第732堀:ステンバーイ ステンバーイ

ステンバーイ ステンバーイ



Side:スティーブ



ザザッというノイズの後に無線から声が届く。


『……感度良好。そっちの方はどうだ?』

「こっちは、いたって平和っすよー」

『こっちも、今のとこは問題ない。引き続き警戒を頼む』

「了解っす」


おいらはそう返事をして、大将との通信が終わる。


「本当にいたって平和っすねー」


モニターを見ながらおいらはそういう。

表示上、部隊の配置も、要人の位置も全部確認できて、各部隊の定時連絡も問題なく行われている。

不穏な動きも見られない。

平和そのものっす。


「このまま終わってくれるといいんすけどねー」

「だなー」


そうおいらの意見に同意してくれるのは、スラきちさん。

今回はイフ大陸での会議ということで、第三軍、国として出張っている、ミノちゃんやジョンは使えないので、こうして二人で聖剣お披露目会の警備に当たっている。


「無線もジャミングなし。盗聴の心配もないからなー。気楽な仕事だよ。いや、気は抜けないがな」

「そうっすよねー。大将との訓練の方がよほどハードっすよ。ま、気は抜かないっすけど」


大将を相手にすると、まず情報戦から始まるっすからね。

しかも聞き込みとかのレベルじゃなく、魔力通信、無線の傍受とかそこから。

もう、迂闊に連絡すらできないっすし、言葉も端的に暗号的に言わないといけないっすからね。

しかも、一番やっかいなのは、連絡妨害。ECM系で情報を全部遮断してくるんすよねー。

情報遮断されたら、もう部隊壊滅しているって思わないといけないっすから、大変だのなんだのって。


「で、問題のライトとかいう娘は?」

「特に変化なし。現在は、ジェシカの姐さん、エージルさん、プリズム将軍、マーリィ将軍、ヒヴィーア副官に囲まれているから心配はいらんしょ。当初接触したときは、ジルバ側の人に嫌悪感でも示すかと心配だったすけど、そういうこともなく、いたって平和というか、むしろ協力的なんで助かるってジェシカの姐さんから報告がきてるっすよ。スラきちさんの方は?」


おいらはボディーガードで、スラきちさんは要人監視と役割分担しているんっすよね。


「監視している各国の王には特に問題なし。どいつもこいつも、今後の大陸間交流の方の話をまとめるのに注力しているな。まあ、いつもの通りだな。で、一番危険と目されている教会連中だが、こっちも意外だが動きがない」

「動きがない? 教会の連中はエナーリア王家から主導権を奪いたいんしょ?」

「面白い話というか、前からわかっていたことだが、教会の上層部は王家としっかり繋がりというか、お互い理解はしているからな。暴走しているのは下っ端の両者の繋がりを理解していない連中だ」

「ああ、教会の上層部も下の押さえをしているってことっすか」

「そういうことだ。下っ端は、暴走したくても、上が賛同してくれないなら堂々とは動けない。下はこの状態で動けばただの背信者になるからな。今後の展開はよくない」

「いや、それならなおのこと動かないといけないっしょ?」


今動かないと、成果は得られない。

そうなると、今後のチャンスはなくなる。

各国の王を味方につけるいいチャンスなんすから。


「それがそうでもない。この問題は、エナーリア王家の不信感から来ている。その不信感は度重なる、王家の失態によるものだ。だから、聖剣使いのライト・リヴァイブの能力に疑問を持ち、それでエナーリア王家にゆさぶりをかけているわけだ」

「ああ、これで王家が持ち直すならそれでいいってわけっすか?」

「そう見ているんだろうな。そうでなければ騒ぎを起こさない理由がわからん。立場向上を狙うなら、この選択は袋小路だからな。このままお披露目会が上手くいけば、ただの現状維持にしかならん」

「なるほど、本当に生活ができるかって不安から来てるってことっすね」

「まだまだ平和が浸透していないってことと、スィーア教会からすればヒフィー神聖国は商売敵だからな。国家に保証して欲しかったってところだろう」

「結局お金っすか。でも、されどお金ってわけっすね」

「だな。食い扶持が無くなるのは死活問題だ。上が解決できないなら、自分たちでやるしかないってことになるだろう」

「逞しいっすね。ということは、基本的においらたちはこうしてモニターの前っすね」

「まあ、俺たちがこの場にいることが平和の証ってことでいいだろう。それとも、現場を駆けずり回りたいのか?」

「そりゃ勘弁っす」

「俺もだ。楽な仕事だと思っておこう」


そういうことで、おいらたちはのんびりと指令室に待機することになったっす。

因みに、モニター監視は部下の仕事で、おいらたちは書類仕事をすることになったっす。

これは本来、外回りが終わってからやることで、大体書類が山積みになったのを処理することになるから、気が滅入るっすけど、今回はその分楽っすね。


カサッ、ポン……。カサッ、カリカリ……。


しばらく、そんな書類を整理するだけの音が響くのだが……。


「スティーブ将軍。問題が発生しました」

「スラきち将軍、連絡です」

「「どうした?」」


なんかタイミングよく、おいらと、スラきちさんに同時に連絡が来た。


「ローデイ王が宿泊施設から護衛を伴わずに外出。おそらくいつものように逃げ出したものかと」

「こちらも、監視していたローデイ王が部屋を逃げ出したので、報告です」

「「どういたしましょうか?」」


同時に聞きに来るモニター係。


「スラきちさん。要人監視っしょ?」

「街中の警備はゴブリンだろう? 俺の部隊は有事の際にしか動かんって決めてるだろうに」

「「……」」


この楽ができる場所をお互い動きたくないという強い意志が伝わってくるっす。

……これは先に動いた方が負ける!!


「遊んでないでさっさと指示をください」

「あ、もしもし、ユキ様ですか? うちの上司2人がですね……」

「よし、我々が勝手に確保するのはローデイ側の心証が悪い。まずはローデイに報告をして、監視するにとどめるっす」

「こっちは、スティーブ隊のフォローに回る。敵性反応がないか厳重にしろ」

「「了解」」


やべ、真の敵はこのモニター監視の骸骨どもだったっす。

ミノちゃんの参謀役としてリッチが付いているっすけど、それが原因か、どうも骸骨どもは可愛げがなくまじめすぎるっすね。


「監視対象はどこに向かっているか、予想はできるっすか?」

「はい。できます。これまでと同じ方角に向かっていますので、おそらくキユ様の屋台かと」

「「ああ」」


好きっすねー。あのおっさんも。


「ほかに周囲の動きはあるか?」

「いえ、とくには。各国の王たちは会議中で動いておりませんし、護衛の兵士以外でローデイ王を追うような気配は、ありません」


スラきちさんの監視に方にも特に問題はないっすね。


「キユの方に連絡入れるっすよ?」

「おう。それがいいだろう」


そういうことで、ラーメン屋をやっているキユへと連絡を入れる。


『スティーブ、どうしました?』

「ローデイ王がまたっす」

『ああ、またですか。好きですね』


この「また」という言葉で全て通じてしまうのが何とも、ローデイ王がどれだけ逃げ出しているのかわかるだろう。


「一応、ローデイ側の護衛に連絡を入れてるから、迎えに来ると思うっす」

『いつものように、ラーメン食べさせるだけですね』

「その対応でお願いするっす。で、仕事の話ついでに、どうっすか? 明日にお披露目会を控えた町の感じは?」

『結構にぎわっていますね。ちゃんと事前準備をしていたおかげで、客足も悪くないですね。他国から来たって人の話も多く聞きますし、ゲートを使った交流、交易は順調なんじゃないですか? 詳しいことはゲートでの入国管理の方に聞いた方がいいでしょうが。と、そろそろローデイ王が来ると思いますので、失礼しますね』

『キユー!! ブレードさんきたわよー!!』

『じゃ、また』


そう言って、コール連絡は終わる。


「目標は無事到着したっすか?」

「はい。しています」

「まあ、キユのところならめったなことはないだろう。コヴィルもいるし、って、そういえば、コヴィルの方は安全なのか? こっちの大陸では絶滅したはずの妖精族だろう? 誘拐とかはなかったのか?」

「んー? 聞いてないんすか? 何度か、連れて行かれそうになる騒ぎはあったっすよ。でも、コヴィルもウィードの中核メンバーの一員っすからね。二度三度と撃退して、町の人も一緒になって撃退してるっすから、今では問題はないっすね。無論その中にキユも混じってるっす」


あの時のキユは笑顔だったが、マジで怒ってたっすね。


「やっぱりそういうのはあるのか」

「どこにも犯罪はあるんすよ」

「で、そのコヴィルを攫おうとしたのは組織か? 単独か?」

「一回目が、依頼を受けた下っ端。二回目が奴隷商人の直属が出てきたっすね。三度目で奴隷商人が大勢率いて、キユのラーメン屋に襲撃を企てたんで、キユが切れて、全員ボコボコ。組織は吊し上げで、潰したっすよ。いやー、あの時のキユの動きは素早かったっすね。大将を思わせる、手の回し方だったっす」

「まあ、建前上、大将の弟扱いだしな。事実弟のように扱ってるしな。実力も十分。しかし、キユが怒るっていうのは、大将と同じように、いや、それ以上に珍しいな」

「今回の沸点は同じっすけどね。身内に手を出されたらってやつっす。まあ、大将はゲームとか邪魔すると怒るっすからね。その分沸点は低いっすね」

「いや、ゲームの邪魔をして怒るのは当然だろう。俺たちは殴り合いになっただろう?」

「いやいや、あれはドカ○ンやも○鉄で、連携して1人をいじめるから、ダイレクトアタックになったっすよ。というか、あの時はキユも含めて大乱闘になったじゃないっすか」


友情破壊ゲームという通り名の如く、文字通り、一時的とはいえ、ゲームをするような仲であるおいらたちの薄っぺらい友情は千切れてなくなったっす。

あの時に、ベジタリアンの息の根を止めておくべきだったっすね。

そんなことを話しているとモニターに動きがある。


「報告します。ローデイ王を探しにでた護衛が、ローデイ王を発見、接触しました」

「お、みつけたっすか。まあ、いつもの場所だから当然っすね」


さっさと連れ帰ってくださいっす。

いつものように、引きずられて帰るといいっす。

こっちも部下の引き上げ命令をだ……。


「……ローデイ王と接触したローデイの護衛が席につきました」

「はい?」

「どうやら、護衛の面々はローデイ王に言いくるめられたようです」

「どういうこと?」


おいらが首を傾げいていると、今度はスラきちさんから声をかけられる。


「部下が盗聴してコピーを送って来た。聞いてみるか? 笑えるぞ?」

「えー。笑えるってなんすかそれ? 嫌な予感しかしないんすけど?」


といいつつ、聞かなければいけないのは上司の宿命。


『陛下!! いい加減にしてください!!』

『そう怒るな。どうせ、連日変わり映えのしない会議だ。ロンリとヒュージがそっちは勝手にやる』

『しかし、抜け出してよい理由にはなりません!! 陛下に何かあればどうするんですか!? 大陸間交流は流れますよ!!』

『騒ぐな。とりあえず、席に座れ』

『ですが』

『今は護衛のお前たちがいる。なら何も問題ないだろう?』

『……またそのような屁理屈を』

『馬鹿。お前たちは連日俺を追いかけているだけで知らないんだろう? 俺がなぜ逃げてまでここに通うかを知れ。おーい、コヴィル。こいつらにもラーメンな』

『はーい。ラーメン3つ追加』

『あ、フォークで頼む』

『分かってるって』


……と、そんな会話が録音されている。


「で、護衛と一緒にラーメンっすか?」

「みたいだな」

「一応、現状問題はありません。護衛が付いた王の視察ですね」

「「……」」


2人して沈黙する。


「映像。通信来ます」


そう言ってモニターに映像が映る。

楽しそうにうまそうにラーメンを食う連中が。


「「各員配置についているか?」」


そして同時においらたちは連絡を取る。


『『ついています。スタンバイOKです』』

「「ゴッ!!」」

「「何言ってるんですか!! そのまま待機部隊は監視を継続!!」」

『『……了解』』


そのあとなぜかおいらたちは怒られた。

仕方ないじゃん。目の前で美味そうにラーメン食われたんだよ?

おいらたちが必死に働いている目の前で!!


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