第738堀:とりあえず説明をしてからの

とりあえず説明をしてからの



Side:ユキ



海洋国家シーサイフォ。

今回問題があった土地を持つ国の名前だ。

ちょっと、話をして怪物討伐を引き受けるか、こっそり処理して終わりかと思っていたがそうもいかなくなったな。

俺がそう考え込んでいると、カグラが心配そうに話しかけてきた。


「ねえ、ユキ。大丈夫? 何か考え込んでいるけど、シーサイフォがそんなに大変なの? 大陸間交流は中止になるかもしれないの?」


その言葉ではっとして、周りを見てみると、キャリー姫、スタシア殿下、エノル大司教、ジョージン将軍、この会議に参加している全ての人の視線が集まっていた。


「いや、大陸間交流は予定通りに行います。ご心配なく。そして、正式な報告が遅れましたが、イフ大陸の会議は上手くまとまり、一か月後のロガリ大陸、イフ大陸、そして新大陸合同の、大陸間交流会議を待つばかりです」


問題がでてきたとはいえ、ここで大陸間交流を延期にはできないし、新大陸組だけ、シーサイフォ王国やアクエノキの問題で参加を中止や延期にしたら、新大陸側に不満を持つ人もでてくるし、シーサイフォとアクエノキを警戒していますと、アピールしてしまう結果になる。

そうなれば、ハイデン、フィンダール、ハイレ教は恐れるに足らずと勘違いして、シーサイフォ側に着く連中もでてくるだろう。


「それは良かったです。シーサイフォが原因で大陸間交流が中止、あるいは私たちの国が参加できないなど言い渡されれば、シーサイフォを攻め落とさなくてはいけなくなりますわ」

「キャリー様。それはいささか過激な発言かと」

「キャリー。エノル大司教様の言う通りだ。冗談でも、そんなことは言うべきではないぞ?」

「いえ、殿下。キャリー姫様のお言葉、あながち間違ってはおりますまい。シーサイフォがしゃしゃり出てきたのが問題。ならば原因を取り除けばと思う連中が出てくるでしょう。そもそも大陸間交流が我々の頼みの綱なのです。これが無ければ各国は牙をむいてくる可能性が高い」


問題はキャリー姫やジョージンが言う通りのことだ。

一歩間違えば戦争が起こる。

大陸間交流参加というのは、ハイデン、フィンダール、ハイレ教にとっては大事な命綱なんだ。

ウィードを介して、大国の力が借りられるというのは、他国からの侵略を防ぐという意味で安心があったのだが、大陸間交流参加が認められなければ、一気に不安が増す。

アクエノキに散々きひっかきまわされたんだ。内部で離反するやつもでてくるだろう。

ウィードの言っていることは嘘だとかいって。

そうなれば、戦争へとまっしぐらだ。

別に戦争で負ける心配はしていない。

たとえ、シーサイフォ王国と海上戦になろうが、こっちはイージスとか空母とか、潜水艦などをぶっこめばそれで終わりだ。

いや、わざわざ海上で戦う必要もないか、これを機に戦闘機の導入をして制空権を確保して一気に潰せばいいだけだ。

だが、そうなると、新大陸の情勢は本当に面倒になる。

大陸間交流に参加する国と、参加しない国でこの新大陸が真っ二つに割れることになる。

大戦の幕開けだ。

この大戦には、嫌でもロガリ、イフ大陸の面々を巻き込む必要もでてくる。

大陸間交流に参加している国が襲われるんだ、大陸間交流の同盟に基づく防戦という名の侵略戦争が始まる。

攻撃は最大の防御というしな。

その後の報酬で揉めることも分かり切っているし、それをマネジメントしなければいけない俺の忙しさも推して知るべしだ。

だから、なんとしても、そんな状況になるのは阻止しないといけない。


……ふう、落ち着け。

考えが極端になっている。

まだシーサイフォ王国が敵と決まったわけではない。


「キャリー姫やジョージン殿の懸念はわかりますが、まずは、シーサイフォ王国に、マジック・ギアの件を改めて伝えて、協力できるか確認を取るべきでしょう」

「確かに、交渉や確認もしないうちに敵と断定するわけにはいきませんわね」

「そうだぞ。シーサイフォ王国は今まで貿易での大きな取引などがあるから、その伝手で話し合いに持ち込めばいいのだ」

「そうですね。ハイレ教会もまずは話し合いの場を設けるべきかと思います」

「ふむ。まあ、そうですな。まずはそこからですな」


そうだ。人はわかりあえる。

そのために言葉があるのだ。

別に、言葉が通じない相手でもないんだ。


「では、とりあえず。各国はシーサイフォ王国への連絡を、会議する場を設けられるように交渉してもらうとして、このことはその結果を待ってまた判断しましょう。で、この話は保留として、次にマジック・ギアの話ではなく、大陸間交流会議にむけて、新大陸側で何か問題などは出ていませんか?」


ひとまず、マジック・ギアやシーサイフォ王国の件は今すぐどうにかできる話でもないので、大陸間交流に向けての会議を進めることにする。

もとより、こっちの方がある意味本題でもあるからな。


「いえ。これから開始する交易の品物の選定で困っているぐらいで、外務省関連の話で特にこれと言った問題は……、マジック・ギアしかありませんわ」


キャリー姫は笑顔でシーサイフォ王国のマジック・ギアが邪魔ですと言い放った。

ま、実際そうだしな。


「キャリーの言うように、他の問題といえば交易品目の選定ぐらいですから。しかも、交易品目も大陸間交流が始まらなければ意味がないですから。そのあたりの心配はないかと」


なるほど。

もういつでもいけるってことか。


「なら、大陸間交流会議まで約1か月と迫りましたが、これからはシーサイフォ王国とマジック・ギアの対処を優先するということでよろしいですか?」

「はい。ああ、大陸間交流会議の詳しい日程や話す内容が、より詳細に決まっているのであれば、其方の情報はもちろんいただきたいですが」

「そうですね。情報の更新は必要かと。こちらも準備をしなければいけませんので」

「わかりました。では、まず、イフ大陸で会議がまとまった詳細をお話しいたします」


いかん、俺も多少焦っているな。

まずは落ち着いて、イフ大陸でまとまったことを説明しないといけない。

ということで、イフ大陸での会議の内容と情勢を詳しく話す。

情報漏洩という話ではなく、今の状況を正しく把握することで失礼が無いようにするためだ。

こういう国と国の会談は1つ間違えば戦争に発展するからな。


特に今回の聖剣お披露目会については、宗教の絡みがあるので、特にハイレ教はかなり慎重に接するようにと言っておいた。

全体的に、魔術に制限がかかっておらず魔術国家が多い新大陸は、イフ大陸の各国の魔術師たちの地位を脅かすかもしれない立場にいるから、迂闊に魔術師の派遣などは避けるようにと言っておいた。

ポープリが職なくすからな。

本当に、冗談でなく、ポープリたち魔術学府の立場がなくなれば、各国からの援助が無くなるわけで、ランサーの魔術学府と学園町はなくなってしまうわけだ。

いや、人はいるから、税が入ってなくなることはないが、さびれるのは当然だな。

それに煽りを食らうのは魔術学府だけではない。ほかの国々で働いている魔術師たちもだ。

うちの魔術師つかえねー。そうだ、新大陸の方から招こう。そしてクビになるイフ大陸の魔術師たち。

その結果、大陸間交流を推し進めたウィードや新大陸の国々に恨みが集まるし、大陸間交流を推し進めている国々にとっても潜在的な敵となってしまう。


「なるほど。確かに、イフ大陸と揉めたいわけではありませんし、ハイレ教による治療支援などは、要請を受けた上で、ウィードなどに相談してからという形にしたいと思います」

「ハイデンも魔術の関係はしっかりとウィードと協議してからにいたしますわ」

「そうしてくれるとありがたい」


ただでさえ、新大陸はシーサイフォ王国とアクエノキが作ったマジック・ギアという問題を抱えているのだ。

ここで、イフ大陸の連中を敵に回す理由はない。というか、手が回らなくなる。

新大陸の方もそれは同じ気持ちのようで、無駄な争いをするつもりはないらしい。

だが、いつか宗教とか魔術技術はイフ大陸への流入で揉めるだろうなー。

対処を考えておかないといけない。そこら辺の話し合いの予定も立てておかないとな。

はぁー、仕事ばかり増える。

そんなことを考えつつ、いつものパソコンとメモ帳を駆使して記録をとっていると、キャリー姫から質問がくる。


「イフ大陸のことはいいですが、ロガリ大陸の方は問題などないのですか?」

「そういえば、ユキ様はロガリ大陸内の訪問で数日空けられていましたね」


ああ、そっちの方も説明しないわけにはいかないか。

ということで、ロガリ大陸の方も、今まで鎖国状態だった国への説明に行ってあとは返事待ちというか状況を見てからということになっているのを説明する。


「ハイエルフに獣神の国ですか。私からすれば精霊の巫女さまたちの国というイメージが強いのですが、ロガリ大陸にとってはどこにでもある1つの国なのでしょうね」

「しかし、獣神の国に反乱の兆しありですか。難民を受け入れてきた慈悲深い国に於いて、なんと恥知らずな」


スタシアの言う通り、慈悲深いともとれるが、単に管理できていなかったということでもある。

ある種の自業自得ではあるが、俺たちの責任もあるし、こちらに飛び火しては敵わないので、手助けをすることになっている。

ついでにキャリー姫のセリフから分かるように、ハイエルフ、獣神の国は存在そのものが、新大陸の人々にとっては、尊敬の対象となりえるので、観光業でがっぽがっぽできる可能性を秘めているのだ。

地球で言うなら、夢の国ネズミーランドが1つの国で存在しているって感じといえばわかりやすいか。

だからこそ、守らなければいけないわけだ。

恩も売れて一石二鳥だろう。


「……というわけで、その二国の参入は様子を見てということになりますね。新大陸の方がいきなり観光で押しかけても向こうも戸惑うでしょうし」

「確かに」

「それに、魔物が普通に闊歩していましたから、外に出ることの注意と制限をしなくてはいけませんね。魔物は盗賊などよりも遥かに恐ろしく強い」


スタシアがそう言うとジョージンという歴戦も将軍も含めて、新大陸のメンバー全員が頷く。

一緒についてきたカグラたちもだ。

いやー、まあ弱い魔物もいるけどなー。といっても、信じてはもらえないか。

そんな感じで、大体ロガリ、イフ大陸のことを説明し終えたところで……。


「失礼いたします!!」


バイデの領主キャサリンが慌てて入って来た。

確か彼女はバイデ内の情報を集めていたはずだが……。


「ユキ様、いらしていたのですね。よかった。キャリー姫様への連絡ですが、ハイデンにシーサイフォ王国からの使者がきたと連絡がありました」


そう言われて、全員に緊張が走る。

もうシーサイフォ王国の動きがあったのか?

早すぎる。

それとも、ただの偶然か?

ともかく、まずは正確な情報を集めない……。


「ふぁー。ん? なに、移動?」


移動の前に、このやる気ゼロの駄目駄目神をせっかんしないとな。


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