第737堀:問題が起こっている場所

問題が起こっている場所



Side:カグラ



イフ大陸の会議が上手く行って、次は私たちの新大陸の番かと思えばこれだ。

あの、アクエノキは私たちの一族の邪魔をするのがよほど好きらしい。

このまま何事もなくウィードで学生生活を過ごして、ユキによくやったって認めてもらうチャンスだったのに!!


でも、ユキと一緒に行動できる機会が増えたことは、感謝しないといけないのかな?

いやいや、アクエノキに感謝なんてできないわ。

ソウタ様たちも私たちも散々迷惑かけられたんだから、これぐらいで感謝なんてしないわ。

せめて、私とユキが結ばれるぐらいの成果を残さないと感謝なんてしてやらない。


と、そこはいいとして……。


「カグラ、ミコス、ソロ、一緒にアクエノキをぶっ飛ばすわよ!! おー!!」

「「「おー」」」


なぜか、既にアクエノキが裏でかかわっていると確信して、ぶっ飛ばすつもりでいるハイレン様。

いえ、別にハイレン様に不満はないのだけれど、この人がいると調子が狂うのよね。


「そこのハイレン。まだ裏にアクエノキがいると決まったわけじゃないからな。勝手な手出し口出しは本当にするなよ?」

「わかってるわよ。マジック・ギアだっけ? アクエノキが作った魔物を呼ぶ召喚道具が使われてるのよね? そいつらを見つけて、ふんじばって、アクエノキの居場所を吐かせるのよ」

「いや、だから話を聞け。こっちがアクエノキを警戒しているって思わせたくないんだよ。大国が逆に手駒にしようとするからな。俺たちに対しての抑止力になると思ってしまう」

「え? なら、全部ぶっ飛ばせばいいじゃない」


悪い人じゃないんだけど、どうも抜けているのね。

というか、ふつーにユキと仲良く話してるのが羨ましい……。


「……はぁー、頭痛い。そんなことをしたくないし、やるのも面倒だから、なるべく穏便に済ませるために動いてるんだ。いうことが聞けないのなら、ソウタさんとエノルさんのところに戻すぞ?」


あ、うらやましくはないわ。

ユキに迷惑をかけるような人物にはなりたくないの。

私はユキを支えて一緒に生きていくパートナーになりたいの。


「あ、それはやめて。迷惑かけないって約束してきたから、すぐに戻されたら、当分お小遣いなしになるじゃない」

「お小遣いもらってるのかよ。この駄目神!!」

「あー、駄目神っていうなー!! 仕方ないでしょ!! 私が再臨したときは、一文無しだったんだから、ソウタとエノルからお金もらってたの」

「いや、働けよ」

「教会のリリーシュ様のところで基本的にシスターとして働いているわよ。知ってるでしょ? そこで出るお給金なんて、子供たちと買い食いに行けばすぐになくなるわよ」


……うーん。いい話のようにも聞こえるし、駄目な人の話のようにも聞こえる。


「……ああ、そういえば、ソウタさんから、部隊の物資を全て勝手に難民に分け与えたとか、凄まじい話を聞いた気がするな」

「うん。みんな喜んでくれたわ」

「お前にお金を持たせない理由がよくわかるわ……」


あぁ、駄目だ。ハイレン様。

全く金銭管理できないタイプなんだ。


「まあ、とりあえず。まずは、新大陸でハイデンとフィンダール、ハイレ教会のトップと会談してからだ。どこまでこの事態を認識して、どう見ているのかを確認する」

「おー、ファブルの子孫や、フィンの子孫がいるのねー」

「フィン?」

「ん? あー、フィンダールの王子のことよ。名前が長かったから、フィンって呼んでたの」

「頼むから、会談中に迂闊なことを本当に言うなよ。まだ、フィンダール王の方とは顔を合わせてないからな。余計なトラブルは本当にいらんぞ?」

「わかってるって。さ、久々にキャリーとか、スタシアに会いに行きましょー」


本当にわかっているのかしら?

傍から見ている私もすごく心配になるけど、注意するしかできないから、そのまま新大陸へとゲートで移動をする。



「ようこそ。ユキ様」


ゲートの前で待っていたのは、バイデ領主のキャサリン様ではなく、スタシア殿下だった。


「キャサリンはどうした?」

「例の件でバイデの街での情報収集に動いています。キャリー姫も、父上も今は、城に戻って情報を集めています」


どうやら、こちら側も、マジック・ギアが使われたという情報は既に手に入れているようで、独自に動いているみたいだ。


「詳しい話は領主館に戻ってからにするか」

「はい。長い話になりそうですからね。では、こちらへ」


まあ、スタシア殿下もバイデの滞在期間はかなり長いから、勝手知ったるってやつなんでしょうけど、他国の王女様に、自国の領主館へ案内されるのも変な感じね。


「しかし、ハイレン様も同行されると、ソウタ様やエノル様からご連絡が来たときは驚きましたが、本当に同行されたのですね」

「ええ。アクエノキが係わっている事件なら、私たちの出番よ。まあ、ソウタとエノルは歳だから、そこはカグラとミコスとソロとそして、スタシアで解決しましょう」

「そう言っていただけるのは光栄ですが、エノラ様は?」

「彼女は、所属が違うから、別行動だ。というか、今日はたまたま教会の用事で学校にいなくてな。後から追いかけてくることになる」


ああ、何か忘れていると思っていたけど、エノラのことをすっかり忘れていたわ。

ユキが学校に来たインパクトで忘れてた。


「となりますと、御三家、そして支援としてフィンダール。果てには女神ハイレン様までそろうのですね」

「今回はユキ少年もいるから、さらに強力よ。ああ、いざとなったら、ソウタにエノルも呼んであげるから、何も心配はいらないわ」


そうハイレン様は言う。

まあ、歴戦のユキやソウタ様、エノル様が加わるんだから、荒事になっても負けることはないわね。

そんなことを考えていると、廊下の角から声が聞こえてくる。


「ハイレン様のお気持ちは大変ありがたいのですが、そのような事態になる前にことを収めたいですわね」

「ええ。わざわざ、ハイレン様のお手を煩わせるようなことではございません」

「というか、出てもらうと、私たちも多少なりと困ったことになりますからな」


この声はと、思っていると、廊下の角から声の本人たちが姿を現す。


「姫様。そして、エノル大司教様にジョージン将軍まで。どうしてこちらに」


私が驚いてそう言うと、姫様は昔のままのふわふわの姫様のような笑顔で告げる。


「ことがことでしたので、私が参りました。本来であれば陛下が来るべきところですが、いまだハイデンの内政が忙しいので、私が出てきました」

「私の方は、教会活動の報告を兼ねてですね。そもそも、あの事件は教会の管理がずさんだったからですから。責任者である私が出ないわけにはいきません」

「私は、スタシア殿下の代行としてフィンダールから、ウィードの護衛戦力の一つとして駐留させていただいております。無論、今回の件では情報のやり取り、連絡役ですな」


どうやら、今回の件で急ぎ集まってきたようね。


「まあ、誰かを待つ手間が省けて何よりだ。会議室に入ってさっそく話そう」


ユキがそう言うと、全員頷いて、会議室へと入っていく。


「さて、スタシア殿下から情報を集めるためと聞いているが、あらためて、新大陸の面々は俺たちが来たのを待ち構えていたってことは、今回の件はそれなりに把握しているということでいいか?」

「はい。シーサイフォ王国の方で起こった、怪物騒ぎについてですね。ハイデンの方は父上が情報集めを引き続き行っております。私はカグラたちからユキ様が訪問されるということで、こちらに出向いてきました」

「ハイレ教会も同様にシーサイフォ王国での怪物騒ぎを聞いております。各地にいる信徒たちからのものですので、まず間違いない情報かと。確認を急がせています」

「では、私も改めて。フィンダールの方も陛下は戻られて、情報を集めております。同じようにシーサイフォ王国で起こったことだというのは掴んでおります」


さっそく情報を確認したのだが、事件が起こった国はシーサイフォ王国ということで間違いなさそうね。


「……シーサイフォ王国か。すまんが、霧華、説明頼めるか?」

「え?」


なんで、霧華さんの名前を呼んだんだろうと不思議に思っていると、いつの間にか、ユキの後ろに霧華さんが立っていた。

相変わらず、すごい人だなー。

エリスさんやラッツさんとは違う意味でできる女性だ。

でも、不思議。今までの霧華さん仕事ぶりからなら、もうとっくの昔にアクエノキの拠点や今回の事件について調べがついているはずなんだけど……。


「はっ。ご説明させていただきます。まずはご報告が遅れて申し訳ありません」

「いや、気にするな。こちらでの霧華の活動範囲は俺たちがゲート置いている地域だけだからな」


あ、そうだった。

この新大陸では、霧華さんたち、特にアンデッドの動きはすごく制限されているんだった。

アクエノキがやったように、体内にマジック・ギア、コアの亜種みたいなモノを埋め込むことで活動可能になるかもしれないんだけれど、アンデッドとはいえ、わざわざお腹を裂いてまでコアを入れたくないし、忙しくて実験をやる暇もなかったのよね。

というか、そこは今日ついて来ている、ハイレン様に何とかしてもらうという案もあるみたいで、あまり積極的に研究していなかったみたい。

まあ、ユキが言うように、ゲートを置いた地域。

つまり、ユキの勢力下の地域は最初のころより制約は緩和されているみたいで、霧華さんはアイテムを使うことで、この新大陸で活動できるようになったみたい。

最初のころは、あの最強スライムのスラきちさんですら、危ない状況だったみたい。


「シーサイフォ王国は、海に面する王国で、この新大陸に存在する大国の内の1つとなっています。大国たる理由は面している海の恩恵が大きいようです。海産業に塩、これがこの国家の主要収入であり、絶対的な強みです」

「なるほど。塩か」

「はい。塩は内陸でも手に入らないことはないですが、それよりも、海水を使用した塩田で取れる塩の方が圧倒的に安く、岩塩を他国に売ろうにも売れません。その経済力を生かした兵器の開発、運用を行い大国として名を轟かせています」


そう。この新大陸の塩の供給を握っているシーサイフォ王国。

魔術師たちを導入して、大規模な塩の生成を可能とし、それで得られた圧倒的な経済力を盾に、大国までになった海洋国家。

岩塩が取れる地域しかない国家はそこに防衛戦力を集めなければいけないが、シーサイフォは海があればどこでも塩が生成可能なアドバンテージを手に入れた。

無論、小規模でいいのなら、どの国も多少はあるが、塩鉱脈を探すまでに手間だし、その場所を発展させるよりも、シーサイフォから輸入したほうが早くて安いのだ。

無論容易に大国になったわけではなく、今までその国土条件の良さに、何度も他国からの侵略があったが、その侵略を跳ね返すたび大きくなり、今の大国となった。


「ありがとう。霧華」

「はっ」

「では、シーサイフォ王国に関して、先ほどの説明に付け加えた方がいいということはありますか?」


ユキがそう、会議口調で皆に聞く。

ユキはこういうオンオフを上手く切り替えるわよね。

この切り替えの早さは見習うべきところね。


「ふむ。よろしいですかな」

「ええ。どうぞ、ジョージン殿」

「霧華殿の説明につけくわえますが、その兵力の中でも、海上戦力は恐るべきものがあります」

「海上戦力というと、船ですか?」

「はっ。その通りです。シーサイフォの王都を含めた主要都市は全て海沿いに存在しており、海軍が常に軍船で待ち構えております。迂闊に陸路から攻め込むと、船からの魔術による遠距離攻撃はもちろん、挟み撃ちなど様々な運用を行い、今まで侵略者を押し返してきました」


軍船なんて全然イメージがわかないんだけど、シーサイフォ王国と戦うなら、軍船を潰さないと勝ち目がないと、各国では言われている。

私たちは内陸の国家だからイメージが全然わかないのよね。

というか、船で戦争とかよく意味がわからないのよね。

バイデには大きな湖があって商業用の大型の船は見るけど、あんなものを使っても強くはないわよね? 

私の招雷で一撃よね。あんな木造の船なんて。

でも、ユキは難しそうな顔をしていて……。


「やっかいだな。これはアクエノキを取り込まれたか? 取り込まれたとしたら、思ったより厄介な奴が敵にまわったかもしれないな」


そう呟いた。

私はその言葉の意味を理解できないでいた。

そもそも、ハイデン、フィンダール二国と事を構える必要はシーサイフォにはないんだから。

そうよね? ユキ?



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