第869堀:会議と例の話
会議と例の話
Side:ユキ
昨日の焼肉パーティのあと、まずは予定通り、ハイデンの会議室にて、シーサイフォでの顛末を説明している。
相手はというと……。
「……ということで、海の魔物及び、銃もどきの件は、一先ず解決という感じだ」
俺はそう言いながら、配られた報告書に目を通しているハイデン王、フィンダール王、そしてエノル大司教を見る。
そう、報告の相手である3名は、新大陸における、大陸間交流同盟の一員であり、今回のシーサイフォの問題に関して最も関係している国々のトップだ。
だからこそ、書類に目を通す姿は真剣そのもの。
下手をすれば戦争勃発の案件だからな。
そして、しばらく無言で情報を読み取った後。
「……つまり、シーサイフォとは友好が結べたということでいいのか?」
と、ハイデン王が俺に確認してくる。
「ま、そう考えていいと思うぞ。ゲートの有用性もすぐに把握したしな。早速大陸間交流同盟への加入希望も来ているしな。これで友好は結びたくないっていう方が考えにくいな」
エメラルド女王はバカではなかったし、部下も近隣では最大の海洋国家だけあって、揃って理解力は高かった。
まあ、俺たちが空母とかを見せたのが一番効いたとは思うが。
「とはいえ、今回のことはあくまでウィードの力を見ての事ではないのか? 私たちとの関係強化を望んでということではあるまい?」
「確かに、フィンダール王の言う通りかと。そこはどう考えているのですか、ユキ様?」
「まあ、ウィードの持つ力や技術を見てというのはあるだろうが、シーサイフォもこの新大陸内で手を組む必要があると考えたのは確かだろう。あとは、お前さんたち次第だな。外交なんてそんなもんだろう?」
結局のところ、いくら他所の人間である俺が力で以て仲良くしてねといっても、当人同士が仲良くできなければ、それで終わりだ。
表面上は仲良くできても、いつか破綻する。
「そう言われるとそうだな。ウィードが仲介をしてくれる間にキチンと友好的な関係になっておけということだ」
「そうしてくれるとありがたいな。もう大国同士の戦争仲裁とか勘弁願う。というか、そんなことばかりして、足を引っ張りあっていれば、ロガリ大陸やイフ大陸からの派兵もあるだろうな」
「なるほどな。そういう意味でも、この新大陸でまとまる必要はあるということか」
「……少々、嫌な理由ではありますが、そういう側面もあるということですね。というか、前もそういうことを言っていましたね」
俺の言ったことをあっさり理解してくれるのはありがたいね。
流石は大国の主たち。こういうところは、どこの大陸も同じだな。
そう、シーサイフォ王国が同盟に不服で仲間にならないという可能性もなくはなかったが、ここで同盟を組まないと、シーサイフォは将来的にハイデン、フィンダール、ハイレに攻め滅ぼされてもおかしくないわけだ。
確かに、他の3国は陸専門なので、海洋国家としてはシーサイフォが一番強いかもしれない。
もし対峙することになれば、シーサイフォは海で若干有利を取れても、総数は3か国同盟の方が戦力は高い。力押しの勝負になると、おそらくシーサイフォが負けることになるだろう。
そして、先ほど言ったロガリ大陸とイフ大陸からの派兵というのもある。
大陸内部でいがみ合っている理由などないということだ。
「というか、ハイデンからはカグラたちを派遣してもらって魔術を教えてもらっているから、そもそもそこまで評価が低かったり、悪印象があるとは思えないぞ」
「ああ、そういえばそうだったな。ユキ殿率いるウィードが強すぎて忘れてた」
「おい。それでいいのかハイデンは」
「ハイデンの言うことはあれだが、ウィードの印象が強すぎたのは事実だからな。しかし、ハイデンの魔術指導も確かに友好につながる一手であるのは間違いない」
「ええ。そもそも当初はハイデンに助けを求めて来たのでしたね。それから考えると同盟というのは別におかしい話ではありません。マジック・ギアのことがなければ……」
「「「……」」」
そのエノル大司教の言葉に沈黙するメンバー。
ま、ここが一番のネックだろう。
今回、シーサイフォには、マジック・ギアがそもそもの原因だとは言っていない。
これがばれた時にどんな事態が起こるかを、懸念しているってところだろうな。
「ま、マジック・ギアの件は特に問題ないと思うぞ。関係者の中で事情を知っているのは主に、ここのメンバーと、現場の海域で生活していたシードラゴンぐらいだからな。そうそうばれようがない。というか、俺としては、ばらしていいと思うけどな。もともと、マジック・ギアには気を付けろっていう警告は出していた。その後始末も手伝った。これで文句は言わないと思うがな」
「……ユキの言うこともわかるが、それでも何か賠償を請求された場合がな……」
「うむ。ハイデンの言う通り。シーサイフォにとっては国家が傾きかけた事件だ。そのそもそもの原因が私たちの国だと分かれば……」
「文句を言わないわけにはいかないかと……」
3人の言う懸念もわかる。
……わかるが、隠し続けて下手にばれた時の方が問題あると思うんだよな。
いや、まあ、というか王たちはそもそもの原因は自分たちにあるとは言ったが、既にアクエノキたち狂信者集団は別勢力という扱いだしな。
で、俺が今言ったように、バレる可能性は限りなく低い。
ここで、延々と論議する意味合いはあまりないか。
「3か国が隠すというのであれば、こちらも合わせる。しかしその場合、バレた時の対応は考えておいた方がいいぞ。世の中絶対はない。というか種々の状況から、グスド王国にマジック・ギアが持ち込まれていると見ていいから、そっちからばれるかもな」
「なら、グスド王国の責任にすればいいか。マジック・ギアが積まれていたのは間違いなく、グスド王国の輸送船なのだろう?」
「なるほどな。それならいい。何かあれば、グスドが問題のある危険物を運んでいて、今回のトラブルが起こった。……というわけだな」
「なるほど。それは事実ですから、問題ありませんね。私たちはなにも知らなかった。シーサイフォが責めるべきは、危険物を運んでいたグスド王国ということですね」
なんか、俺の助言で責任はグスド王国にありって感じになっているな。
まあ、それでまとまるならいいか。
新大陸同盟内部の方針に俺から口を出すことはない。
「ああ、それと、シーサイフォでの銃開発者の件は資料に記載した通り、特に問題はないと判断した。というか、ある意味貴重な協力者になりえるな」
「ん? ああ、確か、ソウタ様と同じ世界からのテンセイシャ?だったか」
「前世の記憶を持つ者か。まあ、巷の噂でそんな与太話があると聞いたことがあるが、そんなものが実在するとはな」
「しかし、友好的で何よりですね。銃の開発を進めて、こちらに攻めてくる懸念がありましたから」
エノル大司教の言うように、俺たちもシーサイフォ王国が独自に近代兵器の開発を行って、内陸に攻め込んでくる可能性を恐れていたからな。
だが、その正体は、現代日本で生きていたOLが中身の転生者。
しかも、技術系の知識なんかうろ覚えの消費型の一般人。
あれがどんなに技術開発に力を入れても、現代兵器の開発など夢のまた夢レベルだ。
うちにいる、コメット、エージル、ザーギスの方が有能で、おそらく開発力に関してはタイキ君より劣る。
メノウの周りのレベルが低いから助かったって感じだな。
あ、元々ちゃんと知識のあったタイゾウさんは規格外。あの人、一人で材料集めて、銃どころか、大砲も作って、迫撃砲の開発までこぎつけてたリアルチートだから。
というか、無線機も実用化していたバケモノです。
メノウが無能というより、今まで俺が出会ってきた研究者たちが常識外の人物たちだったと言えるだろう。
あ、そういうことで、メノウの引き抜きもない。
有能なら引き抜くのもありかと思っていたが、本人の才能は平凡そのもの。
それなら、シーサイフォ側の相談役として存在してもらっている方が楽だ。
本人もそっちがいいと言っているしな。
あとは日本の物資を渡していれば喜んで協力してくれるとのことだ。
「ということで、あとは、シーサイフォ王国の同盟参加を認めるか否かってところだが……」
「それについて異議はない。ハイデンはシーサイフォの同盟参加を認める」
「同じく異議はない。フィンダールもシーサイフォの同盟参加を認める。この状況ではむしろ喜ぶべきことだ」
「はい。ハイレ教も同じです。シーサイフォも同じくハイレン様の下、力を合わせていけることを喜びましょう」
……あ、エノル大司教の言葉で思い出したが、シーちゃんとハイレンの顔合わせとかどうするかな。
いや、まあしばらく放っておこう。……あれは邪魔なだけだ。
……そういえば、当初はなんか、シーサイフォに一緒についてくるといって訓練もしてたな。
勝手に妙な動きをしていないか、確認しておく必要があるか?
違うな、直接会えば思い出して騒ぐな。まずは、リリーシュに頼んで、シスター業で動けなくなるようにしてもらおう。
あれが、シーサイフォの同盟参加の有無を決める大陸間交流同盟会議に首を突っ込んで騒いだら目も当てられない。
と、ハイレンの事はあとでやるとして、まずは、会議の締めだ。
「じゃ、満場一致でシーサイフォ王国の同盟参加を認めるってことでいいな?」
「ああ。あとは、大陸間交流同盟での参加が認められるかって話だな」
「そこは、ユキ殿に助力を頼むしかあるまい」
「そういうことで、大陸間交流同盟への説明をお願いいたします」
「了解」
さて、これからまた忙しくなるぞ。
ロガリ大陸やイフ大陸の連中にこっちでの出来事を話して、シーサイフォの参加を認めてもらうことだな。
まあ、断る理由もないとは思うから、さほど問題なく進むとは思う。
俺が懸念しているのは、俺がシーサイフォの問題に掛かり切りになっていた間に何か問題が起こっていないかだ。
ウィードが出張るような問題が起こってなければいいんだが。
そういえば、ハイエルフの国とか獣神の国とかあれからどうなったんだろうな。
……ミヤビ女王から話を聞かないといけない。
ああ、もうやることが山積みだな、おい。
「じゃ、その前にシーサイフォを招いての会議だな。そのセッティングはカグラたちを通して……って、あ」
そこで思い出した。
俺は今日、言わなければいけないことがあった。
「そうだ。キャリー姫」
「はい? なんでしょうか?」
今まで聞き役に徹していたお姫様が首を傾げてこちらを見る。
「カグラとミコスはこっちで引き取る」
「えーと、引き取る? ひき……え!? まさか!!」
「あー、言い方が悪かった。結婚したいと思っている。よければ根回しに力を貸してくれないか?」
「そ、それは喜んで!! カグラたちは報われたのですね!!」
「おお、それはめでたいな!! 国を挙げて、お祝いだな!!」
大喜びのキャリー姫とハイデン王。
……俺としては少しでも嫌がってくれたらと思ったんだがな。
で、話はここで終わらず……。
「ユキ様。それでしたら、エノラ司教も娶ってもらえないでしょうか? 彼女も間違いなくユキ様を好いていますし、今後の交流にとっても重要かと」
「ふむ。そうだな。ユキ殿。それならスタシアも頼む。なに、今更一人二人増えても変わらんだろう。それに、ユキ殿ならスタシアを粗略に扱うまい。あの鉄面を取り払い再び笑顔をくれたのだからな」
……あれ? エノラは聞いてたけど、なんか一人増えていない?
だ、だれか状況を、状況を説明し……。
「よかったのう。ユキ」
「おめでとうございます。旦那様」
「さっそく、奥様達に連絡してきますね!!」
「あとは、ヴィリアたちね。まかせて、既に待機させてるから」
……逃げ道どこだ?
いや、まて、まずはスタシア殿下に話をして断らせればいい!!
そうだ、本人の意思を無視したいきなりの婚姻なんて、誰が認めるモノか!
なんて名案だ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます