第880堀:古の森人の示す道

古の森人の示す道



Side:ユキ



「やっと新大陸がらみのもろもろを終わらせたと思ったら、次は大陸間交流会議に結婚式とは随分いそがしいのう」

「すまないな。そっちの事はほったらかしで。ミヤビ女王」

「別にほったらかしではないがのう。ユキ殿とは会ってないだけで、セラリア殿やこっちにいるメンバーとはしばしば話しておるぞ?」

「ありゃ、そうなのか? って、確かにフレンドリーになっているな」

「いまさら気が付いたの? 私たちと同様に、異世界、しかも日本人を伴侶としていたのよ? 私たちにとっては大先輩であり、良き理解者なの」

「うむ。既に妾とセラリアは良き友人じゃ。というか、立場的にどうしても普通に話せるものがそうそうおらぬからな。その上、ウィードの飯は美味いからのう」


そう言って、ケーキを次から次へと口に運んでいくハイエルフの女王ミヤビとうちの嫁さんセラリア。


「で、何か話があるんじゃなかったのか?」


俺は今回、セラリアからミヤビ女王が話があると聞いて、ケーキバイキングの方で待ち合わせをしていたはずなのだが、先ほどから2人はケーキばかりを食べている。


「うむ。話はある。じゃが、ここのケーキバイキングの時間は有限。たとえ王侯貴族であっても予約はなかなかとれん。セラリアに頼み込んでこの部屋を使わせてもらっているからな。無駄にはできん」

「おい、セラリア。頼まれたからって王族用の部屋使ってるのか?」

「ええ、そうよ。これぐらい許されるわよ。というか、私もこの日に予約入れてたのよ。でも、ローエルと、ヒフィー、ノノア、アルシュテールがドタキャンでね」

「女子会か」

「そうよ。ミヤビ女王も含めた会議でもあったのよ」

「で、その4人が来れなくなったのは、ユキ殿があの布告したせいじゃな」

「あの布告って、ああ、結婚の祝い物か」

「うむそうじゃ。ユキ殿の結婚というだけで頭が痛いところに、祝い物の金額制限、そしてショッピングモールなるモノの出店物を考えねばならんとはな。そりゃ呼び戻されもするじゃろうて」


ああ、そういう理由か。

確かに、外交官メンバーに即座に布告するよう頼んだからな。

ローエルはともかく、ヒフィー、ノノア、アルシュテールは国家の長だ。

それぞれ一番頭を悩ませていることだろう。


「おまけに大陸間交流会議で、新たに新大陸からの大国の参入。しかも、海洋国家ときたものじゃ。みな興味津々じゃな」

「そうなのか? こっちのロガリ大陸やイフ大陸にもあると思うが」

「イフ大陸はどうか知らんが、少なくともロガリ大陸では海洋国家は大きくなりえぬ。海の魔物が厄介すぎるからのう」

「ああ、そういう理由か」


そうか、ロガリ大陸では、海の魔物が襲い掛かってくるわけか。

そうなると、国として海に力を入れにくいし、大きくなりにくいな。

海路が使えない海洋国家とか、いい笑い種だ。


「イフ大陸も同じらしいわよ。ほら、ドレッサの祖国が海洋国家なんだけど、やっぱり魔物の被害がけっこうあるらしいわ。ドレッサの祖国は大陸魔法陣の外にあるから、魔物はまあそれなりにいるみたいね」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたな」


だから、ドレッサはそれなりに戦えたんだったか。

イフ大陸の方は新大陸と違って魔物がまったくいないわけじゃない。

人為的に魔力の流れを操作させているだけだからな、その範囲の外にある国、主に海洋国家はロガリ大陸と同じように、海を糧としつつも、魔物と戦っている状況らしい。

まあ、魔法陣が魔力を吸い取っているから大陸全体で魔力量が少なく、そのあおりで海洋に出現する魔物のレベルはそこまで高くはないんだが。


「で、それで、なんで興味津々につながるわけだ? 単に新たな大国が参加するだけだろう?」

「まあ、今までの様に内陸国家ならのう。しかし、今回は海洋国家でありながら大国じゃ。妾も真っ先にシーサイフォとのつながりが欲しいぐらいじゃ。その原因はウィードのせいじゃな。海産物の美味さを知ったからのう」

「あー……。そっちか」

「そっちよ。今までウィード以外からの海産物の供給は実質不可能だった。ロガリでも海洋国家とのゲートがないわけじゃないけど、全部が全部小国。さっき言ったように各国の需要を賄えるレベルでは無いのよ。唯一、ウィードでの海産物は……」

「DPで取り寄せができるからな」


実質制限無し。

まあ、DPの予算の割り当てはあるから、無限ではないんだけどな。


「ええ。まあ、ウィードの物資で人気なのは海産物だけじゃないけど、おかげで毎日膨大な量の海産物が高値で取引されているの。対抗する輸出国がないから」

「その競合相手が出来るから、みんな興味津々ってわけか」

「うむ。特に新大陸の面々は今まで、ユキ殿を誘拐したということもあり、いまいち印象が悪いが、シーサイフォ参入でそれもある程度払拭もできるじゃろう」


おお、懸念していた新大陸のマイナスイメージも払拭できそうっていうのは、いい話だな。

あとで、カグラたちに伝えるか。

しかし、これでシーサイフォの新大陸同盟での発言力は高まるかもな。

そこらへんは白熱しそうだ。


「って、そこはいいとして、ミヤビ女王が女子会に参加っていうのは、何か話があったんじゃないか?」

「ああ、そういえばそうじゃったな。セラリア殿には既に伝えておったが、同盟参加についてじゃ。今度の大陸間交流会議で、シーサイフォに続いて妾の国と、獣神の国も参加させてほしいという話をじゃな。まあ、小国故、リテアを通じてということになるがの」

「そうか。そっちも話がまとまったか」

「妾の国の方は最初から決まっておったがな。獣神の国の方もようやく腹をくくったわけじゃよ。そのついでと言ってはなんじゃが、リエルとトーリのこともじゃ」

「……ああ。あの連中、結局どうなったんだ?」


リエルをいじめて、トーリを攫おうとした、トーリの元身内。

裏に貴族がいたみたいだが……。


「裏にいたバカどもは国家反逆罪でしょっぴいた。しかし、トーリの身内の連中は扱いに困っている。勝手に処刑しては、ウィードの機嫌をそこねるのではとな。まあ、実際あの者たちがしたのは、下っ端での使い走りじゃからな。別にトーリとリエル以外の者にはそこまで被害はなかったようじゃ」

「そこまでな……」

「うむ。そもそも上下関係に厳しいようじゃからな。まあ、獣人族にはよくあることじゃ。だから……」

「本来獣神の国としてはそこまで厳格な処罰はできないが、ウィードとのことを考えると重罪というのも十分範囲になる。じゃが、それをウィードが本当に望んでおるのか? ということになる」

「望んでいるのか、か……。分かったその話はトーリとリエルにしてみよう」

「それがよかろう。……腐っても家族じゃからな。いつか決着をつけなくてはならん」


ミヤビ女王の言う通りだ。

ここで決着をつけないと、いつまでもずるずると引きずることになる。

許すのか、それとも処罰してしまうのか。

……俺としては、始末したほうがいいとは思うが。

俺が勝手に始末してもトーリは笑って許してくれるとも思うが、でもやはり話すべきだな。


「セラリア、リーアもこれでいいと思うか?」

「……そうね。絶対とは言い切れないけど、家族のことだからね。彼女たちにちゃんと話すのが筋でしょうね」

「私としては、リエルが泣きそうだから嫌なんですけど。まあ、そういう筋を通すっていうのは大事ですよね」


セラリアとリーアは難しい顔をしつつも、筋を通すことには同意してくれた。

まあ、トーリとリエルに身内の処刑の判断をゆだねるのと同じだからな……。


「まあ、それはそれとして、そろそろケーキバイキングも終わりじゃな。ラストスパートじゃ!」

「そうね」

「はい! いっぱい食べましょう! ほら、ユキさんも!」

「あー、うん…」


とりあえず生返事をして、一応ケーキバイキングに手は伸ばすものの、正直2ピースが精一杯なので、その後は嫁さんとミヤビ女王がさんざんケーキを掻き込む姿を見て胸焼けを起こしていたのは言うまでもない。



「なんで、たいして食べておらんユキ殿が気持ち悪そうにしておる?」

「……甘いものをそんな風に無限に食べられる性質じゃないんでな」


俺たちは改めて、会議室に移動して話の続きをしようとしていたのだが、俺の体調は回復していない。


「ま、夫はその内勝手に復帰するでしょうし、ミヤビ女王が真に話したかったのは、ケーキバイキングの時のこととはまた別よね?」

「うむ。あれはあくまでも小話じゃな。シーサイフォという国のことも、家族の処罰に関してもな。本題は魔力枯渇現象に関してじゃ」


そう言われて、俺は顔を上げる。


「何か分かったか?」

「いや、そこまで都合のいい話ではない。が、知っているかもしれない者というのには心当たりがある。というか、今回の会議で魔力枯渇現象に関してロガリ大陸から話に上がるなら、まずそこじゃと思っている」

「へえ、それは?」

「大古からこの大陸に存在してきたといわれておる、竜の一族が住むといわれる竜山じゃ」

「なんともお約束な……。しかし、竜山? 竜の一族? 聞き覚えは……。ああ、そういえば、この世界の種族の紹介として聞いた覚えがあるな、竜人族だったか?」


そういえば、遥か昔、ダンジョンを作ったころにそんな話を聞いた気がする。


「そうじゃ、その竜人族じゃ。まあ、本物の竜神を祭っておるという話も聞く。妾たちはトラを神としているからのう、そのこと別に嘘とはいえんじゃろう」

「なるほどな。まずはそこから情報を集めろと」

「うむ。各国もゲートを使えなくなるというのは、ロガリ大陸だけでなく、イフ大陸、新大陸共に阻止しなくてはいけない事じゃからな。それだけ真剣になる。ということで、まずは妾が一番槍というわけじゃ。優遇を頼むぞ」

「優遇っていってもな。しかし、今まで竜人の話は全く出てこなかったな。セラリアなんでだ?」


そうセラリアに聞いてみると、なぜか非常に難しい顔をして……。


「正直眉唾なのよ。竜人って言うけど実際にはリザードマンの一種ではといわれていることでもあるし、まあ、十年に一度はどこぞで見かけたって話は出てくるけど、そのレベルの話ですら数も多くない。まして奴隷にされたなんて話はまず聞かない。だからモーブたちが買ってこなかったし、私たちも散々奴隷の受け入れをしてきたけど、今までいなかったでしょう?」

「あー、そういえばそうか」

「しかも、ミヤビ女王がいう、その竜山だけど、そこに住む魔物は全体的に強さもすごいけど、何よりドラゴンが飛び交っているのよね、山頂付近に。まあ、雲がかかっていて見えるのは稀とは聞いているわ」


……山頂に雲がかかっているってことは、少なくとも標高2000メートル以上か。

普通の生き物が生きていける場所じゃないな。

木も生えない地帯だ。

どうやってそんなところで生活しているんだか。

で、セラリアが言っていることが分かった。


「……ああ、だから眉唾なのか」

「そうよ。そんな死の土地に人が住めるのかって話。だから今まで誰も言わなかったんじゃない? あなただって成果があがるかわからないような土地にわざわざ人を派遣するなんてことはしないでしょう?」

「しないな。しかもドラゴンとか。やっぱり下手に飛行機とか飛ばしてたら戦争だったな」

「そうかしら? 戦闘機とドラゴンじゃ勝負にならないと思うんだけど?」

「後始末と戦費がかさむが、それでいいのか?」

「駄目ね。でも、ミヤビ女王がわざわざ情報を持ってきたってことは、実は眉唾ではないんでしょう。ねえ、ミヤビ女王」

「うむ。かつて妾は実際に会ったことがあるからのう。まだトウヤが生きておった頃の話じゃ。魔王を退けた勇者として竜人の里に訪れる権利を与えられ、その証として宝玉をもらっておった。しかし、結局行くことはなかったがな。たしか、トウヤは……裏ボスなんぞにわざわざ会いに行く理由はないとかいっておったのう」


あー、なるほどな。

確かに、裏ボスだな。


「ということで、それがこの宝玉じゃ。ユキ殿たちに進呈しよう」


そう言って、ミヤビ女王はどうでもいいと言わんばかりに、テーブルにコロンと宝玉を置いた。

大陸間交流会議と結婚式が終わったあとの舞台はそこか。


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