落とし穴147堀:夏の怪談リバイバル こちら監視室

夏の怪談リバイバル こちら監視室



Side:ラッツ



『さて、腹もくちくなったし、辺りを散策するか』

『ですね。ここに引きこもってゲームをしていたいですけど、さすがにそれだけではもったいないというか、空気読めないですからね』

『まあ、それでは何のための旅行かわからないからな。夜の準備だけして、向かうとしよう』


そんな感じでお兄さんたちは楽しそうに、ゲームの準備をしている。


「……何やっているのよ」

「旦那様……」


その映像を見たセラリアとルルアはなんか微妙な顔をしている。

ま、せっかく旅館まで来たのに、そこでもやっぱりゲームというのはどうかということですね。

とはいえ……。


「あはは、お兄さんはゲーム好きですからねぇ」


そう、お兄さんはゲームをするのが好き。

それはもう、新作ゲームが出たときは無理やり休みを取ってするぐらい大好きですからね。


「ですね。常にFPS、TPS系のゲームをして鍛えていますから」

「いや、それはエリスだけでしょう。というか、そろそろ一日十回のノルマやめない? あれ、精神を凄く削るんだけど」

「……疲れているときはやめてほしい」


エリスはこうみえて、お兄さんに勧められた100人対戦のゲームにはまっていますからね。

私も一緒にやってはいますが、4人チームでの対戦ノルマ10戦はさすがにちょっときついので、少なくしてほしいところです。

と、そんなことを話しているうちに、お兄さんたちはゲームの準備を整えたようで、そのまま部屋から出ていきます。


「で、ユキたちは部屋から出ていったみたいだけど、これからさっそく何か仕掛けるの? 私が手伝おうか? 任せてよ!」


それを見ていつもやる気満々のハイレンが立ち上がろうとしますが……。


「ハイレン様、座ってください」

「ユキ先生たちが相手ですから、下手な手出しはすぐばれるから、待ってください」


すぐにカグラとミコスがそう言って取り押さえ、椅子に座りなおさせます。

ま、ハイレンに任せたりしたら、すぐにお兄さんたちにばれるのは明白ですからねぇ。


「で、次はどうするんですか?」


ということで、今回の作戦立案者であるデリーユに指示を仰ぐと……。


「今はまだ様子見じゃな。真昼間じゃし、人混みの中でもない。タイキだけならともかく、タイゾウはもちろん、ユキにうっかり捕捉されでもしたら仕舞いじゃ」

「確かにね。しかもまだ初日。焦りは禁物ね」


セラリアがデリーユの言葉にそう返します。

確かに、うっかり今日中に仕掛けようとするのは危険ですね。


「でも、デリーユ。ユキに何か仕掛けるのであれば、皆で旅館の外へ出ている今が最適ではないですか? いえ、護衛の私が言うのもあれですが」

「だよねぇ。初めての場所の方が油断や見落としをすると思うけど。しかも、あれでしょう? 旅館の近くの散策場所っていうと滝でしょう? まあ、私も護衛だから、こんなこと言うのはあれだけど」


作戦を進めるべきとの意見を言う、ジェシカとリーアの護衛コンビ。

お2人が言うことは護衛という視点からでもあり、有力とは思います。

そして、リーアの言うように、おそらくお兄さんたちが散策に行った場所は、この旅館の名物ともいえる滝のはずです。

あそこなら滝の音や風景に気を取られるから、隙を突けるはずですが……。


「2人の言うこともわかるが、今は無しじゃ。さっきも言ぅた様に、既にタイキにはある程度仕掛けとるからのう。既に警戒しているじゃろぅて。焦ることはない。まずは夜を待つ。ハイレンもいいな?」

「わかったわよう。ま、確かにユキたちならすぐに気づきそうよね」


ハイレンもお兄さんの鋭さはよくわかっているようで、納得してくれたようです。

勝手に動こうとされたら、簀巻きにするしかないですからね。


「ジェシカとリーアの言うこともわかるが、今回は待つ。いいかのう?」

「いえ。デリーユの言うことはその通りだと思います。というか、そもそもユキに察知されないようにというのがかなり難しいですからね」

「ですよねー。って、ユキさんたちが旅館の建物を出ましたね。」


リーアが言うように旅館を出て、やはり滝に向かうようです。

ですが、そのついでというように、お兄さんはこちら、つまりカメラに向かって手を振ってきました。

つい釣られて、私も、というかその場のメンバー全員が手を振り返します。


「……はっ!? つい、旦那に手を振り返してしまったわ。というか、監視カメラの位置は全部ばれているようね」

「うむ。妾たちが監視しておることもな」

「……ユキはちっとも油断していない」

「ですわね。初めての旅館に入っただけですのに、きちんと監視カメラの配置を覚えているなんて」


ですねぇ。

少なくとも、お兄さんは私たちが監視していることは把握しているようです。

これでは今仕掛けても無駄でしょう。


「脅かす、仕掛けるチャンスが一度きりというなら、確かにジェシカとリーアの言う通り、滝の方がいいんじゃろうが、今回は心霊現象で愕かすのが目的じゃからな。じっくりと腰を据えて攻める。じゃからせめて今日一日は様子を見る」


デリーユの言葉に全員頷きます。

それに、お兄さんが一人で、というわけではないですが、こうしてお友達と仲良くやっている姿を見るのは楽しいですからね。


と、そんな感じでお話しているうちにお兄さんたちは滝の所までたどり着いたようです。


『ここがキルエが言っていた滝か』

『予想外に立派ですね。もっとチョコっとしたやつかと思っていましたけど』

『ふむ。ざっと10メートルはある滝で、しかも裏手に回れるようにもなっているか。しかもちゃんと如何にも自然にできたように作っているな。見事だ。どこの物を参考にしたのだろうな』

『さあ、日本に滝は色々ありますからね。しかし滝があると夏場でも涼しいですね』

『水しぶきが霧状にかかっていい感じですね。滝の落ちた先はちゃんと入り江みたいになってますし、水遊びにはちょうどいいですね』

『そういえば、水質を見てなかったな。魚でもいるかな?』


そんなことを言いながら、滝を楽しんでいるようです。

私たちはそんなお兄さんが楽しんでる様子をずっと見続け、というわけにもいかず……。


「では、監視はデリーユに任せますね。私は仕事があるので戻ります」

「はぁ、……ユキさんをずっと眺めていたいわ」

「だよね。ユキさんとお酒とおつまみがあればいいのに……」


私が席を立つと、エリスとミリーもしょうがないかという風に立ち上がります。


「うむ。任せておけ。どうせ夜が本番じゃしな。ラッツたちは頑張ってお務めを果たしてくるといい」

「ちゃんと録画しておいてくださいね」

「後でデータはくださいね」

「じゃ、夜にはお酒でも持ってくるから」


ということで、私たちは監視室から出ていきます。

お兄さんたちは休みでも、私たちはお休みではないのです。

はぁぁー。

まあ、私たちも休みだったらお兄さんと一緒に来てるでしょうから、脅かすなんてできないんですけどね。

さて、そろそろ気分を切り替えて、ちゃっちゃっとお仕事を終わらせますか。



「お仕事終わりましたよー」

「差し入れも買ってきましたよ」

「酒もねー!!」


口々にそう言いながら、私たちは再び監視室へと戻ってきました。

あ、因みに監視室として、軍事施設の情報管理室を借りています。

ここなら、不意に入ってくる人もいませんし、逆探知などでの情報漏洩の心配もありません。


「ういっす。どうも」


だからまず出迎えてくれたのが、スティーブなわけです。


「どうですか? あれから」

「別に動きはないっすね。というか、いつもの通りの大将たちっすよ。滝を見たあとは、部屋に戻ってゲームを始めただけっす」


ん? なんかすごく説明が足りない気がしたんですけど……。

それは、エリスも同じなようで……。


「スティーブ。それだと滝から戻ったあとはゲームしかしていないようにしか聞こえませんが?」

「え? そうっすよ。大将は滝から戻ったあとはゲームをずっとしているっすよ」

「ちょっとまって。私たちが仕事に出たのはお昼すぎで、今が夜7時だから……」

「すでに大体5時間近くゲームしてるっすね。とはいえ、元々ゲームをするって言っているっすから、こんなもんじゃないっすか? エリス姐さんだって、これぐらいは普通にするでしょう?」

「まあ、そうですね。休みの日にはこれぐらいして当然だとは思います」


あははは、それに付き合わされるのは結構きついんですけどねー。

ま、それはいいとして……。


「デリーユ。スティーブはこう言ってますけど、間違いないですか? と、それと差し入れです」


別にスティーブを疑うわけではないんですが、確認というのは必要ですからね。

私は、差し入れを渡しつつそう聞いてみると……。


「差し入れ感謝じゃ。スティーブの言う通りじゃな。まあ、その前に露天風呂を済ませておるがな」

「「「露天風呂!!」」」


お風呂シーンがもう終わっていると!?

早くないですか!?


「みんな、そんな絶望した顔しなくていいわよ。ちゃんと録画しているから。後で楽しみなさい」

「お主らも好きじゃのう。ユキの裸体なぞいつでも一緒に風呂やベッドに入れば見られるじゃろうに」

「「「それとこれは別」」」


そう別です。

お兄さんは触ってよし、見てよし、万能ですからね。

愛しあっていると子供もできます。すばらしい!!

って、そこはいいとして……。

監視モニターに映るお兄さんたちは本当に今もひたすらゲームを続けています。


「これ、いつになったらゲームをやめるんですかね?」

「私なら日付が変わるまではやめませんね」

「いや、威張らなくていいから、エリス」

「……これで、どうやって脅かせばいいの?」


カヤの言う通り、このままだと一晩中ずっとこんな調子でしょう。

そうなってしまうと、どうやって脅かせばいいのか悩むところですね。

そう思い悩んでいると、セラリアとデリーユが口を開き……。


「まあ、あまり焦ることはないでしょう。なにせ、まだ晩御飯も食べていないことだし。夜はこれからよ」

「うむ。それに、今日は所詮様子見でもあるからのう。何時まで起きているのかの情報を得るだけでも今後の作戦が変わってくる」


なるほど。

まだ晩御飯すら食べてなかったんですね。

というか、私たちもまだ食べていませんでした。

そう思って、買ってきたお弁当に手を伸ばしていると……。


『よし。もういい時間だし、晩御飯にするか』

『あ、もう。こんな時間ですか』

『楽しい時間はすぐに過ぎるものだな。では、何を食べるか……』


どうやらお兄さんたちも食事を始めるようです。

ちょうどいいです。私たちも合わせて食事を済ませてしまいましょう。

で、お弁当の蓋を開けて気が付きました……。


「あれ? そういえば、カグラとミコスはどこに?」

「そういえば姿が見えませんね」

「何かあったの?」

「……もぐもぐ。そういえばいない」


なぜか午前中はいたカグラとミコスの姿が見えません。

どこに行ったのでしょうか?


「ああ、あの2人はユキの入浴姿を見て鼻血を出して、今は医務室で寝ています」

「あはは。2人ともまだまだ初心だよね」

「……意外とユキはがっしりしているから仕方ない。濡れ濡れになる」

「ユキ様は素晴らしいですから。とはいえ、そういえば戻ったら起こしてほしいと言われていましたわね」


ということで、ご飯を食べたあと、カグラたちを起こして、夜の監視を続けるのでした。

さて、お兄さんの夜とはどんなものでしょうか?


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