第742堀:覗き見る
覗き見る
Side:ユキ
「さて、準備はできたと。後はのんびり見物させてもらおう」
俺はそう言って、用意された部屋でのんびりモニターを眺めていた。
「あのー、カグラたちに何も言わなかったのは何でですか? というか、カメラの設置手伝ってもらった方がよかったんじゃないですか?」
そう聞いてくるのはリーアだ。
リーアはこういう作業は慣れているよな。
護衛でずっと俺と一緒だし、こういうことには強くなった。
まあ、入力関連が苦手だとは思わなかったが。
と、いかん。カグラたちに教えなかった件か。
「カグラたちはハイデン王と一緒に、使者と会う予定だからな。カメラを意識してもらうわけにはいかないが、気が付いているな、あれは。まあそこはカグラたちの頑張りどころとして、一番の目的は、カグラたちの反応を見て、使者がどう行動するかを見たいというのがある」
「カグラたちの反応ですか?」
「ある程度、噂が耳に入っているなら。カグラを紹介された時点で、使者はカグラに何か仕掛けようとするかを見たい。まあ、謁見のその場で王や姫を無視して話しかけることはないだろうが、控室に戻れば何かしら仕掛けてくるだろうからな」
「それって、放っておいていいんですか? 大事な情報とか……」
「別に知られて困る情報はないな。言っても信じてもらえないだろうし、信じるのならそれはそれで警戒度を上げる話になる。今は少しでも、使者に対するゆさぶりが必要ってことだ。案としては俺も謁見の場に出るって方法もあったんだが、流石にそれはやりすぎだろうって話になってな」
流石に他国の王配が他国の使者の謁見に顔を出すのはありえない。
一騎士とか護衛の一人で参加ということになると、リーアたちも一緒になるので、女はあまり認められていない社会である新大陸で、謁見の間に連れて行くと使者が不快に思うかもしれない。
お帰りいただくのなら、それでいいのだが、今回は話を聞かないといけないからな。
「ということで、謁見自体でそこまで情報を得られるとは思っていない。そのあとのカグラたちに何らかの形で接触してくるんじゃないかとみている」
「うわー。カグラたちはついでに試験って感じですか?」
「俺はそういうつもりはないが、キャリー姫はその時の対応の仕方を見て評価をするだろうな。と、そろそろ時間だ。始まるぞ」
そして、この謁見はこうして記録に残る。
これが最大の武器だな。
あとで何度も検証ができるし、何か使者が問題を起こせばこれを証拠にシーサイフォ王国に交渉もできるだろう。
カグラたちのことが気がかりではあるが、何も伝えていないからこそ、普段の勤務態度が問われる場面だ。
真面目にやっているなら問題はないはずだ。
『次の謁見はシーサイフォ王国の使者、キーズ・ザナット殿です』
『ほう、シーサイフォ王国の使者殿か。面を上げられよ』
宰相からのセリフで目の前にで膝をついている、使者に対してハイデン王は声をかける。
その声を聴いて顔を上げるシーサイフォ王国の使者、キーズだっけか?
どうやら男で、優男風だな。
強面を送る国ではないようだ。
『この度は、急な訪問に対して、迅速に謁見していただけたこと。深く感謝いたします』
『うむ。シーサイフォ王国には常々物資の面でよくしてもらっているからな。この程度のことは問題ない。して、今回の訪問はなにようかな? 物資の運搬時期ではないようだし、大きな交易品などは持っていないようだが? 護衛と使者殿だけで来られたとか』
『は。そのとおりでございます。この度はフィンダールと開戦したということで、急遽お伺いに来たのです。激戦となっているのであれば、無暗に物資を運ぶのは危険でございますし、運び手たちが気の立っている兵士にでも襲われれば外交問題となりますので、一度そのことを詳しく話してくるようにと、陛下の命を受け、高潔なハイデンの兵にはあり得ぬとは思いましたが、こうして参った次第でございます』
上手く言うな。
これじゃ、ハイデンの兵が野蛮だということにはならないし、物資の運搬たちが襲われればシーサイフォとの関係が悪化するぞという脅しになったわけだ。
ついでに、今後の物資運搬に関しては、安全な道や人を教えてくれという条件を付けたわけだ。
使者の言い方はあくまでも、万が一の問題ではあるが、なにかあれば、教えてと言ったのに教えてくれなかった、護衛を寄越してくれなかったハイデンの責任となるわけだ。
話の内容としては交易のことを心配した極当然の事だが、話し方1つでこうも変わるっていうのが面白いよなー。
まあ、俺は面倒だからそういうことは基本的にしたくないんだが。
こういうのは見てる方が楽しいよな。
色々な駆け引きがよくわかる。俯瞰的に物事を見るのが大事だよなー。
そんなことを考えつつ、謁見を覗き見る。
『確かに、その心配は当然のことである。しかしながら、聞いていると思うが、既にフィンダールとの誤解は解け和解が成立したので、その心配は無用だ』
『はい。戦争が無いのが一番でございます』
『で、物資の提供という話も聞いていたが? それは戦争の物資ということでか?』
『はい。元々はそのつもりでしたが、戦争が終わったとなれば、復興に使っていただければ幸いです』
『ほう。提供するというのは、どういう意味だ? 今までだと取引というはずだが?』
『今回はちょっとした、新しい商品がございまして、其方をお試しいただければと思っております。その手間賃として、僅かばかりではありますが、他の物資も無料で提供させていただこうかと思っておりました』
『新しい商品か……。それで気に入れば、今後は買ってくれということかな?』
『流石はハイデン王、素晴らしき御慧眼でございます』
何ともしらじらしい会話もあったモノだ。
地球で言うサンプル提供というやつだな。
ついでに、ハイデンで新商品の実験も兼ねているとかいやらしいな。
しかし、戦争で試してほしい商品となると……。
『話は分かったが、戦場を見据えた商品か。それは武器か? それならば今は使いようがないぞ?』
『いえ。武器ではなく、陣地の構築などに使えるモノでして、戦後の片付けにも役立つかと思いましてご提案させていただきました』
陣地の構築に戦後の片付けに役立つ道具?
色々思い浮かぶがなんだろう?
特に大きな荷物はないと言っていたから小さい物か?
いや、後で持ってくるということもあり得るか。
ま、とりあえず予定ではもらえるものは貰っておこうということになったしな。
好意を拒否するのはあれだし、これを受け取れば、シーサイフォ王国とこの件で良くも悪くも縁ができる。
訪問する理由ができるから万々歳ってわけ。
只より高い物は無いって言うのはあるが、物資の提供ぐらいでそこまでのことにはならないだろうと踏んでのことだ。
無論、提供された物資はちゃんと確認するけどな。
と、そんなことを考えている間に話は進む。
『ふむ。話は分かった。しかし、その物を使うかはまずは物を見てみないと何とも言えぬ。それはこの謁見のあと、交易関連の者に見せて話し合ってくれ』
『はい。提示する機会をいただき誠にありがとうございます』
そう言って、会話が途切れる。
いま一番大事なことを話していない。
『使者殿の話は終わりかな?』
『はい。私の役目は今回のことでの援助と、新しい商品を使っていただくことですので』
『ハイレ教の布告に関しては何かないのか? この一連の事件に対してシーサイフォは何か聞きたいことはないのかな?』
そう、ハイレ教のことには言及が一切なかったのだ。
あえて避けていたのか、それともここで話すべきことではないと思ったのかは分からないが、聞いてこないなら、こちらから聞くしかない。
『……ハイレ教のことは聞いております。その事件の顛末についても、此度の戦争でどのようなかかわりがあったかも』
『ならば、なぜ尋ねない?』
『その件に関しては、ただの使者である私が言及できることはございません。ハイレ教会からの布告をきいたのは、こちらに出向いた途中でしたので、恐らくは、もう一人はハイレ教のことで来るかと……』
『なるほどな。そのことについては、別の使者が来るということか』
予想通りか。
まあ、情報伝達が遅いからこういうやり方しかないよな。
『はい。その時に、ハイレ教の布告に関してや、国の方針は聞いていただければと』
『わかった。ハイレ教に関してのシーサイフォ王国の話は次の使者から聞くことにする。しかし、キーズ殿個人に聞いておきたいことがあるがいいか?』
『私で答えられることでよろしければな』
『キーズ殿は此度のハイレ教の布告はどう思っている?』
『どうとは?』
『マジック・ギアなるものが出回り、魔物がはびこっていることを信じられるか?』
率直に聞いてきたな。
ハイレ教の布告をどう受け止めているのか、この使者の反応から見えてくるものがあるだろう。
『……』
『よい。ここだけの話だ』
『……正直に言えば、私個人は混乱しています。ハイレ教が嘘を言っているとも思いませんし、連名でハイデン王、フィンダール王の名前もありましたので、真実ではあるのでしょう。ですが、その魔物なるモノを見ていないので、なんとも……』
『つまり、そちらでは未だ、マジック・ギアの被害はないのだな?』
『はい。全くそのようなことはありません。なので、話が本当なのか、困惑しているのが正直な話です』
ハイレ教の布告と同時にアクエノキを祭るというか、洗脳された連中、邪教徒の連中の捕縛を命じているのがちゃんと効いた結果か?
それとも、意外とマジック・ギアは拡散されていなかったとか?
うーん。後者の可能性が高いか?
危機感のない探索で見つかるような相手でもないと思うからな。
実例もある、ソロを襲った連中は普通にハイデンの街に平然と生活していたからな。
『ふむ。いや、話辛いことに答えてくれて感謝する。信じがたく首をかしげるというのは、私たちにとってもありがたい。それだけ、平和ということだろう。しかし、これだけは覚えておいてくれ。私たちはあのアクエノキと名乗る狂王、狂神に与する連中とは戦争も辞さない。我が始祖たちが守ってきたモノを守るために』
『はっ。噂が本当であるのなら、あの狂王は災禍を振りまいた。そして、それを食い止めるために英雄であるハイデンが動くのは当然でしょう』
『うむ。理解してもらい幸いだ。まあ、この話は次の使者がきてからだな。交易の件、新商品の件は、別の部屋で担当の者と話をしてくれ』
『はっ。貴重なお時間を頂きありがとうございました』
『なに、シーサイフォ王国との友好は我が国にとっても望ましいものだ』
そう言って、謁見は終わった。
「なんか、意外と何もありませんでしたね」
「まあ、普通の謁見ではあったけどな。それでも色々わかったことがあった」
「そうなんですか?」
「ああ。ヴィリアやドレッサ、ヒイロもわかったか?」
「全然」
「ヒイロはわからない」
ドレッサとヒイロは即座にわからないといったが、ヴィリアは自分で理解できることがあったのか、考え込んでいる。
「ヴィリア。何が分かったか言ってみてくれ」
「あ、いえ。でも、合っているか……」
「その時は修正するさ。別に間違ったからってバツがあるわけでもない。何か別の見方が増える可能性もあるからな。物資の提供について話すのはまだ先だからな。いったん情報をまとめよう」
そう、こういうことは黙っているよりも話すことが大事だ。
「わかりました。お兄様がそういうのであれば。まずは、簡単に言いますと。アクエノキが従えていた教徒たちは、ハイデン、フィンダール以外ではほぼ活動がないようです。シーサイフォ王国の使者があそこまで首をかしげているのが証拠かと」
「そうだな。魔物が出ているなら、もう少し慌てているというか、文句があるところだしな」
流石に静かすぎる。
まあ、シーサイフォ王国が遠いからという理由も考えられなくもないが、その前に近隣の国がまず文句を言ってくるはずだ。
それもないから、アクエノキはまず、このハイデンやフィンダールを掌握してからと考えていたのかもしれないな。
「あとは、あの使者の方は私たちをというか、ハイデンとフィンダールを利用して、商品の宣伝をしたいようですね」
「ああ、そう言えば何か言っていたわね」
「ん。必要なモノをあげるから、使ってくれって言ってた」
「はい。それには注意が必要かと。その商品か、それとも今回の物資提供を利用してなんらかしらの動きがあると思います」
「そうだな。そこも注意が必要だ。それを知るためにも、カグラたちが同席する交易品、提供物資の説明を聞かないとな」
俺はそう言いつつモニターを見ると、用意された部屋にシーサイフォ王国の使者とカグラたちが入ってくるのが見えた。
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