第741堀:使者への対応
使者への対応
Side:カグラ
「……え? なに、冗談?」
「冗談じゃないわよ!!」
「はいはい。おちつけ」
陛下の反応に怒ったハイレン様をなだめるユキ。
当然の反応よね。
目の前に現れた見た目普通の女性が女神様とか言われても、冗談だと思うわよね。
まあ、そのあと姫様や、面倒そうなユキの説明でハイレン様のことをようやく正しく認識してくれた。
正直、シーサイフォ王国の使者のことよりも、ハイレン様の方が面倒なんじゃないかなーとか思ったり、思わなかったり。
ほら、ミコスのおバカにかこつけて、ユキに教えてもらうという幸せ時間を一気にぶち壊してくれたし。
……ん? これって、ユキがよく女神様たちを疫病神っていう理由かしら? 気持ちがわかってしまったのがなんとも微妙だ。本当に微妙だ。
多分、横のミコスも同じ気持ちだろう。
そんなことを考えている間に、陛下への説明が終わったのか、静かになっていた。
「はぁ。長生きはしてみるものだな。確かに、報告では女神ハイレン様がご降臨されたと聞いていたし、エノル大司教からもそのように聞いていた。だが、俺もフィンダールも話半分というか、信じてなかったぞ」
「でしょうね。その気持ちはよくわかります。ですが、ハイレン様はこうして存在しております。ソウタ様、エノル様にも確認を取っております」
「そこもだ。ソウタ様、エノル様がゾンビとして復活というのもにわかには信じがたい。この目で見ていないからな」
「そこもご説明したはずです。それに、ファブル様のご遺体を持って帰ってきたのが証拠になりませんか? それに遺体が動いたという件もエノル大司教と、スタシア殿下からも説明があったはずですが?」
「むう。確かに、その2人が嘘を言うとも思っていないがな。だが、こういうことを簡単に信じては為政者としては軽くみられる。いや、危ぶまれる。死者がよみがえることなどはないし、神が降臨することなど普通はあり得ない」
うん。陛下って自由な感じがするけど、こういうときは意外と真面目なのね。
ああ、色々若いころは冒険してたからこそかな?
「別に、国に全体に宣言しろという話ではありません」
「そうなのか?」
「そりゃ、そうだよ。宣伝するつもりなら、ウィードに連れて帰ってない」
「確かにな。なんで、ハイレン様をウィードで預かってくれているんだ?」
「え? そっちで面倒見てくれるなら喜んでわたすが? 勝手にほっつき歩いて回って、周りを治療して、それを王家の連中が回収しに行って、国民はともかく、部下に隠し通せるか知らんが」
「いや、無理」
「ちょっとー!! 犬猫みたいに言わないでよねー!!」
「そうだな。犬猫は首輪や家に閉じ込めておけば、自分で出て行こうとしないからな。まだましだ」
「なんですってー!?」
「ユキ様。ハイレン様をからかわないでください。話が進みません。というか、叔父様。もともと彼女は何者だと問われて、答えただけです」
「あ、そういえば、俺がそう聞いたな」
そう。ただ、何者なのかといわれると、ハイレン様としか言いようがなないから言っただけ。
しかし、ここまで面倒くさい説明がいる自己紹介があっただろうか。
「すまなかった。じゃないな。申し訳ございません。ハイレン様。御身の姿を知らぬとはいえ、失礼な態度をとってしまいました」
陛下も状況が分かったようで、すぐに頭を下げた。
「うん。別に気にしていないわ。ユキ少年みたいに邪険にしなければね」
「いや、お前はもっと考えて口をひらけ。今のこともわざわざ、女神だと名乗らずに学院生とか言えばそれで済んだんだよ。俺の護衛おまけとかな」
「でも、キャリーから、私はやんごとなき人って紹介されたじゃない」
「はい、確かにいいました。それで問い詰めてきたのは叔父様ですから、やっぱり叔父様が悪いです」
「……あー、わかった。俺が悪いってことにしておく。なるほど。ユキ殿、女神様はそう言うタイプか?」
「ええ。で、そっちでいります?」
「申し訳ないが、いらん」
「だから、犬猫じゃないわよ!! というか、この美少女を捕まえていらないとか頭おかしいじゃない!?」
「嫁さんたちの方が美人だからなー」
「流石に、結婚していますので、そういうのは」
「うぐっ!? なんか正論で返された。というかユキ少年の返しは腹が立つけど、実際美人ばかりだから、言い返せない!!」
うんうん。
ハイレン様の気持ちはよくわかる。
ユキの奥様達は本当に美人で、それに加えて力も才能もある。
正直、同じ女性として勝てる気がしないレベル。
なにこのパーフェクト美女? しかもそれが専門分野に別れて何人もいる。
「まあ、奥さんを大事にしていることはいいとこよね。ここは大人な私が我慢してあげましょう。で、話はアクエノキのやろーがシーサイフォ王国を丸め込んで、尖兵を送ってきたのよね。任せて、ギタギタにして奴の狙いを吐かせてやるわ!!」
そう自信満々に言い切られて、あーそう言えばシーサイフォ王国は敵だっけ?
と思いかけた時、ユキがハリセンを取り出してハイレン様の頭を叩いた。
スパーン!!
威力はそこまでないんだけど、本当にいい音がするわよね。
「いったー!? ハリセンもそれだけの速度で叩かれたら痛いのよ!!」
「うっさい。お前が勝手にシーサイフォ王国を敵だというからだ。まだ敵ときまったわけじゃない、ただの話に来ただけかもしれないんだよ。それで、使者を締め上げるとかこっちからの宣戦布告だよ。お前は戦争を引き起こしたいのか? ああ? というか引っ込んでる約束守らないなら、さっさと送り返すぞ?」
「うっ。わ、分かったわ。大人しくしてるわよ」
それでようやく大人しくなるハイレン様。
いや、今まで全然大人しくなかったから、信頼ゼロだけどねー。
ソウタ様やエノル様の苦労がよくわかるわ。
これで本当によく当時やってこれたものだわ。
あ、だから。目を離した隙に食料備蓄をばらまかれたのね。
「で、色々あったが、ハイレンの言う通り。シーサイフォ王国の使者はどんな用件でこられたとかは?」
「対応した者の報告では、今回の戦争が起こり、終わったことに関して、物資提供の話だそうだ」
「戦争っていうと、ハイデンとフィンダールの方で? しかも物資提供?」
「ああ。恐らくは、今回の戦争で消費した物資の提供から始まって、今後の外交で有利に立とうと思っているんだろうが……」
「思っているんだろうが?」
「ハイレ教会のことはノータッチだ。マジック・ギアのことについて何かしらアクションがあるかと思っていたが、それもない。わざと隠しているのか、それともまだ話すことではないと思っているのか、正直考えがわからん」
マジック・ギアの件はハイレ教からこの大陸全土に通達したはずだ。なのに、そっちのことはノータッチというのは変な話ね。
シーサイフォ王国の意図がわからないわ。
「で、物資の提供は受けるのか?」
「まだ、そんな段階じゃないのはわかっているだろう? まずは向こうの条件を聞いてからだ。善意で無償に物資を渡してくる奴なんかいないからな。いや、使者は善意と思っていても、これをけしかけた奴はちゃんと狙いがある」
「ま、そうだよな。まずは会ってみてからか。使者は?」
「ひとまず、客室で休んでもらっている。シーサイフォ王国から、こちらまではかなり距離があるからな」
「そういえば、距離の話は聞いたことが無かったな。ハイデン王国からシーサイフォ王国はどれだけ離れているんだ? 国土は隣接しているのか?」
あ、そういえば、位置の話はしたことなかったわね。
「かなり遠い。ハイデンは一応この大陸では中央に位置すると言われているが、実際には内陸よりだ。シーサイフォは完全に海に面した国で、その間には小国が数国存在している。山もあれば川もある。なかなかの旅路にはなるはずだ」
「ふむ。なら、素直に、戦争の件で来たと思っていいんじゃないか?」
「なぜでしょうか? ユキ様、理由を聞いても?」
「別に難しい話じゃない。単純に時間の問題だ。俺たちはゲートやコールという通信網のおかげで即座に連絡が取れて、情報を集められるが、シーサイフォ王国はもちろん他国はそうもいかない」
「「「あ」」」
ユキの言いたいことが分かった。
他の皆も分かったようで、声が上がる。
「つまりユキは、シーサイフォ王国の使者は戦争の件を聞いて、即座に来たので、マジック・ギアの件は知らないっていうのね? でも、話ぐらいは聞いていると思うわよ? なにせエノル大司教の命で大陸全土に布告されたんだから」
「耳にしていない。というのはあり得ないが、その件について言及することは使者にはできない」
「「「あ」」」
そう返されて、また皆から声が上がる。
いや、陛下と姫様は声を上げなかった。
「なるほどな。知ってはいても、口にすることはないか」
「確かに、使者がどうのこうの言う権利はありませんわね。ですが、情報を集めようとはしてくるはずですわね」
「あるいは、第二陣の使者を送ってくる可能性もあるな。こういう風に状況が変わった時、使者を呼び戻すぐらいなら、次の使者を送って情報の更新を図ることはある」
「呼び戻せる状況でもないですからね。既に私たちとの謁見に入っていますし、となるとやはり、第二陣の使者がいるということですか……」
そうね。
戦場でわざわざ伝令を呼び戻すことはしないわ。
次の伝令を送る方が早いもの。
「なら、ひとまず、使者と面会して話を聞いた方がいい。次に来る使者とどれだけ違いがあるかで、こちらのことをどれだけ把握しているのか、向こうが喋らなくても内容の違いで判断できるんじゃないか?」
「ふむ。ユキ殿の言う通りだな。キャリーはどう思う?」
「私も賛成ですわ。早急に、使者と謁見するべきですわね。第二陣が来ては喋ってもらえなくなりますから」
「よし、そうと決まったなら、今から会おう。そして、ユキ殿。力を貸してもらえるか?」
「もちろん。どういった方向で力を貸してほしい? あと、報酬はどうする? そこらへん考えておかないと色々問題になるぞ」
そう言って、ユキは協力を申し出てくれた。
ユキにとってもハイデンやフィンダールが乱れるのは、今後の大陸間交流に影響を与えるので、そんなことは望んでいないからね。
でも、ユキの言う通り、ここ最近というか、ユキと会ってからハイデンやフィンダールの問題はすべてユキが解決しているようなものだ。
表向きは違うことになっているが、ユキの出入りを知るものは王家の立場を疑うか、やがてユキに頼めばいいと言ってくるバカが出てくるのは目に見えている。
「ユキ殿の言う通りだな。いい加減、目に見えてわかる報酬を用意しておかないと、こっちも見くびられるし、ユキ殿も安くみられるか。本来の目的は大陸間交流を成功させるところにあるんだがな……」
「それが理解できるものは少ないですから。大陸間交流でもたらされるものは、お金や価値ある品物などよりはるかに上なのですが……。はぁ、バカが多いですからね」
「そう言うな。ウィードのことに懐疑的な連中もまだいる。確かに、ゲートを使い一瞬で移動できるなど思いもしないからな。ま、そこはいい。で、ユキ殿の報酬だが……」
「そこは、下手に多く払うと文句もでるだろうからな。ここは……」
そんな感じで、報酬の話が終わったあとに、私たちはシーサイフォ王国の使者と謁見することとなった。
そして、ユキがどういう形で力を貸すことになったかきいて、私たちは戦慄することになる。
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