第733堀:色々な成果とこれからのお仕事
色々な成果とこれからのお仕事
Side:ユキ
「……スティーブたちが押さえこまれたのはいいとして、ブレードのおっさんはついに護衛の兵士を懐柔したか」
俺は昨日の報告書を見て微妙な気持ちになる。
「我が国の陛下が申し訳ございません」
「いや、サマンサが悪いわけじゃないからな」
困ったのはローデイ王であるブレードのおっさんなのだが、まあ、何とも憎めない。
そもそも、連日会議でうんざりしているのはよくわかる。
もうすでに、他国の王たちは、ローデイ王の逃亡はいつものことのようで、気にも留めていない。
これが慣れというやつかと戦慄したもんだ。
幸い、アグウスト王はローデイ王から誘いを受けているが、ちゃんと部下から許可をもらって行動を共にしているのが救いだな。
しかし、この期に及んでローデイ王と一緒に行動するのは、自身の評判落としっていうのは否めないか?
アグウストは世代交代でまた揺れそうだな……。
「ま、この報告書はいつものことだ。いや、好転したといっていいだろう。護衛を伴ってくれたんだからローデイ王は」
まあ、取り込んだともいえるが。
だが、キユやコヴィル、スティーブ、スラきちさんといった、ベータンの治安を守る者たちとしては、ありがたい話だ。
「懸念は一つ減ったとみなそう。そして、今日のイベントから逃げ出すほど馬鹿でもないだろう。今日のイベントをすっぽかしたら、流石にローデイ王国の立場は著しく悪いものになるからな。なにせ、大陸間交流をかけた聖剣お披露目会だからな」
冗談抜きに、大陸間交流参加国に袋叩きにあうだろう。
国益どころか、大陸全体の利益を大幅に損なうからな。
「さて、ローデイ王の方はいいとして、ベータンで行われる、聖剣お披露目会についての話だが、事前に配布したパンフ、予定表に変更はない。警備も問題なしだな。外からの観光客の入国管理も厳重だ。観光客関連のトラブルはあれど、刀傷沙汰にはなっていない。危険物の持ち歩きは許可していないおかげだな」
まあ、刀傷じゃなくて殴り傷の事件はあるんだが。
モノは言いようというやつだ。
「各国の要人たちの方はどうだ?」
とにかく、聖剣お披露目会をすることに対してベータンという町では障害はないということだ。
あとは、各国の状態なんだが……。
「ジルバは特に問題ありません」
「ローデイも……問題はありませんわ」
「アグウスト、問題ない」
「エクスも何も問題ないな」
「ホワイトフォレストも問題ありません」
そう報告してくれる外交官の嫁さんと、王様2人。
「なんで、国のトップが2人もこっちの報告に顔を出しているんだよ」
「直に報告した方がいいだろうと思ってな。心配するな。我が国の方は大体話がついている。もとより、この3国は裏で繋がっているからな。家臣も安心している」
「エクス王に同じくです。そして何より、コメット様に伝言を頼むなどできませんし、コメット様やユキ殿たちが私たちをぞんざいに扱うとは思えませんからね」
エクスのノーブルは理解できるが、ホワイトフォレストのレフェスト以下連中のコメットへの信頼が恐ろしい。
まあ、救ってもらったという恩義からくるのはわかるが、あのコメットの自堕落っぷりと素の性格を知っているこっちとしては、なんというか、微妙な気持ちになる。
いつか来る、信頼の崩壊まで静かに見守るべきか、それとも俺からコメットの本性を伝えるべきか。
どっちが、ホワイトフォレストの人たちにとっていいのか……。
いや、まて。今はコメットの偶像を消す話じゃない。
「ま、問題がないならいい。で、当事者である、エナーリアの状況だが、今のところは大人しい。聖剣使いのライトに対して何か仕掛けることもなければ、教会関係者も動く様子もみられない。失敗すると高をくくっているのか、成功したらそれはそれでいいと思っているのかはわからないが、警戒だけは怠らないように」
「「「はい」」」
「うむ」
「遅れは取りませんよ」
全員の返事が返ってくる。
「よし。なら、お披露目開始まで、あと4時間だ。要人の入場開始が2時間前で、一般入場は1時間前だ。忙しくなると思うが、各員よろしく頼む」
「「「はい」」」
再び全員の返事が返ってきて、各々持ち場へと戻っていく。
それを見送ってから、俺の後ろに控えるメンバーに声をかける。
「ヴィリア、ドレッサ、ヒイロ、今日はよろしく頼む」
「任せてください、お兄様。襲い掛かる敵から必ず守ります」
「ええ。私たちに任せなさい。特に私はイフ大陸出身だから、もっと頼っていいのよ」
「ヒイロも頼ってー」
「おう。ヒイロも、ヴィリアもドレッサも頼りにしている」
今回は、ジェシカたちいつもの護衛メンバーは外交官としての仕事で各国の方へ顔を出すので、俺の護衛がリーアだけになってしまうため、ヴィリアたちに再び護衛に就いてもらうことになったのだ。
まあ、最近は大陸間交流の外務省で働き通しなので、いい気分転換になるだろう。
いい加減、ほったらかしというつもりではかったのだが、目から光が消えてきたと報告を受けたからな。
「で、リーダーのリーアだが……」
「ふぁい?」
俺の呼びかけになんとか反応してはいるが、どこからどう見ても疲労困憊の反応だ。
「こんな感じで、3日ほど書類仕事を教えた結果、ちょっと今日は反応が悪い」
「……そうみたいですね」
「いや、普通は書類仕事だけであそこまでならないでしょう?」
「リーアお姉は、パソコンはそこまで得意じゃない」
ジェシカ、サマンサ、クリーナのスパルタ教育で、原本をどこから引き出すとか、PCでの入力とか、関係者への連絡はどこだとか、一通り教え込まれた。その代償でこんな感じになった。
関係者への連絡の方は問題無かった。まあ、散々俺たちと一緒にいろんな人と会って、話してきたからな。
で、問題はパソコンの方で、リーアはアナログ作業向きなんだろう。
パソコンは使えても、普段使わないソフトを扱うのは苦手というやつだ。
慣れるか無理かは、今後次第だな。
「リーア、疲れているのはわかるが、流石にその状態で護衛を任せるわけにはいかないが……」
各国に失礼というのもあるが、リーアが倒れたらそれこそ大騒ぎだ。
というか、各国に失礼なのは今更だしな。
居眠りぐらいで喧嘩売ってくる国はいないだろう。
まあ、そこはいいとして、この会話に反応できないなら、護衛から外して、寝かせる。
苦手なことを無理に3日間頑張ったからな。それぐらいは……。
「が、がんばります!! だから捨てないでくだしゃい!! お願いします!!」
なんか、即座に反応するどころか、涙目というか、泣きながらそう言ってきた。
というか、捨てるってどういうことだ?
「あの、お兄様。リーアお姉様のお仕事はお兄様の護衛ですから……」
「護衛を任せるわけにはいかないって、クビってことよね?」
あー、そう言う風にも取れるな。
しまった、失言だったな。
そう思って、訂正しようと思った矢先に、先にヒイロが止めを刺す。
「リーアお姉は無職? 役に立たないから、ポイ捨て?」
「いやぁぁぁ!? いやですぅぅ!!」
ヒイロの無慈悲というか、無垢な言葉を受けて、耳を塞いで頭をぷるぷる振るリーア。
「落ち着け。そんなことはないから」
寧ろ、勇者をクビにするほうがリスクが高いわ。
そして、今更リーアを放り出すとか、俺もしないし、嫁さんたちもしない。
「ほ、本当ですか?」
「本当、本当。ただ、ここ3日は業務の為に無理に書類仕事を覚えただろう? それで疲れているみたいだからな。今日は休むかって話だ」
「絶対出ます!! 疲れてませんから!!」
いやー、さっきの様子で疲れてないとか、無理がありまくりなんだが……。
そう思っていると、ヴィリアとドレッサが耳元で……。
「お兄様。先ほどあんなことを言われてしまっては休めませんよ……」
「そうよ。ここは負担にならない程度に、リーアを参加させるほうが、リーアの為でもあるわ」
まあ、そうか。
はぁ、本当に失言だったな。
「そうだ、皆。リーアだけじゃないが、体調不良の時に、無理に仕事に出る必要はないぞ。倒れたりなんかしたら、逆に周りに迷惑をかけるからな」
俺はそう言って、リーアやヴィリアたちだけでなく、ベータン指令室で仕事をしている皆にそう声をかけておく。
バタバタと倒れてもらったら本当に周りが迷惑をする。
わが社はブラック企業ではないのだ。
定時で上がり、休暇も取らせる、有給もある。
我が社はスティーブ以外には優しい国家運営をしております。
風邪で休んだからといってペナルティーはないし、治療や通院に関してもウィード病院であれば、ウィード国民は診察、医療費無料である。
ただし、入院費に関しては多少貰っている。
と、そう言う細かいことはいまはいい。
「まもなく、聖剣お披露目だ。頑張るぞ」
「「「はい」」」
全員からいい返事が返ってきたのを確認して、俺たちも持ち場へと移動を開始する。
会議場を貸し出す手前、俺も聖剣お披露目会に顔を出さないわけにはいかないんだよな。
面倒だが仕方がない。
そんなことを考えつつ、ベータンの街を移動しながら見渡すと、ホーストやキユ、そして門の所で検査をしている関係各所から報告が来ているように、今回のお披露目会を目的に観光に来ている人が多いのか、ベータンの街は大賑わいを見せていた。
まあ、大賑わいといっても、どっかの大都会の駅前とかいうレベルではないけどな。
程度で言うなら、ウィードの商業地区の日曜ぐらいだ。
「思った以上に賑わっていますね」
「へー、驚き。ベータンも意外と賑わうのね」
「なんか出店が沢山でてる。見たことのあるモノばかり。リーアお姉、これはウィードから?」
「え? あ、うん。そうだよ。元々キユがラーメン屋を出していただけなんだけど、今回の大陸間交流とかで賑やかしというか、ウィードの宣伝も兼ねて屋台を色々出そうってことになって、こうして、色々でてるんだよ」
「へー。リーアお姉良く知ってる」
「あ、うん。お仕事手伝ったときに、屋台関連の発注とかやったからね。覚えてたんだよ」
なるほど。
決して、3日間のスパルタは無駄ではなかった。
リーアはこうしてきちんと学んでいる。
「ちゃんとできるじゃないですか」
「何も心配はいらないわね」
「だな。リーアは、出来る奥さんだ。だから、捨てるとかありえないから」
「そ、そうですか? ありがとうございます。これから、もっと頑張ります」
ここでやっと不安顔だったリーアが微笑んでくれた。
本当に迂闊なことは言うもんじゃないな。
「でも、なぜ屋台の発注などをお兄様の部署で?」
「そう言えばそうよね? そういうのはそもそもエリスとかラッツの部署じゃないの?」
「そう思うかもしれないが、違う。というか、このベータンはあくまでもウィードの統治下の町なだけで、ウィードそのものではないんだ」
「ヒイロよくわからない」
「ごめんなさい。ユキさん。私もよくわかりません」
うむ。簡単に説明するにはどういったらいいのか……。
「つまりだ。このベータンの統治者はあくまでもホーストだ。セラリアじゃない。ということは、このベータンにも本来であれば、近くの町や村からはもちろん、他国との貿易をする人がいて、管理する人物がいるんだが……」
「そういえば、そんな人は見たことありませんね」
「いつも、ジェシカとか、サマンサが色々やっている気がするわ」
「そう。ベータンは元々、エナーリアやジルバ領だったんが、俺へ譲渡された。その際、その貿易関連の人材は撤退した」
「撤退?」
「言い方が悪かったな。ジルバは俺たちに恩を売りたかったが為に、わざと交渉できる人物を引上げさせて、俺たちを困らせようとしたわけだ。そこで俺たちがジルバに助けを求めれば楽だろう?」
「意地悪ですねー」
「まあ、向こうから見れば、得体のしれない強い集団だからな。何か交渉できるネタが欲しかったんだろう。だが、そこはベータンのホーストに俺は自由にやらせたから、問題なく進んできたし、そしてウィードとベータンの貿易に関しては、俺が仲介役となっているから、今回のようなことは俺に仕事が回ってくるわけだ。ベータンはウィード領ではあるが、経済的には基本的に独立しているから、ウィードとの取引という形になるから、ちゃんとした仕入れとか収入とか、そういうやり取りが必要になるんだ。それをいままで、ジェシカ、サマンサ、クリーナが頑張ってくれていたわけだ」
まあ、言うほどウィードとの交流があったわけでもないので、忙しくなったのはウィードの正体をばらしてからだ。
「これから、聖剣お披露目会が無事に終われば、本格的にというか、これまで以上に取引が始まるからな。今よりもいっそう忙しくなるな」
「大変なんですね。お兄様。でも、私たちがお手伝いします!!」
「ま、護衛だしね」
「ん。外務省のお手伝いでヒイロたちも頑張れる」
「……頑張ります!!」
リーアはちょっと悲しい顔をしていたな。
仕事が増えるって言われて喜ぶのはあれだしな。
「ともあれ、まずは目の前のお披露目会だ」
説明している間に、会議場にたどりついていて、色々準備に人が走り回っている。
「さ、お喋りはここまでだ。しっかり働くぞ」
「「「はい」」」
こうして、俺たちはお仕事を開始するのであった。
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