第783堀:男尊女卑

男尊女卑



Side:ラビリス



なんか、久々にという程ではないのだけれど、大陸間交流のことでかなり忙しかったから、こうしてバイデで話し合いをしていると、バイデへ誘拐された時のことを懐かしく思い出すわね。

まあ、その時は、キャリー姫とカグラは簀巻きっていう面白い状況だったけれど。

と、そんな感じで私が、以前新大陸に来た時のことを思い出している間にも、どんどん話は進んでいく。


「……ということで、フィンダールとしては、シーサイフォ王国が動いてからでないと、軍は動かせません」

「ハイレ教も同じです。何か実害がなければ、動くことはできません」

「ま、そうなるよな」

「せいぜい、私たち外交官がハイデン王都に赴いて、ハイデンと一緒にお礼を言うのが精一杯です」

「そうですね。あくまでも挨拶という姿勢は崩せません」


既にスタシア殿下、エノラ外交官との話し合いは進んでおり、やはりというか、両国とも軍の出動は望めないとのこと。

ユキの言う通り、そうなるわよね。

シーサイフォ王国はあくまでも、復興支援で来ているのだから、連合軍を編成して出迎えるなんてのは警戒していますよと言うようなもの。

それは、復興支援に来たシーサイフォ王国に対して大変失礼なことになる。

さらに、それが原因で各国に、失礼な国だと伝わってしまえば、今後の大陸間交流同盟が作りにくくなってしまうわよね。


「そこは当然の話だよな。で、銃もどきに関してはどういう反応だ?」

「フィンダールでは、新型の魔術道具という認識ですね。ユキ様が以前フィンダールへ贈り物としてくれた魔術道具一式があったので、理解も早くて助かりましたが、兵器として転用していることに対して警戒しています。魔術師が量産できるのと同じですからね」

「大司教様も同じような意見です。魔術師は珍しいモノではありませんが、戦闘に耐えうるレベルまでの技量となると、やはり数は限られます。それを魔術道具の量産という形で補うシーサイフォ王国を警戒しております」

「そこはトップとして、しっかり危険性は把握しているってことか」


危機感がゼロでなくてよかったわ。

特に反応が無いとか言われたら、今後の付き合いをどうするべきか考えてしまう内容ね。

ま、逆に過剰反応してもらっても困るし、一番安心の反応ね。


「とはいえ、武器を携帯しているだけで、攻め込んできたと判断するのは、やはり無理があるということで……」

「一度私たちが面会を兼ねて相手の出方を見るべきだという結論になりました」


ここも、私たちと同じ答え。

護身用に武器をもっているからといって、それを理由に捕らえるわけにもいかないのよね。

そもそも軍なのだから、武器を持っていて当然。それを取り上げるのは難しいというか無理なのよね。特に、復興支援できたという軍にそんな横暴なことをすれば、周辺諸国から非難轟々よね。

今後の大陸間交流で繋がりを増やそうとしているところで、そんな評判はマイナスでしかないわ。

だから、大人しく迎え入れるしかないのよね……。


「当然だな。ま、今の所、進軍速度と装備している武器以外は特に警戒するところはない。むしろ友好的ともいえる行動をとっているから、案外心配はいらないのかもしれないが、ハイデンだけじゃなく、フィンダール、ハイレが一緒に並んでいるのをみれば、それだけでも抑止力にはなるだろう」

「ええ。陛下もそのように言っていました。何か企んでいたとしていても、2国、そしてこの大陸で絶対的な支持を得ているハイレ教に対して同時に敵対しようとは思わないでしょう」

「大司教様も同じようなお考えです。ということで、これから行われるシーサイフォ王国との話し合いについては、私たちも同席させていただきたいのですが……、カグラ」


そういって、エノラがカグラたちに視線を向けるが、カグラたちにそんな判断や許可ができるわけもない。


「エノラ。ごめんなさい。シーサイフォ王国にフィンダール、ハイレの紹介をするようにとは言われているけど、ハイデンとシーサイフォの会議にまで同席となると……。一度、姫様に話を通さないと、私の権限を越えているわ」

「当然ね。カグラには悪いけど、その旨をキャリー姫様に伝えてもらえる?」

「私からも、お願いいたします。恐らく私の名前を出せばそうそう嫌とは言わないはずです。というか、問題は、キャリーではなく、他の上層部でしょうから」

「……そうですね。ともかく、私は先にいって、一度話を通してきます。ミコスとソロはハイデン王都についたら皆さんを控室に案内して一緒に待機」

「「了解」」


普通、ハイデンとシーサイフォの外交に他の国の外交官を同席させるなんてことはまずありえない。

利益を逸する可能性があるのよね。

そこを口実に、ハイデン上層部はフィンダール、ハイレの同席を認めないという輩がいる可能性がある。

とはいえ、状況が状況だし、同席を認めないなんてことはまずないでしょうけど……。

そして、そんなことを考えている間にカグラは一足先にハイデンへと向かい、それを追うように。


「ユキ先生。今からハイデン王都に向かおうかと思っているんですけど、大丈夫ですか?」

「ああ、構わない」


私たちも移動を開始しようとしたところで、不意にデリーユが口を開き……。


「で、時にユキ。今更であれなんじゃが、なんでエージルが一緒なんじゃ?」


あ、デリーユに言われるまで気にしていなかったわ。

新大陸では結構一緒だったから違和感がないのよね。


「エージルお姉ちゃんは今回一緒なんだよー」

「エージル姉様は技術者として、将軍としてついて来ているのです」

「ということだ。うちの技術者メンバーより、万能だからな」

「なるほどのう。というか、技術者の半数はハイレンの結界でこっちに来られるか怪しいからのう。かといって、タイゾウは宰相じゃからのう……」

「ということで、足手まといにはならないようにするから。デリーユ、よろしくね」

「うむ。わざわざすまんのう」

「いいよ。個人的にも興味深いことだし、大陸間交流同盟国に恩を売れるチャンスってやつさ。無論ウィードにもね」

「逞しいことじゃな」

「そうでもしないと、こっちにはこれないさ。まあ、建前と言うやつさ」


エージルも強かよね。

言い訳というか、屁理屈をこねるのが上手よね。

ユキほどじゃないけど。

で、ついてきた理由は、まあ、言うまでもないわよね。

大陸間交流会議の時感じた、ユキが大好きの感覚はきっとエージルからね。

まあ、先は長そうだけど。


「エージルさん。今回もよろしくお願いします」

「エージルよろしくねー」

「ああ、ソロに、ミコスもよろしく。君たちもなかなかトラブルから逃れられないね」

「「あははは……」」


苦笑いするしかないソロとミコス。

まあ、この子たちはユキみたいに自らトラブルに飛び込むわけじゃないのに、こうして巻き込まれているから大変よね。


「よし、挨拶はこれぐらいでいいだろう。俺たちもハイデン王都に向かうぞ」

「「「はい」」」


ということで、私たちはハイデン王都へとゲートを使って移動すると、ゲートの先には兵士が10人程待ち構えていた。


「何者か!! と、聞くまでもないか。外交官の使い走りか」

「あの、通してほしいんですけど……」

「ふん。公爵のご令嬢ならともかく、男爵の娘に、平民の小娘の命令を聞く理由はないな」

「ほら、通行証。命令じゃなくて、ちゃんと許可をもらったものだよ!! あんたたち毎度毎度いい加減にしなさいよ!! ミコスちゃんが上に報告するからね!!」

「お前たちの訴えなど誰が聞くものか。馬鹿か。せめて手土産でも持ってくるんだな」


あらら、ここまであからさまとは思わなかったわね。

それだけ、ミコスやソロたちが嫉妬されているってことでもあるわね。

とはいえ、今はこの嫉妬のせいで、ハイデン内部のまとまりがないのは困りものね。


「はぁ……。あいつらは、俺たちのことが見えていないのか?」

「ああいうバカに限って妾たちのことなぞ知らんよ」

「デリーユの言う通りだね。とはいえ、このまま足止めを食らうのは面白くないね。ぶっ飛ばすかい?」

「いやいや、エージルそれは駄目よ。面倒にしかならないのはわかっているでしょう」


ふむ。ミリーたちは困っているようね。

なら、ここは私たちの出番ね。


「じゃぁユキ、私たちが先に行かせてもらうわ」


私がそういうと、ユキは首を傾げるけど……。


「ん? どういう……」

「お兄ちゃんまかせてー」

「問題ないのです」

「お任せください。ユキさん」

「ああ、なるほど。任せた」


とアスリンとフィーリア、そしてシェーラがついてくるのを見て、納得したようだ。


「旦那様、良いのですか?」

「ちょっと心配ですねー」

「いやいや、ラビリスたちがやるって言ってるから、任せてみよう」


キルエとサーサリは心配しているようだけど、まあ、あの二人は私たちのことを基本的にウィードの日常でしか知らないのよね。

でも、私たちも意外とできるのよ?


「失礼するわ」

「通りまーす」

「はい。通行証なのです」

「これで構いませんね」


そう言って、言い争っているミコスと門番の前をあっさり通り過ぎる。


「「あ」」

「あ、おい!! お前ら!! そんな偽物を。お前たちその子供を捕まえろ!!」

「「「はっ!!」」」


慌てて、私たちを取り押さえようとするおバカさんたちだけど……。


「あらあら、そんなんじゃ捕まえられないわよ」

「鬼さんこちらーだよ」

「足が遅いのです」

「あらあら、追いかけっこですか?」

「こ、こら!! 待て!!」


さあ、この粋がっている兵士たちの体力を見てあげましょう。

そして、逃げ回っているついでに……。


「ああ、ミコスとソロは、カグラやお姫様に連絡をお願いね」

「あ、うん。ありがとうね。ラビリスちゃん!!」

「ありがとう。アスリンちゃん、フィーリアちゃん、シェーラ様!! すぐ戻ってくるからね!!」


ミコスとソロを連絡に走らせる。

さて、このおバカたちは、いったいいつ破滅に気が付くのかしら。


「このっ!! ガキ、じっと……」

「しないわよ」


そんな感じでしばらく走り回っていると、ミコスとソロがキャリー姫やカグラだけでなく、ハイデン王まで連れて戻ってきた。


「何をやっているか!!」


流石に王様の一喝で、横暴だった兵士たちもそろって頭を下げる。

だけど……。


「陛下。私たちはただ、不法侵入者を捕縛しようとしていただけで……」

「どこに不法侵入者がいるというのだ?」

「それは、ここにいる子供たちで……」

「……ゲートを通ってやって来た時、通行許可証を見せなかったのか?」

「いえ、偽物を所持しておりまして……」

「偽物を? それは何の冗談だ。この子供たちは、ウィードの重臣だ。私とも顔見知りだ。そもそも、通行証は私が自ら渡したもので、偽物であるはずがない」

「は?」


意外な言葉に驚きを露わにする隊長さん。

あらあら、私たちの顔をやっぱり知らなかったのね。


「ウィードのダンジョンを管理しているラビリス殿、大量の魔物を使役するアスリン殿、我が国に譲渡された高性能な武具、装飾品を手掛けたフィーリア殿、そして、精霊の巫女にして、ロガリ大陸はガルツ王国の王女シェーラ殿だ!! なにより、ゲートの前で待っているのは、ウィードの王配、ユキ殿だ」

「「「……」」」


余りの事実に沈黙する兵士たち。

今更過ぎるわよね。


「キャリーから話を聞いてまさかと思ったが、ここまで女性軽視がひどいとはな。お前たちは今よりゲート警護の任を解く」


当然の判断に、兵士の1人が声をあげる。


「陛下、これは違うのです!! そちらの小娘……いえ、外交官殿の部下が、何も言わずにいたので……」

「「はぁ!?」」


余りにもふざけた言訳で、思わずミコスとソロまで声をあげる。

ふふっ。ミコスはともかく、ソロもああいう顔できるのね。


「お前らは何も言わずにいたら、正式な通行証を持っている子供たちを追い回すのか?」

「あ、いえ、その……」

「何より、ただの子供ではない。地位も立場もはっきりとした者たちだ。お前たちの処罰は追って……」


あーあー、おバカさんが王様にドンドン追い詰められていくのを見るのは、気持ちがいいわね。

でも、ここで処罰されたんじゃ、私たちが遊んであげた意味がないわ。


「ハイデン王。発言よろしいでしょうか?」

「ん? 何かなラビリス殿。何か言及したいことでも?」

「はい。私たちは兵士と遊んでもらっていただけですので、特に処罰することはないかと思います」

「あそんでいた?」

「そうです。通行証を見せて通って、鬼ごっこをしていただけですわ。ねえ、アスリン、フィーリア」

「そうだよー。兵士さんと鬼ごっこしてたんだー……じゃ、なかった。してました」

「間違いないのです。鬼ごっこをしていただけなのです。捕まらなかったのです」

「そうですね。あれは遊びですね」


この件で、ウィードへ迷惑をかけたといって何かしら要求することもできるけど、今やらないといけないことは、シーサイフォへの対応。

こんなくだらないことに時間はかけていられない。


「……なるほど。遊んでいたわけか」

「ええ。相手をしてもらって助かりました」


暗に、こんなところで時間をかけるつもりはないと伝える。


「分かった。このことは穏便に済ませる。まずは、シーサイフォの話だな。ユキ殿済まぬがついて来てくれ」


ということで、私たちは穏便にゲートを突破したの。



「ヤレヤレ、ラビリス殿たちを相手に鬼ごっことは、無謀ですね」

「捕まえられる気がしないわ」


スタシア殿下とエノラ司教がへばっている兵士たちを見ながらそう言う。

2人もウィードに来たとき、運動ってことで鬼ごっこしたものね。


「ま、遊びで済んでよかったじゃないか。ここで怪我でもさせてたら、それこそ、何か言ってくる奴がいるだろうからねー。いや、ナイス判断だったね。アスリン、フィーリア。いぇーい!!」

「「いぇーい!!」」


そう言って、エージルとハイタッチする2人。

仲がいいわよね。


「シェーラとラビリスもするかい?」

「いえ、私はいいです」

「いえ、私もいいわ。それよりも……」


私は、久しぶりにユキの体をよじ登って、定位置に着く。


「「あー!?」」

「うふふ。早い者勝ちよ」

「いや、これから会議なんだけどな」

「良いではないか。これでウィードのことを知らしめるのには丁度いい。腕っぷしを見せるよりは穏便じゃしな」

「ですね。これで馬鹿にしてくる連中はブラックリストってことで」

「はい。ミリー様の言う通り、それがよろしいかと。記録は私とサーサリにお任せください」

「えっ? 私も?」

「何かいいましたか?」

「いえ、何も!!」


ということで、私は久々にユキに肩車されて、ハイデン城へと向かうのであった。



「「かわってー!!」」

「あの、私も!!」

「仕方ないわね」


3人ともまだまだ遊び足りないようね。


「でも、意外と男尊女卑が強いわね」

「ああ。こりゃ、面倒だな。ウィードとは相性が悪そうだ」


ユキの言う通り、ウィードはトップの全員とまではいかないが、かなり女性が多いから、これから色々問題はでてきそうよね。

本当に面倒だわ。



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