第748堀:有識者たちとの話合いと結論

有識者たちとの話合いと結論



Side:ユキ



さて、嫁さんたちへの話は終わったが、その時、ルルアに言われた「受け身でよいものか」という不安は俺にもあるし、完全に受け身でいる予定もない。

とはいえ、ただ危険に思えるからと、シーサイフォ王国を攻めるような真似はできない。

どこの覇王だよという感じの難癖のつけ方だな。


ということで、俺は有識者を集めて、このシーサイフォ王国のことを相談することにしたのだ。

嫁さんたちは大陸間交流に向けての最終調整にかかっている。

既にあと一か月を切っているのだ。今更中止はできないし、中止になってしまえばウィードのことを疑われかねない。

ここは外せない絶対の一手だ。

まあ、嫁さんたちに現代戦の云々を話しても、まあしゃーないことではあるんだがな。

元々、戦争のための戦力として迎え入れたわけじゃないし。


「やあ、呼ばれてきたよ」

「どうも、ユキさん」

「いやはや、旅館をまるまる生活拠点として使っているとは豪華な」

「うむ。そうじゃな。羨ましい限りじゃ」


そう言って、宴会場に入ってくるのは、タイゾウさん、タイキ君、ソウタさん、エノルさんだ。

まず、有識者として迎えるべきは、同郷の人物だろう。

そして、すぐに別の団体も到着する。


「んー? あれ? なんかこの場に私って場違いじゃね?」

「それを言ったら、私もですよ」

「いいじゃないですかー。アイスも自由に食べていいみたいですし」


とまあ、フリーダムな発言をするのは、うちの技術者たち。

コメット、ザーギス、ナールジアだ。

この3人はその知識量はずば抜けていて、有識者となりえる。


「キルエ頼む」

「はい。かしこまりました。皆さま。ご注文を……」


俺がそう言うと、よどみなく、メイド奥さんのキルエがすかさず注文を取り始める。


「あ、私はダージリンで。で? ユキが私たちを呼びつけるとはいったいどうしたのさ?」

「タイゾウやタイキそして、ソウタ殿を呼んでいることから考えると、地球や日本がらみのことですか?」

「多分そうでしょうけど、それだけなら、私たちはいりませんよねー。あ、まずはハーゲン〇ッツのきなこで、そのあとは、お任せでなくなるたびに補給で」

「かしこまりました」


流石に鋭いよな。

そして、ナールジアさんのアイス好きは相変わらずだ。

で、そんなことを考えている間に注文の聞き取りが終わる。


「さて、お茶の準備もできたようだし、私たちをここに呼んだわけを聞かせてもらえるかい?」

「ですね。このままお泊り会でもしますか?」

「それはそれでいいのですが、そうもいかないでしょうね」

「ま、そうじゃな。ユキ殿がわざわざ自宅を開放してわしらを呼ぶぐらいじゃからな。しかし、どのみち後で湯はもらうがのう」

「ええ。話が終わったあとはくつろいで行ってください」


わざわざ来てもらったのに、話を聞いてもらってすぐ帰れというつもりはない。

というか、こんなことじゃなくて、ソウタさんとエノルさんはそもそも誘いたかったんだがな。

あ、因みにエノルさんは夫婦だし、ついてくることに否はなかった。

機密といっても理解できる人には理解できることでしかない。


「では、話をさせてもらいます。まあ、今すぐどうこうという話ではないので、お茶でも飲みながらゆっくり聞いてください」


俺はそう断って、新大陸におけるシーサイフォ王国やアクエノキの一連の出来事を話す。

タイゾウさんや、タイキ君は新大陸の出来事に最初からある程度係わっていたので、理解は早いが、コメットたちは基本的にウィード待機だったので、そこら辺の説明を一からしっかりすることになった。


「……というわけで、シーサイフォ王国のこととアクエノキが作ったマジック・ギアのことが懸案事項になっているんですよ」

「アクエノキは正直どうでもいいが、問題はシーサイフォ王国だな」

「ですねー。しょせん魔物なんて、今までのレベルから考えるとたかが知れていますし、数もそんなに多くないですからね。だけど、シーサイフォ王国は人で、銃の生産をしているとなると厄介すぎますね」

「まあ、生産していれば確かに脅威ですね。しかし、その可能性があるというだけで責めることはできません」

「まあのう。自衛の武器を持っているというだけで、他人が咎めるのは違うからのう」


問題はそこなんだよな。

エノラさんが言うように、たとえ銃を生産していたとしても、防衛のための兵器ですと言われれば、それで終わりだ。

俺たちの過剰反応と言われて終わりだろう。

調べても手出しができないわけだ。

そもそも銃刀法や危険物所持に関しての法律が無い国に武器を持つなといっても頭がおかしいんじゃないかと言われるだけだ。


「まあ、皆が脅威に思うのは分かるけど、これはある意味仕方のないことじゃないかな? ほら、元々そこのソウタさんが、銃の開発はしていたみたいだし、いずれこの世界の人がたどり着く技術だろう?」

「ですね。他国の技術の進歩に口出しをするのは、越権がすぎますからね」


技術組のいうことも分かる。

技術の進歩はいずれ訪れるもの。

そこに口出しして抑え込んでも反発を生むのは分かりきっているし、この世界の進歩を止めることになる。

戦争の為の技術開発が転用されて、地球も豊かになったのだ。

武器を作っているからダメというのは、地球の文明を否定することになる。

とはいえルルアが難しい顔というか、悲しい顔をしたように、今までにない人殺しの道具が開発されること、それに伴う犠牲が出ると分かっていて止めないのはどうなのか? という話だ。

そんな感じで、少し難しい話になったところに、1人でアイスを食べている……。


「あむ、あむ。皆さんの意見は分かりますけど、問題はこの稀代の発明を本当に思いついたのか? って言うのを確認するのが大事だと思います。この知識を誰かから吸い上げているなら、問題です。つまり、シーサイフォ王国に地球の人がいないかって話ですねー。まあ、真似でも何でもそれを作り上げる力があるのは素晴らしいのですが。あむ」


ナールジアさんが的確に問題点を突く。

このシャベルを開発したのは誰なのか?

今回の問題の起点はそこだ。

……ここでまた地球の人が関わっているのかというやつだ。


「……ナールジアさんの言う通りだな。今更ながら、独力で開発をしたとは考えにくい」

「まあ、パターンですからね」

「いや、私の設計図が流れたとかはあるんじゃないか?」

「それもあるかもしれんが、それならなおさら危険じゃ。ソウタが残した設計図の中には火縄銃だけでなく、連発式の銃や大砲、果ては迫撃砲も開発対象にいれておっただろう? 当時は必要に駆られて開発しておったが、今更必要はないし、設計図だけ手に入れたやつは、どれだけ危険かわかっておらんじゃろう。ただ強力な武器が手に入ったとしか思っておらぬかもしれん」

「そこが懸念ですね。強力な武器を手に入れて、調子にのって他国を攻めるというのは良くありますから。しかも設計した本人がいないのであれば、何か問題があってもいない人のせいにして、行動は止まりにくいですねー」


罪悪感が湧きにくいという話だな。

開発をした当事者がいても戦争利用というのは止まらないからな。

人を生かす為の発明が、人を殺す道具に代わるなんてことは歴史ではよくある話だ。


「とはいえ、ここでいくら話してもあくまで憶測でしかないですからね。とりあえずはシーサイフォ王国の動きには注意を払うぐらいでいいんじゃないですか? いまは、大陸間交流の方が優先度は高いですし」

「そうですな。私もナールジアさんの意見に賛成だ」

「俺もですね」

「個人的には、自分がいた国、大陸の事なんで心配なんですが、大陸間交流を進めた方が、安全になりますからね」

「うむ。遠回りに見えて、近道じゃからな」


こっちも同じように大陸間交流を優先するってことで話はまとまりそうだな。

あとは、沈黙しているザーギスとコメットだが……。


「2人は何かあるか?」

「いえ、方針自体に否はありません。もともとあの新大陸はあの女神ハイレンがコアを利用して作った広域結界のおかげで魔法生物の生存が厳しいですからね。私たちでは十分な戦力が整えられない」

「私もアンデッドだからねー。そこら辺を解決しない限りは、新大陸での活動は厳しいかなー」

「そういえば、そこのところはどうなっているんだ? 一応、霧華たちは極一部だが、活動はできるようになっているが、範囲外での活動方法とかはどうなっている?」


そこが広がれば、シーサイフォ王国の調査が簡単になってこっちとしても楽なんだが。


「全然ですね。霧華さんたちはアンデッドであるということが幸いし、さらにはハイレン殿の加護を受けた護符を持つことと、ウィードの勢力下という条件を満たせば、新大陸での活動がかろうじてできるレベルです。スラきちさんたちはいまだに急激な魔力の減少があるので、純粋な魔法生物にとってはつらい環境なのには違いありません」

「まあ、ソウタやエノル、アージュみたいに体内にコアを埋め込んでっていうのもあるけど、あれはねー。最初から取り付けているならともかく、私も霧華も自分のおなかを裂いて入れたくはないね」


当然の話だな。

ついでにコアからのハッキングが可能なのは、イフ大陸の聖剣連中で実行してできることが分かっているから、そういう弱点を取り付ける理由はない。


「3人でもあの地域の状況打破は厳しいか」

「方法がないわけではないんですがね」

「あるのか?」


意外だ。

方法がないわけでもないのか。しかし、この連中が言わなかったということは……。


「あるにはあるんだよ。ハイデンがコアを使って作ったあの地域一帯の魔力固形化を防ぐ結界を吹き飛ばす方法が」

「はむ。とはいえ、それをすると、あの大陸一帯は魔物が再び出現することになりますがー」

「「「ダメダメ」」」


俺たちはそろって否定する。

新大陸の各国は大混乱間違いなしだ。

しかも、俺たちが原因と分かれば敵になる可能性が高い。

大陸間交流に巻き込んだあとなら、まだ説明をしてと準備ができるが、いきなりやるのはなしだ。


「ま、駄目ですよね。私もお勧めしません」

「だね。イフ大陸でも同じようなことを話したけど、今までおさえられていた魔力の凝固ができるようになって、ドラゴンの群れとかが湧かないといいけどねー」

「はむはむ。ですねー。リスクが高いですね」


あー、そうか、今結界を解けば、いままで500年分の魔力が解放されるかもしれないわけか。

イフ大陸の様にランサー魔術学院の近くでは生息していたとかないから、大噴火が起こるわけだ。

その被害が、最小限で収まるとは思えんな。

なにも起こらない可能性も無きにしも非ずだが、そんな賭けはできん。


「というか、仕掛けた本人は?」

「あの女神は感覚で生きていますからねー」

「ハイレン君は直感タイプだからね」

「あれですね。なんとなくでできるタイプですよねー」


……駄目過ぎだなあのお花畑ハイレン。

いや、分かってはいたが。


「私たちの教育が行き届いてなくて……」

「本当に申し訳ない」


で、保護者の2人が頭を下げる。


「いえいえ、別にハイレン殿が悪いわけではないですから」

「そうですよ。だから、ソウタさんやエノルさんが謝る必要はないですよ」


慌てて、タイゾウさんとタイキ君がフォローをする。


「まあ、新大陸の意図的な魔力枯渇現象はいずれ解決策を探すとして、今はなしで、いいですね?」


俺がそう言うと全員頷く。


「シーサイフォの件については、大陸間交流後しっかり調査を開始するでいいでしょうか?」


こちらも全員が頷く。

そして、今日の会議は終わりを告げて、そのまま食事会になり、楽しむことになるが……。



「正直、ユキさんはどう思ってます?」

「何について?」

「シーサイフォ王国のシャベルのことですよ。日本人がいると思います?」

「さーてな、確かなことは言えないが……、このパターンだといるよなー」

「ですよねー。話が通じるといいですけど」

「ま、それは大陸間交流後だ。その時は真面目に力を貸してもらうぞ」

「ええ、銃の問題はこっちにとっても危険な話ですからね」


俺とタイキ君はシーサイフォ王国に嫌な予感というか、お約束を感じつつ過ごすのであった。


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