落とし穴151堀:夏の怪談リバイバル 舞台裏

夏の怪談リバイバル 舞台裏



Side:ミリー



『さあ、吐け。お前は何者で、何故こんなとこにいる』

『うぐあぁぁぁ……』

『いや、やっぱり言葉通じていませんよ』

『だな。まあ、斧が手に入ったから、それだけでも儲け物といえるが』


そんな風に異界へと変じた幽玄旅館内においても平然と話をするユキさんたち。

予想通りとはいえ……。


「最初はそれなりに驚いておったが……」

「あっという間に普通に戻ったわね」


うんうん……。


デリーユとセラリアの言葉に全員が頷く。

流石、私のユキさん。どんな時でも慌てず対応できる人ね。

改めて、その冷静でありながら、大胆さを併せ持ち、きちんと結果を残す凄さに惚れ直すわ。

ユミにも、見せてあげたいけど、ちょっと斧男がグロテスクだから駄目ね。

ま、それはいいとして……。


「ぬがぁぁぁぁ!! 相変わらず、常識的には動かないわね!! こういう時は逃げるんでしょ!! サイ〇ンでしょ! なんで静岡対処になってるのよ!! 戦うと死ぬとか思わないわけ!!」


と、モニターを見て憤慨しているルナ。

この異界化はもちろんルナの協力があってのこと。

他の人たちでは流石にユキさんたちに気が付かれずに異界化をすることはできない。

ルナに頼んだら、喜んで手伝ってくれたんだけど……。


「えーっと、ルナ様。そもそも旦那様がルール通りに動くと思うのはあれだと思うのですが……」

「……ルルアの言う通り。ユキがああいう状況でゲームと同じ行動をとるとは思えない。というか、ルナが手を貸したことがバレバレ」

「……ん。カヤの言う通り。ルナ。ゲームを参考にしすぎた。露骨すぎ」


クリーナの言う通り、今回ルナは自分が好きなホラーゲームを参考に作ったみたいだけど、明らかにゲーム風にやりすぎて、ユキさんたちには展開が予想できているみたい。


「ちっ、ここはリ〇グとか呪〇で攻めるべきだったかしら?」

「いやいや、それはダメでしょう。100%死ぬ話じゃない」


確かにユキさんが死ぬようなタイプは許さないけど、そう言ってダメ出ししているのが幽霊のノリコなんだから、なんか違和感があるわね。


「というか、なんであの3人は平然としているのよ。普通はあんな状況に置かれたら大混乱で怖がるものよ?」

「ノリコ。自分たちは散々脅かしておいて、それを言うのかしら?」

「だよねー。ノリコお姉ちゃんたちのお化け屋敷でお兄ちゃんを脅かしてたよね」

「そうなのです。学校で脅かしてたのです」

「いやいや、あの時だって怖がってないわよ。ユキたちは……」


そんなことを話しているうちに、ユキさんたちは斧男は簀巻きにしたまま、斧だけ回収して、部屋を出ていく。

うん。ユキさんらしいわね。

敵を無力化したうえで武器も確保する。いつものユキさんだ。

私はそのあまりにいつも通りなユキさんに安心しつつ、ふとある疑問を持った。


「ルナ。悔しがっているところ悪いんだけど、ユキさんたちはどうやったら脱出できるの? あまり長い間拘束するのもかわいそうだと思うんだけど?」

「それもそうですねー。お兄さんたちは休暇で来ているんですし、あまり長時間あの空間に閉じ込めるのはかわいそうですよ」


私の言葉にラッツも賛同してくれる。

というか、私なら休暇をこんな風につぶされたなら怒るわね。


「あー、そこは大丈夫よ。一応あの空間にいる限り時間が経たないから。あと私たちが監視しているこの空間もね」


流石女神様。そういうこともできるのね。

それなら問題はないかな?

と、思っていると意外な人物から声が上がる。


「へー。流石はルナ様。そんなこともできるんだ! すごい!!」


いや、意外でもなんでもないか。

そう素直にルナを褒めるのは、女神のハイレンだ。

そういえば、カグラたちに取り押さえられてからは大人しくしてたわね。


「まあね。というか、ハイレンは何か仕掛けないのかしら?」

「え? いいんですか?」

「「ちょっ、ルナ様!!」」


あー、ここでハイレンに振っちゃうか。

……でも、案外いい手なのかもしれない。

ハイレンって意外とユキさんの予想上回るというか、下回るというか、想像のつかない行動を起こすのよね。

とはいえ、カグラとミコスはそんなこと受け入れるわけにはいかないわよね。

ハイレンが面倒を起こすのは目に見えているし、いつもならその後始末はハイレンの保護者であるソウタさんとエノルさんがするのだけれど。この場での保護者はカグラとミコスということになる。

つまり責任問題というやつね。

それがあるから、カグラとミコスは慌てるわよね。

下手したら、ユキさんと離婚だし。

……あー、それは死刑宣告ね。

私だったら自殺しているわ。

ここは、助け舟をだしましょう。


「カグラ、ミコス、落ち着いて。ルナもハイレンも別にユキさんを殺しにかかっているわけじゃないから。ねえ?」

「そりゃ、脅かすのが目的だから当然でしょう」

「うん。殺すわけないじゃん。私の可愛い、カグラとミコスの旦那さんなんだし」


うん。やっぱりこの2人は、純粋にユキさんたちを脅かしたいだけのようね。

こうして脅かすだけと確認できたのだから、2人は安心できたかと思ったんだけど……。


「で、ですが、ユキが怒ったりしたら……」

「ミ、ミコスちゃんたち、離婚言い渡されたり……」

「あーはいはい、それは気にしないでいいわよ。そもそも。ユキさんがこの程度で怒るわけないわ。万が一そんなこと言ったら私たちがかばうわ。ねえ?」


私がそう言うと皆頷く。


「うむ。ユキがそのようなことを言うわけがないし、心配することはない」

「そうね。というか、既にルナがやっているってことがばれているし、ハイレンを投入した所で、カグラとミコスに責任をとかいうわけないわね」


デリーユやセラリアもカグラとミコスを安心させるためにフォローをする。


「……えーと、皆さんありがとうございます。ですが、心配はそれだけではないんです。……ハイレン様が脅かしに行くって、どうするおつもりでしょうか?」

「カグラの言う通りですよ。ハイレン様、あんなところに行ったら怪我しちゃいますよ?」

「そうです。もっと御身を大事にしてください。あんな所で迷子になったらどうするのですか?」


分かるわ。それは分かる。

ハイレンならきっと何かドジをして、あの旅館内で怪我をしたり迷子になったりすると思うわよね。

それはみんなも全く同じ思いのようで、揃って生暖かい目でハイレンを見ている。


「ちょっと!? 私は子供じゃないわよ!? 迷子になんてならないわよ!!」

「「「……」」」


そのハイレンのその言葉を信じるようなものはこの場にいない。

これまで積み上げてきた信頼というのがいかに大事かわかるわね。

で、そのみんなの様子から、ちっとも信頼されていないことが分かったハイレンは……。


「ルナ様! 私をあっちに送ってください! 現場に行ってユキたちを驚かせてみせます!」

「おっけー」


まあ、憤慨したハイレンから即座にお願いされたルナは満面の笑みで快諾。


「「ちょっ」」


カグラとミコスは慌てるが時すでに遅し。

既にその場にハイレンの姿はなく、虚空に手を伸ばしているだけだった。


「まあまあ、二人とも落ち着きなさい。あれでもハイレンは女神よ? しかもリリーシュと同じ愛や慈愛系の女神だから、あんな死霊もどきが徘徊するだけのただの廃墟なんか平気でしょう」

「うーん、そうなのでしょうか?」

「どうも、ハイレン様が困って泣いてる姿しか思い浮かばないんですけど……」


ルナにそう言われて少しは落ち着くかと思ったんだけど、まだまだ心配のようね。

こうなると、何を言っても無駄でしょうし……。


「とりあえず、ハイレンの様子に注意してればいいじゃない。何かあれば直ぐに助ける。いいでしょう? ルナもいいわね?」

「そりゃね。女神さまが死霊、アンデッドに襲われて死亡とか馬鹿らしいし。それにこれはあくまでも新型体感アトラクションの試しだからね。絶対人死になんて出さないわよ」

「そこまで言って下さるのでしたら、いいんですが……。でも、姫様にどう報告を……」

「うーん、どうしよう……」

「それなら私の名前を出しなさいな。それで解決よ。あと神酒でもつけるかしら?」

「「いえ、そこまでは結構です!!」」


古傷や欠損まで治すどころか、挙句の果ては先天性的な病まで治してしまう驚異のお酒なんかポンと出されちゃ、そりゃ上は大混乱するわよね。

以前渡された神酒でも随分もめたみたいだし。

まあ、私にとってはルナに一杯付き合うときのたまに飲むお酒の一つってレベルなんだけど。

……ん? 私の感覚がおかしいのかしら?

と、そんなことを考えていたら、神酒を断られたルナは意外そうな顔をして。


「え? お酒嫌いなの?」

「そんなわけないでしょ。というか、ルナ分かってて言ってるでしょう?」

「まあね。とはいえ、私はカグラとミコスのためならそこまでしてあげるわ。ってことよ」

「「ありがとうございます」」

「そもそも私の趣味に巻き込んだのが原因だしね。お礼はいらないわよ。で、ハイレンも動き出したみたいね」


そういわれて、画面の方を見てみると、あの旅館の一室にいるハイレンが映っている。

辺りをきょろきょろと見まわして……。


『うっわっ!? 汚い!!』


そりゃそうでしょう。

惨劇が起きた廃旅館なんだから。


『うへー。こんなところを移動しないといけないの?』


そんな文句を言いながら、ハイレンは部屋の外に出て……。


『……』


なぜかその場で立ち止まって不安げに廊下の左右を見たかと思ったら、そのまま部屋に戻っていく。


「「「?」」」


その謎の行動に私たちが首を傾げていると、ハイレンはいきなり蹲って……。


『ちょっと、怖いんですけど!? 思った以上に怖いんですけど!! なに、なんかソウタたちと駆け抜けた戦場とは全く雰囲気が違うんですけど!?』

「「「……」」」


迷子以前に、この旅館を歩けそうにないわね。

とはいえ、納得できるところもあるわ。

戦場とあの場所では全く違うのよね。

全てを置き去りにしたような場所だから。

あ、ハイレンで思い出したけど……。


「ねえ。カグラ、ミコス。そういえば、なんでエノラがいないの? さっきまでいたわよね?」

「そう言えばそうですね。どこに行ったのかしら?」

「あー、エノラは以前の学校でのことが堪えてたらしくて、気分が悪くなって部屋で横になってます」

「あの時はすごかったからねー。ノリコさんがエノラを思い切り脅かすから」

「いやー。それほどでも」

「「「褒めてない」」」


どうやらエノラには幽霊関係はトラウマになっているようね。


「……いや、普通はトラウマになって当然よね?」

「そうですねー。いきなりあんな場所に送り込まれたら普通パニックになるか、ハイレンみたいになりますよ。お兄さんたちの反応が異常なだけで」

「あ、そういえばユキさんたちは?」


ラッツの言葉に頷いている間に出たエリスのふとした一言で思い出した。

そういえば、斧男を簀巻きにしてたけど……。


『なんか、叫び声が聞こえたよな?』

『ええ。女性の声でしたけど』

『ふむ。この部屋だな』


なんと、ハイレンのいる部屋の前まで来ていたみたい。

まあ、あの静かな旅館の中であんな大きな声を出していれば聞こえるわよね。

そして、当たり前の行動に出る。


ドンドン。


『誰かいるのか?』


そうドアを叩いて問いかけると……。


『誰もいないわよー!』

『『『……』』』


こうして、ハイレンは早くもユキさんたちと合流したのであった。

あれ? 全然脅かす側になってなくない?


「ま、これはこれで面白いからよし!」


と、ルナは如何にも楽しそうな笑顔でそう言うのであった。

ユキさんに迷惑かけないといいんだけど……。


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