第882堀:ご挨拶へ

ご挨拶へ



Side:ユキ



「やぁ、よく来てくれましたね。無事に上手くいったようで何よりです。そして、ご結婚おめでとうございます」

「うむ。カグラやミコスも幸せそうな顔をしておったぞ」


そう言って出迎えてくれたのは、外務省のツートップである、外務大臣であるソウタさんと、副大臣で奥さんのエノルさんだ。

どうやら、カグラたちが既にソウタさんたちに結果報告は済ませてた様だ。


「いえ。ご挨拶が遅れて申し訳ないです。本来でしたら、カグラとミコスも一緒に挨拶に来るべきなんですが……」


カグラもミコスも、大陸間交流会議の準備で別行動中なんだよな。

ま、正式な挨拶はまた別の機会にできるだろうが、こうしてずいぶん世話になったソウタさんとエノルさんへカグラたちと一緒に報告をできないのはちょっと失礼かなと思っていると……。


「何、気にすることはないですよ。こうして、別々とはいえちゃんと挨拶に来てくれたんですから」

「うむ。わしらの場合は、挨拶すらもできんかったからな。そういう気持ちを持ってくれてるだけで十分じゃ。まあ、ハレの日にはきちんと挨拶をしてくれるだろうから、その日が楽しみじゃよ」


ソウタさんとエノルさんの時は挨拶すらできなかったか。

そうだよな。ソウタさんは日本が故郷、エノルさんは元々旅の冒険者みたいなものだし。


「はい。その時を楽しみにしててください。カグラたちはちゃんとドレスを選んでいますから」


もちろん結婚式の時には二人にも参加してもらう予定だ。

そこはちゃんと押さえてる。

と、そんなことを考えていると……。


「で、ユキ君。今日ここに来たのは、結婚の報告だけじゃないんでしょう?」

「そうじゃな。結婚の挨拶だけとか言いおったら、怒るぞ?」

「あはは、流石にそれだけじゃないですよ。で、大陸間交流会議の準備はどうなっていますか?」


ソウタさんの言う通り、俺が今日外務省に来たのは単に結婚のご報告だけなわけがない。

今回の大陸間交流会議の統括……つまり、総司令部、そして司令官であるソウタさんに今の状況を伺いに来たんだ。


「そうだな。ショッピングモールや結婚のお祝いの件で多少の混乱はあれど、各国皆参加すると連絡が来ているね」

「この状況で来ぬところなぞおらんからな。問題があるとすれば、この大陸間交流会議にはぜひ、小国の面々も参加したいとの請願が多数来ておる」

「やっぱりですか」

「まあ、当然の反応ですね。この会議に参加できるということは、大国から認められたということですからね。とはいえ、今回も前回と同様会議を傍聴するだけとしてください」

「わかりました。傍聴を認めても、会議への参加は認めない。そうじゃないと確かに収拾が付かないですからね」


ソウタさんの言うように、この会議に口を出したい小国は山ほどいるけど、実際無理だ。

そんなのを認めれば、各国が意見を言うだけでものすごい時間がかかるからな。

なので、傍聴しか認めない。

各大陸の大国の方で勝手にまとめてくれ。

それはエノルさんも十分わかっているようで、頷いて……。


「じゃな。しかし、ユキ。それにも例外はあるのじゃろう?」

「それはありますよ。大国が責任をもって紹介できる国家となれば話は別です。例えば、今回の会議の対象となるシーサイフォ王国ですね」


周りからちゃんと認められれば、たとえ小国であっても会議には参加できる。

しかし、それを実際に可能とするには、かなりの功績などが必要になる。

今回のシーサイフォについては、元々新大陸の同盟参加国が少ないという状況の上に、元々新大陸では一目置かれている大国であり、同時に各国が渇望している海洋国家であったことが大きい。


「まあ、シーサイフォの様な条件がそろってようやく、同盟への直接の参加、および、会議参加を認めるという話です。今のところ大陸間交流会議に参加できる条件はこんなところですね。説明するには都合のいい前例でしょう」

「なるほど。これを模範とするわけですね」

「ふむふむ。前例があればやりやすいという事じゃな」

「はい。これで、各大国の方もこれで小国への言い訳が出来るでしょう。ま、挨拶ついでにそのあたりも説明してきますよ」


ウィードですらこれなんだから、小国との直接的な仲介役となっている大国はもっとめんどくさいことになっているだろうしな。

そのあたりの再確認も必要だ。

表向きは結婚の報告なんで、横やりはそうそう入らないだろう。


「そうですか。外務省としては説明の手間が省けて助かります」

「とはいえ、文章は発行したほうがいいというのは変わらんな?」

「そうしてもらえると助かります」


公式文書無しの口頭説明だけとか、さすがにずさんすぎるからな。


「では、明日には書類を完成いたしますから、それをもって各国にお願いいたします」

「分かりました。じゃ、先に、新大陸の方へあいさつ回りをしておきます」

「うむ。それがいいじゃろう。新大陸の方は、いまだ、ウィードの存在にすら気が付いていない小国の方が多いからな。会議に参加したいと言い出すのはまだまだ先じゃろう」


ということで、俺は新大陸に挨拶に向うことになったので、カグラたちへ連絡を取って、明日に備えるのであった。



で、翌日、まずはゲート移動でバイデへと向かうと……。


「ユキ様。この度はご結婚おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。キャサリン」


真っ先に俺にお祝いの言葉をくれたのは、バイデ領主キャサリンだ。


「しかし、キャサリンには報告が遅くなったな。すまない」

「謝るようなことはございません。私は一家臣なのですから」


相変わらずまじめな女領主様だ。

当初は敵対していたのが嘘みたいだ。

と、そんなことを思っていると、キャサリンは隣にいるスタシアとエノラに対し俺へのと同じような挨拶をしたあと、カグラとミコスの前に立つ。


「カグラ殿、ミコス殿。いえこれからは、カグラ様、ミコス様とお呼びしないといけませんね。この度は本当におめでとうございます。心よりお喜び申し上げます」

「え、キャサリン様、そんな……」


そうミコスが言いかけたのを、カグラがさっと手を出して止める。


「キャサリン殿。貴女のおかげで今の私たちがいます。まずは心よりの感謝を。ほら、ミコスも。貴族の端くれなんだから、わかるでしょう?」

「あ……。失礼いたしました。キャサリン殿のおかげでこうしてこの日を迎えられました。本当にありがとうございます」


そう返すカグラとミコス。

貴族っての大変だよな。

とはいえ、そこはウィード。

こんな堅苦しい挨拶は最初だけだ。


「で、本音は?」

「小娘共が先を越して、首でも絞めてやろうかという思いです」

「キャサリン殿!?」

「ちょっ!?」


にっこりと笑いながらそんな発言をされれば、驚くのも無理はないよな。

とはいえ、そこは大人の女性。


「冗談ですよ。まあ、若干本音のところもありますが、私もすでにいい人を見つけておりますので」


そう切り返してきた。これで以前と変わらないお付き合いをお願いしますということになるのだが、後半の発言に……。


「「え!?」」


カグラとミコスが思わず驚きの声を上げてしまった。

すると、即座にキャサリンが二人の襟首をつかみ……。


「あら? 何やら変な声が聞こえましたね。ユキ様、ちょっとお二人を借りてよろしいでしょうか?」

「おう。この後、他の連中への挨拶と報告もあるからほどほどにな」

「はい。適度にやってきます」

「ちょ!? ユキ!!」

「ユキせんせぇー!?」


こうして、キャサリンに嫁さん二人は連れていかれたのだった。


「えーと、いいんでしょうか?」

「別にキャサリンもほんとに怒るわけでないしな。あと、これからのためにもあの口の危うさについては少しは学んだ方がいい」

「まあ、それはそうじゃのう。で、妾たちはどうするんじゃ?」

「別に予定通り、スタシアとエノラのご両親に挨拶だよ。現在このバイデで絶賛会議中だからな」


そう、ただいま新大陸の大国メンバーはこのバイデで今度の大陸間交流会議についてお話中。

なので、挨拶もいっぺんに済むわけだ。


「ついでに、事前に魔力枯渇現象の話もできるからな」

「また、ドラゴンですか?」

「いや、この土地には魔物自体が生息しておらんからのう。竜はさすがに厳しいじゃろう。ま、何が出てくるか楽しみじゃが」


リーアの言うように、流石にドラゴンは出てこないと思うが、デリーユの言う通り魔物がいない土地での、魔力枯渇現象の報告というのは興味があるよな。

思いもよらぬ視点からの指摘があるかもしれない。

そういうことで、会議室の前までやってきたのだが……。


「……なんというか緊張しますね」

「……ええ。意外と緊張するものね」


ガラにもなくそんなことを言う、スタシアとエノラ。

2人の結婚の挨拶も兼ねているから、さすがに緊張しているみたいだ。

さて、ここは男らしく行くとしましょうか。


「ま、言っても気にするだろうが、心配するな。俺が何とかする。なんせ旦那さんだから」

「「……」」


俺がそういうと、なぜか驚いた顔をする二人だが、すぐに笑顔になって。


「はい。頼りにしています」

「……そうね。ユキがいるなら安心よね」


二人はそう言ってくれるが、後ろからデリーユとリーアが……。


「最初があまりに情けなかったからじゃな」

「まあ、確認でしたしね」

「え、あ、いえ。ユキ様が頼りになるのは事実です」

「そ、そうね。ちょっと、鈍感かなーとか思ったけど、これ以上頼りになる男はいないわよ」


と、遠慮なくぶっ刺してきた。

しかもフォローのつもりであろうスタシアとエノラの言葉も同じように刺さる。

ごめんね、鈍感で。

イタイ、心が痛い。

でも、仕方ないじゃん。

自分がモテているとか思えないし、それ以前に勝手に決められた結婚に関して確認を取るのは当然だろう。

とはいえ、ここで下手な反応をしてはデリーユたちにさらに弄られるだけだ。

ということで、ここは無視してそのまま会議室に入る。


「ん? おお、よく来てくれた。ユキ殿」

「きたか。ユキ殿」

「お待ちしておりました。ユキ様」


そう言いながら出迎えてくれる、ハイデン王とフィンダール王、エノル大司教に加え、その3人と同じ席についているのは……。


「久しいな。というわけでもないか。ユキ殿」

「ええ。そちらも来られていたのですね」


シーサイフォの女王、エメラルドだ。

理由は聞くまでもなく……。


「うむ。さっそくゲートを使わせてもらっている。大陸間交流会議に参加できるかの大事な会議であるからな」


だよな。

シーサイフォにとって死活問題でもあるからな。

これで、輸送が滞る事態などというのもほぼなくなる。

国家の安全保障として、参加しない理由はないわけだ。


「何かわからないことがあれば、遠慮なく聞いてください」

「ああ、その時はもちろん聞かせてもらう。して、ユキ殿はなぜここに?」

「あー、各大陸会議の様子を見にきたのと、結婚の話だな」

「様子を見に来たのはわかるが、結婚の話?」


なるほど。エメラルド女王は俺の結婚のことは知らないようだ。

ま、だからといって俺が話す内容が変わることはない。

むしろ、エメラルド女王がいた方が証人として利用できるだろうし、反故にもしずらいだろう。


「そうそう。ということで、フィンダール王。スタシアもらうよ」

「ちょっ!? ユキ様!!」

「おぉ、遠慮なくもらってくれ。ユキ殿なら、スタシアを泣かせることなどないだろうからな」

「父上!?」


思わず目が点になってるスタシアはとりあえず放っておいて今度は、エノル大司教と、後ろに控えているエノラの母親であるエノエ司教に……。


「大司教、エノラをもらって行きます。お母さんもいいですか?」

「こっちも直球!?」

「はい。どうぞ」

「ええ。フィンダール王の言う通りユキ様なら何も心配はいりませんから」

「返答も直球!?」


とまあ、あっさり結婚の挨拶は済んで……。


「うむ。ユキ殿がどうして来たかわかったが、こうもあっさりした結婚の申し込みにはさすがにびっくりじゃな」


エメラルド女王はそう言って苦笑いしているが、まあ、ウィード流ということで。


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