落とし穴130堀:プレゼント交換
プレゼント交換
Side:エノラ・ハイレ
「「「……」」」
ハイレン様に任せると、何かしら予想外のことが起こることは、今までのことで知っていたんだけど、まさか、ここまでとは……。
私たちは一言も発することもできないまま、ユキ殿の旅館の前で立ち尽くしている。
雪が深々と降り積もり、辺りを白く染め上げている。
その中で、ただただ立ち尽くす私たち。
いい加減寒さが耐えがたくなって来たところで、ミコスがようやく口を開く。
「……えーと、クリスマス会って聞いたんだけど……。なんで、ユキ先生のお家?」
そう。ハイレン様に色々任せたのだが、なぜか会場がユキ殿の本宅で行われることとなったのだ。
何をどうしたら、たった数日で、ウィードのユキ殿の本宅。つまりここは、各国で言う王城に当たるところで、クリスマスパーティーをすることになるのだろうか。
「……わ、私、てっきり、どこかお店でも借りたのかと」
「同じくですね。てっきり、どこかの部屋を借りたとばかり思っていたのですが……。いえ、借りているということからすると間違いないのでしょうが……」
ソロの言うようにてっきり、こじんまりとしたところでも借りているかと思っていた。
あと、スタシア殿下、借りているのは間違いないですけど、これはないですよ。
「……ぷ、プレゼントって、1つだけしか持ってきてないんだけど」
「「「……」」」
カグラの一言で再び黙る私たち。
ユキ殿の本宅に招かれて、プレゼント一つだけとか失礼極まりない……。
いえ、ユキ殿たちなら気にしないのだろうけれど、これがお母さまや、ほかの上層部の人にばれると、激しい叱責を食らうに決まっている。
とはいえ、いまさら帰るなんて選択肢はない。
私たちからハイレン様に頼んでおいてすっぽかしたとか、これこそクビが物理的に飛びかねない。
そんな感じで、玄関の前で固まっていると、玄関に人影が現れて……。
「何やってんだ、カグラたち?」
「ユキ!?」
ユキ殿が玄関から出てきた。
「な、なんでミコスちゃんたちがここにいるって……」
「なんでも何も。ここはダンジョンの中だからな。コール画面で監視してるのは知っているだろう?」
「あ、そうでした」
ソロがそう言ったように、私たちも思い出した。
ユキ殿はダンジョンマスター。ダンジョンの状況を常に把握できる能力があるのだ。
「遅いから何かトラブルでもあったのかと思って見てみたら、玄関の前から動かないからな。
何かトラブルでもあったのかと思ったぞ」
そうね。確かに玄関の前で動かない知り合いがいたら気になるわよね。
「あ、えーと……」
「どうした? 何か困りごとか?」
「その……、ハイレン様が、また、ご、御迷惑を……」
私たちの代表として答えるカグラの声が切ない。
ハイレン様がまさかユキ殿の本宅まで巻き込むような暴挙に出るとは思わなかったし……。
言わせてごめん、カグラ。後で埋め合わせはするから。
「あー、ハイレンのことは気にするな。って言っても無駄か。ま、迷惑かけていると思うなら、今日は楽しんでいけ。ハイレンの提案は急だったが、こっちもこっちで準備してたからな。ついでだよ、ついで」
「で、でも、プレゼントを1つしか……」
「ん? ああ、それはプレゼント交換用で、誰のプレゼントが当たるか分からないって言うゲームだからな。それでいいんだよ」
「はぁ。そんなゲームがあるんですね。ミコスちゃん初めて聞きました」
「お楽しみの一種だな。あ、ハイレンで思い出したが、ハイレンから頼まれて、キャリー姫やハイデン王、フィンダール王、エノル大司教には、このパーティーに参加させるってことで通してるから心配するな」
あ、ハイレン様がなんとかしてくれたんじゃなくて、ユキ殿がしてくれたのね。
それなら安心っていうのは、失礼かもしれないけど、毎回騒動を起こされるのは嫌だし、本当に安心したわ!!
「じゃ、さっさと入れ、入れ。寒かっただろう?」
「あ、うん。ありがとう」
「お邪魔します」
「失礼します」
「失礼するわ」
「失礼いたします」
ということで、安心して、旅館の中へ入ると……。
「あら、お姉さま遅かったですね。皆様も」
料理を運んでいるアージュ殿下に出会った。
「アージュ!? なんでここに!?」
「なんでって、お姉さま。今日はクリスマスですよ? 私は最初から御呼ばれしていましたが?」
「な、なんで私を誘っては……」
「それは、私の所属はウィードですけれど、お姉さまはフィンダールの大使でしょう? 他国の方に勝手に休みましょうとは言えませんよ。でも、ハイレン様のおかげで今日は楽しくいたしましょうね」
「あ、ああ。ハイレン様、ありがとうございます! ちょっと、邪魔だなと思ってすいませんでした!」
「……お姉さま。気持ちは分かりますが、心の中だけで叫んでくださいませ。この旅館に来ていますので」
……気持ちはすごくわかるわ。スタシア殿下。
「でも、アージュ殿下がいるってことは、結構な人が集まっているのかしら?」
「はい。エノラ司教の言う通り、エノル様、ソウタ様や、タイゾウ様、ヒフィー様などなどとかなり豪華な顔ぶれですよ」
「とはいえ、身内みたいなものだからな。気にするな。気にするだろうけど」
「「「……」」」
ちょっと聞いただけで、超が付くほどの豪華メンバーに絶句する私たち。
ただ、仲のいい女性だけで集まってきゃっきゃっ楽しむはずのクリスマスの筈が、大物たちとのディナーに代わっているんですけど!?
ユキ殿、無理だから、気にしないなんて無理だから!
なんで、ユキ殿はいつもそんなに落ち着いているの!?
で、そんな私たちをよそに、宴会場にたどり着くと……。
「あ、ユキ~。ご飯まだ? チキン食べていいでしょう?」
「そうね~。美味しそうだから、グラタンたべていいかしら~?」
「あの、ルナ様、リリーシュ。少しは我慢を……」
「そうよ。今カグラたちが到着したばかりだし」
「ほら、さっさと席につきなさい。こっちよこっち!!」
と、私たちを見て騒ぐ、ルナ様率いる神様たちと、手招きをするハイレン様。
緊張のあまり顔がひくひくしているが、それでも騒ぐわけにはいかないので、大人しく座る。
ちなみに、私たちが持ってきたプレゼントは、クリスマスツリーの根元に置かれている。
他の誰かが持ってきただろうプレゼントと比べてあまりに小さいのが非常に心苦しい。
そんな、私たちの思いを知ってはいるはずだけど、あえて無視してユキ殿は何事もなかったかのように宴会場の奥にある舞台にあがる。
まあ、下手に気を使われても仕方ないわよね……。
「皆さんお集り頂きありがとうございます。では、今からクリスマスパーティーを開催します。ま、まずは食事を楽しんでくれ。ある程度時間が経ったら、クリスマスのゲームをやっていくからな。じゃ、コップを持ってくれ」
そう言われて、私たちは目の前にあるワインが入ったコップを持ち……。
「メリークリスマス!!」
「「「メリークリスマス!!」」」
こうして初めてのクリスマスパーティーが始まった。
「うわぁ、美味しい」
「ほんと。ウィードの料理はいつも美味しいけど、流石ユキ先生のところの料理は一味も二味も違うよ!! ミコスちゃん感激!!」
「はい。本当に美味しいです」
横で、カグラたちが美味しい美味しいといいながら、目の前の料理を平らげていく。
無論私も……。
「はぐ、あむ、あぐ……」
一心不乱に食べている。
いつもは、ハイレ教の教えに従って質素な食事だから。
まあ、ウィードに訪れてから、お付き合いで美味しい料理を食べてはいるけど。
そう、今日もそのお付き合いだから仕方ないの。
それに、なにより……。
「本当に美味しいわよね!! キルエ、お替り!!」
「はい。かしこまりました」
「お前は、もっと遠慮をな……」
「何をいっとるか。ソウタも山ほど食べておるくせに。あ、わしも頼む」
「はい」
我がハイレ教の主神である、ハイレン様も美味しく食べているんだから、私たちも食べないといけないわよね。
女神様が食べているものだからご利益もあるから!!
それに、ソウタ様、初代エノラ大司教様もご一緒に食べているんだから、本当に問題なし!!
あとで、ちゃんと料理のレシピを聞いて帰るから許して、お母さま!!
そんな感じで、食事を楽しんで、お腹が膨れてきたところで…。
「さ、デザートの前に、プレゼント交換だ」
「「「!?」」」
大したものを持ってきていない私たちにとってはドキリとする時間だ。
「まあ、ルールは簡単だ。みんなから預かったプレゼントには、こんな風に番号札を貼ってあるから、このくじ箱から引いてもらって、その引いた番号と同じプレゼントをもらうって寸法だ。誰のプレゼントが当たるかお楽しみにってところだな」
なるほど。そういうことね。
って、これって下手すると、ハイレン様や各国の王や女王たちに粗末なものをプレゼントすることになるわけ!?
「「「……」」」
衝撃的プレゼント交換に、思わず顔が青ざめる私たち。
下手すると無礼って、首が飛ばない?
だけど、そんな私たちの葛藤は無視で、プレゼント交換は始まり……。
「……うそっ。私のプレゼント。セラリア陛下が」
「……ミコスちゃんのは、ラッツさんだよ。よかったのかな?」
「私は、アマンダさんだからよかった」
「……」
まあ、カグラ以外は特に問題ない相手に渡って一安心だったのだが、私のプレゼントはいまだに残っていて、中には自分が用意したプレゼントを引く人もいるから、案外回収できるかもしれないと思い、くじを引くと……。
「ほい。1番だな。俺のプレゼントだ」
「え?」
どうやら、私が選んだプレゼントは、ユキ殿が用意したプレゼントらしい。
それを手渡されてみてみると、手に収まる程度の箱に入った小さなプレゼント。
なんというか、ユキ殿らしくはあるけど、王配の立場からすると不相応な気もする。
しかしながら、奥様たちからの視線は鋭い。
「お兄さんのプレゼント……」
「ユキさんのプレゼント。きっとあのサイズお酒ね」
「いやいや、ミリー流石にないわよ。せめて本とか……」
……こ、これはお返ししておかないと、闇討ちされそうな気が。
と、それはユキ殿にも聞こえたらしく。
「あー、嫁さんたちには、いつものように別でプレゼント用意しているんだがな。これだと、エノラ。開けてみろ。それを見れば皆も安心するだろうさ」
「そうね。わかったわ」
そう言われて、私はユキ殿のプレゼントを開封してみると、中には綺麗な装飾を施してはいるものの、中央には何もない、小さな盾が入っていた。
「……なにこれ?」
「ん? ああ、フォトフレーム、写真入れだが、わからなかったか?」
「しゃしん? ああ、写真ね。ウィードでは一般的みたいね。でも、私にはまだなじみがないわ」
そう言いながら、そのふぉとふれーむというのをまじまじと見ていると、ユキ殿がいつの間にかカメラを持っていて構えている。
「えと、察するに、写真を撮るつもりなのかしら?」
「おう。いい記念だ。色々な人と撮って、気に入ったものを飾るといいさ。まずは、一枚」
「あ、記念撮影なら、私も私も!! ルナ様やリリーシュ様も一緒にどうですか?」
「お、いいわねー」
「いいですよー」
そんな感じで、周りの人?たちも集まってきて、写真撮影会になったりして、わいわいやりながら、楽しいクリスマスを深夜まで過ごした。
そして翌日カグラたちと顔を合わせて、仕事場に向かっていると、昨日の話になる。
「んー、昨日は楽しかったわね」
「何いってんだよカグラ。セラリア陛下にプレゼントがわたって、あわあわしてたくせに」
「でも、良かったですね。手作りクッキー喜んでくれて」
「ええ。セラリア陛下がまさか、自らクッキーを作ってるとか思わなかったわ」
「その関係で、カグラと話が弾んでいたよねー」
「意外でしたね。でも、お母さんとの思い出って言うから納得でした」
「って、それはいいとして、エノラは結局ユキにもらった写真立ては使ってるの?」
「え? ああ、もちろん」
「写真はどれにしたの?」
「あれじゃないですか? みんなで写真に入ろうとして雪崩になったやつ」
「ああ、あれね」
「うわ。それ見たい」
「後で見に行っていいですか?」
「あ、うん。いいわよ」
私はそう答えたが、家に帰ったら速攻で写真を入れ替えることを決めたなにせ。
『あ、そのプレゼント。私の』
『お、お互いのプレゼントをゲットするってのは珍しいな。中身は……マフラーか。よし、一緒に記念撮影でもするか』
『え?』
『キルエ。いいか?』
ということで、私がもらったフォトフレームには、私のマフラーを巻いたユキ殿と、フォトフレームを持った私の写真が入っているのだから。
これを見たら、絶対からかってくるに決まってるから。
……別にやましいことなんてないんだから。
珍しいことが起きて、お互いのプレゼントを交換した記念だから。
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