


「これはこれは、精霊の巫女様たちと奥様がた、何か問題でも?」


アオク子爵はちょっと冷や汗を流しながら私たちに質問をしてくる。

ああ、案内させたばかりなのにもうユキの部屋に来るのというのは何か問題があったと思うのは当然ね。

ここはちゃんと言っておかないと。


「いいえ、何も問題はありません。アオク子爵。よいお部屋をご用意していただき感謝しております」

「はい。私も子爵のお心遣いに感謝しております」

「ありがとうございます」


私とシェーラはちゃんと精霊の巫女としての立場をも考えた挨拶をしたし、ヒイロは普通にお礼を言う。

でも、お礼なんて普通のことなのに、精霊の巫女を神聖視している人たちにとっては……。


「おお、ありがとうございます!」


と、子爵は感極まって今にもひれ伏しそうな勢いで逆に感謝を伝えてくる。

いやぁ、これがここの普通なのよねー。

私やシェーラはそんなの重々承知の上だけど、普段こういった『偉い人』から頭を下げられることに慣れていないヒイロはちょっと微妙な顔をしている。

とりあえず、私が主導で話を進めた方がよさそうね。


「夫の部屋に来た理由ですが、夫に会いたかったことと、これからの予定の話をしに来たのです。ですが、子爵様のお邪魔でしたら出直しますが?」

「いえ、そのようなことは。今ちょうどそのお話をしていたところです」

「キーナオ子爵、妻たちも座れるようにどこか会議室でも貸していただけませんか? 彼女たちも共に訪問する予定なので、その辺り一緒に話をしてしまった方が都合がいいでしょう」

「確かにそうですな。ではこちらに」



こうして、私たちは今後の予定を話すために、晩餐会などで使用される大テーブルがある部屋へと通された。


「改めまして、ウィードの皆様、アオクの町へのご来訪こころより感謝いたします。さて、今後の予定につきましてですが、ご希望のゴブリン村への訪問ですが、まず明後日までは我が町でお休みいただき、3日後に訪問する予定となっております。案内は私が行い、護衛の手配も私が行いますのでよろしくお願いいたします。何かご質問などはございますか?」

「そうですね。ゴブリン村を訪れる際に失礼があってはいけないので、何かやってはいけないタブー的なものがあればここで教えていただきたいです。当たり前と思われることも全部教えていただけますか?」


あ、確かにそうね。

ゴブリン村のタブーって言われると私にもわからないわ。

とりあえず今までは普通に問題なく話はできてたと思うけど、今回行くゴブリン村にそういうのがあれば注意しないとね。


「いえ、特殊なタブーなどは聞いたことがありませんね。私たちと同じ感覚で礼儀には礼儀で返し、非礼には怒るという感じです」

「そうですか。あとは贈り物に関してですが、何がいいでしょうか?」

「そうですなー。彼らは宝飾品などはあまり興味を示しません。ご存じの通り森の奥でひっそりと暮らしているのでむしろ生活に役立つものがいいかと」

「なるほど」


そうユキがいうと、オレリアたちに目配せをする。

オレリアたちもわかっているのか即座にメモをして、ヤユイがスッと下がっている。

うん、ユキが後で考えるよりこうして即座にリストアップする方がいいわよね。

役に立ってるじゃないあの子たち。


「本来であれば、到着されて中一日で出発して頂けるようにする予定だったのですが、こちらの準備不足で用意ができるのが3日後になってしまいました。お詫び申し上げます」

「いえ、こちらが早く来たのが原因ですし、大丈夫ですよ。明日明後日はアオクの町を楽しませてもらいます。そしてキーナオ子爵とお話ができる時間が増えたのがうれしいですよ」

「そう言っていただけて何よりです。私もユキ様の偉業はいろいろと聞いております。あの魔術国家ハイデンにおいても突出した魔術の才を持つと評価されていると。我が国は騎士ばかりが多く魔術が使える者が少ないのです。実際に見せていただければと厚かましいことを考えております」

「いいですね。私ばかりが一方的に話を聞くのは不公平ですし、被害のでない程度の魔術でしたらお見せしますよ。場所を用意していただけますか?」

「おおっ! ありがとうございます! 早速手配をしておきましょう。よければ明日にでも……」

「いいですよ。早速やりましょう。見たい方がいれば一緒にどうぞ。町の人に声をかけるのは……」

「それはさすがに人が集まりすぎる気がしますね。こちらで選んだ者たちだけがいいでしょう」


そんな風にユキとアオク子爵は楽しそうに話をしている。

とはいえ、休みの時間があるのなら……。


「お話し中、申し訳ないですが私の方もこの地のハイレ教会に顔を出しておきたいのですがいいでしょうか?」

「はい。構いません。ハイレ教会の方でも精霊の巫女様が来訪されるのを待ち望んでおります。今から向かわれますか?」

「いえ、明日。夫と一緒に出向こうかと思います。そうでないと長い時間拘束されてしまいそうで」

「確かに」


私たち精霊の巫女は信仰の対象でもあるから、うっかり教会なんて行くと本当に大変なことになる。

でも、風土病とかを調べるためにもきちんと顔を出すようにとルルアにも言われているし、私としても病気の知識は絶対に必要だというのは分かるのでそこはちゃんと押さえる。


こうしてみると意外とゴブリン村訪問までの時間があるのはいいことかもしれないわね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る