落とし穴149堀:夏の怪談リバイバル 気が付けば廃旅館
夏の怪談リバイバル 気が付けば廃旅館
Side:ユキ
「ユキさん。タイゾウさん。起きてください。なんか変なことになってますよ」
そんなタイキ君の声に目を覚まし、体を起こすと……。
「んー? って、なんだこれ」
なんかこんな所にいちゃ体に悪そうな、そんな荒れ果てた部屋にいることに気が付いた。
「なんだい? んん? ここはどこだ?」
タイゾウさんも、俺と同じように辺りの異変を察知した様で周囲をきょろきょろ見廻している。
俺も同じように一通り見回して、部屋の状況を確認する。
パッと見た限り部屋の間取りは、俺たちが泊まった大部屋と変わっていない。
そこら中ボロボロなこと以外な。
そんなこと考えていると、俺やタイゾウさんの様子を見ていたタイキ君が安心したようで……。
「やっぱり、ユキさんもタイゾウさんも、ここ、部屋がボロボロに見えますよね?」
「ああそうだな。ボロボロに見えるな。タイゾウさんは?」
「同じく、ボロボロに見えるぞ」
どうやら、俺にだけこの部屋がボロボロに見えているわけではないようだ。
「とりあえず、持ち物の確認だな。テーブルの上にあったPCはないな」
「あっ!? ない!!」
そう、テーブルの上に置いてあったはずのゲーム専用PCは跡形もなく消え去っている。
それだけではなく、お菓子とか飲み物すら痕跡がない。
「荷物も一切見当たらないな。こうなると、私たちが別の場所に移動させられたと考えるべきだがな……」
「そんなことできる人っているんですか? まあ、どこかの女神様なら出来そうですけど」
タイキ君の言葉で、無意識に思い出すことすら拒絶してたあの駄目神で駄女神を思い出してしまう。
こんなくだらないことをするのは、俺の知り合いの中じゃ奴しかない。
特に心霊現象関係では前科がありまくるからな。
それは、タイゾウさんも同じようで……。
「確かに、こんな芸当ができるのはルナさんぐらいだな」
俺やタイキ君と同じ結論に至ったようだ。
そうなると……。
「これって、簡単に出られないってやつじゃないですかね?」
「多分な」
「彼女ならやりかねないな……」
あのイタズラ大好き女神が仕掛けたなら、俺たちをそう簡単に脱出させるわけがない。
色々無理難題を吹っかけてくるに決まっている。
とはいえ、この状況どうしたものか……。
このままじゃ、休みを無為に過ごすことになってしまう。
となると、やっぱりなんとか脱出するしかないわけだが。
「とりあえず、部屋を確認して使えそうなものを探そう」
「了解です」
「荷物が全てなくなっているからな。何かあると助かるんだが」
そう言って、3人でこの部屋を漁ってみたが、出てきたのは……。
「ボロボロになった敷布団一式に湯呑ぐらいか。マッチもあったが、これ使えるのか?」
あるのは朽ち果てたといっても過言でないぐらいボロボロになったものしかなく、唯一使えそうなマッチを取り出して……。
シュ、シュ、ベキッ!
「ユキさん、力を入れすぎじゃ?」
「悪い。なかなかつかなくて。タイゾウさん、点けられますか?」
「やってみよう」
こういうのは、俺やタイキ君よりも、タイゾウさんが適任だな。
俺がむきになって何本も折るよりも、タイゾウさんに任せた方がいい。
ということで、マッチ箱を受け取ったタイゾウさんは早速、マッチを一本取り出して……。
シュ、シュ、シュボ。
「「おっ、点いた」」
流石タイゾウさん。こういうモノの扱いには熟練している。
しかし、マッチを点けた当のタイゾウさんは難しい顔をしていて……。
「これは偶然点いただけだな。かなり湿気っていて、運がよかっただけだ。ユキ君が点けようとしていたマッチなら私でも点けられないな」
どうやら、やっぱりマッチの状態も極めて悪いようだ。
決して、俺がマッチすらもつけられないようなやつではないということだ。
ま、ここまでボロボロの部屋でまともな状態なものがあるとは思えないよな。
「どこかで、天日干しでもして湿気を飛ばせれば、回復する可能性もあるだろうが、今のこの状況でそのマッチを干しておく場所もなさそうだな。と、それで思い出したが、外はどうなっているんだ? 窓から中庭の様子が窺えるんじゃないか?」
そう言われて、中庭に面した窓の方へ振り返るが、その窓にはしっかり木の板が打ち付けられ、窓の向こう側の様子は分からない。
「ずいぶん気合を入れて封鎖しているな。全く隙間もないときたもんだ。ぶっ壊すにも道具もないと……」
「道具って…。そういえば、アイテムボックスは使えないんですかね?」
タイキ君はそう言いながら一所懸命アイテムボックスを使おうとしている様だが、一向に道具が出てくることはなく……。
「ありゃ? なんか、感覚がズレているっていうか、使えない?」
「私も同じような感覚だな。あるのに引き出しを掴めないような……」
「ま、あの駄女神が関わっているんだ。魔力系の技能とかは使えないようにしてるだろうさ」
「「あぁ」」
俺の言葉に納得する2人。
道具があれば、速攻壁をぶっ壊して、外に出るところなんだが、そんな見え見えの抜け道をあの駄女神が許すはずもない。
はぁ、正規の行動って言うとあれだが、やつのリクエストに応えて普通に玄関から出てこいってことだろう。
とはいえ、まんまと嵌められて、そのまま素直に出ていくのも癪だ。
……まずは相談してみるか。
「さて、タイキ君、タイゾウさん。これからどうします? とりあえず手持ちの道具は無し、魔術は使えず、部屋はボロボロ」
「どうするって言っても……。とりあえず、ここから出るってことぐらいですかね。コールも通じないですし」
「だな。ここでぼーっとしていても、特にやることが無い。そもそもあのルナ殿がこのようなことをしたのなら、私たちが自発的に行動しない限りは出られないだろう。まあ、根比べでルナ殿に飽きられるまでこの場所にひたすら静かに居座るというのもあるにはあるが……」
「いや、タイゾウさん。こんなボロボロの部屋で長時間待つのはちょっと……。そもそも時間を潰すモノもなければ、食料もないですし」
「確かにな。タイキ君の言う通り、ここでは何をするにも道具がなさすぎるな。それに流石に、トイレの水を飲むっていうのは勘弁してほしい」
「それは嫌ですね」
「同じくだ」
意見は一致した。
ここにとどまるメリットはなにも存在していない。
ルナが飽きるのを待つよりも、外に出る。
「じゃぁさっそく、と行きたいが、何かカバンになるようなものはあるか?」
これから、冒険に出ようというのだ。
アイテムボックスというスキルが封じられた今、少しでも荷物を多く運べる手段、具体的にカバンなんかがいる。
「いやー、それらしいものは何も……」
「まってくれ、それなら……」
タイキ君が何もないと言いかけたのをタイゾウさんが口を挟み、足元に落ちていた一枚の大きめの布を拾った。
「え? それがどうしたんですか? カバンってわけじゃ……」
タイキ君には分からなかったようだが、俺にはピンときた。
「ああ、風呂敷に使うんですね」
「そうだ。カバンなどという物がなかった頃の人の知恵だな」
「フロシキ? ふろしき、風呂敷!! ああ、あれか!」
タイキ君も俺の風呂敷という言葉を聞いてやっと分かったようだ。
今のご時世、風呂敷という言葉を聞くことなどまずないからな。
風呂敷、日本に存在し続けてきた荷物を運ぶための大きな布。
それは平安の時代から存在し「平包み」と呼ばれていたが、お風呂が大衆化した頃、風呂敷を広げた上で着替え、そのまま荷物を包むという使い方をすることから「風呂敷」との認識が広がったとかなんとか。
まあ、簡潔にいえば、これで荷物の持ち運びができるということだ。
「じゃ、そろそろ出ますけど、こんな環境です。バケモノの類が出てきてもおかしくないですから、静かに進みます。いいですね?」
俺がそう言うと、タイキ君とタイゾウさんもそれは分かっているという様に頷いてくれる。
残念ながら魔力は禁止されているので、今の我々は身体強化も発動していない、ただの生身だ。
この状態で魔物との戦闘は避けたい。というか死ぬ。
まあ、さすがにそこまでひどい設定にはしてないだろうと信じたいが、面白半分で殺人鬼程度は放っていかねないので、迂闊に廃墟を見学して廻る気にもなれない。
ということで、俺は静かにゆっくりと部屋のドアを開け、出来た僅かな隙間から外を覗く。
「どうですか?」
「何か異常はあるかい?」
「いえ、見える範囲にはなにも。今から完全に開けます。一応警戒を」
「「了解」」
そして、ドアを開けたそこに広がっているのは……やはり荒れ果てた旅館だった。
「……うわー、とことんやる気ですね」
「みたいだな。とはいえ、まだルナ殿がこの事態を起こしたという確証もないからな。うっかり安全だと信じて進むのは危険だろう」
「タイゾウさんの言う通りですね。タイキ君、くれぐれも油断だけはするなよ。お前の死体を持って帰ってアイリさんやソエル、ルースに怒られたくないぞ」
「いや、俺が死ぬって明確に想定しないでくださいよ」
「はは、そんな軽口が出るならまだいいさ。さ、進もう」
こうして、俺たちは旅館内部を玄関に向けて進むことになるのだが、ある違和感に気づく。
「……これは廃墟というより、空き家に近いのかもしれないな」
「ですね。廃墟っていうと普通、屋根や足元とかも抜け落ちていますからね」
「だな。なんというか、夜逃げをした後のような感じが近いか。まあ、随分ボロボロだから放置されてから長いのは間違いないだろうが」
そう、思った以上に建物はしっかりしているのだ。
タイキ君がいうように廃墟というにはやけに天井も、足元もしっかりしている。
お陰で足元が抜け落ちて大怪我や転落死みたいなのはなさそうなので助かるが……。
「外に面した窓には全部、しっかり板が打ち付けられているな。演出といえばそれまでなんだが……」
「演出として単に窓を塞いだにしてはなんか違いますよね。なんか必死で窓を塞ごうと打ち付けたって感じがするんですけど」
「……ふむ。とにかく、玄関の方へ行ってみよう。今のところこの旅館に関しての情報は一切ない。今ここでいくら考えても仕方がない」
タイゾウさんの言うことはもっともなので、俺たちは玄関へと向かい、何事もなく到着したのだが……。
「紙? ここだけなんかやけに紙が落ちているな」
そう、玄関にはビラのようなものが散乱していた。
「何でしょうね」
玄関を出ればそれで終わりだろうという気持ちがあったので、タイキ君がその紙を拾うことにも特に止めなかったのだが……。
「1923年……。1923年!? 大地震発生? え? え? これ、昔の日本の新聞だ!?」
「「!?」」
その言葉に慌てて、俺とタイゾウさんはタイキ君が拾った新聞をのぞき込む。
それは確かに、1923年の9月25日と記載された新聞で、その月初に起こった関東大震災に関しての記述があった。
「どういうことだ? なんでこんな新聞がこの場所にある? いや、ルナの演出といえばそれまでだが」
「案外、この旅館の状況に何かしら関係あるのかもしれないな」
「ありそうですね……」
「だが、そんなルナの思惑なんぞにのってやる理由はない。まずはこの旅館を出る」
目の間に玄関があるのだから、そこから出て終わりにする。
そう思って、玄関を開けると、玄関先にはどこからともなく土砂がなだれ込んでいて、どうやっても出れないような状態になっている。
「あー、これは土砂で出れないですね」
「……ふむ。見えてきたぞ」
「この土砂に埋もれた旅館から脱出しろってことですね」
本当に全く厄介な。
というか、このシュチュエーションで何をルナは楽しんで……。
ギィ~~~ギィ~~~……。
そんな陰鬱な音が廊下の奥から響いてきて、向こうの角から真っ赤な服の女がフラッと姿を現した。
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