第879堀:ウィード大会議

ウィード大会議



Side:セラリア



「……ということで、これからが本番だ。みんな。改めてよろしく頼む」


そう言って、夫がみんなの前で頭を下げる。

これからいよいよ、魔力枯渇減少の調査に本格的に乗り出すということで、今、私たちは夫の頼みで集まり、たった今その話が終わったところ。


普通なら王配が何をやっているのよ。と言いたいところだけど、これが、夫、ユキとしてのいつものやり方。

私もそしてみんなもこうしたユキにずっと助けられてきたのだから。

と、そこはいいとして、今回の夫のお願いに関してだけど……。


「今更何を言っているのよ。私たちは貴方の妻や友人たち。手伝わないわけないでしょう」


私がそうはっきりいうと、全員が頷く。


「しかし、もうそんなところまで来たんですね」

「うむ。ここまでずいぶん長かった気がするが、一方で短いような気もするのう」


ルルアとデリーユがそう言う。

確かに、ここまで来られるなどとは当初は思いもしなかったわね。

最初はただの小さなダンジョン。それが私たちがやってきて、人が集まってきて村になり、町ができて、国が興った。

そして、3大陸を巻き込む大同盟が結成され、ようやく、ユキの目的への真の一歩を踏み出すことになった。


「とはいえ、新参者の僕が言うのもなんだけど、国は無限とまでは言わないけど、それなりの数が存在していて、その中からどうやって調査対象を絞っていくんだい?」


と、そこでエージルがさっそく大きな課題を言う。

確かに、大陸を自由に行き来する権利を得たとはいえ、何のあてもなくあちこち訪問しても魔力枯渇現象につながる可能性はほぼないだろう。


「そこは、今度シーサイフォの参加に伴う大陸間交流会議で話す予定だ」

「なるほど。その場を利用するのか。それで、各大陸の大国はいろいろ情報提供をしてくれるわけか」


ポンと手を叩くコメット。


「既に各国にはゲートの技術が浸透していますからね。そのゲートが使えなくなる可能性がある魔力枯渇現象を放っておくなどということは、ないと見込んでいるんですね?」

「はい。ナールジアさんの言う通りです。既に大陸間交流宣言が終り、各国間で盛んにゲートを使った交流が行われています。この技術を失うことは絶対に避けたいはずです」


ふむ、ユキがこのタイミングでこの話を持ち出してきたのはやっぱり理由があったからなのね。


「毒が回るまでというやつだね。ユキ君はよく考えている。後は勝手に情報が集まってくるというわけか」

「タイゾウさんの言う通りですが、それでも集まった情報の精査は必要でしょう。ただ単にウィードを招きたいという国も多々ありますからね」


問題はそこね。

確かに、魔力枯渇現象という問題は将来の大問題として転がっていても、その問題にすべての国が真剣になれるかというと、なかなか難しいでしょう。

世界の流通うんぬんの前に、自国が倒れてしまっては意味がないのだし。

そう考えて逆にピンときた。


「あなた。それなら、経済的に傾いている国をピックアップしていけば自ずと、ウィードをただ招きたいだけの国なのかっていうのは分かるんじゃないかしら?」

「確かにな。その視点でソウタさんたちや外交官組は既に面会申し込みが来ている分については調べてみてくれ」

「「「はい」」」


元気よく返事をする外交官組のメンバー。

その中にはカグラとミコスも加わっていて、その瞳にはやる気がみなぎっているのがわかる。

ちょっと前まで今にも死にそうな顔をしていたのにね。

スタシアにエノラだって真剣に頷いている。

新大陸メンバーもここにきて夫が言うように、ようやく揃った。

新大陸のほうもシーサイフォが大陸間交流に参加すれば加速度的に忙しくなるわね。


「ということで、これからの動きは決まったが、まずは目の前のことだ。シーサイフォが同盟に参加する旨をまずは外交官メンバーから各国に連絡をしてくれ。そして、イフ大陸に行った以降のメンバーとの結婚式だ」


そう、夫は言い切る。

シーサイフォの同盟参加のことはいいとして、同様に結婚式のことを恥ずかしがりもしないで言い切るのに少し驚いた。

それはみんなも同じのようで、皆目を丸くしていた。

でも、夫の顔を見れば真剣なのは一目瞭然。

だから、誰も彼も黙って続きを待つ。


「これで俺がどれだけ新大陸のことに気を配っているのか、そして、イフ大陸にも気を使っているのかっていうのが喧伝できる。もちろん式はこのウィードで行うことでロガリ大陸にも配慮ができる。まあ、俺が更に女好きと見られる可能性が高いが、それはそれでいい。俺が汚名を被ることより、俺を慕ってくれる嫁さんたちにドレス姿をさせられないほうが嫌だしな」

「「「……」」」


そう言い切った夫に対してみんな沈黙する。


「……ぷっ。最初は納得の理由だったのに、最後は結局あなたのわがままね」


でも、私は耐え切れずに笑ってしまう。

それに続くように、エリスが今度は微笑みながら……。


「私たちにドレスを着せてくれた時も同じ理由でしたね。私たちみたいな奴隷だったものにまでもったいないと断っても、ユキさんは一歩も引きませんでしたね」


エリスがそういうと、賛同するように、ラッツたちもうなずく。


「お兄さんはいっつも最後はそれですよねー。ま、そこもとても大好きなんですが」

「ユキさんが優しくないわけないわ。でも、ユキさん、そうなると事前準備とか大変じゃないですか? 下手をすると、大陸間交流同盟会議よりも」


確かに、ミリーの言う通り、ここでジェシカ、クリーナ、サマンサ、エージル、カグラ、ミコス、スタシア、エノラ、ヴィリア、ヒイロ、ドレッサの式をやるとなると、各国がおとなしく式に列席するだけのはずがない。

何とかして、盛大にお祝いをしようとするにちがいない。その、管理が大変ね。と思っていると突如ミコスが立ち上がって……。


「ああ!! こういうことですね! 結婚式を通じて、各国からお祝いの品として、各国の産物を出してもらって、それを参列者全員で楽しむついでに、宣伝にも使えるわけですね!」

「お、よくわかったな。てっきりラッツかエリスが当てるかと思ってたんだが」

「あはは、ミコスちゃんの男爵領は貧乏だから、誰かの結婚式とかにかこつけていろいろ売って儲けるのが常套手段だったから」


……なるほど。世知辛い話ね。

まあ、理解できるわ。こういう結婚式などの祝い事で貴族が多くの人を集めるのは、祝うことはもちろん、自分の力、領地がどれだけ豊かを示すいい機会と捉えているからだ。

それが領地の発展につながる。

これができない連中は、基本的にのんびり隠遁生活をしたいのか、貴族としての生き方がわかっていないだけ。


「ま、そういうわけだ。ミコスの言ったように、この結婚式では、各国に対してはお祝いの品に条件を付ける」

「条件ですか?」


スタシアが不思議そうに首をかしげる。

私も同じだ。なんでまたお祝いの品に条件なんか付けるのだろう?


「ああ、条件だ。まず、予算の上限を決めてその中でプレゼントを選んでもらう。これは戦争や財政難とかで疲弊している国に対する配慮も含んでいる。無理にこのために国庫を浪費する必要はないってことだ。まあ、その分、頭を使ってもらうだろうが、それについては条件は各国一緒、財力の有無ではなく、どういったものを出すかが大事ということだ。これでどこかの国が恥をかくなんてことはないだろう」

「そうね。そうしてもらえるとありがたいわね。姫様は私たちの結婚の話そのものは喜んでくれてはいたけど、そのための予算をどう捻出するかでものすごく頭を悩ませていたから」


なるほどね。カグラたちのハイデンやスタシアのフィンダールはアクエノキのせいでかなり打撃を受けているし、普通ならそもそも小国にはどうしても大国と同じような贈り物は無理。

無理をして見栄を張ってしまえば、できないことはないけど、その後ろにあるのは無理な重税。

笑えないわね。カグラたちの結婚式のために、重税で倒れる人がいるなんて、そして、そんなバカな国なんかいないと夫に言い切れないのが悔しいわ。

そんなことを考えているうちに夫は次の話を始めて……。


「あとは、各国から出店を出させる。いや、数的に無理か。せいぜい各大国から二店舗ずつが限界か」

「は? ちょっと待ちなさい。この流れのどこで、なんで大国が出店を出すって話になるのよ? 結婚式のお祝いよね?」

「そうだ。だからこそチャンスだ。な、ラッツ?」


夫はそう言ってラッツに視線を送る。


「あー、あー。なるほど、ここで一気に大陸間交流同盟の知名度を高めるんですね。ついでに、よその大陸にもいろいろおいしいものがあるって。そして一般の人たちにも交流を深めてもらうってことですか」

「ああ、そういうことですか。確かに、ウィードを通じて行き来する、商業区やイフ大陸のベータンには旅行者がいますが、それもけして多いとは言えないですからね。それにウィードに来る外国人はけっこういますが、それでも大国同士や大陸間の旅行者が多いというわけではないですから。これを機に、名実ともに大陸間同盟をというわけですね」


ラッツに続いてエリスが答えたことで、やっと夫の言っていることがわかった。

大陸間交流会議だけならお偉方によるただのお堅い会議だ。確かに多少のお祭り騒ぎはあるでしょうけど、それだけ。

でも、結婚式に加え、各大国から一般人向けへの出店をすれば、そこに参加するのは貴族だけ、商人だけの話にとどまらない。

世界に住む人々が、大陸間交流を実感することになる。


「そうだ。ま、出店に関しては食べ物と、せいぜいちょっとした記念品がいいところだろう。というか、ふと思うと、そういうのは結婚式に合わせた出店っていうより、どこかに各国の店舗を集めた大型商業施設でもつくった方がいいか。ショッピングモール計画」

「いいですね!! それ! ってでも、そうなると、日本とかみたいになりません? そのせいで地元の商店街が寂れるとか……」


いい案かと思ったのだけど、なぜかタイキは一度賛成したあとに、少し困ったような顔をする。

商店街が寂れる? どういうことかしら?


「あなた。タイキの言っていることって?」

「ん? ああ、まあ、日本というかどこの世界でもよくあることだな。どうしても多く品物がそろっているところに人は集まる。で、昔の形のままのところはすたれていくって話だよ。大型ショッピングモールなんて作れば……」

「現地で細々と地元のモノを売って生計を立てている人は立ち行かなくなるってわけね。って駄目じゃない。そんなことをすれば恨みを買うわよ」

「ああ、まてまて、タイキ君の言うことは、一般の民間企業での場合だ。今回は目的や方向性が違う」

「どういうこと?」

「地球でショッピングモールが出来て商店街が廃れたのは、扱う商品がもろにかぶっていたからだ。ラッツはわかるな?」

「なるほど。今回のことはあくまでも大陸間交流同盟を知らしめるためのものですから、扱う商品は基本的に被らないってことですね。だから、今回はそういうお客さんの取り合いはないと」


ああ、そういうことね。


「あくまでも今回は、各国の特産物を持ち寄るってだけだからな。しかも数を限るし、それぞれの国の商人を圧迫するようなことはないだろう。ま、モデルケースをまずウィードに作って課題の抽出をして、そのあとでゲートがある国に作っていけば……」

「各国にとっても利益になるわけね。現地の商人たちの商圏を奪う事無く」

「そういうこと。いい加減、何かしら国民に対しても大陸間交流が始まったことに対する、わかりやすいメリットを示す必要もあったからな。盛大に利用させてもらおう。俺たちへのお祝いにお金をつかうくらいなら、そういう店を通して国民に対して使った方が受けもいいからな」


と、いい笑顔でいう夫。

本当に、転んでもただでは起きないわね。

さあ、各国は夫の行動をどう判断するのかしら?


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