第743堀:使者との対談
使者との対談
Side:ミコス
私こと、ミコスちゃんたちは今、極度の緊張の中にあった。
それは……。
「初めまして、この度は急な訪問に対応していただきありがとうございます」
「いえ、シーサイフォ王国の申し出とあらば、ハイデンも喜んで迎えさせてもらいますわ」
キャリー姫様と一緒に、シーサイフォ王国の使者の対応をしているからだ。
いや、基本的に対応はキャリー姫様がするけど、問題はそこじゃない。
シーサイフォ王国は敵かもしれない。まあ、それはいいんだよね。何かあればユキ先生が助けてくれるというのは分かりきっているし。
そんなことより問題は……、ユキ先生にこの部屋は監視されていること!!
陛下の助力要請にユキ先生は喜んで引き受けてくれたのだが、その方法が、カメラで話すことを記録するということだった。
まあ、記録ができればあとで、言った言わなかったとかは簡単に立証できるし、そこには何も文句はない。
だけど、その映像記録の中には、私たちも写っている。
なぜ知っているかというと、偶然見つけてしまったからだ。
わざとでしょうこれ!? 私たちの反応みるつもりだよね!?
つまり、下手な失敗はできない。永遠に記録が残るわけで、さらにはこの後、皆の前で見られるのだ。
ユキ先生にいいところを見せようとかではなく、他の偉い人たちにもみられることになるから、色々な意味で、私の人生がかかっているのだ。
ありていに言えば、ミコスちゃん超ピンチ!!
と、そんなミコスちゃんの思いはお構いなしに、話は進んでいく。
「しかし、キャリー姫様が直々に我々の対応をしていただくというのは驚きました」
「この度の事件でハイデン内部にもアクエノキ、狂神信者が多く潜り混んでいまして、随分処罰したせいで、人が足りていないのです。若輩者で多々知らぬこともあると思われるかもしれませんが、どうかお付き合いくださいませ」
「いえいえ。そのようなことはございません。むしろ、今の、姫様の対応のほうが、好感が持てます。なるほど、我々に対して高圧的に出ていたのは、その狂神信者たちだったからですか。納得がいきました」
「……そのようなことがあったのですね。大変失礼をいたしました」
驚愕の事実。あの馬鹿共はシーサイフォ王国にまで喧嘩を売っていたらしい。
「別に姫様が悪いわけではないですし、謝罪は今いただきましたので、咎めるようなことはありませんし、国の方には伝えていませんから」
「ありがとうございます。しかし、なぜ国の方には伝えていないのですか?」
「あははは……。魔法技術はどうしてもというのがありまして……、それに元々こういう外交の場では、威圧的に出ることなどはよくありますからね」
なるほど、それで今まで穏便に済んでいたのか。
下手したら、このまま開戦ってのもあったのかもしれない。
ほっんとうに、迷惑な奴らだ。
「お互い、国の為に苦労しますね」
「大変ですが、やりがいのある仕事ですわ」
「その受け答え、お見事です。では、雑談はこれぐらいにしておきまして、さっそく使っていただきたい、物を紹介いたします。私の荷物は?」
「はい。カグラ?」
そこでようやく私たちの出番が回ってきた。
控えていた私たちは姫様に指示をだされて、すぐに使者の荷物を持って机に置く。
「こちらでお間違いないでしょうか?」
「はい。ご丁寧にありがとうございます。と、失礼ですが、こちらの女性たちのことをお聞きしても? どうやら、メイドのようには見えないのですが?」
「流石は使者殿。その通りです。誤解というか、邪教徒の陰謀から始まったバイデの防衛戦に於いて、学生の身でありながら私の片腕、そして伝令として活躍した、カグラ・カミシロ、ミコス・ジャーナです」
あれぇー!? なんか私も大活躍した風に言われてるよ!?
「おお。それはそれは、噂に名高い、伝説の御三家であるカミシロ家の次女であり、バイデを守り通した大魔術師様ですな」
「ふえっ!? あ、し、失礼いたしました。そのような評価を受けているとは思わず」
カグラが、使者のコメントに変な声を上げる。
まあ、仕方がないよね。そんな風に伝わっているとは思ってなかったし。
「驚かれているようですね。まあ、噂話など色々誇張されて伝わるものですから、笑って流されるといいですよ。否定しても肯定しても色々めんどうですから。しかし、雷を落とすのはともかく、いきなり大地を大軍ごと沈めたという話は、些か誇張がすぎますね。そんなことを言われては流石に困るでしょう」
「あははは……」
あ、それ。ユキ先生。
「そして、そのあと、混乱するフィンダール軍に果敢に忍び込み、会談の場を整えてくれたミコス殿ですね。いや、その勇気に敬意を表します。男だの女だの関係ない。大事なのは心だと」
「ふぁっ!?」
何それ!?
それやったのはシェーラちゃんたちだよね!?
流石にこれは、不味いでしょう!! と思って姫様に振り返ると……。
「機密事項に当たるのですが、やはり話は伝わっていましたか」
そう笑顔で返した。
はい? どういうこと?
「ははは。人の口に戸は立てられないというやつでしょう」
そう笑って返す使者さんに混乱していると、いつの間にか姫様が近づいて来て……。
「あの戦いは、諸外国には、あくまでもウィード主導ではなく、私たちが動いたから勝てたということになっています。フィンダールとの会談の取り付けも私たちが行ったことになっているのです」
「はぁ? なんでそんなことを?」
「ユキ様のご指示でもありました。迂闊にウィードの実力を諸外国に知られたくはないことと、まずはハイデン、フィンダールの混乱を解決することが優先でしたから。まあ、ウィードの存在をいぶかしむ連中にとっては、良い隠れ蓑になったようです。ユキ様の大規模魔術もカグラの手柄になっているようですしね」
……なるほど。
他国はあまりウィードのことを信じていないのか。
ユキ先生たちの手柄をと思ったけど、指示なら仕方がない。
と、そんなことを耳打ちで話している内に、使者の人は荷物からあるものを取り出した。
「こちらが、今回使用してほしいモノですね」
そう言って、テーブル上に取り出したのは……。
「大きいスプーン?」
カグラはそう言って首を傾げた。
「はは、お嬢さん。おしい。まあ、似ているといえば似ていますがね」
確かに大きいスプーンに見える。
でも、この形どこかで……。
と、思っていると、横で黙っていたソロが口を開く
「これって鋤(すき)ですか?」
「はい、その通りです。よくお嬢さんはご存知ですね。あまり貴族の方はこういう道具を知らないはずですが?」
「あ、すいません。私……」
ソロが気まずそうに口を開こうとするが、その前に姫様が前にでて口を開く。
「彼女はソロといいまして、平民の出です。ご不快でしたら申し訳ない」
平民が対応するというと、いい顔をしないものは多い。
ソロは私たちと同じ外交官補佐ということで連れてきたけど、まずかったか。
守ってやらないと。そう思って私やカグラもソロの近くに集まろうと……。
「おや、そうだったんですね。いやいや、不快なんてとんでもない。私も平民の出でして、シーサイフォ王国は生まれ持っての身分ではなく実力で評価されますので、ソロ殿に不快感などありませんよ」
ほっ、それは良かった。
でも、実力で評価されるってやり方はウィードに似ているかも。
「と、そんな話はいいとして、ソロ殿の言う通り、鋤を改良したシャベルというモノです」
シャベル? ああ、思い出した。
シャベルって確か、ウィードの畑とか、戦場の訓練でよく使ってた道具だ。
……え? ウィードと同じものがある?
どういうこと?
私と同じように、使者が出したシャベルに心当たりがあったカグラとソロは目を見開いて驚いているように見える。
流石に声を上げてしまうわけにもいかないからね。物理的にクビが飛ぶし。
「なるほど。鋤とは違い丸みがありますね。カグラが言ったようにスプーンみたいに。これは土を掻き出すのには便利でしょう」
そんな私たちをよそに、全く驚いた表情を見せず、平然と話を続ける姫様。
やっぱり姫様ってすごいわー。
「はい。その通り。今までの鋤は土を掘り返すというより、土を混ぜるようなものでして、何かと不便だったのです。そこで、シーサイフォの技術部門が知恵を絞って改良したのがこれなのですが、他国に持ち込んでもあんまり受け入れてもらえず。失礼ではありますが……」
「戦争をやっていたハイデンに持ち込んだというわけですね。ハイデンが便利だといえば、他国もと」
「はい。その通りです」
なるほど。ハイデンを宣伝役として、これからシャベルを売り込もうって話か。
うん? でも、こんなに簡単だと……。
「しかし、このシャベル、構造は簡単なように見えます。すぐに真似されて量産されてしまうのではないですか? というか、こういうモノは自国で有効活用するべきはないでしょうか? 他国に重要技術を渡すような真似に見えますが?」
そう。姫様の言う通り簡単に真似できそうだ。
すぐに、真似されて儲けが無くなる気がする。
「はは。それはそれで構わないんですよ。シーサイフォ王国が初めに売り始めたといってもらればいいんです。そして、ハイデンにはなるべくシーサイフォから質の良い我が国のシャベルを引き続き買っていただければと」
「なるほど。強かですわね」
「まあ、タダで物資を提供するのですから、これぐらいは見返りを求めるのは当然でしょう」
つまり、シャベルならシーサイフォ!! というか、技術はシーサイフォが凄いよとハイデンに宣伝してもらうつもりなのか。
確かに、今ではガタガタで必死に立て直している所だけれど、それでも他国に対する発言力は高い。
「話は分かりました。こちらも、物資の提供に関してはありがたい話です。一緒に来てもらった司教様に契約に立ち会ってもらいましょう」
ああ、なんでエノラが一緒に来たのかと思ったけど、このために連れてきたのか。
「おお、精霊の巫女様がなぜ? と思いましたが、ハイレ教の司教様でしたか」
「この度は、我が信者が暴発し、色々ご迷惑をおかけいたしました」
「いえいえ。特に被害を受けたということはないですから、謝る必要はありません。この契約を見届けてくれれば幸いです」
「はい。この契約はハイレ教の名のもとに私、ハイデン教会のエノラが見届けます」
ということで、姫様は物資の供出を受ける代わりに、シャベルをつかって復興などの活動をすることを誓う契約を書くことになる。
無論、これは当初の狙い通りで、これでシーサイフォ王国へ赴く正当な理由ができたのだ。
マジック・ギアに関して何も話は出なかったが、適当に理由でもつけて調べることはこれで可能になったわけだ。
「では、荷物ですが……いつ頃に?」
「そうですね。なるべく早くがいいのはわかりますので、さっそく戻って手配をいたします。早ければ3か月後には」
「そうですか、迅速な対応感謝いたします」
「いえ、こちらから持ち掛けたことですから。素早く対応させていただきます。今回はよい取引をさせていただきました」
そう言って、話が終わったのか、席を立つ使者だったのだが、致命的にあることが抜けていた。
それとも、わざと避けているの? 私からいうべき? それともここは何も聞くべきではない?
そんな感じで、判断ができず迷っていると、姫様がにこやかに声をかける。
「そういえば、ウィードに関しては何も聞いてこられませんでしたが? 情報などは要りませんか?」
「うぃーど?」
使者の人は一瞬何のことか分からないと言った顔をしたけど、直ぐに思い出したようで……。
「ああ、確か、ハイデンとフィンダールの戦争を止めるのに一役買ったらしい小国の名前でしたね」
小国って、国土のことを言うなら、確かにそうかもしれないけど、ウィードのことを知っていれば小国なんて言葉は出てこない。
あれこそ、本当の大国。超技術が詰まった超国家だと思う。
「いえ、其方の国のことはまだ手が足りませんので、また後日ということで」
「そうですか。では、そのように」
「はい。その時はぜひお願いいたします」
そう言って、使者の人はでて行ってしまった。
「姫様。なぜ使者の方はウィードをあまり重要視していないのですか?」
出て行ったドアを見つめながらカグラそう姫様に聞く。
「ん? ああ、あまりウィードのことは情報を流していませんでしたから、あのぐらいが当然でしょう。各国の代表でも招いて証拠を見せない限り、名前を聞いたこともないウィードは侮られますし、私たちの国も見くびられてしまうでしょう。小国に膝を屈したと。ウィードのことを知らせるのは、諸国会議の時の予定でしたから」
「なるほど」
そうか、まだウィードのことは知らないのか。
そういえば、そんな話を聞いたような聞かなかったような……。
「ともあれ、使者との話は終わりました。シーサイフォ王国へ赴く理由もできましたし、まずは上々と言ったところでしょう。詳しい話はユキ様たちと合流してからです。このシャベルも見せなければいけませんし」
そう言って、姫様が視線を向けるシャベルはなんとなく、不安を煽るモノだった。
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