第782堀:なかまがふえた

なかまがふえた



Side:ユキ



「……何やっているんだ、エージル」


なぜか、研究所にいるエージルにそう問いかける。


「ん? 君の為に、銃もどきの調査をしていたのさ。はい、コレ、資料だよ」


そう言って、いい笑顔で国家機密を渡される俺。

一体何がと思ったが、後ろにタイゾウさんたちがいて、頷いているので、こちらから協力を頼んだというのが分かった。


「はぁ。エージル。分かっていると思うが……」

「もちろん。このことは口外しないよ。そもそも、エナーリアはわざわざ被害が予測されるところへ興味本位で派兵するほど馬鹿じゃないし。お金に余裕があるわけでもないよ」


ここは流石将軍といったところで、国々のバランスをよく把握している。


「それに、この兵器。銃もどきが量産されているってのは、僕個人としても見逃せないね。恐らく、君たちの故郷の人でも紛れているんじゃないか?」

「エージルもそう思うか?」

「無駄に内部が作り込まれているからね。まあ、強度が全然足りていないけど。と、一応僕たちが徹夜で作り上げた資料、もとい報告書は読んでくれよ」

「ああ、すまん」


そう言われて、エージルから受け取った銃もどきの報告書に目を通す。

一緒に、ミリーたちも資料を渡されたので、同じように目を通し……。


「なんですかこれ。ただの見かけだおしのおもちゃじゃないですか」


ミリーの言う通り、ただの銃もどきであるのがはっきりと分かった。

一日でその詳細が分かったのはありがたい。

まあ、今後も調べていくことで、さらに分かってくる事実もあるだろうが、自爆機能や認証機能がないことが分かったのが何よりだな。

これで鹵獲ができるということだ。

戦いになった時は、シーサイフォ王国から奪ってハイデンの兵器として転用が可能ということだな。


「ミリーさん、おもちゃではないですよ。銃としての機能は果たしてはいませんが、魔術を撃ちだす杖としては立派に機能しています」


そして、シェーラの言うように、銃の機能こそ果たしていないが、攻撃力が皆無というわけでもない。

きちんと魔術を撃ちだす杖として機能している。これが3000挺もあればそれなりの攻撃力になる。

しかも装弾数は30発。その上撃ちきったら、弾倉の代わりに付けてある魔石を入れ替えて、補充が可能というかなり面倒な代物だ。


「へぇ~。ちゃんと弾倉の概念はあるのね」

「魔石を付け替えするんだねー」


そこはラビリスやアスリンも感心している。


「そこは、褒めるべきところというべきか、流石に銃の構造発想を利用しているね。僕たちが使っている魔剣の魔石を入れ替えているようなものだ」

「そうなるな」


この銃もどきはどちらかといえば、銃というよりもエージルたちが使っている魔剣、聖剣に近い。

ただし、魔石は使い捨てに近い。

補給は魔石に魔力を注ぎ込むのだが、まあ、充電池のように充電できる量が徐々に減っていき、最後には消えてしまう。

消えてしまう理由は魔石が純粋な魔力の結晶体だからだ。

魔力を絞り出し切れば消えてしまうのは道理だ。

魔剣や聖剣では、そういう、デメリットをなくして、魔力の保管庫となっているのが、ダンジョンコアだ。

聖剣や魔剣もコアを利用しているものだ。

そんなことを考えながら資料を読んでいると、フィーリアがあることに気が付く。


「あれ? でも不思議なのです。新大陸では魔物が存在しないのです。魔物の核、魔石はとれないはずなのに、どこから手に入れたのです?」

「フィーリアの言う通りだな。新大陸では魔石は採れない。魔石は魔物の核、つまり、魔物が出現する魔力の凝集が起こらないようになっている新大陸ではどうやっても穫れるわけがない」


俺がそうフィーリアの言ったことを反芻していると、エージルも頷く。


「うん。流石フィーリアだ。鋭い。ここが一見不思議ではあるんだけど、そこは大体予想がついている」

「どうしてなの?」

「アスリン。それはね。シーサイフォ王国が海洋国家であることが理由なんだよ」

「ああ、なるほど。新大陸にないのなら、外から仕入れているってわけね」

「そのとおり。ラビリス、当たりだ」


なるほど。ないのなら、あるところから仕入れてくればいい。

いたって単純な話だ。


「でも、なんで魔石が新大陸で形を保って……って、そうか、魔物にならないだけで、魔石は存在していられるのか」

「そのとおりだよ。だから、魔石を外部から仕入れて使うって感じだ。正直な話、この簡易的な装填システムは素晴らしいよ。ちゃんと銃の設計思想を受け継いでいる」

「そうだな。しかし、魔石に魔力を補充できるとは知らなかったな」

「いや、ユキだって知っているじゃないか。魔道具は魔石を介して空気中から魔力を吸収して長い時間稼働できるって」


そういえばそうだった。

魔道具の殆どは長時間使用を目的としたもので、攻撃用はあったとしても魔力の消費が大きいので一瞬の物が多い。

あ、ナールジアさんの作った武具とかは、そういう常識は当てはまらない。


「じゃあ、魔剣みたいに魔力をためることはできるわけか」

「全くもって効率は悪いけどね。魔剣の魔力補充率が100とすると魔石の補充率はおよそ20だ」

「効率が悪いな。5分の1か」

「しかも、無理に魔力を絞り出して使って、補充の繰り返しだから、劣化も早い。普通の魔道具とは別の使い方だね」

「ということは、問題はあれど、それなりに兵器としては機能しているってことか」

「ユキが求めている弱点としては、装弾、弾倉の補給にあるね。物資が大量に必要になるわけだ」

「そうか。となると、シーサイフォ王国は本当にこちらの復興支援に来たとみていいか」

「だね。1万人もの軍が本格的に戦うには、あまりにも物資が足りない。まあ、復興支援物資の中に紛れ込ませているってのはあるかもしれないけど、それにも限りはある。しかも銃もどきの魔石はこちらで調達は不可能だ。シーサイフォ王国が攻めてきたってのは無理があるね」


状況的に、シーサイフォ王国は敵にはなりえないというのが分かったのはありがたい。


「エージル、それにタイゾウさんたち、ありがとう。これを持って、デリーユたちを追いかけます」


そう言って、俺たちは去ろうとしたのだが……。


「ちょいまち。僕も連れて行ってくれないかな?」


いきなりエージルがそんなことを言いだした。


「は? どうしてまた? というかエージルはエナーリアからウィードへ派遣された外交官だろう? 新大陸との問題に首を突っ込んでいいのか?」

「いやぁ、案外そうでもないんだよ。実は……」

「新大陸の事情を探る。あるいは探ってくるって言ってか?」

「……最後まで言わせてくれよ」


俺の先読みにがっくりと肩を落とすエージル。


「俺がよく使う手、屁理屈だからな。とはいえ、たしかに実際の新大陸を見ることが今後の交易につながるっていうのは事実だからな。許可の方は?」

「あー、この銃もどきの件は技術習得の一環ってことになっているけど、新大陸について行く事務処理に関してはまだ」

「じゃあ、その処理は部下に任せてついてくるか?」

「お? 意外。ついて行っていいのかな?」

「最初は拒否しようかと思ったが、ナールジアさん、ザーギス、コメットはハイレンの結界のせいで活動が著しく制限されるから、連れていけない。となると、技術者でいうならタイゾウさんだけになるんだが、タイゾウさんはヒフィー神聖国の宰相もやっている。今は引っ張りまわす理由がきつい」


タイゾウさんを連れ出せないことはないが、ヒフィー神聖国の優先課題として、大陸間交流が始まるにあたって、現在同じ回復魔術師を輩出する、エナーリア聖国とのやり取りがあるのだ。


「あー、タイゾウさんはそうだろうね。うちと商売敵だし」

「という状況で、今動ける技術者はエージルだけってことになる。それに……」

「それに? まだなにか理由があるのかい? 聞かせてくれるかな?」


ちっ、エージルの奴は分かっていてにやけているな。

そう、この技術者トップたちの中で、なぜエージルを選ぶのかというと……。


「ああ、そうだよ。エージルは将軍でもあるからな」

「ふえっ!?」


そうなのだ。エージルは、エナーリアで研究者としての一面を持ちつつも、魔剣を扱う上に、現役の将軍職をも務める、できる女だ。

他の連中も一応、立場的には人の上に立つものだが、癖が強いからな。

ナールジアさんは族長、コメットはダンジョンマスターだが基本研究バカ、ザーギスは四天王ではあったがこれも研究バカ。

うん。どう考えてもエージルの方が使えるのだ。

付いて来てくれるというなら喜んで受け入れる。

戦争の可能性もあるのだ。将軍職についている稀有な人材でもある。

正直な話、軍の扱いだけでいうなら、嫁さんたちと比べた中でも3指には入るだろう。

将軍だったのはセラリアだけだからな。


「エージルは前回新大陸で指揮を執ってくれたことがあるからな。信頼している」


俺は素直な気持ちをエージルに伝える。

君は使えると。

すると、なぜか、ミリーやラビリスたちだけでなく、コメットやナールジアさんまでが……。


「「「どんまい」」」

「慰めないでくれ。よけいみじめになるから」


と、わけのわからないことを言っていた。

なんだ、一緒に付いて来てくれるんじゃないのか?


「えーと、エージ……」

「だめだよ。お兄ちゃん」

「そうなのです。兄様は素敵なのですけど、こういうところはだめだめなのです。今は先に行くのです。エージル姉様はあとから追いつくのです」


なぜかアスリンとフィーリアにそう言われつつ手を引かれてその場を離れていくが、ラビリスたちも止めはしなかった。

一体何が悪かったのだろうか?

あ、それとも、何か用意することがあったんだろうか?

まあ、あとで追いつくって言っているからいいか。



そういうことで、一足先にバイデに到着すると……。


「おお。来たな」

「「旦那様お待ちしておりました」」


なぜか先に王都に出向いているはずのデリーユたちがいて、出迎えてくれる。


「あれ? 先にハイデン王都に行ったんじゃないのか?」

「うむ。その予定だったのじゃが、フィンダール、ハイレ教の外交官もそろって行った方がいいじゃろうという話になってのう」

「ああ、なるほど。ウィードだけ先行すると、色々面倒か」


フィンダール、ハイレ教を置いて行ったことは、つまり彼らが遅れたという意味にもとれる。

何のための新大陸同盟になんだよって話になる。


「うむ。ハイデンの方に今すぐにでもシーサイフォ王国軍が来るというわけでもないからのう」

「あ、あの、何か予定がズレて、すみません」

「いや、ソロが謝ることじゃない。当然の話だ。一度ハイデンで合流して、フィンダール、ハイレ教の動きも事前に把握しておいた方がいいだろうからな。まあ、キャリー姫の方で、何かあったのならあれだがな」

「いえ、私たちが交渉に臨むならともかく、姫様が協力の交渉に行って何か不当な要求を呑むようなことはないと思いますけど……」

「うむ。あの姫は、中身はしっかりしておるからのう。そこは心配せんでもいいじゃろう。そもそも、妾たちが付いてきたのは、ソロやカグラ、ミコスたちだけで交渉することになった場合の護衛じゃからな」

「とはいえ、あまり遅くなるのもあれだけどな。……と、その心配はいらないか」


そう言っている間に、フィンダール、ハイレ教のゲートが起動して、カグラ、ミコス、スタシア殿下、エノラ司教が現れる。


「みんな揃ったねー」

「これですぐに話が進められるのです」


2人の言う通り、これで話が進められる。

さて、フィンダールとハイレ教はどう動くつもりだ?



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