第749堀:順調?
順調?
Side:ユキ
結局というべきか、当然の答えというべきか、俺がタイゾウさんたちに相談しても結論は変わらなかった。
第一回大陸間交流会議を開催が最優先
まあ、よくよく考えてもこれしかない。
というか、シーサイフォ王国のことのほうがイレギュラー、突然の介入?であって、これを優先する理由はない。
そもそも、新大陸の他国への対応は基本的にハイデンとフィンダール、そしてハイレ教会に任せていることだ。
俺たちが口を出すのはよろしくない。
と、そんな正論で片付けようとするが、モノがモノだけに嫌な予感がする。
かといって、シーサイフォ王国に人を送る余裕もないし、危険も多々あるので、やっぱりなしという、堂々巡りの思考になる。
「お兄様。書類です」
「ああ、ありがとう」
俺がそんなことを考えているうちにも、第一回大陸間交流会議のための書類がどんどん上がってくる。
こっちも開催まで一か月を切ったのだ。
ウィードはその準備でてんやわんや。そこにシーサイフォ王国への偵察、諜報部隊の投入なんざむりだ。
俺は気持ちを入れ替えて、気合を入れて書類に目を通すことにする。
俺の凡ミスで大陸間交流会議を台無しにするわけにはいかないからな。
「これは、人員配置の書類か……」
警備の位置や、要人護衛の配置、第一回大陸間交流会議の24時間の配置表だ。
表の部分、主に主要場所は警察署率いるポーニを筆頭に警察官たちが。
要人の近辺には、セラリアを筆頭とした人の軍部。まあ、セラリアは女王なので、主にクアルが代行だが。
そして、裏の護衛が、スラきちさん、霧華を筆頭とする魔物部隊。
最後にそれをカバーする、コールを使用した指令室のメンバーが、主な人員配置の内容である。
あとは、担当を任せられた部署で細かく配置を決めることになる。
特に不備はなさそうだなと、確認をしていると、ドレッサが口を開く。
「この配置を抜けられる相手がいるのかしらねー」
「むりー」
ドレッサの言葉にヒイロがブンブンと首を横にふる。
「ま、外部からの侵入は無理に近いな」
「外部は?」
「そう。こういう時は、外部からの侵入だけじゃなくて、内部での犯行に気を付けないといけない」
「裏切者がいるってこと?」
「そうだな。この大陸間交流に成功してほしくない連中は、この会議をぶち壊すのには、紛れ込むしかないわけだ。表向きは大陸間交流に賛成ってふりをしてな」
そう。俺たちが一番気を使わないといけないのはそこだ。
「表立って反対している連中は、端からウィードに来ることもできないだろうからな。まあ、ウィードを見せて説得ということもあるだろうが、逆に不安要素でしかないからな。第一回目には避けるはずだ」
「確かに。でも、そうなるとどう防ぐのですか? 外からでなく、内側となると、色々難しいですが」
「ヴィリお姉の言う通り。やりたい放題」
「まあ、移動の制限だな。妙な疑いをかけられたくなければ、指定の場所以外に立ち入るなってところだな。特に厨房。そこに近寄るやつは問答無用で捕縛とか伝えておく」
殺人事件の定番だからな。厨房とか、庭とか。
勝手に動くなと言っておくのが大事だ。
「なるほど。それが一番ですね。そう言っておけば、動きにくくなりますね」
「そういうことね。そうなれば、起こるのは身内による事件でしかないか」
「お兄、犯人が身内とか、それはそれで不味くない?」
「まずいが、大陸間交流の方には影響はないな。あっても身内が暴れた事実を必死に隠そうとするだろう」
俺がそう言うと、机で黙々と書類仕事をしていたジェシカが口を開く。
「物凄い失態ですからね。国のメンツに関わります。と、こちらをサマンサ」
「はい。えーと参加者名簿ですわね。ローデイのは入っていますし、あとはアグウストだけですわね。と、ジェシカの言う通り、国のメンツに関わりますから、内々に処理してくれるはずですわ」
「アグウストの参加者名簿……。どこ行ったっけ? ない……。聞きに行くの面倒くさい。エージルに任せようかな」
「冗談でも言わないでください。ユキの評判に関わります」
「そうですわ。大陸間交流で手を抜いたなんて知られれば、ユキ様が馬鹿にされますわ」
「……ごめん。頑張る」
そんな感じで、俺たちの会話に軽く参加しつつ、イフ大陸の出身メンバーはせっせと仕事をこなしている。
「ということで、ここら辺が護衛や監視のラインだな。厨房と他の部屋、区画への移動制限。これをまとめて各部署に布告と、参加国にもこの話をしておかないとな。書類を作るか。できた時のコピーと配布や説明頼むぞ、みんな」
「「「はい」」」
返事を聞いて俺はさっそく作業に取り掛かる。
こんな感じで、忙しい日々は過ぎていき……。
あと半月で大陸間交流開催と言ったところで、ハイデンからシーサイフォに関しての続報が届いた。
「で、第二陣の使者が来たって?」
「ええ」
俺の質問に答えるのは、キャリー姫ではなくカグラ。
そこまでの急を要する内容ではなかったみたいだな。
「内容は?」
「私たちは知らないわ。手紙がハイデンから送られてきて初めて知ったのよ。これ、姫様から手紙を預かっているわ」
そう言ってカグラは俺に手紙を渡してくる。
俺はそれを受け取りながら質問をする。
「今回は、カグラたちは同席していないのか?」
「ええ。手紙を渡してきた姫様は、まずは大陸間交流を最優先にって」
「なるほどな。じゃ失礼して……」
俺はその場で手紙を読むと、シーサイフォ王国の次の使者が来たこと、そして、狂神信者が起こしたことに関しては、前回の使者と同じく、半信半疑のようで困惑していたのこと。
物資の供給に関しては、同じように直ぐに用意するとのことで感謝していたようだ。
「特に問題のある内容じゃないな。キャリー姫の様子はどうだ? 特に問題は無さそうか?」
「あはは、目の下にクマが出来ているぐらいかしらね……」
「ユキ先生聞いてくださいよー。姫様は露天風呂のある生活が羨ましいですわ。って嫌味言ってくるんですよ!! ミコスちゃんたちだって、普通のお風呂なのにー!!」
「いや、先輩。大体毎日、ウィードの銭湯にいってるじゃないですか……」
どうやら、キャリー姫も流石に大陸間交流にシーサイフォ王国のことでかなり疲れているようだ。
無論、カグラたちも同じようにクマができているから、姫様は単なるジョークのつもりだったんだろう。
本気で嫌味を言うようなタイプじゃないからな。あの姫様は。
嫌味を言う前に実行に移すタイプだ。
というか、キャリー姫も毎日とは言わないが、ウィードのケーキショップにメイドと一緒に出没しているのだが、これは言わない方がいいだろう。
「ま、シーサイフォ王国の方はこれで物資が届くまで保留になったわけだが、大陸間交流の方はどうだ?」
「はっ。フィンダールの方は滞りなく。ウィードに向かう者たちの選別も済んでおり、今すぐにでも出発できます」
「流石ですわ。お姉さま」
「うむ。巧遅は拙速に如かずと言うからな。素早く行い素早く決する。まあ、こういう国の大事には落ち着いて考える必要もあるが、今回は各国への対応や、シーサイフォ王国のこともあるからな。早い方がいい。だが、これが当たり前だとは思うな、アージュ」
「理解しておりますわ。何事も状況に応じてということですわね」
仲直りしたフィンダール姉妹はこんな感じで仲良しである。
こっちもキャリー姫と同じようにというか、キャリー姫と一緒にウィードの街でケーキを食べているのが目撃されている。
新大陸の王女って強かだわー。
カグラたちは後でなんかフォローしておこう。
と、そこはいいとして、流石はもと万軍を率いる総大将。
動きはきびきびしている。
「ハイデンの方はどうだ?」
「こっちも問題ないわ。多少心配なのは、ウィードのことを訝しんでいる連中が未だにいること。陛下はその連中をウィードに連れてくるつもりなのよね」
「まあ、大丈夫だとは思うけど、ミコスちゃんたちはそこが心配かな?」
「見たことも無いものばかりですからね」
確かに、初めてウィードに来る人たちは目新しさに目を回すとか興奮する可能性が高いな。
とはいえ、そこは既に予想はしていて、自重しろと各国には伝えている。
一応、会談前に入国するから、その時に一通りツアーをやるつもりではいるけどな。
各国揃ってのツアーだから、お互いを気にしてのんびり見ることはできないだろう。
後日改めてツアーをやる必要があるよなーって、セラリアやエリス、ラッツたちとは話している。
しかし、そこは順番を決めることになるんで、申請次第ってことになっている。
俺たちの方から順番を決めるとそれはそれで問題になるから。
「そういえば、ポープリの方はどうしている?」
俺は今度の大陸間交流で一番割を食うであろう、イフ大陸の魔術学府の動きを聞いてみた。
「学長は特に……」
「ハイデンの魔術学府を見た後はララ副学長と色々話し合ってはいるようですが……」
「そうか」
イフ大陸の魔術師減少に伴う技量の低下は難しい問題だからな。
何か色々対策は講じているんだろう。
一応、新大陸の連中には迂闊に魔術に関しては公開するなとは言ってある。
こっちも後で話し合う必要はあるだろうな。
「で、ウィードの方はどうなの? 姫様たちも気にしていたわ」
「そうですね。何か問題などは?」
そう聞いてくるカグラとスタシア殿下。
「今のところは順調だな。前倒ししていいぐらいだ。が、そのつもりはない。予定通りに行う。各国には3日前には入国して待機してもらう予定に変わりにはない。ああ、そういえば、ハイエルフの女王が今回の会議に参加できそうって話がある。こっちとしても、亜人差別があるイフ大陸、そして、稀有な精霊の巫女としての尊敬を集める新大陸の反応を見るためにはありがたい」
獣神の国の問題はあれど、ハイエルフの国は直接関係があるわけでもないから、参加する方向に固まったようだ。
まあ、裏では、ハイエルフの国が参加することで、獣神の国の戦争派がどう動くかを見るという陽動作戦というか、おとり作戦も考えたものでもある。
「ハイエルフの国の女王が……」
「ふむ。伝えておかないといけませんね」
「ま、新大陸の方は二国と一宗教だけだからな。イフ大陸の方はどうだ?」
イフ大陸の外交官の大半は俺の嫁さんたちばかりなので、今更聞くことはないのだが、カグラたち新大陸のメンバーに聞かせておいた方がいいだろう。
そのことは、ジェシカたちも気が付いたようで、頷いてすぐに説明を開始してくれる。
「そうですね。イフ大陸の方もこれといって問題はありません」
「ええ。聖剣のお披露目以降、エナーリアも安定しているようですし、あえて言えばブレード陛下がちょくちょく護衛と一緒にベータンに行くのが玉に瑕ですわね」
「ん。そのブレード王にアグウスト王もついて行くことがあって、イニス姉さんも疲れている感じ」
「そうか、そこは各自どうにかしてくれ」
脱走癖のある王様の世話とかウィードがすることではない。
各国で対処してくれ。
いや、本当に。
こっちは各国に連絡するだけだから。
とまあ、こんな感じで、大陸間交流の準備は着々と進んでいくのであった。
あ、途中でどこかの王を捕まえる大捕り物がベータンとウィード、果てはいろんな意味で忙しいはずのバイデでも起こったとかなんとか……。
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