第887堀:冒険者たちへの依頼

冒険者たちへの依頼



Side:モーブ



「今日で俺たちの休日も終わりか……」


俺はそんなことをつぶやきながら、ウィード庁舎の会議室へと向かう。

なぜなら……。


「ま、ユキからのお呼び出しだ。そうそう簡単な用事じゃないだろうな」

「ええ。簡単な用であれば書面やコールでの連絡で終わりですからね」


そう、あのユキからの呼び出しだ。

腐ってた俺たちに活をいれてくれたのはほんとにありがたく思っているものの、最近の激動の日々には正直言っておじさんはついていけない。


「何が悲しくて冒険者が村の管理なんかしているんだろうな」


正直な不満を俺はつぶやく。

ただの冒険者にはあまりに荷が重い。

というか、おじさんは家でのんびり隠居生活を送りたい。


「亜人の村が反旗を翻したらまずいからだろうよ」

「ようやく始まった大陸間交流に水を差すようなリスクは潰さにゃなりませんからねぇ。ユキが私たちを配置しておくのは当然ですよ」


だが、そんなおじさんの気持ちはライヤとカースには伝わらず、まじめに返されてしまう。

まあ、贅沢させてもらっているのは確かだから、その分働けというのもわからなくはないが……。


「なんか要求が徐々にきつくなってきてないか? 初めてはセラリア嬢ちゃんとエルジュ嬢ちゃんを王都から逃がすというのだったからまぁ冒険者らしい仕事だったが、その後はイフ大陸では亜人の村の制圧と管理、そしてエクス王国で傭兵として潜入、そしてドレッサ嬢ちゃんとロゼッタ傭兵団との交流だろう?」


その次にはいったい何が来るのかという恐怖がある。


「その気持ちはわからないでもないが、俺たちを使うってことはユキのほうで動かせる戦力がない。あるいは、俺たちにしかできないと思っているってことだからな」

「ですね。ライヤさんの言う通りでしょう。とはいえ、私たちにできないようなことはさせないですよ。それはモーブさんもわかっているでしょう?」

「まあな」


カースの言う通り、あいつはそんな無茶はしないしさせないのは俺もわかっているが……。


「あいつが要求してくることは、大体ぶっ飛んでいるからな。とにかく大変でしかない。ただの魔物退治とかなら俺も喜んで受けるんだが……」

「ま、それはそうだな。だが、そういった普通の冒険者では解決できない仕事をするのが高ランクの冒険者の主な仕事だしな」

「何とかしてランクを落とす方法をロックやミリー嬢ちゃんに相談するか」

「そりゃ無理でしょう……」



そんなたわいもないことを話しているうちに俺たちは会議室前までたどり着いてしまい……。


「やっぱ……帰るか」

「いや、帰るなよ。さ、入ってくれ」


俺が二人の返事を聞くより前に、さっと会議室の扉を開けてユキが出迎えてくれた。

ちっ、俺の判断はもう遅かったか。

そう思いつつ会議室に入ると、そこにいたのはセラリアの嬢ちゃんとトーリ、リエル、カヤ、ザーギス、そしてユキとリーアという組み合わせだった。


「なんか、微妙なメンツの集まりだな」

「ん? ああ、そう言われるとそうね。トーリたちとザーギスの共同ってあまりないわね」

「僕には難しい話なんか分からないからね!」

「こら、リエルそんなこと言わないの」


リエルの嬢ちゃんは相変わらず素直だ。

トーリ嬢ちゃんは相変わらず苦労しているな。

で、残るカヤ嬢ちゃんはというと……。


「……私は作物の関係で一応関わりはある」

「それは納得だな」

「でも、最近はファイデとの話し合いがメインで、あまりザーギスは役に立っていない」

「待ってください。ちゃんと耕作機械の開発とかしていますからね!?」


すかさずツッこむザーギス。


「おう、ザーギスもいつもの通りの様で何よりだ」

「いや、あなたたちとはいつも週一ぐらいで飲んでいるでしょうに」

「あれ? そうなのか?」


ユキが不思議そうな顔をして聞いてくる。


「ああ。ザーギスには亜人の村の開発に必要な道具とかを頼んでるからな」

「なるほどな」

「ザーギスに頼むと、経理とか、物資の関連はやってくれるからな。エリス嬢ちゃんとラッツ嬢ちゃんに書類を出さずに済むので非常に助かる」

「おぃ、そこかよ」

「そこだよ。だいたい、おっさんにパソコン操作とか経理の細かい計算ができるわけないだろう」

「いや、ライヤとかカースがいるだろうに」

「待て待て、俺たちは学校の先生もやっているんだ。そんなことまで手伝ってやっていると大変だ」

「はい。モーブさんの分まで教材作っていますからね」


そうそう、ライヤとカースもいろいろ大変なんだ。


「いや、何威張ってんだよ。とはいえ、パソコンとかはなぁ……」


ユキの奴もパソコンや経理とかには得意不得意があるのは認めているみたいで、まあお前は仕方がないかという感じだ。


「ちょっと待ってください。サラッと話が進んでいますが、私が大変なことはいいんでしょうか!?」

「まあ、とりあえずまわってるからいいじゃないか? というか、ザーギス。毎回思うが色々仕事しすぎて倒れるなよ?」

「それをユキにだけは言われたくありませんね。というか、あの書類整理をしようともしないコメットと奥方のエージルの指導をしてもらえませんかね? それだけで私としては随分と助かるんですが?」


奥方のエージル?

あー、そういえば、ユキの奴はエージルの嬢ちゃんとも結婚が決まったんだっけか。


「なるほど。俺たちを呼んだのは、結婚関連のことか?」

「ああ、式のあいだ、しっかり亜人の村の動きを抑えといてくれということか?」

「なにかしら、動きが見られたんでしょうか?」


俺たちが仕事の内容を予想して言うと、ユキとザーギスはポカンとコチラを見た後。


「あぁ、今の会話の流れだと、そういう風に理解できるな」

「確かに、言葉とは不思議なものですね。ですが、モーブたちに頼みたいのは別のことです。亜人の村については他の者が代わりに入りますから問題ありません」

「ん? 違うのか? じゃあ、なんだ?」


と、俺がそう聞いたら、ユキはちょっとお使いを頼むとでもいうかのようにさらっと……。


「モーブたちには竜山の調査に向かってほしい」

「「「……はぁ!?」」」


そのとんでもない依頼に思わず俺たち三人は驚きの声を上げる。


「ちょ、ちょっと待て、竜山って、ドラゴンがわんさかいる山だろう?」

「おう。やっぱりモーブたちも知ってたか」

「知ってたかじゃない。あんなとこに行くのは自殺志願者だけだ。そもそもいるのは別に悪竜ってわけじゃないからな。それに、下手に刺激してドラゴンを暴れさせることにでもなれば、各国に被害が及ぶ」

「ああ、モーブの言う通りだ。だからこそ、各国はもちろん、冒険者ギルドですら、竜山への探索だけは一切許可していない」

「そこへ私たちを向かわせるというのは一体どういうことだ? そもそも何が起こってそういう話になった。それを聞かないことにはとても受けられる仕事じゃない」


流石にカースの言う通り、二つ返事で受けられるような仕事じゃない。

とにかく詳しい話を聞く必要がある。


「あー、ま、それもそうか。じゃあ……」



そういうことで、どういう経緯で竜山攻略なんてクエストが出てきたのかユキから説明を受けたのだが……。


「なるほどなぁ。国にとっちゃいるだけで脅威か」

「確かに納得できる話だ。魔力枯渇現象、そして大陸間交流が始まったからな」

「なるべく脅威は取り除いておきたい、というのは理解できますね。だからこそ、ユキというわけですか」


この大事な時期に邪魔をされたくないから、先に交渉、ないし潰すことはできないかというのが、ロガリ大陸の各国の総意のようだ。

気持ちはよくわかる。

二度目の大陸間交流会議もウィードでやるということは、それだけ信頼されているってことだ。しかし、もしそこでしくじれば、ロガリ大陸はダメな国の集まりだとの烙印を押されかねない。

いかに、自然災害であるドラゴンが相手だとしてもだ。


「だけどな。それで俺たちにドラゴン退治とか間違ってないか。そもそもお前が行けば手っ取り早いじゃないか」

「そうしたいんだけど。嫁さんたちから止められてな」

「そーだよ。ユキさんは結婚式挙げるんだから、ドラゴンなんかと戦っている暇はないんだよモーブさん」

「はい。それに今回は調査も兼ねていますから……」

「早く終わるという可能性はほぼないわけか」

「……そう。そして、私たち以外の仲間は大陸間交流会議や結婚式の準備で大忙し」

「だから、冒険慣れしている私たちにということですか」


わざわざ俺たちを向かわせる理由はよく分かった。

分かったが……。


「正直不安だな」

「ああ、俺たちとトーリちゃんたちだけっていうのは……」

「ドラゴンが相手だと、どうもですね……」

「いや、お前ら、普通にドラゴン相手なら何も問題ないだろう? 散々ダンジョンで戦ってたじゃないか」

「あれはダンジョンだからだよ。バックアップも完璧、死ぬこともなかったし、周りに被害を及ぼすこともない」

「しかし、竜山でも同じとはいかないだろう」

「ええ。そもそもドラゴンですから、空を飛んで離脱することもあるでしょうし、そうなればかなり問題です」


単に戦うというだけならなにも問題はない。

何せ、ナールジアさんのぶっ飛んだ装備品があるからな。

最悪、ユキの世界の現代兵器でも使用すれば向かってくる敵はどうにでもなる。

だが、カースの言うように、俺たちだけじゃ逃げる相手にはどうにもできない。


「あー、そっちの問題か。だけどな。逃げ出したドラゴンがわざわざ俺たちに喧嘩を売って来ると思うか?」

「売らないとは言い切れないだろう? それに、どこかの国に逃げてそこで暴れる可能性もある。くだらない奴はどこにでもいるからな」

「確かにな。竜人って言うぐらいだし、ドラゴンにもいろんな性格があるのは、ウィードで過ごしている多数のドラゴンを見てるからわかっている。ま、うちのは全部アスリンの部下なんだが」


いや、アスリン嬢ちゃんの魔物たちはちょっと違う気がするけどな。

もともと、強力な魔物には自意識があるからな。

だからこそ厄介であり、倒すのにも一苦労するわけだ。

もし逃げられでもすれば、本当に厄介だからな。

それが今回はドラゴン相手ってわけだから、そんなことになったら責任なんて取れないってわけだ。


「ま、話は分かった。だが、こちらからは何もしないでいても、結局竜山からドラゴンが飛び去ってしまえば同じことだ。だから交渉には行ってもらう」

「いや、もうちょっと戦力を整えてからの方がよくないか? 何かあった時にちゃんと押さえられるだけの戦力があったほうがいいだろう?」

「俺もモーブと同意見だ。この件、この少数戦力で挑むことではない」

「ええ。私もモーブさんに賛成ですね。まあ、飛び去った後では遅いというのもわからないではありませんが、今の戦力ではそもそも何かあった時に対応しきれない可能性が高い」

「まあ、モーブたちの意見ももっともではあるが、逆に下手に数を揃えていくと向こうを警戒させるって可能性もある」

「あー。それは確かに」


なるほど。それもそうだな。


「ま、いずれにせよドラゴンの逃亡は厄介だから、スティーブたちを回すから。それで補えるだろうし、別行動をさせれば警戒もされないだろう」

「あぁ、腰ミノでか?」

「ああ、そのほうが野生のゴブリンっぽいからな」

「そうか」


巻き込んで悪いな、スティーブ。

でも、こうして状況を整えられたのなら仕方がない。


「よし分かった。ライヤ、カース。この仕事受けるぞ」

「モーブがそう言うなら否はない」

「わかりました」


そういうことで、俺たちは冒険の準備を始めるのであった。



「とりあえず、私を無視するのは流行りなんですかね?」

「いや、調査員を戦力として見ないってだけだろう? なんだ、戦いたいというなら止めないぞ。お前もそれなりに戦えるだろ」

「調査の上に戦闘要員とか勘弁ですね。私も準備をしますよ。はぁ……」


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