第739堀:新たな力を
新たな力を
Side:カグラ
キャサリン様によりもたらされた、ハイデン王都にシーサイフォ王国からの使者の来訪の情報。
「姫様」
「カグラ」
私は唐突な事態に驚きはしたものの、すぐに姫様の元に近寄り、キャサリン様から受け取った手紙の内容を確認する。
「詳しい内容は?」
「キャサリン殿が伝えた内容だけです。シーサイフォ王国の使者が来ている。それだけですね。目的は不明。しかし、時期から考えると、マジック・ギア、それかアクエノキに関してのことと疑いたくはなりますね。おそらく叔父様、陛下もそういう推測をしてこちらに連絡をしたのでしょう」
「今、使者はどうなっているのですか?」
「昨今の騒動を理由に、謁見は3日ほど伸ばしているようです。その間に、私たちからユキ様へ連絡をとありますね」
「そこは、タイミングが良かったですね」
ユキなら同じ会議室でハイレン様の不真面目さを叱っている。
「話ぐらい聞いとけ、ばか」
「だってー、こういう話はソウタとかエノルの仕事だったしー」
「お前はウィード教会のミサでもずっと寝てたのかよ!?」
「え? そこは一緒に来た子供たちと遊んでたわよ?」
「……」
「なによー。ソウタたちと同じような、バカだこいつみたいな視線」
「わかってるなら。ちゃんとしろよ」
「難しい話はわかんないもんねー」
「ま、まあまあ、ユキ様。ハイレン様も深いお考えがあってのことかと」
「え? エノルさん、ないよ。そんなの」
「……ハイレン様。そこはもうすこし……。あと、私のことはエノルと呼び捨てにしてもらっていいのですが」
「それだと、エノルとかぶるしねー。エノルさんで」
「はあ、それでハイレン様がよければいいのですが……」
……ハイレン様。
あれが、ハイレ教が崇める女神様であり、我が御三家の祖と一緒に旅をした人なんだけど。
「……ひとまず、ユキ様を連れてハイデンへお連れしようと思いますが、ハイレン様の大らかさは、会議の時に問題になりかねません。皆、正体をしりませんからね。ただの不審人物と思うはずです。なので、カグラ、会議の時は、一時席を外すようにしてください」
「はい。かしこまりました」
ハイレン様の様子をみて、そう私に話しかけてくる姫様。
ハイレン様に対して無礼な話だとは思うが、当然の対応だと思ってしまうのは信徒として駄目なんだろうか?
「スタシアお姉さま、ジョージン将軍、それにエノル大司教様はどうされますか? ハイデンでシーサイフォ王国からの使者の様子を直に見たいというのであれば、同行していただいて構いませんが?」
「いえ。私たちが揃っているのは逆に変な疑念や不審を抱かせるでしょうから、やめておきます」
「そうですな。相手がどこまで情報を掴んでいるのかわかりませんし、私たちがハイデンに赴くのはよしておいた方がいいでしょう。情報を後日聞かせていただければと思います」
「そうですね。大司教である私がハイデンに出向いてシーサイフォ王国の使者と会うのはいささか変でしょう。ここは様子見がいいかと」
どうやら、3人ともハイデンには来ないようだ。
まあ、確かに、ジョージン将軍の言うように、相手がどこまでこちらのことを知っているのかが問題だ。
特にこの3人はこの大陸では名前と顔が売れているから、名前を名乗らなくても、シーサイフォ王国の使者が顔を見て気が付かない間抜けだとは思いにくいわね。
と、そんなことを考えていると、更に誰かが会議室に入ってくる。
「遅くなりました。何か急な会議があるとか……。って、カグラ、ミコス、ソロ? どうしたの?」
そう言って入ってきたのはエノラだった。
そう言えば、教会に呼び出されていたとか言っていたわね。
「どうしたの? じゃないわよ。えーと、どこから説明したものかしら。姫様お時間はまだあるのでしょうか?」
「ええ。説明する時間ぐらいは問題ありません。ユキ様の方も、ハイデンに向かうことをウィードに連絡しているようですし」
そう言われて、ユキに視線を向けてみると、コールで連絡を取っているようだった。
まあ、会議だけで終わると思っていた所で、ハイデンにシーサイフォ王国からの使者が訪問してきたからね。
「で、何があったの? みんな結構慌てているように感じるわよ? いつもポーカーフェイスのユキ殿からもそんな感じがするから、よほどのことが起こったの?」
なんで、ユキの顔を見てそれが分かるのよ。
いや、ユキは基本的にこういう交渉事では表情を読ませないようにしているから、確かに焦っているというか、面倒そうな顔をしていること自体珍しいのは分かるけど。
なんで判断基準はユキの横顔なのよ?
なに、エノラって興味ないふりして狙ってる?
「何? 顔が険しくなってるけど、そんなにひどいことが起こったの?」
と、いけない。ユキのことは大事だけど、まずは説明しないと仕事ができない女と思われて、ユキに幻滅される。
「とりあえず、順に説明するわ。まず私たちがここに集まった理由は、シーサイフォ王国の領内で怪物騒ぎが起きたのよ」
「怪物? ああ、もしかしてマジック・ギアの悪用?」
「悪用ってだけならいいけど、その悪用にアクエノキが関わっていたら?」
「……それは動き出したってことね。でも、アクエノキはシーサイフォ王国にはいないはずよ?」
「まあね。だから今回の事件の真相を測りかねているってわけ。ただの、マジック・ギアが偶然持ち込まれた事件ならいいけど、それなら介入理由が少し、弱いし私たちが起こしたことと、アクエノキのことを話すことになりかねない」
「甘く見られかねないわけか。でも、それならシーサイフォ王国にこっそり怪物討伐行けばいいんじゃない?」
「それで向こうが待ち構えていたら? こっちは全滅の憂き目にあうわよ?」
「……いや、ユキ殿たちが全滅するわけないと思うけど」
「あー、ユキならそうだろうけど、それでも問題よ。自国の怪物退治したのが他国の王だったなんて話が広がれば面子丸つぶれだし、こっちは領土侵犯よ。で、罠だったりしたら、それこそ全面戦争勃発よ。下手したらこちらが侵略や暗殺を企んだとか触れ回られるわ」
「……まあそうね。となると、公式に許可を取らないと不味いわけね」
「そう。でも、さっき言ったようにその場合こっちの情報を開示しないといけないのよ」
「それで悩んでいるわけね。どう切り出すのか」
納得するエノラだが、話はそれで終わらない。
あとの爆弾も告げようかと思っていると、横からミコスが口を挟む。
「ちっちっ、それで終わりじゃないんだなー。みんなが騒然としているのは、そのシーサイフォ王国からの使者がハイデンに来たって連絡が来たからだよ」
「はぁ? もう来たの? 動きが速すぎない?」
「そう。動きが速すぎる。狙いが分からないから、どうしたモノかってみんな慌ててる感じかな」
「なるほどね。そこに私が遅れてやってきたわけね」
「で、教会の仕事で遅れたって聞いたけど?」
「ええ。ただの報告だったんだけどね。戻って来てみれば皆いないし、バイデに行ったって聞いたから」
「なるほど」
そうミコスが納得していると、今度は姫様が口を開く。
「ミコス。それ以上のお喋りは必要ありません。ユキ様の方も話は終わったようですし、今からハイデンに戻りますが、エノラ様はどうなさいますか?」
「少々お待ちください。エノル大司教様」
「はい? ああ、エノラ司教代理。来たのですね」
「私はハイデンに向かうべきでしょうか?」
「そうですね。元々、エノラ司教代理の勤務地ですから、同行しても問題ないでしょう。貴女の視点からもシーサイフォ王国の使者についてよく観察してみてください」
「はい」
ということで、エノラの参加も決まった。
その話を聞いた姫様はさっそく行動に移す。
「では、まず先に私たちハイデンの者からゲート移動を開始しますので、ユキ様たちはあとか……」
「あ、ちょっとまって、キャリー」
なぜか、そこで待ったをかけるのはハイレン様だ。
でも、ユキもそれは止めない。別に知らない人の前でもないから。
「はい。何か問題でもございましたか?」
「問題じゃないんだけど、これから下手をしたら、カグラたちはまた戦うことになるんでしょう?」
「……そうはなってほしくないですが、可能性がないとは言えません」
「なら、カグラたちの戦力アップしていた方がいいわよね?」
「はい。それはもちろんです。ですが、戦力などそう簡単に上がる物ではありませんし、ナールジア様から既に指輪や武具もいただいておりますので、そこまで心配はないかと」
いや、正直、守りの指輪はともかく、杖とか剣とかは返却したいんですけど。
火力が高すぎて使えないんですが。
「うんうん。あのナールジアさんの武具があるなら大丈夫かー。って違う違う。カグラたちの基礎能力を一気に上げる方法があるのよ。だから、カグラ、ミコス、ソロ、エノラちょっとこっちにきて」
「「「?」」」
とりあえず、意味が分からないけど、みんなハイレン様の前に出る。
何かおまじないでもするのだろうか?
そう思っていると、ユキが口を挟んできた。
「なんだ、加護でも与えるのか? それなら確かにカグラたちの基礎能力は上がるな」
「そうそう。別に他所にばらさなきゃ問題ないし、出し惜しみするところじゃないでしょう?」
「まあな。リリーシュの時はあれだったが、このメンツは別に今更だからな。ハイレンが女神なのは周りが既に知っているし」
あ、なんかそう言うのは聞いたことがある。
女神様に認められてステータスが上がるんだっけ?
わざわざ自分から女神の寵愛を受けましたとか宣言する理由もないし、自分が死なないためだからとてもありがたい話だ。
「ということで、私の加護を受けてみる? リリーシュ様のみたいに回復魔術を即座に習得とかは無理だと思うけど。ちょっとした基礎能力は上げられると思うわよ?」
「「「お願いします」」」
私たちはためらうことなく返事をする。
ユキと一緒に今後いるなら、こういう底上げをしないと追いつけないというか、役に立てない気がビンビンする。
いや、戦闘らしきことは訓練以外ではほとんどしたことないけど。
相手は、あの悪辣なアクエノキだ。ユキに敵わないと知ればか弱い私たちに魔の手を伸ばしてくるだろう。そのための備えだ。
「キャリーはどうする? 多分、キャリーも行けると思うけど」
「そうなのですか? では、私もお願いいたします。あまり戦うことはないと思うのですが、いいのでしょうか?」
嘘ばっかり、自分から率先して最前線に行くくせに。
そう思っていると、姫様がこちらにグリンと首だけで振り返り。
「カグラ? 何か?」
「い、いえ。なにも」
そのどこかの漫画家幽霊の特技を真似しないでください。
色々な意味でトラウマなので。
「じゃ、行くわよー」
ハイレン様がそういうと、私たちの足元に淡い光が湧き出してくる。
「この者たちに祝福を!! ゆーしゃーになーれー」
え? なにそれ!?
勇者って、ロガリ大陸やイフ大陸じゃ、英雄の称号じゃない!?
「はー。勇者になるってあんな感じなんだ。リーアはああいう祝福、受けたのか?」
「いえ? 気が付いたらって感じでしたけど。まあ、ハイレン様はまだ学習途中みたいな話ですし」
「ああ、仮免中みたいなものか。でも、百年単位で一人とかってなかったか?」
「言ってましたねー。まあ、全員がなったわけじゃないのでは?」
「あ、そっか。1人当たりで、4人外れか。今後のロガリ、イフ大陸と外交をするにあたっては、勇者っていうネームバリューは欲しいからな。今回ばかりはいいことしてるな」
まって、ユキの言うことはすごくわかるけど、それって、ハイデンから、この大陸から動けなくなるってことよね!?
勇者になれば、ユキとの結婚はできなくなる!? なにそれ、疫病神の称号!!
とっさに、淡い光から脱出しようと思うがそれも遅く、淡い光は引いていった……。
「うそ……」
終わってしまった。
ミコスもソロも、お互いに青い顔をしている。
そりゃそうでしょう。
ミコスは私と同じようにユキのお嫁さん希望で、ソロはエオイドのお嫁さん希望なんだから。
絶望の加護が付くのはいやだ。
どうしよう。ステータスを見たくない。
そう思っていると、不意に姫様から声が聞こえる。
「……ここで、私が勇者様ですか」
「おー、キャリーおめでとー。カグラかなーと思ってたけど、キャリーが勇者か。まあ、そうかな? カグラはどっちかというと巫女だもんねー」
ほっ、助かった。
確かに、勇猛果敢で智勇兼備の姫様ならふさわしい称号だろう。
姫という立場がさらに強固なものとなるはずだ。
と、思っていたら、姫様はどうにも暗い。
「あの、姫様。何か具合でも?」
「……このままでは、私が次期女王にされます。ハイレン様に認められた勇者になったなど叔父様、陛下に伝われば、喜んで王の座を譲るでしょう」
あー、確かに、陛下は元々自由に遊びたかったようですし。
「カグラ。軽く考えているようですが、この状況で現王家と私の女王推進派でハイデンは二分されるのは大迷惑でしかありませんからね? ましてや男尊女卑のこの大陸では、なおのことです。スタシアお姉さま、ジョージン将軍、エノル大司教。このことはご内密にお願いいたします」
「もちろんです」
「私は何も見聞きしませんでしたな」
「はい。私も何も見ておりませんし、聞きませんでした」
と、物分かりのいい大人たち。
で、その加護を与えたハイレン様は……。
「あるれぇー? なんか、みんな微妙な顔してるんだけど、何か私、間違ってた?」
「いや、状況が悪かったな。まあ、どんまい。あと間違ってもキャリー姫が勇者になったとか言うなよ」
「なんで?」
「ハイレン様!! 本当にお願いします!! このことは絶対黙っていてください!!」
「あ、うん」
姫様が慌てて懇願する様は珍しかった。
まあ、これで準備は整ったわけだ。
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