第871堀:私が来た!!

私が来た!!



Side:ミリー



「ミリーは、俺の嫁さんがさらに増えてもいいのか?」


ユキさんは心配そうに私を見つめながら聞いてくる。

おそらく、さっきのスタシア殿下を受け入れた話よね。

普通ならノー! 乙女的には絶対ノー!! と言いたいんだけど、今回も各国の足並みをそろえるためというのもあるし、はなからカグラたちを受け入れれば他の国からも当然のようにあるだろうというのは理解していた。


……というか、仕事の関係で言えば絶対にもっと援軍は欲しいもの。

真面目に、現在のウィードの人員は圧倒的に不足している。

特に、ユキさんと一緒に動き回る人員は足りないどころの騒ぎでは無い。

今回新大陸に飛ばされて、実感したもの。


まあ、そのおかげで、ドレッサ、ヴィリア、ヒイロがまだまだ幼いながらも、頭角を現して、部下の管理とかを覚えてくれたのはいいことなんだけど。

それでも、規模の広がりに対しても、全然人手が足らない。

私たちも、これ以上仕事が増えれば、仕事を片付けるために泊まり込みが当たり前になってしまう。

そんなことになったら、ユキさんとイチャイチャできないということ。

それだけは絶対阻止しないといけない。

お嫁さんが増えるというのも涙を呑んで許す。

というか、仕事を手伝ってくれる人材が増えるということだし、喉から手が出るほど欲しいというのが、私たち奥さんたちの本音。

仕事ができないのに、ユキさんの奥さんとかは絶対認めないけどね。


そういうことで、今回、新大陸での外交官組がユキさんのお嫁さん入りするのは非常にありがたいのよね。

今は、新大陸の外交は、バイデ領主のキャサリン、そしてガルツの外交官もこなしているシェーラの2人がやっと何とかしているところ。

つまり、現在の公式な情報の伝達ルートはハイデン王>カグラ>キャサリン>シェーラ>ウィード女王となっているのだけど……。

これでハイデン王>カグラ>ウィード女王という経路が出来るわけ。


まあ、本来は外務省を通して段階を踏んで行うのが当然なんだけど、こういうホットラインは必要だからね。

この直通ラインが欲しいからこそ、他国もユキさんに女を送り込むのよね。

と、そんなことをあれこれ考えるより、ユキさんに答えないとね。


「もちろんです。まあ、普通の夫婦だとあれですけど、私たちは普通の夫婦なんかじゃないですし、スタシア殿下は良き仲間、妻になってくれると思いますから」


というか、スタシア殿下は久々の王女という身分。

更には将軍職にもついてた人物。

今度の展開を考えると、カグラたちには悪いけど、新大陸では一番欲しい人材ともいえるわね。


「そうか、ありがとう。でも、なんかこんなに女に手を出しまくる男って駄目な気がするんだよなぁ」

「それは責任をとれない人が手を出すのがダメなんです。ユキさんはその点問題なしです。甲斐性はありますし、ちゃんと私たちを皆大事にしてくれますから、あとは私たちの問題です。私たちがいいって言ってるから、何も気にしなくていいんですよ。というか、ユキさんから手を出しているわけじゃないですから」


実際には女性たちがユキさんに手を伸ばしてきているのよね。

あ、私たちは真実の愛で結ばれたんで除外。

だからこそ、変な女が寄り付かないように私たちが守るの。

たまーにだけど、ユキさんと結婚すれば贅沢な暮らしができるから考えようかなー。なんて、バカ女がいるから。

そんな女にユキさんが騙されるなんて思わないけど、そんなことでユキさんの手を煩わせるなんてありえない。


「……そうか。ミリーがそう言うなら、きっとそうなんだな。俺はほんとにダメな男じゃないんだな」

「はい。ユキさんは立派な人ですよ。私たち自慢の旦那さんです」


私たちにとって、ユキさん以上の旦那さんなんて世の中にいない。

そう断言できる。

だから……。


「さ、次はエノラさんのところですね」

「……ああ」


さっさとわかりきったことなんか済ませてしまおう。

ユキさんのお嫁さんになれるということを拒絶するような人は……、まあ、サーサリとかいたけど、でも、エノラが断るとは思わない。

どう見てもユキさんを意識しているからね。

とはいえ、ユキさんはエノラの思いには全く気が付いていないみたいだけど。


「なあ、ミリー。エノラはホントに昨日みんなが言ってたように俺に惚れているのかなぁ? これで間違ってたら、すごく恥ずかしくないか? なあ、タイキ君」

「まあ、それはもう恥ずかしいですね。お前俺に惚れているんだろう? とか真顔で言って。で、外したら学校ではいいネタですね」

「だろう?」

「心配ありませんよ。エノラはユキさんの前ではそっけないですけど、ほかの所ではすごくユキさんのことが好きだっていうのが溢れ出してますから」


カグラたちからも相談されたし、海の魔物との戦闘訓練の時の水着とか明らかに気合入りすぎよね。

それだけユキさんを意識しているんだから、嫌いな筈がないわ。


「うーん……。タイキ君はわかったか?」

「いやぁ、カグラたちはともかく、エノラはなぁ……」


どうやら、タイキさんにもエノラがユキさんを好きだってことがわかっていないみたい。

多分、男性からは分かりにくいのね。


「とにかく、さっさと行きましょうユキさん。こういうのは確認するのに限るわ」

「あ、まあ、そうか?」

「ですね。とりあえず話はしないといけないですし、万一振られたらそれはそれでいいじゃないですか」

「ま、それもそうか。そうなったら俺が恥をかくだけで、エノラが好きな道を選べるならいいか」


結局ユキさんはこうなのよね。

自分が大変とか恥をかくとか、そんなことより周りの人のことを優先させる。

敵には容赦ないけど、味方には本当に優しい。私たちがちゃんと支えないとどんどん無理をしてしまう。

だからこそ、ユキさんを思いやれる人は沢山必要。

まあ、エノラとかは素直じゃないところがあるから、度が過ぎると、ユキさんが気を使いすぎるからそうなったら駄目だけどね。



「あら、どうしたの? ユキにミリーさん、タイキも」


私たちがウィードにあるハイレ教会に到着した時、ちょうどエノラは教会の前で子供たちと遊んでいた。


「ちょっとエノラに話があってやってきたのよ。ねえ、ユキさん」

「ああ。ちょっと時間あるか?」

「ええ。構わないわ。じゃあみんな、私はユキたちとお話があるから、またね」

「えーって、ユキ先生じゃん。勇者さまもいるー」

「ミリーさんだー」

「おう。ちょっとエノラ司教と大事な話があるんだ。ほれ、ジュース代やるからちょっと公園でも行って遊んでてくれ」

「ユキ先生がそういうなら仕方ないか。じゃ、公園に行こうぜ」

「「「おー」」」


子供は簡単にお小遣いにつられてその場を離れていく。

単純よねー。


「子供に一番いいのはお小遣いだな。ま、やりすぎは禁物だが」

「わかっているなら、もっと考えなさいよ。頼まれるたびにお金をもらえるとか思っちゃうわよ?」

「そこまでバカじゃない。あいつらも、教えている先生たちもな。しかし、なんでハイレ教の司祭様が子供たちを集めて遊んでいるんだよ」


確かに、ウィードのハイレ教の司祭であるエノラはハイレ教とウィードをつなぐ連絡役でもあるから、普通なら机に向かってずっと書類仕事のはず。


「それこそ何言っているのよ。ハイレン様が率先してそうしていたからに決まっているわ」

「「「……」」」


……納得の理由ね。

納得したくないけど。

まあ、ハイレンは間違いなく悪い子じゃないんだけどね…。

で、私たちが微妙な目で見ていることには気が付いていたのか……。


「……別に盲目的に信じているわけじゃないわよ。子供たちの事は私も良いことだと思ったからやってるの。さ、話があるのよね。こっちにどうぞ。ユキ様」


と、仕事モードに切り替えるエノラ。

この時点で私にはとてもわかりやすいんだけどね。

「ユキ」と「ユキ様」。この違いだけでも十分。

ただの、仕事上の付き合いだけで何もないなら、ずっとユキ様と言っていた方がいいに決まっているモノ。

まあ、お友達感覚と似ているといえば似てるけどね。

こういうことは、女にしかわからないってことかしら?

そんなことを考えている間に、教会の応接室に通される。


「で、本日はどのようなご用件でしょうか? 確か先日、ハイデンで新大陸会議が行われたはず。何か動きでもありましたか? でも、それなら大司教様から連絡があるはずですが?」


そう疑問を口にするエノラ。

そうね。仕事のことでエノラに連絡が行くなら、まずエノラの上司である大司教からのはず。

エノラはあくまでもハイレ教という組織の一幹部に過ぎない。

しかし、大司教も意地悪よね。


『ユキ様。使い立てするようで誠に申し訳ございませんが、こちらの手紙をエノラへお願いいたします。私が命令するよりも、ユキ様からお話いただいた方がいいでしょうから』


お歳のわりに、お茶目だったのよね。

まあ、女性はいつでも乙女ってことで。

あとは、ユキさんがその手紙を渡して……。


「あー、それはこの手紙を読めばわかるってさ」

「手紙? わざわざ? しかも、なぜユキ様に?」


どう考えても謎な事態に不思議そうな顔をしつつも、ユキさんからの手紙を受け取り、中身を確認したとたん顔が真っ赤になる。

はい。確定ね。


「な、な、な……」

「えーと、いやだったら断っていいんだぞ?」


あ、駄目、ユキさん。

エノラは素直じゃないから、そんなこと言うと……。


「そ、そうね。私だって選ぶけ……」


とはいえ、ここで素直になれないようなら、これからもユキさんの手を煩わせるのも事実ね。

このチャンスを自らつかめないような女なら、はいそれまでよってこと。

そう思って、私はエノラの言葉を最後まで静かに聞くことにしたんだけど…。


「まったぁぁぁぁー!!」

「はいはーい」


なぜかエノラの真上から、2柱の女神様の御言葉が降ってきた。

その名もハイレンとリリーシュ様。


「え?」

「エノラ!! あんたの性格は知っているけどね。今はそんなこと言っちゃダメよ!!」

「そうね~。時と場合は選ばないとね~」


そう言いながら、ハイレンとリリーシュ様は私の方を見る。

流石、愛の女神様。私が何をどう考えているのかを察したのね。

さあ、エノラ。女神様たちの勘の良さに助けられたけど、あなたはどうするのかしら?

私はそんな思いを込めて、静かにエノラを見る。

エノラも私の視線に気が付いたようで、一度こちらをしっかり見返したあと、目を閉じ、深呼吸をする。


「ふぅ。ハイレン様、リリーシュ様、ありがとうございます。おかげで冷静になれました。あとは大丈夫ですので、見ていてください」


しっかりと目を開けてそう言うエノラの顔は真剣そのものになっている。


「うん。いい顔になったわね! 頑張りなさい!」

「うんうん。がんばって~」


女神様たちの応援を背にエノラはユキさんに向き直り……。


「ユキ様。いえ、ユキ。聞いて」

「あ、はい」

「私はあなたと結婚したい。そしてあなたを支える一人になるわ。頼りないし素直じゃない私だけど……。お嫁さんに、して、ください」


言い切ったわね。

うん、ここまでちゃんと言えるなら私は合格点をあげるわ。

で、あとはユキさんだけど、流石にここまではっきり言われても逃げるほどダメな男じゃないわ。


「わかった。これからよろしくな。エノラ」

「うん! うん……ぐすっ。うん、よかったぁ」


こうして、エノラとの話し合いも無事済んで、あとはカグラとミコスだけねと思っていたら……。


「これはビッグニュースね!! 早速カグラたちに伝えないと!!」

「え? あ、ちょっと、ハイレンちゃん!?」


そう言って駆け出すハイレンに、リリーシュ様が慌ててあとを追う。

不味い!! あのお馬鹿女神!!

このままエノラがユキと結婚なんて話をカグラが聞けば……。


ぷらーん。


首をつって揺れているカグラの姿が……。


「まずっ!? ユキ、私のことはいいから、カグラの所に行ってあげて!!」


その嫌な想像はエノラもしたらしく、慌ててユキから距離を取ってそう叫ぶ。


「へ? なんで……」

「いいから、いいから!! カグラが死ぬのよ!! ミリーさん!!」

「わかったわ!! タイキさん、みんなに緊急連絡!!」

「わかりました!!」


こうして、私たちは慌てて行動を開始する。


どうか間に合って!!


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