第870堀:顔に傷がある女はダメ?
顔に傷がある女はダメ?
Side:タイキ
はい。こちらタイキです。
ユキさんの告白が始まるとのことで、奥さんたちから状況を報告するようにと言われて、会議の時から同席しています。
いや、一国の王様が何やっているんだよとは自分でも思うが、今後の国々の未来を占うためにも大事な情報収集活動だから問題なし。
それに、新大陸でも婚姻による繋がりは、大陸間交流同盟において、信用を得るためにとてもいい方法だ。
しかも、相手がユキさんともなれば、ロガリ大陸、イフ大陸の面々はそれに文句を言うわけにはいかないだろう。
だって、どこの大国も奥さんをユキさんの所にねじ込んでいるからな。
それだけ、ウィードとの繋がりは最重要と思われているし、ユキさんのネームバリューはものすごいものがある。
特にイフ大陸では表立って散々ユキさんが暴れまわっているから、王配という立場に過ぎないユキさんが下手すると女王たるセラリアさんよりもイフ大陸では発言力がある。
そんな相手と直接話せる女性がいるっていうのは、下手な外交官なんぞよりよっぽどほしい人材だ。
だから、なんとしても各国はユキさんに女性をねじ込みたい。
なので今回のカグラたちとの結婚報告は、ハイデンにとっては諸手を上げて歓迎することだった。
そして、その勢いに乗って、ほかの国も婚姻をと言うのは当然。
ハイデンの娘を娶るならこちらもと、というわけだ。
なので、よほどのことが無ければ、ユキさんから婚姻を求められれば、国としてその女性が拒否することなどありえないんだけど……。
「よ、よし。ま、まずは。スタシア殿下に会いに行こう。なんか、フィンダール王が勝手に結婚云々を言っているからな。ほ、本人の意思をちゃんと確認しないとな」
と、こんな風にユキさんは完全に動揺しまくっているので、国の方針とか思惑というものを全く考えていない。
しょせんお姫様とか、まず普通は政略の道具だしなー。
まあ、ユキさんの言うように、スタシア殿下が嫌と言えば、ユキさんの知恵と権力でなんとかなると思うけど……。
「いえ。ユキ様との結婚なら私は喜んで受け入れますよ。武骨な女ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
「……」
軍人気質というか、元将軍も務めていたようなお姫様が王からの命令に逆らうわけもなく、というか、元々ユキさんの評価は高めだから、ノーと言うわけもない。
いや、その答えにすっかり固まってしまったユキさんがあまりにおかしくて仕方がないんだが、もう笑っていい?
「よかったですね。お姉さま。最高のお相手です。私からも心より、お祝い申し上げますわ」
「ありがとう。アージュ。ウィード住まいになるし、これで一緒にいられる時間も増えるな」
「あら? 私の事より、ユキ様のお相手が大事ですわよ? そんな心構えでは愛想を尽かされてしまいますわ」
「いや、ユキ様がその程度のことで愛想を尽かすとはとても思えないな。いつも奥様たちは身分を分け隔てなく愛しておられるのは、常日頃この目で見ているからな。とはいえ、その寛容さに胡坐をかいては良くないということか」
「そうですわ。こんな武骨一辺倒な姉ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言って、アージュ殿下も深々と頭を下げてくる。
これで妹のOKも出たわけだ。
何も障害はないね、ユキさん!!
「あ、こちらこそ。よろしく……って違う!!」
「はい? 何か問題でもありましたか?」
「スタシア殿下はこのウィードで新たなる道を探すんじゃなかったのか? 女だからと言って騎士になれないとかいう不公平をなくすために」
確かに、ユキさんの言うことも一理ある。
スタシア殿下は一応外交官という立場でウィードに派遣されてはいるが、その背景はフィンダール帝国では彼女の存在がどうしても浮いていたからだ。
元々、新大陸では男尊女卑の風潮が強くて、女性の立場は総じて低い。
その中で頑張って将軍まで上り詰めたスタシア殿下はすごいのだが、それでも世の常識に逆らうことはそれだけいろいろ大変だったわけだ。
このままでは、やがてスタシア殿下は世間の常識に潰されてしまうだろうということで、外国、つまりウィードなどでしっかり名をあげればと、男尊女卑の新大陸においても認識を変えられるのではないかと考えてフィンダール王はこちらに送り出した。
だが、この結婚はその可能性を潰してしまうだろうというわけだ。
スタシア殿下もやっぱり、女は男に従うしかないってことになるんだよな。
……世間って難しいわ。
まあ、フィンダール王としては、女性の立場向上よりも国の安定と発展を選んだってことなんだろうが……。
「はい。その通りです。私は女性がちゃんと働けることを示すためにウィードに来ました。決して女性騎士は非力ではないと!!」
「流石お姉さまです!」
「いやいや、それと結婚するのは矛盾しないか?」
「ですよね。お嫁さんと騎士とか将軍って両立……あっ」
気が付いた。
気が付いてしまった。
確かに普通なら結婚してしまえば家庭に入って子供を産んで母親になるしかない。
そう「普通」ならだ。
ところが、良くも悪くも、この人、ユキさんは普通ではない。
そもそも、ユキさんの立場的に、嫁さんは家で家事と子育てだけして終わりとか到底できない。
秘密が多すぎてとても手が回らないからな。
というか、実際に今だって女王やってたり、将軍をしていたり、要職についている嫁さんばかりだしね。ユキさんのところは。
物凄い人材ばかりを集めているのだ。
いや、育ててきたというべきか。
最初はただの一人きり。
なので、村か町を作るためにと、奴隷を集めたのが始まり。
だから、嫁さん達はもともと、運営に必要な人員として連れてきたというわけだ。
だから、仕事をこなしながら子育てをしているのは当たり前。
スタシア殿下のいう、騎士とか将軍を当然のようにこなしつつ、奥さんとなるのは、ユキさんの奥さんという条件でなら達成できるわけだ。
と、こんな思考を一瞬でまとめて……。
「ユキさん。それって普通にできません?」
「……できるな」
「はい。ユキ様がやめろというのであれば、やめるしかありませんが……」
「お姉さま。大丈夫ですよ。ユキ様がお姉さまに剣を持つな、戦うなと言うわけありませんわ。だってそれなら、ジェシカやリーアはなぜとなってしまいますもの。ねえ、ユキ様」
「あ、ああ。そうだな。自分のやりたいことをやるのは大事だ」
あーあー、自ら墓穴を掘るというか、そう言うしかないよな。
これで、スタシア殿下が女性は働けるんだという証明をするためにも、ユキさんの傍が最適なところとなってしまっている。
で、スタシア殿下はユキさんの答えに嬉しそうにして……。
「そう言っていただけて何よりです。こんな顔に傷をもつ女ですから、拒絶されてしまってはどうしようかと思っていました」
「ああ、そういえば傷があったな」
そう言われて俺もようやくもう一つのハードルを思い出した。
確かにいわれれば、眉間を通る傷跡は残っているが、すでに見慣れてしまったせいかそれが切り傷という認識は薄れてしまっていた。
あれだ、その姿があまりに自然だからだ。
で、そんな俺たちの反応に困惑したスタシア殿下は……。
「えーと、気付いてなかったのですか? ま、まあ、元々いい顔つきではないですからね……」
なんか、勝手にショックを受けて落ち込み始める。
「そんなことはございません!! お姉さまは凛々しく!! かっこいいのですわ!!」
「……ありがとう。アージュ。凛々しくかっこいいと言うことは、女の魅力はないのだな」
「ち、違います!! お姉さまは美しく凛々しいのです!!」
「……無理に心にも無いことを言わなくてもいいぞ」
重ねて、とどめを刺すアージュ殿下。
まあ、アージュ殿下は騎士であるスタシア殿下に憧れがあるから、褒めているつもりなんだろうが、女性としてはだめな褒め方だよな。
あれだ、宝○の女優になら誉め言葉なんだろうが……。
さて、どう慰めようかと思い悩んでいると、ユキさんはすぐに……。
「いや、落ち込むな。どう見てもスタシア殿下は美人だから」
と、何の衒えもなく、至極当然のことのように言う。
「「え?」」
「で、ですよね! ユキ様! いえ、お兄様!!」
「む、無理にフォローをしていただかなくても」
「いやいや、ちゃんと鏡を見たことあるのか? それで不細工とか言ったら、世の中に喧嘩売ってるからな。ものすごい美人だからな」
「ですよねー。びっくりするぐらい美人ですよ」
ユキさんの言葉に一も二もなく賛同する俺。
スタシア殿下の顔には確かに眉間を中心に斜めに走る切り傷はあるものの、それをものともしない美女っぷりだ。
流石王族。なんでここまで整った顔になるんだというぐらい不思議だ。
世の中の不公平さをひしひしと感じるね。
それどころか、顔の切り傷もアクセントの一つと言っていいだろう。
まあ、女性の顔に傷っていうのは、こっちの世界でも当然評価を下げるものだから、わざわざそれを褒めるようなことはできないけど。
と言うか、下手に褒めると明らかに侮辱になるんだよな。
だからこそ、ユキさんの言葉に同意して援護をしておく。
本心から綺麗だという意味で。
「ほ、本当ですか? こんな顔に傷を持つ女が本当に綺麗だと?」
「はぁ、綺麗っていうのは傷の有無じゃないだろう。スタシア殿下のことを知っているからな。その傷はアージュ殿下やキャリー姫を守ってできたというのは俺は知っている。知らない人は顔に傷があるとか言うだろうが、俺は気にしないというか、誇るぞ」
「誇る?」
「ああ、大事な家族や友人を守ってできた傷だろう? というか、そもそもスタシア殿下自身も言ってなかったか? キャリー姫にこの顔の傷は、戒めでもあり、キャリー姫を守った誇りでもあるって」
「あ、はい。確かにそう言いました」
「この話を聞いて、表面だけの美醜にこだわる奴がいれば、俺は正気を疑うね。あ、もちろんさっき言ったように、傷のあるなしの前に美人だからな」
うん。ユキさんの言う通りだ。
もっとも大事なのは顔の美醜じゃない。
本当に頼りになる相手かどうかだ。
その点において、スタシア殿下は間違いなく頼りになると分かる。
で、ついでに顔の方も美人だし。
「……そ、そうですか。あ、ありがとうございます」
「さ、流石、お兄様。お姉さまをこのように真っ赤にさせるなんてすごいです。でも、これで一切心配はいらないですねお姉さま。安心して、お兄様と仲良くなってください」
「ああ。何も心配はいらなかったな。私はとても幸せ者だ。と、ユキ様、式の方は大陸間交流同盟の会議とも日程を合わせてと聞いておりますので、また後日お話があるのでしょうか?」
「そうだな。また追って連絡する」
「はい。お待ちしています」
という感じで、俺たちはフィンダール大使館を出たのだが……。
「最後完全に、スタシア殿下へのフォローになっていませんでしたか?」
「あの状況で、お前の顔が醜いから結婚しないとか、そんなこと言えねえよ……。国際問題になりかねない」
「ですよねー。俺も無理です。じゃ、あとはエノラですか」
「だな。あっちは顔の傷なんてのもないし、無理な結婚話の可能性が高いから、きっと何とかなるだろう」
ということで、俺は引き続きユキさんに付き合って、結婚阻止?に向かうのであった。
あ、スタシア殿下とのやりとりの映像データは送らないとな。
セラリアさんたちに怒られる。
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