第745堀:嫌な予感はするけれど

嫌な予感はするけれど



Side:ユキ



ああ、予想を外して恥ずかしいわー。

どや顔で、情報がまだ追いついていない可能性もあると言っちゃった。

いや、まあ、別にそこまで恥ずかしいってわけじゃないけどな。

あくまで予想の一つだっただけ。


「録画を見直しても、なんというか、物資援助をするのが目的みたいだしな」

「ですねー。でも、シャベルを使ってっていうのは違和感がありますけどね」


リーアは納得がいかない感じで、シャベルを見つめる。


「さっきも言ったが、この道具にどう反応するかを見極めたいんだろう? 実際戦争だけじゃなく、農作業はもちろん、土木工事にもかなり使えるものだからな」


シャベルは伝説の武器の一つに数えられるが、汎用性にも優れ、様々な場所で使われている。

一家に一つぐらいはあるだろうというレベルだ。

小さいスコップになっている家庭もあるだろうがな。

プランターとかで植物を育てるには、スコップが一番だ。


「お兄様。話は分かりましたが、これからどうされるのですか? キーズという使者の方に怪しい動きは見られませんでしたが?」

「マジック・ギアはおろか、本当に武器らしきモノは全部城門の兵士に預けていたわよね。しかもそっちの武器も大したことはなかったし」


ヴィリアとドレッサの言う通り、シーサイフォ王国の使者にはこの城に来てから出ていくまで怪しい動きはなかった。

まったくの白だ。

まあ、交渉したいことがあるのに、疑われるようなことは普通しないよな。


「あの人は本当にお話をしに来ただけ」

「ヒイロの言う通りだろうな。使者って言うのはそれが第一の仕事だ」


それができないなら、ただの無能ってことだ。


「で、これからどう動くかだが、新大陸の動向は気になるが、今すぐどうこうというわけでもないからな。物資が届くまで3か月。その前に第二陣の使者が来るって話があるだけだな。その時にはまた呼んでもらうとして、こっちは、大陸間交流にいったん戻ろうと思うが、ハイデン王と、姫様はそれでいいか?」


そう言って、ハイデン王とキャリー姫に視線を向けると、特に考えこむこともなく頷いて同意してくる。


「ああ、構わないぞ。むしろ、大陸間交流が始まってくれた方がこちらとしては、今後の展開にも優位に立てる」

「陛下の言う通りですわ。シーサイフォ王国が様子を窺ってくるというのなら、わかりやすくウィードの存在を知らせればよいのです。そうすれば、喧嘩を売るよりも、交易をした方がいいと思うはずですから。そのためにも大陸間交流の開催は必要不可欠ですわ」


まあ、今後シーサイフォ王国への情報収集は必要ではあるが、優先するべきは大陸間交流の開始だ。

それさえできれば、アクエノキが動こうが、シーサイフォ王国が喧嘩を売ってこようが、俺が自由に動けるんだ。

大陸間交流自体が巨大な抑止力となるわけだ。

しかも初回の開催は俺がいる必要があるだろうが、あとは勝手にやってくれという話になる。

確かに、大きな会議には顔を出す必要はあるだろうが、細かい会議にまで俺が参加する必要はない。

交渉に関しては第三者を交えて公平性を保つ必要はあるだろうが、俺がその役を常時していたら死ぬからな。


「じゃ、俺たちは大陸間交流の方へ戻る。姫様たちは、まだシーサイフォ王国の対応に当たるか?」

「いや、キャリーたちも一緒に戻るといい。シーサイフォ王国の件はこちらで様子をみる。何かあれば連絡を送る」

「わかりました。では、カグラ、ミコス、ソロ、バイデへ戻ります」

「「「はい」」」


さて、ここでの話は終わったし、バイデの戻ろうとしていると……


「あれ? もう帰るの? シーサイフォ王国とアクエノキをぶっ飛ばす話は?」


バカがアホなことを言っていた。

何も話を聞いてねぇ、こいつ。


「元からそんな予定はないわ。ほら帰るぞ」

「えー!? 私、何もしてないよー!! なんのためにキャリーたちに加……もごっ!?」

「おほほほ!! ハイレン様がわざわざ私たちに加わってついてきてくれたのですが、何事もなくてよかったですわ!! さ、行きましょう!!」

「ん? ああ、まあ気を付けてな」


幸い、ハイデン王には伝わらなかったが、無駄に墓穴を掘ろうとするので、キャリー姫に口を塞がれたまま簀巻きにされて、バイデまで運ばれたのは言うまでもない。

無論、さるぐつわを噛ませてだ。喋るだけでも災害だな。こいつ。


「もがー!? もごー!! ぷはっ!! 私が何したっていうのよ!? ひどくない!?」


そして、なぜ自分がこんな扱いを受けているのかすら分かっていない。


「色々やっただろうに……。最後は加護のことまでばらそうとしやがって」

「あ、あれはついよ。つい」

「ユキ様。私は気にしておりませんわ。まずはハイレン様のことよりも、シーサイフォ王国からの使者の話をフィンダールの方々や大司教様にもお伝えしなくては」

「私のことよりも!?」


いや、お前のことよりも優先度は高いからな?

というか、もう用はないから、お前は帰れ。と素直に言ったら……。


「いやよー!! これで帰るわけにはいかないわ!!」

「いや、これから、ただの会議だぞ? シーサイフォ王国の方はとりあえず様子見だ」

「え? 殴り込むんじゃないの?」

「本当にお前は話をきいちゃいねーな。とりあえず、このことはソウタさんやエノルさんに話しておくから、存分に絞られて来い」

「いやーー!? 絶対怒られるわよー!?」

「怒られてこいや。スティーブ、この駄目神の輸送を任せる」


ということで、バイデに呼んでいたスティーブにバカの配送を任せる。


「へーい。というか、おいらは運送会社じゃないんっすけどねー」

「スティーブ。離して!! 私は怒られたくないの!!」

「……自覚があるんなら、もうちょっと考えて動くことをお勧めするっすよ」

「仕方ないじゃない。困っている人を助けるのは人の在り方でしょう?」

「……さも当然のように言わないでくださいっす。確かに困っている人はいるっすけど、それで大将たちが困っているんすから、一度相談するなり、ちゃんと話を聞くなりしてくださいっす」

「うぐっ!? なんかすごい正論を言われた気がする。でも、結果的にみんな幸せでしょう?」

「結果論はだめっす。とりあえず、ソウタさんやエノルさんからも問答無用って言われてるんで、行くっすよ」

「いやぁぁぁぁ……!! だれか、たすけっ!! 助けてッ!! ピーマンを食べさせるのよぉぉぉぉ……」


どこの子供の罰だよ。

というか、ピーマン食えねえのかよ、お前は。

しかし、スティーブに引きずられて行く様はどこかのホラー映画を思い出させるな。


「「「……」」」


で、あまりの事態に沈黙するバイデに集合している新大陸メンバー。

無論、ウィードのメンバーは平常運転で会議再開の準備をしている。


「さて、ハイレンのことはいいとして、シーサイフォ王国から来た使者の話だが……」

「そ、そうですね。一体どういう話があったのでしょうか!!」

「……私は何も見ませんでしたし、聞きませんでしたぞ。さ、お話をお聞きしましょうか」

「はぁ、ハイレン様のイメージが……。いえ、今は私はウィードの民。ルナ様の忠実な信徒ですから」


最後にキャサリンがいつの間にかルナを信仰の対象にしているな。

……宗教は人によって自由と、八百万の神々を信じる日本人としては言いたいんだが……、ルナの本性を知っている身としては、どうも心配になるなー。

いや、ルナの場合、無茶ぶりを言う相手は決まっているからわきまえてはいるんだろうが……。

難しい問題だ。あとで嫁さんたちに相談するか。

ハイレンは何も考えてないが、ルナの場合はさらなる面白いことのためにという厄介なことが隠れているからなー。

というか、ハイレンの信徒を奪っていいのか?

いや、多信仰はOKだから問題ないのか?

ま、それはいいか。

さっさと、会議の話をするとしよう。


「……映像記録はこうなっている、その場に居合わせた俺たちの判断としては……」


ということで、映像記録を見せながら、シーサイフォ王国の訪問に驚きはしたが、結果として周りの国から見れば当然の反応ともいえる話だったと待機のメンバーに伝える。


「なるほど。まあ、確かに当然といえば、当然の反応ですね」

「ですな。戦争中あるいは戦争が終わった相手の様子を窺うのは当然のことですな」


フィンダールのスタシアやジョージンは納得の様子。


「しかし、真意がどうであれ、シーサイフォ王国や近隣の国にアクエノキの被害が及んでなくてよかったです」


エノル大司教はアクエノキのことを聞いて、ほっと一安心のようだ。

そりゃそうだよな。

アクエノキが被害を振りまいたら、洗脳されていたとはいえ、元はハイレ教の信徒だから責任追及はきついものとなるだろう。

しかも拷問までやってたからな。ハイレ教の権威低下は避けられなかっただろうな。


「しかし、ウィードでも正式採用されているシャベルをですか……。確かに気になりますね」


キャサリンがそう言うと、全員頷く。

引っかかるのはそこだよな。


「ざんごうでしたかな? 確かに銃をつかった主戦場では非常に有効な道具となりますな」

「……厄介な話ですね。シーサイフォ王国は銃に関する技術を手に入れている可能性が高い」


俺の説明だけで、シャベルの有効性や、俺が懸念しているシーサイフォ王国の技術力に思考が及んでいるフィンダールの2人は本当に鋭いというか、できる人たちだ。

将軍職を務めているからか?

1人は現役で、1人は元だが。


「フィンダールの言う通り、シーサイフォの技術力に不安がある。海戦にも強いと噂だしな。とりあえず、こちらからも偵察を送りたいところだな」


シーサイフォ王国はアクエノキが係わっているかどうかにかかわらず、俺の中で一番警戒度の高い相手になっている。

地球での戦争の在り方を一変させた兵器。その銃を導入したかもしれないからだ。

どこまで技術力が上がっているかは不明だが、それでもこれまでの敵と同じだとは思わない方がいいだろう。

今までの敵は、隊列を組んで突撃をしてくれるありがたい時代錯誤の相手で、長距離から一方的に攻撃できる銃のおかげで余裕で勝てたのだが、シーサイフォ王国にはそれが通用するかわからないからだ。

まあ、このハイデンまで徒歩と馬で来ていることからそれ相応の銃器なんだろうが、油断をするつもりはない。

イフ大陸におけるタイゾウさんが所属してたヒフィー神聖国レベルだ。


「でも、おかしいわよね? 銃のことはハイデン王国でもすっかり忘れ去られているのに……」

「魔術の方が効率いいからねー」


そう話すカグラとミコスの話にみんなも頷いて同意をするが、俺はある一つの嫌な予想を立てていた。

それは……。


「ユキさん。これって、タイゾウさんの時みたいに、シーサイフォ王国に……」

「言うな。言ったら現実化しそうだ」


リーアが言おうとした言葉を止める。

そう。この問題は、また地球の人間が係わっている可能性が高いのだ。

……まあ、とはいえ証拠があるわけでもないので。


「とりあえず。シーサイフォ王国のことは物資が届いてから考えるとして、まずは大陸間交流をしっかり進めて、足元を固めましょう」


なにはともあれ、まずは大陸間交流を図り、同盟国の足場を固めるのが、ハイデンとフィンダールのためになる。

それが最優先だ。



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