第750堀:大陸間交流会議 早朝
大陸間交流会議 早朝
Side:ユキ
「色々あったけど、ようやく……ね」
「そうだな」
俺はセラリアと朝出会ったところで、唐突にそんな会話をする。
普段なら脈絡がないので、なんの話か分からないのだが、今日に限っては違う。
なにせ、本日は……。
第一回大陸間交流会議の開催日である。
「途中は本当にできるのかしら、と思ったこともあったけど、案外何とかなるものね」
「それだけ苦労はしてきたからな」
3大陸中を駆け巡って調整に次ぐ調整だ。
問題があれば、その解決にも手を貸した。
それもこれも、今日この日を迎えるためだ。
いや、今日この日から大陸間交流を始めるためだ。
「さて、今日は頼むぞ」
「ええ。大陸間交流、記念すべき第一回会議を我がウィードで行えるんだから、女王として頑張るわよ」
「まあ、ゲートの関係上、今後の大陸間交流や会議は基本的にはウィードで開催になると思うけどな」
「それを思うと、憂鬱になってくるわね。今後ずっと各国の要人を迎え入れるとか負担でしかないんだけど?」
「セラリアが直々に陣頭指揮を執るようなことは、そうそうないから心配するな。場所を使わせてくれってところだろうさ」
その時に殺人事件とか起こったら問題だから、会議場の方の警備は万全にしないといけないから、スティーブたちには頑張ってもらわないといけないがな。
と、そんなことを話しているうちに、ほかの嫁さんたちも続々と宴会場へ入ってくる。
朝食の時間で当たり前の光景なのだが、みんなどことなく、ではなく資料片手に忙しそうだ。
「ポーニ、夜の緊急連絡の件ですが……」
「うへぇ。夜の内に起こったトラブル多いなぁ、デリーユも手伝ってよ」
「……うむぅ。まあ、大陸間交流の間は仕方あるまい。で、今日の護衛ルートの話じゃが、カヤは行けるか?」
「……私は配置の不備があるから、そこの穴埋めで出る」
我がウィードの治安維持をしている警察メンバーは各国の王がウィードに訪れた3日前からフルで大忙しだ。
王たちの案内などがあれば、かなりの数の警官や軍人が投入されて、まじで大忙しだからな。
「今日もがんばろーね」
「そうなのです。今日もちゃんとごみを集めるのです」
「そうね。子供たちが掃除をしているのに、辺りかまわずごみを捨てる大人とか評判悪いモノね」
「……それはその通りですが、ラビリス、顔が怖いですよ」
「ま、冒険者ギルドでちゃんとごみ掃除仕事も出ているし、呼びかけもあるから、そこまではないでしょう? 私たちが基本しているのは、ごみ箱の回収よ」
「ん。結構みんな、ちゃんとごみ箱に捨ててる。問題はおトイレ。どこでもする観光客が多い」
「だめだよねー。おトイレはお店でも貸してくれるって言ってるのにね」
「仕方がないのです。まだおトイレは浸透していないのです。ロガリ大陸の人たちだけでもこれだから……」
「イフ大陸、新大陸の観光客が今後来るとなると、私たちのダンジョンが糞尿まみれになるね。厳罰化を考えないと……」
「そこは当然ですね。私たちの家が汚されるのは嫌ですから」
「となると、セラリアたちに直談判しないとね」
「ん。おトイレはおトイレで」
そんなことを話しているのは、アスリンたち子供清掃部隊。
ウィードから冒険者ギルドに依頼を出しているもので、子供たちにお祭りの期間中、お祭りを楽しみつつ、ごみを集めるということをしてもらっている。
今回の大陸間交流会議はお祭りも開催していて、ロガリ大陸各国から観光客が訪れている。
大陸間交流を始めましたよ、という大々的な宣伝にもなるからだ。
それに伴う、観光客の増加で、ゴミも増え、トイレ事情も悪化している。
元々トイレという概念が無い人たちに教えるのはなかなか難しいものだ。
それがイフ大陸、新大陸の観光客もとなると大問題だな。
メモをしてちゃんと議題にあげよう。
「はぁ? 商業区のお菓子が思ったより減りが早い? チョコレートが消えた? 在庫は沢山用意してたでしょう? 箱買いのお客さんがおおくて? 今回は1人あたり3つって制限を……、一個じゃなくて、箱買いを3つまでと勘違い? 4号店の店長は馬鹿か!! というか、私になんで連絡が……、代表は露店の対処で? あーもう、朝食を食べたら行きますから、そっちは……」
「今更用途不明の予算が見つかった? テファは? 他の用途不明予算の対処に? ……分かりました。朝食が終わればすぐに向かいます。え? 今から? 馬鹿をいわないでください」
「酒を飲んで暴れた冒険者の引き取りを? そんな迷惑なの祭りが終わるまで留置所にぶち込んでおきなさいよ。そうもいかない? ロックさんもキナもいないから引き取りは私しかない? だから……、え? 私がいかないならグランドマスターに? それは待って、あの人は今日の会議に出ないといけないから、あーもう、私が出るわよ!!」
ラッツ、エリス、ミリーも相変わらずの忙しさのようだ。
「はい。エルジュ様。どうしましたか? 飛び込みの患者が予想以上で手が回らない? ですが、私が行ったところで……はい? 病院を見たいがためにちょっとしたけがで来る人たちが? なるほど分かりました。本当に治療が必要な人の為に病院はあると私が言いましょう。応援として、リテア教会のシスターにも頼みますから、はい、お願いします。リテア聖国の同意ですか? いまさらいらないでしょう。アルシュテール様はできる人ですから」
ルルアもルルアで病院に外交官にと忙しい。
というか、アルシュテールは放置決定されたようだ。
ある意味信頼されているという証だけどな。
「はい。今度は市場の細かい資料を? それは、また後日と……国家間取引ではなく、ウィード市場の相場を? しかし、それはウィードの市場の相場であって、ジルバとは……、とにかく必要ですか。分かりました。ですが時間はかかります。今はまず本日の会議を……」
「また、ブレード陛下がいなくなった!? あの人はー!? 至急ウィードの警備と連絡を取ります。近衛も一緒に? もう、その近衛は首にしてくださいませ!!」
「ん。イニス姉様なに? 今から朝食なんだけど……。ケーキの美味しいお店を会議の後で紹介してほしい? まずは、会議が成功しないと、無理。……失敗しても連れていけ? 駄目。成功が条件」
で、更に忙しいのが外交官の嫁さんたち。
こっちに要人が来てからは寝るとき以外は何かしら連絡や仕事をずっとしている状態だ。
まあ、各国の王たちはウィードを見て喜んでいるからいいことなんだが、その分仕事が激増している。
そして、一番やばいのが……。
「あ、はい。はい。またですか。……わかりました。では、朝食が済み次第向かいます。3人は予定通り、用意をお願いいたします」
そう言ってシェーラが連絡を取っている相手、カグラたちだ。
カグラたちは新大陸の国家を引き連れてきている。
そして、フィンダールのように戦闘や、王都でゲートをでかでかと設置したわけでもないので、ウィードに対する不信感は強い人が多かったのだ。
それを今の今まで抑えて、ゲートを通して、ウィードに連れてきたのだが、今度は掌を返すといっていいのか、それともウィードをいまだになめているのか、俺たちの情報をもっと開示させろと、カグラたちに迫っているらしい。
まあ、俺たちに言ってこないだけ、まだマシなんだろうが、小娘外交官であるカグラたちには言いたい放題で、カグラたちは大陸間交流会議が始まる1週間くらい前から色々と大変なようだ。
ああこの手の輩に限って、ハイデン王やキャリー姫には文句を言わないのはお約束だ。
「シェーラ。カグラたちは大丈夫そう? きつそうならこっちに退避させてもいいわよ?」
セラリアもカグラたちの現状は知っているので、シェーラにそう話しかける。
「いえ。ご心配なさらず。カグラさんたちに文句を言ってくる輩は、カグラさんたちやキャサリンさんをバカにしていた連中なので、既に処理を進めています。具体的にいうのであれば、証拠を集めています。盛大に自分の墓穴を掘ってもらいましょう」
「あー、そんなことをしていたの?」
「まあな。カグラたちの様子がいくら何でもおかしくなっていたからな」
会議開催が近づくにつれて、顔色が悪くなっていた。
最初はただの疲れかと思っていたが、そういういじめや脅迫があったようだ。
まあ、疲れたというより、暗くなっていたからな。
発覚の経緯は、リリーシュとハイレンに体調を見てもらった時に口を割らせたというか、泣き出したそうだ。
小娘が、役に立たない、代われ、成り上がりもの、体でも売った、などなど、俺にとっては負け犬の遠吠えなので失笑、爆笑ネタなのだが、お年頃のカグラたちにはぐっさりと効いたらしい。
なので、俺が復讐を提案。
小型カメラを持って、カグラたちをいじめる現場を録画してもらって後日提出してもらう予定だ。
盛大に墓穴を掘って入ってもらう作戦に賛同して今に至るということだ。
というか、カグラたちの方が何倍も役に立つからな?
御三家の次女とはいえ、御三家の一員それも巫女に、そんな威圧的にでて無事に済むと思う連中がいることがびっくりだよ。
「つかえねーなら最初から交代してる。お前たちしかいない。ってカグラたちに言ってやったからな。ああ、ミコスやソロとか親に圧力かけるとかも言われたようでな。今後は支援してやるから、その役と代われってな。あとは、愛人ぐらいにはしてやるともいわれたみたいだな」
「そのクソは殺しなさい」
「だから墓穴を掘ってもらっている」
ミコスやソロはカグラよりも顔色悪かったからな。
2人はその貴族たちの言いなりになるつもりでいたらしい。
まあ、身内に手を出すと脅されたらそうなるよな。
利害関係も、ミコスとソロの感情を考えなければ、まあ悪い話ではない。
だが、こういうことを提案してくる連中が、約束を守るとか到底思えんがな。
リリーシュとハイレンはいい仕事をした。
こういう陰湿な手で、こっちの手駒が減るのは何としても防がないといけないからな。
キャリー姫にとっても、ミコスとソロはカグラと仲の良い、王宮の政争に関わっていない有用な人材だからな。
このことを教えたら青筋が立っていた。
「ま、そこらへんのフォローはしているから、セラリアは開催国の元首として立派な働きを期待するよ」
「はぁ。あれはあれで疲れるのよねー。どうせ挨拶だけじゃなくて、そのあと会食で色々あるんだし」
カグラたちも大変だが、セラリアだって大変だ。
いや、忙しくないメンバーはいないといっていいだろう。
キルエやサーサリは少人数で子供たちの面倒だしな。
一応、ごみ回収が終わったアスリン達が応援に戻る予定ではあるが。
「というか、あなたも挨拶と会食はあるでしょうに」
「まあな。でも、俺はあくまでも王配だからな。そして性格は知られているし、のらりくらりとやるさ」
「あなたが会議をぶち壊さないでよね?」
「大丈夫、大丈夫」
俺のことで怒ってくる奴はある意味敵認定できるからな。
そういうことも各国の王には通達済みだ。
いやー、どれだけ不満たらたらの連中が来ることやら。
録画云々はカグラたちだけじゃねーんだよ?
他の国の連中もふるいにかけられているって分かってるかね?
と、そこはいいとして……。
「よし、みんなそろったな。色々忙しいが、今日も一日ご飯を食べて元気に行こう」
「「「はい」」」
「いただきます」
「「「いただきます」」」
さあ、俺たちの激動の一日が始まる。
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