第785堀:無垢な援護

無垢な援護



Side:アスリン



キャリーお姉ちゃんは、会ったときからずっと怒って泣いていたんだ。

最初は、フィンダール帝国との戦いで負けそうだからとか、お兄ちゃんに簀巻きにされたから泣いてるのかと思ってたんだけど、無事にハイデンに戻ってからも、キャリーお姉ちゃんは変わらなかった。

あ、ちょっと違うかな? 問題が解決するたびに、少しだけ元気になるんだけど、すぐ次の問題が出てきてまた泣いちゃうの。

でも、いつもお兄ちゃんやみんなと一緒に問題を解決してきた私には、その理由がわからなかったから、どうしていいか、フィーリアちゃんと悩んでたんだ。

だけど、その答えが、今日わかった。


「みんながいじめていたのです」


フィーリアちゃんが怒ったようにそう言います。


「だね。優しい人がいなかったんだね」

「……そうね。王様やカグラたちだって、いつも一緒のわけがないものね」

「ユキさんの指示で私たちは、常にだれかと一緒に動くようにしていますし、家に帰ればみんながいました」


キャリーお姉ちゃんは私たちとは違って、いつも1人ぼっちだった。

ああ、メイドのクーノさんがいたけど、やっぱりメイドさんだからかちょっと一歩引いてたし、キャリーお姉ちゃんはそれをわかってて無理を言わなかったんだと思う。だけど、クーノさんがいたから今日までやってこれた。

でも、やっぱり寂しかったんだよね。

だから、さっきの王様との話し合いで、あんなに悲しそうな笑顔をしてたんだ。


「ねえ。お兄ちゃん。私、今日はキャリーお姉ちゃんと一緒にいていい?」

「あ、フィーリアもいくのです」

「おう。行ってこい」

「うん!!」

「行ってくるのです!!」


お兄ちゃんが快く頷いてくれたのを見て、私とフィーリアちゃんはキャリーお姉ちゃんのところへと駆け寄ると……。


「姫様。まずはどこから……」

「そうですね。まずは大物を仕留めるのが……」


キャリーお姉ちゃんはカグラお姉ちゃんといつものように、難しい顔でお仕事の話をしている。


「キャリーお姉ちゃん」

「キャリー姉様」

「あら? アスリンちゃんに、フィーリアちゃん、どうしたのですか?」

「お仕事手伝うよー」

「手伝うのです」


私とフィーリアちゃんがそういうと、一瞬驚いたような顔になったけど、直ぐに優しい顔になって……。


「ええ。一緒にお仕事しましょう」


そう言って、手を私たちに差し出してきたから、私とフィーリアちゃんが片手ずつ手を繋ぐと、キャリーお姉ちゃんは嬉しそうな顔をします。

仲良く3人で手を繋いでいると、それを見ていたスタシアお姉ちゃんが……。


「おや、キャリー。随分嬉しそうですね」

「ええ。スタシアお姉さま。私は3人の中で一番末っ子でしたので、自身に妹ができたようで、嬉しい限りです」

「そうですね。アージュがキャリーに対して、お姉さんぶっていたのも、それだけ嬉しかったのでしょうね」

「だからこそ、身を挺して私を守ってくれたのでしょう」

「自慢の妹です」

「はい。アージュお姉さまは私にとって自慢の姉です」


そんな感じで、私たちが手を繋ぎながら移動していると、カグラお姉ちゃんが気まずそうな顔をしながらも……。


「えーと、姫様。まことに言いにくいのですが、これから協力の要請に行くのですから、アスリンたちと手を繋いでいるのは……」


カグラお姉ちゃんは真面目だから、私たちと手を繋いでいることに対して注意をしてくる。

うん、お仕事は真面目にしないとね。

協力をお願いしに行くのに、私たちと手を繋いでたらだめだよね。

そう思って、手を離そうとしたんだけど、キャリーお姉ちゃんはしっかり手を握ったままで、離せない。


「キャリーお姉ちゃん?」

「キャリー姉様どうしたのです? 手を離さないとお仕事の邪魔になるのです」

「カグラのいうことは気にしなくていいのですよ。このまま手を繋いだままで、協力要請に向かいましょう。勿論、ユキ様もラビリス様をそのまま肩車したままで」

「あら、嬉しい」

「あえて、挑発するか」


お兄ちゃんの言うように、挑発だよね。

キャリーお姉ちゃんをいじめてた人はここぞとばかりに何か言うと思う。

そして、それはカグラお姉ちゃんも分かったみたいで……。


「姫様!? そんなことをすれば、却って反発を……」

「いいのですよ。子供相手に怒鳴るようなクズは交渉相手としては失格でしょう? 一度拒否したんですから、そのまま是非とも意思を貫いてもらいましょう。どうせ、いやいや協力を受け入れてもグチグチいうか、何か裏で動くに決まっていますから」

「「「……」」」


おー、キャリーお姉ちゃん完全に怒っているねー。

でも、仕方ないよね。

お姉ちゃんをいじめる人たちが悪いんだから。


「キャリーお姉ちゃん、一気にやっちゃおー!!」

「完膚なきまでに叩き潰すのです!!」

「ええ、そのつもりです。2人とも手を貸してください」

「「うん」」


そう言って、私たちがそんな団結をしている横で……。


「ちょ、ちょっと、ユキ。姫様を止めてよ」

「というか、叩き潰すって……ユキ先生。アスリンちゃんとフィーリアちゃんが暴れたら、ひどいことになりませんか?」

「ラビリスちゃん、なんとかなりませんか? 大変なことになりますよ……」


カグラお姉ちゃんたちは青ざめながらお兄ちゃんに止めるように言うけど、お兄ちゃんやラビリスちゃんは特に気にした様子もなく。


「いやいや、それは物のたとえだよ。実際に叩き潰すのは最終手段だよ。なあ?」

「ええ。あの2人はちゃんと手加減は知っているわ」


そうだよ。私たちはちゃんと手加減ができる立派な大人のレディーなんだから。

と、思っていると、不意にシェーラちゃんがこっちを見て……。


「バイデに来たばかりの頃ですが、武器の実験で、バイデ領主館の裏庭をボコボコにはしましたけど、人を殺さないぐらいは手加減できますね」

「「うぐっ」」


シェーラちゃんの一言が、私とフィーリアちゃんの胸をえぐる。

でも、あの時はジョージンおじちゃんに武器の性能を見せただけだし!!

そんなことを考えていると、キャリーお姉ちゃんが頭をなでてくれて……。


「大丈夫です。2人がとても優しいのは知っていますから。それとも何ですか? カグラたちはこの2人がそんなに危険だと?」

「あ、いえ……」

「そういう意味じゃないんですけど……」

「先輩、駄目ですって。これ以上は」

「さらにいうのであれば、アスリンちゃんにフィーリアちゃんはウィードを代表する重臣です。その人たちを馬鹿にするのであれば、遠慮なく切れるでしょう? そして、別の所で頑張ってもらいましょう」

「「「……」」」


だよねー。頑張らない人はお仕事を辞める方がいいんだよ。

無理に働きたくないところで働く必要はないんだから。

そういう人は、部署や仕事を替えて違うところで力を発揮した方がいいって、お兄ちゃんたちが言ってたもんね。

フィーリアちゃんが働いている所でも、ドワーフさんなのに鍛冶をやめて普通に料理屋さんやる人もいるし、人の向き不向きって不思議だよね。

そんな感じで、うんうんとフィーリアちゃんと一緒に頷いていると、スタシアお姉ちゃんやエノラお姉ちゃんも賛成してくれる。


「どう思われますか? お姉さま、エノラ?」

「斬っていいでしょう。アスリンたちをいじめるような奴は」

「そうね。大陸間交流の妨げになるのは明白。そんなのはハイレ教にとっても、フィンダール帝国にとっても邪魔でしかないわ」


んにゅ?

なんかニュアンスが違う気がするけど、エノラお姉ちゃんの言うように大陸間交流の邪魔になるのは間違いないよね。


「とのことです。何も心配はないですよ」

「「「……」」」

「納得したようで何よりです。さ、行きましょう」


カグラお姉ちゃんたちが納得したところで、私たちはお仕事に向かって……。



「みなさん。本日はありがとうございました。おかげで無事に協力を取り付けられました。アスリンちゃん、フィーリアちゃんありがとう」

「どういたしまして」

「これぐらいへっちゃらなのです」


無事にみんなの説得に成功したんだ。

キャリーお姉ちゃんがお願いしたら、みんな「うん」って頷いてくれたんだ。

その横で、私とフィーリアちゃんは大金槌を持ってただけだもん。


「……絶対、あとで面倒になるわ」

「陛下になんて報告すればいいんだろう……」

「……私は何もみませんでした」

「ま、面倒になるといっても、嫌がらせ程度だろうから、我慢しろ」

「一番穏便といえば穏便ですからね」

 

だけど、なぜかカグラお姉ちゃんたちは頭を抱えていて、お兄ちゃんとミリーお姉ちゃんが慰めていた。

私たちはただ大金槌を持っていただけだから何も悪くないもんねー。


「見事でしたね。まさか、ああいう風に押し込むとは」

「ですねー。アスリン様たちでさえ協力するのにっていう話は、屑たちには効いたでしょうね。というか、子供に脅されて頷くとか赤っ恥ですよねー」

「そうですね。子供たちでさえ手伝っているのに、しかもウィードの子供たち。つまり他国の子供たちですら協力してくれるのに、貴方たちは手伝わないのですね。と笑顔で言っていましたから。効いたでしょう。あ、もちろん、大金槌で脅されたのもダメ押しですが」

「うむ。手伝わなければ、面目丸つぶれじゃからな。そしてこれから待っているのは……」


そうデリーユお姉ちゃんが言って、私たちに視線を向けてきて……。


「子供たちより使えない大人という烙印ですからね」

「ま、アスリン様たちが働けないなんてありえないんですけどね~」


キルエお姉ちゃんとサーサリお姉ちゃんがそう言う。


「んー、よくわかんないけど。私はお手伝いがんばるよー」

「お手伝い頑張るのです」


みんな一緒に頑張るんだから、誰が一番とかは関係ないと思うんだけど、とにかく、皆が協力してくれてよかったよ。

これで、みんな力を合わせて、お迎えの準備ができるね。


「後は何をしたらいいのかな、キャリーお姉ちゃん?」

「お城を作るのですか? それとも要塞なのです?」

「いえいえ。ただ1万人の兵士さんを迎え入れて休んでもらえる場所を用意するだけですわ。ですので、お城や要塞はいりませんわ」

「じゃ、何をすればいいのかな?」

「お荷物を運ぶのです?」

「そうですわね。1万人の兵士さんたちが、ゆっくり過ごせるように、ある程度物資は必要ですわね」


そっか、次のお仕事はお荷物運びだね。

私もフィーリアちゃんも頑張るよ。


「お荷物はどこにあるの?」

「カグラ、ミコス、ソロ、迎え入れの為の必要な物資は今どこに?」

「え? あ、はいっ。現在、陛下が物資の捻出を行っていて、王城の倉庫の方で準備を進めているとのことです」

「では、今から荷物を、といいたいところですが、その前に協力を申し出てくれた皆さんのことを陛下に伝えなくてはいけませんので、今日の所は終わりです。2人ともありがとうございました。皆様も、本当にありがとうございました」


そう言って、キャリーお姉ちゃんは頭を下げてお礼を言う。


「大丈夫だよ。明日も手伝うよー」

「お手伝いするのです。大荷物は任せるのです」

「ええ。明日もよろしくお願いいたします」


こうして、私たちは明日の約束をして、ハイデンのお城に泊まるのでした。

明日は、もっと頑張ろう。


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