第740堀:すごーいめがみさま
すごーいめがみさま
Side:ミコス
なんか、意外なことはあったけど、無事にミコスちゃんたちは、ハイレン様の加護を受けて、ハイデンへと戻ってきた。
「うん。田舎」
「こら、口を慎みなさい」
「先輩。さすがに王宮でそんなこと言わないでくださいよ」
「わかってるって」
そんな話をしながら登城する。
でもさ、実際田舎じゃん? と、思ったりする私は正しいと思う。
まあ、ウィードと比べてしまうのが悪いんだけどねー。
そんなことを思っていると、先頭を歩いていた姫様がこちらを振り返り……。
「いいですか、カグラ、ミコス、ソロ。先ほども言いましたが、私がハイレン様の加護を受けた件はくれぐれも黙っているように。国を割る大事に発展しかねません」
「「「はい」」」
と、凄みを効かせながら私たちにそう言ってきたので、即座に返事をする。
わざわざ面倒になるようなことは言いませんとも。
ミコスちゃんはそう言うところの忠誠心はしっかりありますよ。
でも、正直姫様が勇者になってよかったです。
私が勇者とかだったら、発狂ものだよねー。
外交のカードとしてハイデン住まい決定になるところだったし。
というか、ハイレン様の突拍子もない行動恐るべし。
私たちの為になるというのは確かだろうけど、ユキ先生との仲をさりげなく引き裂く戦法を取るとは油断ならない。
悪い人ではないのは重々分かっているけど、こわいよ、あの人。いや本当に。
「うわー。ここが、ファブルたちが作ったお城なのねー」
ハイレン様にとってこのお城は、一緒に旅をした始祖様たちが作った場所だから、感慨深いんだろう。あちこちきょろきょろしてお城を見回している。
そういえば、ハイレン様は再臨を果たしてからずっとウィード住まいだったし、懐かしの帰郷になるのかな?
でも、ここで過ごしたことはないはずだから違うのかな?
そう思っていると、姫様が色々見回しているハイレン様に話しかける。
「ハイレン様。お気持ちは分かりますが、もう少しそう言うお名前を出すのは控えていただけますか? 私たちハイデンの者にとっては、御三家の一人であり、この国を打ち立てた始祖王ともいわれているのです。呼び捨てにしたのが耳に入れば、眉をひそめる者もおりましょう」
あー、確かに。
英雄様を呼び捨てとか、お前何様? って思うもんね。
ユキ先生を呼び捨てにする人がウィードでは多くて、最初は思わず睨むことは多かった。
まあ、そこはウィードの方針って感じだからいいんだけど、こっちじゃそんなことはできない。
下手したら無礼討ちされる可能性もある。
「えー?」
「えー、じゃない。送り返すぞ」
「ちぇ、わかったわよ。私だってキャリーたちに迷惑かけたいわけじゃないし」
「ご理解いただき真にありがとうございます。お部屋は直ぐに用意させますので、少々お待ちください」
そう言って、姫様は待合室の方から出ていく。
私たちは一瞬ついて行くべきかどうか悩んだけど、姫様が付いてこいって言わなかったし、とりあえずユキ先生たちと一緒に待つことにする。
「でも、今日は一般の謁見の人は見かけませんでしたね」
「そういえばそうね」
確かに、普通なら謁見を希望する人たちが行列とまでは言わないけどいて、それなりに賑やかなホールのはずなんだけど、今日は誰もいなかった。
「恐らく、シーサイフォ王国の使者の件で、通常の謁見を止めているんじゃないか?」
「ああ、ありそうですね」
私はそう言って頷く。
ユキ先生の言う通りだ。
マジック・ギアに関連しているかもしれない国から使者の訪問を受けたんだ。何かあったとき被害を最小限に抑えるためにも、一般の謁見は取りやめにしたんだと思う。
「リーア、ヴィリア、ドレッサ、ヒイロ、場合によっては戦闘だ。その時は落ち着いてな」
「はい。大丈夫ですよ」
「任せてください」
「遅れは取らないわよ」
「ヒイロに任せてー」
と、ユキ先生の護衛としてついて来ているリーアたちは返事をする。
頼もしい限りではあるが……。
「そういえば、ヴィリアたちも学校お休みしてこっちに来たんだよね?」
「はい。でも、ちゃんとお勉強はしていますよ。試験に落ちるともう一度ですから」
「面倒なんだけど、ウィードではちゃんと勉強できないとだめなのよね。ま、将来の為にってのはわかるから、仕方ないんだけど」
「ふふん。ヒイロは勉強得意だよー。あ、あとラビお姉たちもちゃんと勉強しているよ?」
うげっ!?
あの激務をしていたラビリスちゃんたちも!?
嘘だ。あんな仕事をこなした上で勉強なんてできるわけないよ。
「まあ、アスリン、フィーリア、ラビリスはお兄様が直接教えていますからね」
「ユキってああ見えてなぜか教えるのは上手よね」
「うん。しかも、アスお姉たちは最初の頃に色々教えてもらったって言ってた」
なるほど。
ユキ先生とマンツーマンの授業か。
それは頭が良くなって当然だ。
「俺が教えるのが上手い下手はよくわからんが、勉強する側の意識がちゃんとしてないと覚えられんぞ、勉強は」
「ユキさんはお勉強教えるのが上手ですよ。私とかにも色々教えてくれたじゃないですか」
「リーアは喜々として勉強してた記憶があるぞ」
「それはユキさんが教えてくれたからですよ。まあ、職業柄、ユキさんのお手伝いで必要性もありましたし」
「ま、そうだよな。覚えないと仕事ができないからな」
そりゃ、ユキ先生の護衛とか傍控えになるための勉強なら必死でやるよね。
ミコスちゃんも死ぬ気で勉強する。
ん? ちょっとまて。ミコスちゃんいいことを思いついた。
「ねえ。ユキ先生」
「どうした?」
「それなら、面積の求め方とかわかりますか?」
「めんせき? 図形とか土地の面積か?」
「そうそう。今授業でやってて、よくわからなくて。教えてもらえますか?」
「あー、新大陸の方はせいぜい掛け算、割り算ができればいい感じだったか。編入させるクラス間違えたか?」
「いえいえ。他の授業は分かるんですけど、ここが個人的に苦手で。ね、カグラ?」
私は、そう言ってカグラに視線をやる。
おら、ユキ先生に直接教えてもらうチャンスだぞ?
「そ、そうね。ちょっと分からないのよね。ユキ教えてもらえる? ほかはついて行けるのよ。だからクラスを変えてもらうより、私たちが学べばいいだけでしょう?」
「まあ、そうか。なら、時間もあるし、今教えるか。どんな問題だったか教えてくれ」
そう言って、ユキ先生はノートと筆記用具を取り出した。
きたー!! ユキ先生の横ゲットだー!!
その意図に気が付いたヴィリアとドレッサはこちらをしらじらしそうな顔で見てくるが、分からないのは事実だから仕方がない。
いや、カグラは面積の求め方は分かるので嘘をついているから、カグラだけが悪い。
「えーとですね……ここがこれで……」
私は授業で答えるように言われた問題をノートに書いていくと……。
「ん? これってこうでしょ?」
なぜか、ハイレン様がスラスラと問題を解いていく。
「……意外だ。正解でしかも公式まで問題無しだ」
「ふふん。教会に来てた子供たちと一緒にリリーシュ様に教わってるからね。これぐらい簡単よ。もともと、傭兵団をやっていた時の賃金計算とか、私も手伝ってたから計算は得意なのよ」
「なるほどな。リリーシュがあまり子供たちに強く言わないのは、ちゃんと教会でも教えているからか」
「そうなのよ。リリーシュ様は博識なのよ。いやー、流石ロガリ大陸全土に信徒を持つ女神様よねー」
へー、リリーシュ様ってすごいんですねー……。
そんなことより、私はあっさりと分かりやすく公式まで書いてもらったノートをみて、がっかりしていた。
きゃっきゃうふふの、個人授業はどこにいったの?
なるほど。ハイレン様は敵か? 敵なんですな?
そんな感じで、発狂しかけた時に、姫様が戻ってきた。
「ただいま戻りました。……で、何をしているんですか?」
こちらの状況を確認した姫様の目がスッと細くなる。
やっべ、怒られる!?
「いや、普通に勉強」
「べんきょうですか?」
「ああ、キャリー姫はこの4人が学校の問題に協力してくれているのは知っているよな?」
「ええ。許可を出したのは私ですわ」
「ま、そこで、ウィードの勉強でわからないところがあったといわれてな」
「ああ、なるほど。ここまで来てまで勉強とは感心ですね。ハイデン、ハイレ教の恥とならないよう、ちゃんと務めてください」
「「「はい」」」
ユキ先生、ナイス!!
私たちへのフォロー完璧!!
「と、そこはいいとして、叔父様との会談の準備が整いました。こちらへどうぞ」
あ、そういえば、シーサイフォ王国の使者のことで、こっちに来たんだっけ?
いけない、いけない。ちゃんと仕事をしないとね。
そのあとで、二人きっりで個人授業と行こうじゃないですか。
教えてで行けば押せるのはわかったし。今はそれだけでも良しとしよう。
そんなことを考えつつ、王様の執務室へと通されると、そこにはもちろんハイデン王ソーグ様がいた。
「よう。来たなユキ殿」
「陛下。相手はウィードの王配です。そして、ここはほかに目がないとはいえ、公式の場です。もうちょっと、礼儀を考えてください」
「硬いなー。今更だろう? なあ、ユキ殿」
「まあ、気持ちは分かりますが。ひとまず、御壮健そうで何よりです。で、これぐらいこなせば文句言われないんだから、やればどうだ?」
「必要とあればやるが、この場ではただ硬いだけだからな。キャリーはそこら辺おおらかにならないと、良い女王にはなれんぞ? いつもビシッとされては息が詰まるからな」
「私は女王になどなりません!!」
「そこまで強く言わなくてもいいじゃないか。なあ?」
そう言って陛下はこちらを見るけど、ハイレン様に勇者にされた件があるので、何とも苦笑いするしかなかった。
ついでに、間違っても喋るんじゃねーぞって、こっちに向けて姫様が冷えた笑顔を見せているから、何もできないよ。
ミコスちゃんにとっては大金を手に入れられる大スクープではあるけど、代わりに命を落とすからパスって感じ。
というか、今更ハイデンを傾かせてもしかたないしー。私はユキ先生のお嫁さんでいいから。
「ん? そちらの子供たちはバイデの会談で見たことはあるが、その赤髪の女性は誰だ? 学院の生徒か?」
そう陛下が視線を向けたのは、ハイレン様。
やば、興味を持つとは思わなかったよ。どうするんだろう?
どうフォローしたらいいの?
「あんまり、若者を過酷な職場に駆り出すなよ? 信頼できないというのはあるんだろうが、それでも使わないと部下たちも不満を持つ奴が出てくるぞ?」
「……その言い方だと、カグラ、ミコス、ソロを過酷な職場でこき使っているように聞こえるのでやめてください。ちゃんと、給金、休暇も与えています」
え? あの職場は過酷……じゃないですよ。
ミコスちゃんたちは楽しい職場で楽しくやっていますとも。
だから、細目の笑顔でこちらを見ないでくれませんか?
「で、彼女は別に魔術学院の生徒ではありません。というか、本当に失礼な発言はやめてください。私でも庇いきれません」
「庇う? 彼女はそれほどの人物か? ウィードの女王であるセラリア殿か?」
あー、確かに、セラリア様が相手だと庇いきれないね。
まあ、この程度のことで、怒るわけはないと思うけど。
しかし、陛下。この人は別の意味で不味いです。
私がそう思っていると、姫様はいい笑顔で、口を開き……。
「ええ。下手をするとウィードの女王陛下より、私たちは敬わなくてはいけません。彼女こそが、私たちのハイデンの祖である御三家と旅をして女神になられたハイレン様その人なのですから」
そう言われて、ハイレン様が自信満々に前に出てきて……。
「えっへん!! あなたがファブルの子孫で、このハイデンを治めているおっさんね!! 私はハイレンよ。よろしく!!」
いつものハイレン様で挨拶をした。
しちゃった。
「……え? なに、冗談?」
「冗談じゃないわよ!!」
「はいはい。おちつけ」
とまあ、こんな感じで、シーサイフォ王国の話の前に、まずはハイレン様のことを説明することから始めたのであった。
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