第735堀:立ちはだかる難題たち

立ちはだかる難題たち



Side:ユキ



「よかったじゃない。これでイフ大陸の方は正式にまとまったと見ていいんじゃない?」

「まあな。各国の魔剣使いが揃ってパフォーマンスだからな」


俺は家に戻って、セラリアたちに聖剣お披露目会の話をしていた。

ベータンでの聖剣お披露目会は無事に終わったといっていい。

むしろ、魔剣使いの同時出演で、各国の和解が成ったというのは明確に人々の目に焼き付いたはずだ。

これで、イフ大陸はほかの大陸との交渉の準備が整ったわけだ。


「あとは、ロガリ大陸でまとめている、外務省の統一ルールをイフ大陸の面々にも見せてOKをもらうことだな。で、ロガリの方は話はまとまっているのか? 輸出品とかの選定は?」


大陸間交流、交易の関連では、すでにウィードを通してはいるものの、意識してやっているロガリ大陸の方が優勢というか、経験を積んでいるので、ノウハウがある。

あー、そういえば、輸出品かどうかわかるように、コンテナのようなものも作らないとな……。

今までは、こそっともっていくことが多かったが、これからは産地の表示を明らかにして、ロガリ大陸ロシュール産のというのをちゃんとしないと、名前が売れないのだ。

名前が売れればその地域産の品物はより売れるからな。

儲けは大事なのだ。


「そっちの方は、ここ最近の飲み会……じゃなくて、会議であらかた決まっているわ」

「飲み会って何だよ」

「うちのクソ親父と、ガルツ王よ。会議が終わればすぐ商業区に繰り出すんだから。護衛も一緒についていて飲むから止める人もいないし……。ま、そこはいいとして、これがその書類ね」


パサッと交易品目が書かれた書類を渡される。

前に、予定として出した交易品目から、多少修正は加えられているが、大きな変更はなさそうだな。

そんなことを考えていると、セラリアが書類に目を通している俺に話しかけてくる。


「今思ったんだけど、ロガリ大陸、イフ大陸が近いうちに大陸間交流会議をすることになるけど、新大陸の方はどうなっているの? もともと会議に参加させる予定で新大陸の方に話を通してはいるのよね?

向こうの今の状況は?」

「ああ、今は色々話を詰めているみたいだから、状況としてはイフ大陸と似たようなモノだな。会議に参加させるのは特に問題ないと思う」


既に、ハイデンとフィンダールは会議を開始しているし、参加国が少ない分、話がまとまるのも早いはずだ。


「そう。それはよかったわ。これで、3大陸交流、交易会議ができるってわけね。長かったのか短かったのか」

「いや、まだ安心するのは気が早い。あとは統一ルールの書類も一度届けて目を通してもらわないといけないし。あと一か月そこらでやらないといけないことが満載だ」

「そういえば、各国にはすでに開催日を指定していたわね」

「ああ、グダグダでもとりあえず、顔合わせだけでもな。お互い顔を知らないんじゃ、他所の大陸が存在しているなんてそうそう実感できないだろう?」


まあ、準備は整ってきているので、そういう意味では順調に進んでいるな。


「まあね。と、そういえば、思い出したんだけど、ハイエルフの国のミヤビ女王とは謁見を済ませたわよ」

「……ああ。ミヤビ女王か」

「その様子だと忘れていたわね?」

「仕方ないだろう。ルナに任せたあと、すぐにスタシアの件があって、それをこなしたかと思えば、学校問題、そしてイフ大陸での聖剣お披露目会だ。その流れが一週間もなかったんだぞ。濃厚すぎだ」

「そうね。この短い期間にまあ色々とあったモノね」

「で、ミヤビ女王との謁見、会談はどうなった?」


問題はそこだ。

確かミヤビ女王は、獣神の国の件で連絡に来たはずなんだ。


「特に問題なく話は進んだわ。あとは、獣神の国の件ね」

「どういう内容だった?」

「リエルをいじめたクソ共の背後関係を洗っているそうよ。恐らく、大国同盟が結ばれたことで、割を食った連中が、獣神の国に流れ込んで、決起をしようとしていると、ミヤビ女王は言っていたわね」

「そっちの関係か。ある意味、戦争難民を受け入れてきたことが仇になったか」

「そうね。まあ、それを言ったら、私たちだって戦争難民、奴隷を受け入れてここまでしてきたんだから、ただの統治方針ミスよね」

「で、今後は獣神の国はどう動くって?」

「一応、大陸間交流には参加するけど、時期は調整するそうよ」


そりゃそうだろうな。

今、大陸間交流に参加なんかしたら、戦争したい連中が騒ぐのが目に見えている。

タイミングは計るべきだろう。


「ミヤビ女王は会談の場で大陸間交流に参加すると言ってくれたわ。でも、ハイエルフの国が門戸を開くのは色々騒ぎを呼ぶから、いまはまだ待って、時期を見て発表、参加ということになっているわ」

「それがいいだろうな」

「時期の調整に関しては、もちろんあなた次第よ」

「俺が、色々問題を解決してからだよな」

「その通り。まあ、ハイエルフの国はいいとして、獣神の国の方は、てこ入れが必要でしょうね」


今までのつけだな。

戦争が少なくなる方向にもっていったことへの反発だ。

タイキ君のところで起こった、剣の国とのいざこざも戦争が少なくなった反動ともいえなくはないが、厳密にいえばあれは、神とダンジョンマスターの戦いだったからな。

俺の責任ではないといえば、その通りだが、放っておけば面倒にしかならん。

ここでまとめて潰しておかないと、ロガリ大陸では、他所の大陸からくる観光客を襲う無法者がいるという不名誉を賜ることになる。

大陸間交流を始めようといった大陸がそのざまじゃ面目が立たん。

だから、なんとしても潰す。


あと、リエルをいじめた連中もあの時は目を瞑ったが、今度は正々堂々と叩き潰して、ごみ箱に入れてやる。


「で、こっちの話はいいとして、新大陸のことは霧華から聞いているかしら?」

「ああ、取り急ぎ、あっちの状況を把握してくる」

「ええ。それがいいわ。まあ、話を聞いた限り、活動範囲はまだ広くないみたいだけど……」

「場所が厄介だ。ハイデンやフィンダールじゃない。ほかの大国の領土ときたもんだ。被害が拡大する前に、介入か、自然消滅してくれると助かるんだがな……」

「でも、これって、アクエノ……キの仕業だと思う?」


アクエノキ。元アクエノスとか名乗っていた、元々は一国の王様にして、ダンジョンコアと神の力を持っていたアホ。

その両方をそろえておきながら、新大陸に召喚された、ソウタさんを参謀に、リーダーのファブル、亜人の魔法剣士のエノル、そして治療術師ことあたまお花畑で女神の子供であるハイレンのチームに敗れることになる。

まあ、ダンジョンコアは掠め取ったレベルだし、戦略もお粗末極まりなかったけどな。

で、そいつが、今回の噂の元凶かと聞かれてもな……。


「わからん。情報が少なすぎる。だが、怪物がでる地域なんて、新大陸では存在しないはずだし、まず、教会が作っていたマジック・ギアが関係しているとみていいだろうな」


相手がバカすぎて予想が立てられん。

ある意味、素晴らしい戦略だと思う。


「そういえば、アクエノキには監視を付けていたわよね?」

「ああ、魔物は無理なんで俺たちの方では発信機。ハイデンとハイレ教会の方で追跡人員だな」

「それなら、関係のしているかどうかわかるんじゃない?」

「発信機の位置は別の小国に反応があるんだよな。追跡人員は俺たち、ウィードの部下じゃないし、連絡を勝手に取るわけにもいかん」

「だから、新大陸の国々と連絡を取る必要があるわけね」

「そういうことだ」


どこまで、アクエノキの動向を把握しているのか、そして、今回のよその大国でのマジック・ギアによる騒ぎをどう見ているのかを確認しないといけない。

事態を重く見ているのか、楽観視しているのか。


「でも、さっきの話で不思議に思ったんだけど、なんでフィンダールは追跡に人を回していないの? あっちも教会の連中に散々ひどい目にあわされたでしょうに」

「逆だよ。追跡に人を回すと殺してしまうって言ってたな。それでこちらの不興を買いたくないらしい。そして、一番の理由はフィンダール、ハイデン、ハイレ教会が揃って追いかけて監視している相手だと他国に知られたくないかららしい。」

「……なるほど。アクエノキが他国に取り込まれるのを警戒したわけね」

「そうだ。今のアクエノキには何も力はないが、これまでの知識はあるし、俺たちが躍起になって討伐しようとしたのも事実だ。これは、他国にとっては厄介ごとのタネではあるが、別の意味では、俺たちの国に対して強力なカードにもなるわけだ」

「私たちと戦いたい国にとってはね」


セラリアの言う通り、今後俺たちの新大陸の同盟と戦うには、アクエノキは一番有力なカードに見えるだろう。

まあ、勝てる勝てないは別として、俺たちに対抗できると思うだろう。

散々ハイデン、フィンダール、ハイレ教を引っ掻き回したという実績はあるからな。


「しかし、絶妙なタイミングね。逃がしたのは失敗だったかしら?」

「さて、敵がはっきりとわかったのはいいことだと思うがな。そのままどこかの国が取り込むなら、そこは敵って判断はしやすいからな」

「ある意味、ルナの思惑通りってことね」

「いや、ルナの場合はほかの中級神派の神連中をいぶりだすことが目的だからな。敵対国を見つけたいってわけじゃないぞ? まあ、今回のアクエノキを取り込もうとする国が、ほかの神だっていう可能性は捨てきれないけどな」


日本でも神様は八百万というぐらいだ。

こっちの世界でも一匹見たら百匹いると思えってやつなんだろうな。

まあ、こっちのは俗物的な神が多いから、日本の八百万の神様よりはマシかもしれないな。わかりやすいから。

八百万の神々なんて、自然現象のようなものから、意味不明なものまでいるからな。

能力も限定的すぎるが、限定的なおかげで非常に強力だしな。

こっちのは、向かってくるなら物理的にやれるっていうのがありがたい。


「ほかの神が動いているとなると、さらなる面倒でしかないわね。ま、それもこれも明日からの調査でわかるでしょう。明日からは、新大陸よね?」

「その予定だ。カグラたちも連れて行く。学校さぼりの件は一旦保留だな」

「ま、カグラたちも学校に入って3、4日だからね。まだ情報は集まらないか……。でも、学校に行きたくないか」

「色々あるんだよきっと。リリーシュが当たり前のように受け入れてるからな。あれでも、ちゃんとした聖職者だ。夫婦仲のことは別として、間違っていることは正す。それをしないんだからな……」

「何かあるんでしょうね。私の方で、リリーシュに聞いてみようかしら?」

「リリーシュが喋ってくれるか? というか、リリーシュは何も聞いていないかもしれないぞ?」

「放っておけないでしょ。それに、シェーラみたいに怒らなければそこまで警戒しないでしょう」


まあ、シェーラの剣幕に心配したってのもあるだろうな……。


「なら、セラリア頼む」

「ええ。ウィードのことは女王である私に任せなさい。だから、カグラたちのことは任せたわよ? 戦いになっても死なせるんじゃないわよ」

「ああ。カグラたちは大事な新大陸の知り合いで外交官だからな。それにソウタさんの子孫だ。顔向けできないような真似はしないさ。最悪、カグラたちだけでもウィードに連れて帰ってくるさ」


今のウィードにとって、いや、俺にとってあれだけ理解して手伝ってくれる人物は新大陸の中でカグラたちしかいないからな。


「……あなた。いい加減に、現実を見なさい」

「……」

「わかってるでしょう?」

「……何のことやら」

「あなたが、気に病むのはわかるけど、誰も咎めたりはしないわ」

「俺はセラリアたちがいるんだけどなー。どこがいいのやら……」

「あら? あなた以上の男なんて、この世界にいるのか怪しいのだけれど?」

「ま、それも含めてがんばるさ」


いい加減、な。

はあ、正直アクエノキのことよりこっちのほうが俺にとっては問題だよなー。


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