第746堀:これがめがみぱわー
これがめがみぱわー
Side:ユキ
世の中には納得のいかないことは結構多い。
理不尽なんてどこにでも転がっているし、それで涙を流す人なんて、世界中に山ほどいる。
しかし、納得のいかないことは悪いことだけではない。
幸運な出来事も実はどこでも転がっているし、それを歓喜する人も世界中に沢山いる。
意外なちょっとした出来事で物事が解決することはざらにあることだ。
見方を変えただけで、解決策が見えてくる。
まあ、それだけの話なんだが……。
「あの子たちは普通に学校に通ってたわよ?」
「は?」
「「「ええ!?」」」
「ああ、正確には昨日かららしいけど」
と、俺の理解が追い付かないことを言うのはセラリアだ。
本人は頼んだコーヒーを優雅に飲んでいるが、俺やカグラたちは驚きの声を上げることになっている。
いや、理解はできる。
セラリアが言っているのは、登校せずに教会で過ごしている生徒の話だ。
俺がカグラたちを連れて事情を聞いてくるといってから、解決の報告書を作り終えてもってくるまで、約2日しか経ってない。
この短期間に一体何があったのか?
正直、シーサイフォ王国が銃器製造をしている可能性よりよっぽどびっくりだよ!?
「つまりなんだ? セラリアが話を聞きに行った時には、もういなかったってことか?」
「そうそう」
「い、いったい何があったのか、聞いていいですか?」
「別にこれといって何かあったわけでもないのよ。私が昨日昼食を兼ねて、教会に顔を出したんだけど……」
『リリーシュ様。どうも』
『あらー。セラリア女王陛下。どうされましたかー?』
『どうっていうと。子供たちのことですよ。ほら、ユキがカグラたちも連れて行っちゃったから』
『ああー。あの子たちですかー。大丈夫ですよー。今日から登校してますからー』
『はい?』
「という感じだったのよ」
「まさに、はい?って感じだな。詳しい内容は? 何があって学校に行かなかったんだ? それは教えてもらえたのか?」
「ええ。今後の教育に役立ててくださいって言ってね。けど、登校しなかった理由はバラバラよ」
そこからは、まあ、ありきたりといっては何だが、そんなことで、と大人は思う内容での登校拒否児が教会に集まっていたことが分かった。
具体的には「勉強についていけない」「逆上がりが出来ない」「友達と喧嘩した」などなど、そういう話ばかりで、ついぞ「いじめられた」という単語は出てこなかった。
我が校にいじめの存在は確認できませんでした!!
いや、表ざたになってないだけかもしれないけどな。
取り合えず、定番のセリフを言えることになるとは思わなかった。
自分が当事者だと必死になるよな。学校の評判にかかわることだからな。
「でも、なんでいきなり解決したのかなー? ミコスちゃんたちはその子たちと関わり合いになることはなかったですけど?」
「アスリンちゃんたちかもしれないですよ?」
そんなことを話していると、喫茶店にシェーラたちが入ってきた。
「失礼します。セラリア女王陛下がこちらにいるとお聞きしたのですが……」
「こっちよ、シェーラ。いまユキたちとお茶しているんだけど、何かあったの?」
「ああ、ユキさんも来てたんですね。ちょうどよかった。聞いてください。学校で……」
「お兄ちゃん。学校に来てたよー!!」
「兄様、リリーシュ様の所にいた子供たちが登校してきたのです」
「カグラたちが上手くやったの? 助かったわ」
そうアスリンたちが嬉しそうに言ってきた。
間違いなどじゃなさそうだな。
「シェーラたちからも報告が来たってことは間違いなさそうね」
セラリアもシェーラたちの言葉を聞いて、半信半疑だったのが確信に変わったようだ。
まあ、それぐらい急な話ってことだ。
「え? どういうことでしょうか? 既に知っているみたいですが?」
俺たちの反応を見たシェーラは首を傾げている。
「ああ、今さっき、セラリアから教会にいた子供たちが学校に登校しているって話をきいたよ」
「私も気になっていたからね。お忍びでというか、リリーシュに会うついでに話を聞きに行ったのよ。そしたら、その話がでてね」
「なるほど。だから知っていたのですね」
「でも、よかったじゃない。カグラたちが頑張ってくれたおかげなんでしょう?」
「凄いのです、カグラ姉様たち!!」
「すごいよねー!!」
そう褒めたたえるアスリンたちにすごく微妙な顔をするカグラたち。
まあ、自分たちが何もしていないのに、褒めたたえられても困るよな。
「あ、いや……。ごめんなさい」
「ごめん。ミコスちゃんたちじゃないんだよ」
「はい。私たちは何もしていないんです」
「……精々、二度三度、声をかけたぐらいね」
そう苦しそうに答えを返す4人。
アスリンたちの尊敬のまなざしを否定するのはさぞ心が苦しいだろう。
しかし、包み隠さず真実を告げたカグラたちの評価は俺の中では高い。
こういう真実を告げることは、情報を集める上では絶対大事だからな。
人間、ごまかしたくなる時もあるものだ。良きにしろ悪いにしろ。
そこで、素直に真実が告げられるというのは美点だ。人によっては駄目だというかもしれないが、俺は評価する。
まあ、空気読めというところはあるが、仕事において誠実さは絶対に大事だ。
で、その否定の言葉を受けたフィーリアたちは首を傾げる?
「あれー? でも、みんなお姉ちゃんに言われて学校に行く気になったって……」
「うん。そう言っていたのです。実際カグラ姉様たちに声をかけられて嬉しかったって」
「「「?」」」
今度はカグラたちとアスリンたちが一緒に首を傾げる。
うん。なんというか、美少女たちが揃って首を傾げるのは絵になるな。
同性じゃないが、素材の差というのを実感して、少し腹立たしい気がする。
「と、多分だが、アスリンが聞いたお姉ちゃんに言われてってのが解決してくれた人だろうな」
「あ、そっかー。カグラお姉ちゃんのことばかりかと思ってた」
「そういえば、カグラ姉様たちは教会の方には行ってなかったのです」
その通り。カグラたちは直接の接触を避けてまずは、学校内に問題が無いかを調べていたんだ。
不登校の子のクラスとか名前を調べるためにな。
「ん? そうなると、エノラが二度三度話をしたっていうのはどこでだ?」
「公園にいたところで少しね。見かけてたまたま」
「そこで、学校に行くように言ったのか?」
「いいえ。そんなことはなかったわ。そこまで突然に言えないわよ」
「かえって学校に来なくなりそうですし……」
まあ、そりゃそうだよな。
「その時の様子は?」
「普通に子供たちが遊びに来たってかんじですよ。ミコスちゃんたちは学校の帰りで休憩してたんですよ。その後外務省の仕事でしたし」
「ええ。とりあえず軽く話をして終わっただけで、それがきっかけとは……」
「思えないです」
「そうね」
4人ともその会話が改善のきっかけだとは思っていないようだ。
まあ、俺も同じ意見だ。
他人からちょっと話しかけられて、不登校が治るようには思えない。
なんというかスッキリしないことを皆で考えていると、不意に窓から子供たちの声が聞こえてくる。
「ねー。セラリア様ってどこにいるのー?」
「こっちかな?」
「というか、本当にここでセラリア様みたのかよ?」
どうやら、子供がセラリアを見かけて探し回っているようだ。
俺たちは、現在行きつけの喫茶店にいるので、子供達には難易度が高い場所かもしれない。
「セラリア出てってやるか?」
「うーん。これで堂々と相手にすると、あの子たちだけじゃなくなるからね。可哀想だけどやめておくわ」
まあ、当然の答えだ。
セラリアはこのウィードの女王陛下であり、その気さくさからかなりの人気を集めている。
ぶらぶらと街を出歩くこともよくあり、その都度人に囲まれる。
今回も同じようなことになるだろう。そうなれば、子供たちは結局相手にできない。
無駄に騒がす必要はないわけだ。
そんなことを話していると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「なー。ハイレン、本当に見たのかよ?」
「まっかせなさい。女王様を確かにここら辺からビンビン感じるわ」
「ハイレン。感じるってなに? みたんじゃないのー?」
「ふふん、私は魔力を探知できるのよ」
「「「おおー」」」
そっと窓から様子を覗いてみるとバカという名のハイレンがいた。
「あいつは、何をやっているんだ」
簀巻きにして返したばかりでこれかよ。
ソウタさんとエノルさんのところから逃げ出しやがったな。
そう思っていると、カグラたちが声を上げる。
「あの子たちって、不登校になってた子じゃない?」
「うん。あの子たちだよ。ミコスちゃんに間違いはない」
「でも、なんでハイレン様が?」
「さあ、なんでかしら?」
そう首を傾げるカグラたちに対して、アスリンとフィーリアは納得の表情を見せている。
「あ、そっかー。教会で遊んでたから、お友達なんだね」
「なるほど。アスリンの言う通りなのです。確かにお友達なのです」
まあ、同レベルだからな。
友達で確かに問題はない。
「まあ、アスリンたちの話は分かるけど、今一緒の理由がわからないわね」
「遊ぶなら、別のところがいいですし、セラリア様を見かけたという理由が弱いですね」
しかし、ラビリスやシェーラの言う通り、なんで一緒にいるのかさっぱりわからん。
同レベルだから一緒に遊ぶのはいい。だが、こんな所よりも公園とかの方がいいに決まっている。
セラリアを追ってきた様子だが、何が目的かさっぱりわからん。
自由人の生態系は不明すぎるな。
と、ハイレンを見ていると……。
「私はちゃんと約束は守るわよ。あんたたちはちゃんと無事に学校に行ったみたいだしね」
「うん。ハイレンとの約束守ったよ。公園にいたお姉ちゃんたちも優しかったし」
「がいこくじんが頑張っているのに、俺たちが行かないってのは変だしな」
「あんたの場合は勉強がついていけなくて逃げてただけでしょーが」
そう言ってハイレンはこつんと拳骨をする。
「しかたないだろー。わからないものはわからないんだから」
「私と一緒にべんきょーして覚えてたじゃん」
「ハイレンが覚えられるなら俺にも行けるとおもったんだよ」
「ふふーん。私は勉強できるし、教えるのも得意だしねー。あ、それに君は別に学校はこわくないでしょう?」
「うん。公園のお姉ちゃんたち優しかった。村にいた時は、年長にご飯を取られてたから……」
「あー、そういうのいるよねー。でもこのウィードの学校は大丈夫だから。でも、何があるかわからないから、そういう時は、この前あった公園のお姉ちゃんたちに助けをもとめるといい。あと、アスリンたちにも」
「アスリン様を呼び捨てっていけないんだー」
「いーのよ。そのぐらいで怒るような子たちじゃないわ。お友達だからね」
「えー? というか、なんでハイレンは学校にいかないのー」
「私はシスターだからね。お仕事があるのよ」
……どうやら、子供たちが登校してきたのは、ハイレンのおかげのようだ。
それをみんなも理解したようで……。
「はぁー。なるほど。ああやって子供たちの不安を取り除いていたのね」
「やるじゃない」
「ええ。見直しました」
「ハイレンお姉ちゃんすごいね」
「ハイレン姉様やるのです」
「やはり、ハイレン様は女神だったのね」
「すごいよね。あの自然と仲良くなるの」
「はい。ハイレン様。すごいです」
「流石。私たちが崇め尊敬する女神様ね」
ハイレンのことを素直にすごいと思う喫茶店にいるメンバー。
しかしだ。嫁さんたちは勘違いをしている。
いや、女神だからといって、人を救済するは当たり前だとかは言わないが……。
こんなことで株を上げる女神ってどうよ?
そして、俺はハイレンの特性に戦慄していた。
確か前にハイレンに食料をばらまかれた時、結果的にそこの避難民に支持されるようになったとソウタさんに聞いた。
つまりだ……。
ハイレンは、自分が引き起こした問題を結果的にプラスにして、問題行動を帳消しにできる超・厄介なやつなのだ。
だから、ソウタさんやエノルさんは強く言えなかったし、強制もできないわけだ。
まあ、失敗をやらかしたその場では叱責できるが、あとでそれを忘れるほどの「いいこと」が起こるのだ。
この場みたいに、ほら……。
「はぁ。ハイレンが頑張ったなら私が出ないわけにもいかないわね」
「そうですね。私たちも今後ちゃんとお話をしてもらうためにも、ここで挨拶に行きましょう」
ということで、みんなそろって子供たちの前にでて……。
「うわー!! セラリア様たちだー!!」
「すごい。綺麗……」
「すげー!! ハイレンの言ったこと嘘じゃなかった!!」
「どーよ。私は嘘はつかないわよ」
……まずい。ハイレンはこうやって調子に乗っていくのだ。
俺にとって、ある意味。ルナよりも難敵になりかねない。
こういうタイプは他人の予定など考慮するわけないからな。
みんなが笑顔の中、俺は今後どうやってハイレンを巻き込まずにこっそりやるかを真剣に考えていた。
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