第881堀:出店の内容と……

出店の内容と……



Side:ユキ



「……ということで、各国からは、出店に関する正確かつ詳細な情報と、例を示してほしいって申し込みが殺到しているわね」

「普通に特産品とマスコットでも売ればいいものを」


俺がそうつぶやくと、会議に参加している、外交官メンバーの嫁さんたちが揃って首をゆるゆると横に振る。


「ユキさん。そもそも特産品と言われてもどういうレベルのモノかレベルで悩んでいます。マスコットについてはなおさらです。お姉さまとか考え無しに、もう木彫りの盾とかどうだ! と言い出してる始末です」

「ん。まず、マスコットという概念が根本的に理解できていない。特産品の方は下手をすると、各国全てで小麦になりかねない」


シェーラと、クリーナがそう言うと、ほかの嫁さんたちもその通りと言わんばかりにうんうんと頷く。

まあ、どこの国でも間違いなく一番生産されているのは小麦ではあるだろうが、さすがに各国の特産品が小麦だけというのはないだろう。


「まあ、クリーナさんの言うことは極端にしても、特産品は安定して供給できる、自国だけの特別なものですからね……。その選定はなかなか難しいものがあるでしょう。リテアでも同じように……あ、そういえば、リテアの方はトマトの生産に成功していましたね。それで、マスコットをつくればいいのでしょうか? それかリリーシュ様がいいのかも?」

「リテアはそれでいいとしても、ジルバ帝国はほんとに何もありませんよ。いえ、何もないというわけではないのですが、大衆にも受けて、かつ生産が継続的に可能なものというと……、なかなか難しいですね。エナーリアの方はどうお考えで?」

「うーん。やっぱり難しい所だね。こっちの方では、いっそ魔剣を売り出したらどうだって話まででているね。それを基盤として、リテアと同じようにスィーア様をマスコット化をしようって話があがってる。ただ、神を模したものを売りさばいて利益を上げるなどというのは不敬であり絶対反対って意見もあるけどね」


リテアはまぁ、問題なさそうだな。

前に渡したトマトが生産されているからな。

で、ジルバは結構頭を悩ませていると。

まあ、あそこの王は軍略ならいざ知らず、そういう系統は苦手そうだしな。

そして、エナーリアはリテアと同じ宗教国家だらか、女神様の像を売り出そうって話がでてるか。

ま、地球では安定の特産品で、マスコット選定だな。


「で、とりあえず、ほかの国も聞いてみるか。セラリアの母国ロシュールはどうなっているんだ?」

「そうねぇ……、クソ親父からは、私たちのお人形を作るのはどうかって言い出したから速攻で却下してやったわ。でも、おそらく騎士で有名なロシュールだから、近衛兵の人形をメインとしてって考えがあるわね。そういう意味じゃ堅牢の国ガルツと同じかもね。あ、むしろローエルと同じかしら? でも、それって意外といいかもね。各国で作った人形を並べるっていうのは」

「そういわれるとそうかもしれません。各国を代表する人形を作る。それに合わせて食べ物も作る。……案外お姉さまのおバカな発言もありかもしれません」


ひどい言われようだな、ローエル。

そう思っていると、サマンサも立ち上がって……。


「それはいいですわね!! 国旗も含めて出せば、各々の国を示すことにもなりますし、我が国はそれに賛同いたします! そうさせていただかないと、ブレード陛下はラーメンをだすと……自ら」

「「「……」」」


あのラーメン大好きおっさんはそこまでラーメンに憑りつかれたか。

まあ、俺としては悪い特産品ではないと思うが……。


「ラーメンはやっぱりだめか?」

「絶対駄目ですわ!! あっ、ラーメンそのものがダメということではなく、陛下が自らというのが……」

「そりゃダメだ。当然だよな」


さすがに国のトップが作るラーメンに一般客が集まるってのはなぁ……。

さて、まあ、基本方針としてはそれでいいかな?


「じゃあ、各国は統一して、木彫りの人形を作ってそれを売り出すって感じか。まあそれと、それに付随する小さい国旗とか、木彫りの紋章とかだな。それで名も売れるし、さすがにそこまでの技術格差は生まれないだろう。あとは生産するのにどれだけ時間がかかるかって話だな」

「そうねえ。でも木彫りの人形って言っても精巧なものから簡単なものまでいろいろありますが? ユキ様はどうお考えですか?」

「それこそ、こけしに色塗っただけの安いものから、しっかりしたものまで各国の自由に売ればいいんじゃないか? 色はもちろん兵科とかも変えて、種類も売り出せるだろうしな。あとは、規格、寸法は統一した方が、コレクションとしての価値もあがるだろうしな」


マニア向けにもなる。

これでいずれ第一回目の人形たちはプレミアとしての価値が出てくるだろうな。


「で、食べ物の方は、乾物のみだな。ラーメンとかやられてはたまらん。まあ、乾物だからクッキーなどの菓子とかになるだろう」


主に匂いとか、生ごみの処理とかな。

そういうのは後々ってことにしよう。


「クッキーね。それならどこの国でも用意できそうね。入れ物も簡易なものにすれば、値段も抑えられるし、子供でも買えそう。ねえ、ミコス、ソロ」

「そうだねー。簡素なものにしてらえれば、みんな買えると思うかな」

「はい。それぐらいでしたら、買えると思います」

「問題は、生産のための労力をどこから集めるかってところだろうけど、それは各国のやり方次第よね」

「そうだな。エノラの言う通り、そこはさすがに各国に頑張ってもらうしかない。というか、さすがに話がアバウトすぎたか」


各国に特産品とか言ってもさっぱりだったか。

なんか適当にアイディアが出てくるものかと思っていたが、そうじゃないのか。

あ、いや、ラーメンとか、宗教とかあったけど、それはさすがに色々まずそうだしな。

ご当地マスコットとかも、なかなか難しいってことか。


「ですねぇ。十分な時間があればよかったでしょうけど、準備期間が3ヵ月ですからね。マスコットの量産とか追いつかないと思いますが? そこはどう考えているんでしょうか?」

「そこは、今回に限っては、DPで複製だな。それで商品数をそろえる。だから各国は見本を一個だけ作ればいいってことだ。まあ、お菓子にかんしては、各々頑張ってくれって感じだな」


人形のデザイン決定に、量産となると、3ヵ月では無理が過ぎるのは俺も理解している。


「なるほど。それなら間に合うかと。ちなみに、ウィードの方も同じにするんですよね?」

「そうだな。エリスの言う通り、ウィードも足並みそろえないとまずい。ま、そこは、ナールジアさんたちに任せよう」


こういう人形などの物づくりの専門家はウィードには多いからな。

で、俺がそう言うとみんなが頷く。

さて、あとは……。


「ふむ。ま、出店の内容はそれでいいとして、あとは各国が持ってくるであろう、魔力枯渇現象に関する情報じゃな。すでに、ミヤビ女王が持ってきたと聞いたが?」


そう、デリーユの言う通り、昨日話した魔力枯渇現象の情報のことだ。

今回の会議はその情報収集が目的でもある。

既にミヤビ女王から話が来たことはセラリアから伝わっているみたいだな。


「ああ。まあ、これについては後で取り纏めて報告したほうがいい。一個一個報告されるたびに調査に向かうってのは非効率だからな。ここは当初の予定通りに行う」


とはいえ、前の会議でも話したように、一個一個探していったらキリがないので、こういうのは先ずまとめてから考えるという方針に変更はない。


「とりあえず、大陸間交流会議と、多国籍ショッピングモールが開店するまでは、魔力枯渇現象に関しての報告は待ってくれ。まあ、緊急事態などがあれば呼ぶけどな」

「うん。その時は任せてよ!」

「はい。任せてください!」


そう言って、元気よく返事してくれるのは、リエルとトーリ。

……あの話について、セラリアは伝えていないようだな。

まあ、気まずい話だしな。

今、話すべきか?

とりあえず、セラリアに視線を向けると……。


「さ、これで話は終わりね。前も言ったけど魔力枯渇現象より、今回の大陸間交流会議と結婚式、ショッピングモールの成功が先よ。ここでへまをすると情報も集まらないどころか、大陸間交流同盟が瓦解するわ。それだけは肝に銘じて皆動きなさい」

「「「はい!」」」


セラリアのその一言に全員が頷いて、即座に行動を開始する。

そうか。リエルとトーリのことはまだあとか。

それもそうか。外交官メンバーはこれから開催まで、入念な打ち合わせが必要だし、ウィードに残るメンバーもウィードで行われる会議のための準備というものが必要になる。

そんな時に、みんなの心が乱れるのようなことは言うべきではない、か。

で、あらかたみんなが出て行ったそのあと、セラリアがこちらに向いて……。


「トーリとリエルの件は後。あれは今回の事が終わってから全員で当たるわ。けして先走らないように」

「了解」


どうやら、トーリとリエルの件は全員そろって全力でやるみたいだな。

俺も賛成。じゃ、俺も仕事に行かねばと思っていると……。


「貴方は先ずは、今回の結婚するメンバーを連れてちゃんと挨拶廻りをしてきなさい。いいわね?」

「ああ、わかってるよ」


そう、俺の仕事とは、今回の結婚の申し込みが終わったことを関係各国に俺の口から直接伝えると共に、そのあとご家族への正式な挨拶を済ませる必要がある。

結婚をするうえで当然のことだ。


「本当ね? 彼女たちへの時みたいに、ここで逃げたらそれこそ大ごとよ?」

「いやいや、俺がそういう時に逃げたことはないだろう? 俺の腰が引けるのは、本人に申し込むときだけだよ」


そう、今まであれだったのは、俺自身の問題だったからだ。

断られたらどうしようとかな。

で、ご家族へ娘さんくださいってのは、今後円滑に両家の関係が進むということなだけで、そこでたとえ断られようがそこまで俺にダメージはない。

まあ、もちろんうまくいった方がいいので、ちゃんと挨拶はする。

誰だって普通に家族に祝福された方が嬉しいからな。


「ま、そうね。で、嫌がるような家は今のところないでしょうけど、たとえ文句を言うところがあっても、彼女たちだけは絶対連れ帰ってきなさい。そうなったら全面戦争してやるわ。人の恋路を邪魔するような奴は叩き潰す」

「権力を振るっているな……」

「そんなもん使ってなんぼよ。大事な人を守るためにはね。で、誰から行くつもりかしら?」

「そうだな。まずは、新大陸の方だな。カグラとミコスのことを心配している人たちは多いだろうし、頼み込んできた王たちはやきもきしているだろうしな」

「それに、カグラは日本人の流れでもあるしね。ソウタとエノルにもちゃんと挨拶しておきなさいよ?」

「わかってる。ついでに、色々話すこともあるからな」


そう、ソウタさんとエノルさんはカグラの祖先であると同時に、ウィードの外務大臣も務めている。

つまり、今回の大陸間交流会議開催では主催者というか、管理を一手に担ってもらっているから、様子は見に行かないといけない。


「死人に鞭打って過労死とかさせないようにしなさいよ」

「ああ」


とまあ、そんな冗談を飛ばしつつ、外務省へ向かうのであった。


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