第734堀:楽しさのあとの

楽しさのあとの



Side:ユキ



「会場の方はどうだ?」

「人がいっぱい入ってきてるっすよ」


そう俺の質問に答えるのは、会議場の警備を任せているスティーブだ。

無論、要人の護衛やベータンの街全体の警備も任せているんだが。


「流石、魔剣が幅を利かせている場所っすね。お披露目ってだけで、あちこちの国から見学者が訪れるんすから」

「まあ、魔剣を扱えるかは運次第だからな。誰にでもチャンスがあるから、一般人からヒーローが生まれるような感覚なんだろう。あと、ゲートで各国がつながってるからな。移動しやすいっていうのもある。そして、お披露目するのは、魔剣のオリジナルって言われている聖剣だからな」


報告は受けていたが、この聖剣お披露目会には多くの人たちが訪れているようで、経済効果はものすごい。

今後はこういう会議は各国で順番にやらないかと話が来ているぐらいだ。

まあ、あれだ。地球でいう、オリンピック開催地域の奪い合いだな。

経済活性にこれ以上に適しているモノはないからな。

今度からはこういうイベントも会議の議題になるんだろうなー。

そのたびに白熱する会議か。

それも、この聖剣お披露目が成功してからだよな。

そんなことを考えていると、今度はスティーブから質問が飛んでくる。


「聖剣はいいっすけど、使う方の様子はどうなんっすか?」

「ライトのことか。エージルやジェシカたちから報告を聞いていたし、今日の会場に来た時に挨拶であったが、特に問題はなさげだな」


割と普通だった。普通過ぎて驚いた。

まあ、顔を合わせたこともないけどな。

ライト・リヴァイブについては、マーリィたちと作戦行動中だったから全部任せてたし、恨まれることもとくにない。


「ふーん。ま、よかったじゃないっすか。教会側のほうも、聖国側も何か聖剣に細工を仕掛けているようなことはないですし」

「だな。しかし、鑑定スキルがあってよかったと思う日がくるとは思わなかった」

「基本的に、人への鑑定は、ある程度の参考にしかならんっすからね。アイテムにしても、なんでその名前が付いたの?って聞きたくなることばっかりっすけど、今回に限っては、聖剣(レプリカ)製作者サクリってわかりやすかったっすからね」

「即座にエクスのノーブルやダンジョンマスター、サクリ・ファイスにも確認をとった。間違いないそうだ。偽装工作が完璧でもない限りな。ま、そこを言い出したらキリがない。まずは本物だったと安心しよう。聖剣を貸してもらって、本物かどうかナールジアさんに文字通り調べてもらうわけにもいかんからな」

「あの人が手を出せば、まったく別物になりそうっすね」


いや、本当に別物になりそうだ。

武具、兵器開発においては、自重をしらないからな。


「で、内部はわかったが、外の方はどうだ? 以前、最初の会議の時に襲撃かけてこようとした連中がいただろう?」

「あー、そんなのいたっすね。水際どころか、余裕で防げたっすけど。あれは各国で今回の交流に不満があった連中の手引きでしたからね。そのほとんどは処罰されたっすよ?」

「残党はいるんだろう? 今日、この日に暴れるのが、各国の要人に、各国からの観光客が山ほど集まっているんだから、一番都合がいいだろう」

「了解。ベータン外周の警戒を引き上げるっす。合わせて獣人の村の方も警戒をあげるっすよ」

「そうしてくれ。前回はあの獣人の村を襲ってから同士を集めるようなつもりだったみたいだからな。尖兵として使いやすいんだろうな、亜人は特にな」

「ホワイトフォレストが公式に交流を持ったとはいえ、そのやり方に反発している連中も多いっすからね」


こうして、平和に見えるが、やはりまだまだ問題を抱えているのが、世界の真実だよな。


「で、スラきちさんの方はどうだ?」

「ちゃんと擬態して、会場のいたるところにいる。何かあれば体を大きくして、要人たちはもちろん、観客も区画で隔離可能だ」


スライムって本当に便利だよな。

スライム弱いとかいう連中はスライムの本当のすごさを知らんのだろう。

と、そんな感じで、会場の警備について聞いていると、ホーストが控室に入ってきた。


「ユキ様。そろそろお時間です」

「そうか。じゃ、各国の王たちを予定通りに会場の席へ案内してくれ」

「かしこまりました」


ようやく、お披露目会が始まる。

さて、何事もなく終わるかなー?



「いやー。すごいですな。聖剣というのは」

「いやいや。聖剣もすごかったですが、各国の魔剣使いたちも素晴らしかった」

「確かに、あのように、魔剣使いや聖剣使いが一同に会する機会などありませんでしたからな」

「まさに、おとぎ話の通りとなりましたな」


そんな声が聞こえて遠ざかっていくかと思えば……。


「おかーさん。私、マーリィ将軍みたいになるー」

「なれるかなー?」

「なれるよー。マーリィ将軍はなれるって言ってくれたんだからー。これからは国じゃなくて世界を守る魔剣使いが沢山いるんだっていってたんだから、私も将来は魔剣使いになって、世界を守るんだー」

「ふふ。そうね」


かわいらしい会話も耳に入ってくる。

既にベータンは夕暮れ時。


「……なんか、何もなかったようで、あったな」

「まあ、よかったんじゃないんすか?」

「だなー。聖剣のお披露目は無事に終わって、そのあとは、各国の魔剣使いのお披露目だ。予定通りではあったが、全員一緒にお披露目をするとは思わなかったよなー」


そう、スラきちさんの言う通り、聖剣使いのお披露目が無事に終わったかと思えば、今度は各国の魔剣使いたちが出てきて、魔剣のお披露目を始めた。

まあ、気持ちはわかる。

聖剣使いのお披露目だけでは、エナーリアの株だけ上がるのだ。

光の聖剣使いはおとぎ話では、リーダーだ。

つまり、イフ大陸のリーダーであると観客が勘違いしてしまう可能性があった。

だからこそ、ここで魔剣と魔剣使いのお披露目もして、各国の立場は対等だと伝えたわけだ。


ジルバからは、マーリィ。

エナーリアからは、プリズム。

ローデイからは、ドージュ。

アグウストからは、ラライナ。


もうさー、マーリィとかプリズムはいいとして、ドージュとかラライナの印象は薄かったわー。

ラライナはマーリィと同じ風の魔剣使いでかぶってるし、ドージュは岩の魔剣使いなんだが、ブレードのおっさんを追いかけているイメージしかない。

極めつけは……。


エクス王国からは、キシュア。

ホワイトフォレストからは、カーヤ。


おーい。どっちとも本物の聖剣使いなんですけどー。

因みにキシュアは炎で、カーヤも炎。かぶってるよお前ら。


エクス王国、ホワイトフォレスト王国共に、裏の諸事情で、魔剣というか聖剣使いとつながりがあるから、そっちを引っ張ってきたんだろう。

エクス王国は魔剣使いはおらず、その魔剣を誰でも使えるようにするということを考えて国力上昇を考えていた。

それから考えると山ほど魔剣使いがいることになるんだが、今となってはそんなことをすれば、大陸間交流をぶっ壊す一因でしかないから、ウィードで冒険者活動をするキシュアにお願いしてきてもらったらしい。


ホワイトフォレストの方は、まあ、身内だし。

カーヤの妹のヒーナはホワイトフォレストの女宰相。

クロウディアにいたってはレフェスト王の妹。

カーヤのわかりやすいお耳やお尻尾があるので、亜人にも魔剣使いがいると喧伝するにはいい機会だったというわけだ。

いや、聖剣使いだけどな。


こういうのに出てくるのは聖剣使いのリーダーディフェスかと思ってたんだけどな。

光のベツ剣なので、混乱するから出てくれなかったそうだ。

そりゃそうか、ライト・リヴァイブっていう光の聖剣使いがいるんだから、そこでディフェスの光の聖剣が出て行けば更なる混乱しか呼ばない。

今後も今と同じく水面下でイフ大陸の動向をうかがっていくそうだ。


「ちなみに、聖剣使いで思い出したっすけど。キシュアさんに、スィーアさん、そしてアルフィンはウィードでのんびりと生活しているっすけど、ほかの聖剣使いは?」

「ん? 前言わなかったか? ウィードを拠点としつつ、イフ大陸の監視員として働いているぞ。主にヒフィーかノーブルのところにいって、何か気になる点があればそれを優先にしてって感じだ」

「あー、だから思った以上に各国の情報の裏付けが入ってくるわけっすね」

「だな。一応、組織図としては、霧華の諜報部のイフ大陸監視課になる」

「霧華の部下扱いっすから、全然見ないわけっすね」


霧華たちはどっかの英国スパイみたいに派手なことはしないからな。

いや、バレれば派手なことになるが、基本的に紛れ込むタイプだからなー。

ああいう映画みたいなことにはそうそうならない。

たまに、治安維持のために盗賊団とかはつぶしているらしいが。その程度だ。


「で、その霧華本人はなんでそこにいるっすか?」

「無論。主様の護衛ですとも。ヴィリアやドレッサ、ヒイロではまだまだ」

「むう。霧華さん。私たちだって頑張っています」

「頑張っているだけではだめです。護衛の仕事は絶対に対象を守らないといけないんです」

「相変わらず、厳しいわね」

「といっても、霧お姉は優しい。屋台でご飯買ってきてくれた」

「厳しくて当然です。そして、ヒイロの言う通り優しいのです。相手を気遣えなければ護衛は務まりません。護衛対象を気疲れさせるなど、あってはいけません。ですが、ヴィリアたちが頑張っているのは理解しています。これからも精進してください。そして、リーア様?」


鋭い眼光をリーアに向けてくる霧華。

こりゃー、流れから怒られる感じか?


「な、なにかな?」

「これからも主様をお願いいたします。どんなにつらくても、ユキ様のそばを離れないという決意は、流石、ユキ様が護衛として選ばれた方だと思いました」

「あ、うん。ありがとう」


モノは言い方だな。

確かにそう言えなくもない。

いや、俺のために頑張ったというのは事実か。


「え、それってユキに気を使わせているから、だめなんじゃ……」

「極限状態でそれが言えるのがいいのです。ドレッサはリーア様のように疲れていて、それでも主様の護衛をするといえますか?」

「い、いえるわよ」

「なら、いつかその時を見せてもらいましょう。とはいえ、今は報告です」

「報告?」


そう言って、ドレッサの疑問をよそに霧華はこちらに振り返り……。


「報告いたします。新大陸の方で、動きがみられました。マジック・ギアに関してです。取り急ぎではございませんが、一度、カグラを通してハイデンに情報を求めるといいでしょう」


そっちが来たか。

しかし、すっかり忘れたというか、ようやく動きがあったか。


「霧華が仕入れた情報は?」

「はっ。バイデに訪れる商人たちから、ハイデン、フィンダール、と並ぶ、大国の間で、怪物が出る峠があるという噂を聞きつけました」


いつかはこうなる日が来るとは思ってたけどな。


「よし。霧華は引き続き情報収集を」

「はっ」

「リーア、ヴィリア、ドレッサ、ヒイロ、スティーブ。俺たちはこのまま聖剣お披露目会を無事に終わらせることに集中だ」

「「「はい」」」


霧華の言葉で気が引き締まったのか、しっかりと返事をする4人。

まずは、今日のイベントと乗り切る。

そして、次は新大陸か……。


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