第786堀:おにもつはこび

おにもつはこび



Side:フィーリア



「うんしょ、うんしょ……」

「えっほ、えっほ……」


ゴロゴロ……。


フィーリアたちはそんな声を出しながら、荷馬車を牽いているのです。


「アイテムボックスが使えないって不便かと思ったけど、そうでもないねー」

「なのです。意外と、荷馬車も使えるのです。発想の勝利なのです」

「そうねー。自動車とかはこういうのが原型だっていうし、それを考えると偉大よね」

「ですね。こういう積み重ねが大事ですね」


そんなことを話しながら、私たちは4人で荷馬車を牽いているのです。

兄様たちはというと……。


「なんというか、こういうのは奴隷のやることって感じか?」

「いやー、流石に、物資を満載の荷馬車は奴隷には牽けないですよ」

「でも、ほら、石運びとかをやるだろう?」

「やるがのう。荷馬車はないぞ。字義を理解しているのか? 荷馬車じゃ、馬が牽く車じゃよ。人が本来牽くものじゃないわい」

「というものの、僕たちは普通に2人で1台の荷馬車を牽いているけどね」


そんな感じで、兄様たちは荷馬車を牽いているのです。

というか、兄様たちなら一人一台どころか三台でも余裕なのですけど、万一荷物を落としたら大変なので、二人一組で荷馬車を牽いているのです。

あと、キャリー姉様たちなのですが……。


「さあ、どんどん運びますよ。ウィードの方々、しかもアスリンちゃんたちのような子たちだってあんな大荷物を運んでいるのに、ハイデンの兵として恥ずかしくないのですか? 私だって、カグラたちだって運んでいるのですよ!!」


そう言いながら、フィーリアたちと同じように荷馬車を牽いているのです。

目的は……。


「姫様。お控えください!! 国民が見ております!!」

「何を控えるのですか? 誰も手伝ってくれないから、こうして、ウィード、フィンダール、ハイレの方々にご助力を頂いているのに、自分自身は何もしないなどというのはあり得ません。スタシア殿下、エノラ司教も運んでいるのですよ?」

「そ、それはそうですが……」

「それをわかっていてなお、今朝の集合にこないとは、伯爵は何を考えているのですか? 他にも来られないという人も多々いますし」


わざとらしく、街中でそう言って……。


「うわ。あの伯爵って、女子供にあんな仕事をさせてるんだ。あんなに兵士がいるのに」

「いくら女を認めないとはいえ、相手はキャリー姫様だろう?」

「というか、ほかの女子供って他国の人なんだろう? しかも精霊の巫女様や隣国のスタシア殿下にも荷馬車を牽かせているって、大丈夫なのか?」

「というか、ここにも顔を出さないって、ひどい貴族がいたものね」


こんな感じで、協力の約束を破った伯爵や他の貴族たちの評判は下がりまくりなのです。

キャリー姉様もあくどいのです。

こうして、邪魔をする人たちの立場を貶めているのです。


そうこうしていたら、くだんの伯爵がやって来て。「……已むに已まれぬ事情があったのです」

「伯爵領でなにかあったのですか?」

「そ、そうです」

「では、なぜ今この場に来たのでしょうか? 協力のお願いをしたのは昨日ですよ。緊急事態でしたら、兵士も連れて戻られる方が良いかと。それに私への手伝いは、代役を立てればよろしいのではないでしょうか?」


キャリー姉様の言う通りなのです。

領地で何かあったのなら、この場にくるのがおかしいのです。

そして、フィーリアたちには代役でも立ててお手伝いすればいいだけなのです。


「そ、それが、急に……」

「手伝えない理由については、後ほど陛下にお伝えください。私たちは今、シーサイフォ王国の復興支援軍の迎え入れ準備で忙しいのです。そちらも、忙しいのですからお気になさらずに領地に赴かれては如何ですか」


そんな感じで、約束を守らない伯爵を無視して、再び荷馬車を牽き始めるキャリー姉様。

フィーリアたちもそれを追うように荷馬車を牽き始めると、ラビリスとシェーラがお話しを始めるのです。


「ふふふ……。いい性格しているわね。キャリー姫も」

「ええ。まさか、伯爵や他の女性を軽視している連中も、ここまでのことをするとは思っていなかったのでしょうね」

「普通なら、誰かに助力を頼むしかないわよね。連中はそれが狙いだったわけね」

「そうです。結局、いくら事前に約束を取り付けようが動かずに、キャリー姫が泣きついてくるのを待っていたのでしょう。約束を破ったことを棚に上げて、泣きついてきたら手伝う代わりにとでも言って何か条件を付けるつもりだったのでしょう。私たちやフィンダール、ハイレの立ち会いの下、約束したことを無視して」


約束を破るつもりだったなんてひどいのです。

悪い人のすることです。


「でも、ウィードやフィンダール、ハイレの前で約束したことを反故にして、無事で済むと思っているのが不思議よね」

「彼らにとっては別に契約書があるモノでもないですし、気のせい勘違い、トラブルとでもいえばいいわけができると思ったのでしょう。それに、他国の要人がわざわざ迎え入れの手伝いのために直接手を貸すとは思ってなかったのでしょう」

「ま、それもそうよね。普通、自国の力でやるのが当たり前。結局は結果だけを伝えればいいと思ったわけね」

「ええ。全部が終わった後で、やはりキャリー姫たちには荷が重かった、自分たちがいたからこそなんとかなったなんて言うつもりだったのでしょう。王の要請も結局は無視したわけではありませんし、結果としては準備ができていれば問題ないのですから」

「でも、私たちが手伝うことで問題が解消されたと」

「はい。私たちが手伝いをした時点で、問題などありませんから。ねえ、アスリン、フィーリア」

「うん。私たちが手伝うから大丈夫だよね」

「そうなのです。フィーリアたちが手伝えば、あっという間に終わるのです」


難しいことは分からないですけど、フィーリアたちがお手伝いをすれば、数日もかからず終わるのです。

物資だって兄様に頼めば一発なのですけど、一応ハイデンが出すべきだからと言って、こうしてわざわざ運んでいるのです。


「と、伯爵も流石にこのままじゃ不味いと思ったようね」


ラビリスに言われて見てみると、キャリー姉様の荷馬車を兵士が囲んでいたのです。

どうやら、お馬鹿な伯爵は強硬手段に出たようなのです。


「あわわっ!? キャリーお姉ちゃんたちを助けないと!!」

「全員ぶっ飛ばすのです!!」

「まちなさい」

「「うわっ!?」」


キャリー姉様たちを助けにいこうとしたら、ラビリスに襟首を捕まえられて止められたのです。


「キャリー姫たちは荷馬車から少し離れた場所にいるから大丈夫よ」


ラビリスにそう言われて見てみると、確かに、キャリー姉様たちは無事で、泰然と兵士を眺めていたのです。


「あれ? 本当だ、一体何しているんだろう?」

「うにゅ? なんか荷馬車を動かそうとしているのです?」

「そうみたいですね」


よく見てみると、取り囲んだ兵士たちは荷馬車を移動しようとしているみたいなのです。

でも、びくとも動いてないのです。


「泥棒さんかな?」

「あんな変な泥棒さんがいるのです?」

「いや、流石にいないだろう」

「あ、お兄ちゃん」

「兄様」


気が付けば、兄様たちも近くに来ていた。


「あら? どうしてこっちにって、なるほど……」


ラビリスと同じように兄様たちが引いていた荷馬車の方に視線を向けると、キャリー姉様たちの荷馬車と同じように兵士が群がっているのです。


「私たちに、これ以上手伝ってもらうわけにはいかないんですって」


ミリー姉様がそう肩を竦めながら言うのです。


「どういうこと?」

「よくわかんないのです。皆、引っ張れるだけの力を持っていないのです」


兵士たちは魔力による身体強化などはしていないのです。

それで、荷馬車を引っ張るのは無理があるのです。

なのに何であんなに頑張っているのか分からないのです。

馬さんを連れて来て牽かせる方が賢いのです。

というか、普通馬さんじゃないと引っ張れないです。

そんな風に不思議に思っていると、デリーユ姉様が説明をしてくれたのです。


「これ以上、失態を重ねるわけにもいかんのじゃろう。自分たちも荷馬車を引っ張って、手伝ったという結果が欲しいんじゃろうな」

「それに、旦那様や、スタシア殿下、エノラ司教に荷馬車を牽かせることになった原因が、自分たちが手伝わなかったからなどと、ハイデン王に報告されれば、今後の昇進や報奨は絶望的ですからね」

「ここまでやっておいて何を今更って感じですけどね。というか、引っ張れるわけもないし、かえって時間がかかることになるんですけど、旦那様はいいんですか?」

「そこは、俺が判断することじゃないからな。っと、キャリー姫たちがこっちに来たな」


お兄ちゃんの言う通り、キャリー姉様たちがこちらに歩いて来ていたのです。


「これからどうするんだ? 協力を申し出た、伯爵に任せるのか?」

「いえ、まさか。元々協力してくれている貴族も多々いますので、其方の応援ですね。この場の荷物は伯爵が責任を持って運んでくれるとのことです」


そう言って、キャリー姉様は微笑むのです。


「この場の荷物はね」

「ええ。今までのことで、全部任せるなんてありえませんから。私たちは私たちで、もう一度、物資を用意している所へ戻り、再び物資の運搬をしたいと思っております。皆さまはご休憩されますか?」

「まだまだ元気だから手伝うよー。ねー、フィーリアちゃん」

「アスリンの言う通りなのです。この程度へっちゃらなのです」


これぐらいで、へばるような鍛え方はしていないのです。


「なるほど。それで後ろから伯爵たちを追い越すと」

「さあ、何のことでしょうか? でも、彼らがのんびり運ぶのなら、途中で追い越すことはあるでしょうね。準備が整うのは早いにこしたことは有りませんし」

「ま、そりゃそうだな。追い越すなら仕方ないよな」

「ええ。仕方ありませんとも」


そう言って。嗤う兄様とキャリー姉様。

2人はなんか楽しそうなのです。


「報告書を書くの私たちなんですけどー……」

「もう、ミコスちゃんはあきらめたよ。ここでガツンとやった方がいいってことだよ。カグラ」

「ですね。ミコス先輩の言う通りだと思います。カグラ先輩、姫様も不用意なことはしないですし、頑張りましょう」


悩んでいたカグラ姉様たちも決心が付いたようなのです。

そう、意地悪をする連中に遠慮など要らないのです!!


「はぁ、そうね。別に姫様が悪いんじゃなくて、協力しない伯爵たちが悪いんだものね!! 徹底的にやってやるわよ!!」

「だね!! ミコスちゃんも手加減なしでいくよ!!」

「でも、私たちがこうして荷馬車を引っ張れるのはユキ様たちのおかげなんですけどね」


ソロ姉様がそう自信なさげにいうので、2人で駆け寄って……、


「大丈夫だよ。お兄ちゃんが道具とか力を貸してくれているのは、ソロお姉ちゃんたちが頑張ったからだよ」

「そうなのです。兄様に一から十まで頼り切りの人には手を貸さないのです。そもそもソロ姉様たちが頑張ったから、頑張るから手を貸すのです。だから、その魔道具は間違いなく、ソロ姉様たちの力なのです」


そう言っていると、ラビリスたちも加わって……。


「ええ、そうね。借り物なんていっちゃったら、私たちも同じだし」

「そうですね。私たちもユキさんに、今この場に立てるだけの全てを頂いたといってもいいのですから」


カグラ姉様たちは頑張っているんだといってくれるのです。

そして、一番沈んでいたソロ姉様も最後には元気になって。


「そう、ですね。私たちだって頑張ってきたんですから。やります!! やっちゃいましょー!!」

「「「おー!!」」」


ということで、フィーリアたちは、駆け足で戻って、荷物をもって意地悪さんたちを追いぬいて駐留予定地の準備を始めるのでした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る