第731堀:懐かしき友たち

懐かしき友たち



Side:エージル



僕は今日も今日とて、ゲートへと出迎えに赴ている。

しかし、今日のお客は、ユキたちではなく……。


「ようこそ。ウィードへ。ライト・リヴァイブ君。歓迎するよ」

「はい。ありがとうございます。エージル将軍」


そう、我が国の聖剣使い様だ。

いよいよ、本日は準備に準備を重ねた聖剣お披露目式というわけさ。

おかげで、私はこの3日間、ずーっと残業で寝不足。

お肌がきっとあれてるねー。

いや、普段から寝不足続きの研究ばかりだったけどさ。


「……エージル。私に歓迎の言葉ないのかしら?」


そんなことを考えていると不意に、一緒についてきたプリズムがそんなことをいう。


「いや、プリズムは一度来たことあるじゃん。というか、メインはプリズムじゃないよ?」

「そこはわかっているわよ。それでも一応言いなさいよ」

「じゃ、ようこそ。プリズム」

「投げやりね」


言えと言われたから言ったのにこれだ。

まあ、プリズムも心配していたという気持ちの表れなのは、長い付き合いからわかるけど……。


「仕方ないよ。基本的にウィードへ私が行くことになったのは、誰かさんがやらかしていたためだからね。おかげで、忙しくて研究する暇もないさ」


いや、事務仕事の書類とかは全部部下任せだけどね。

上の私は書類を確認して、ハンコを押すだけ。

あとは、ウィードの上層部とのコミュニケーションなんだけど、ウィードの上層部はお堅くないからね。全然気楽なんだよねー。

あと、コメット殿や、ナールジア殿、ザーギス殿との研究に関しての語らいや実験はすごく楽しいから、本国にいるより充実しているんだよね。

そういうことで、私としては、ウィードの仕事、生活はともに充実している。

なので、今更、配置換えとかいわれても嫌なんだが、プリズムには嫌みの一つでも言っても罰は当たらないだろう。

当初気乗りのしなかった外交官の仕事を引き受けることになったのは、どこからどう見ても、プリズムの責任なのだから。

それは、プリズム本人がよくわかっているので、僕がそう返すと、気まずそうな顔をする。


「あれは、仕方なかったのよ。誰も、あの時の剣士が女王陛下だなんて思わなかったでしょう?」

「まあね。でも、すぐに腕試ししたがるのがそもそもの原因だろう?」

「うぐっ」


腕がよさそうな相手を見つけては喧嘩を売る癖はやめてほしいね。

しかも、セラリア女王陛下には思いっきり手加減されていたことが、ウィードに来てわかったし。

ということで、基本的に真面目なプリズムがウィードの外交官に選ばれることなく、僕が選ばれたんだよね。

まあ、どこの国だって、国のトップに喧嘩を売った本人を外交官として派遣しようとは思わないだろうからね。

そんな感じで、プリズムを弄っていると、不意に後ろから声をかけられる。


「まあまあ、そこまでにしてやれ」

「気持ちはわかりますが、あとで仕返しされますよ」


振り返るとそこには、ジルバ帝国の魔剣使いマーリィ・ヒート将軍と副官のヒヴィーアが立っていた。

使っている風の魔剣から別名、風姫、風姫騎士と言われている。

見た目は大人しそうなユルフワな人だが……。


「私だって、ユキ様とリーア殿を勧誘しただけではなく、真っ向勝負で負けたからな!! しかも、軍を率いての勝負で」

「……はぁ。そういうことをこんな所で言わないでください」


見た目と違い豪快な人物で、昔からの隣国挨拶のときは、よく喧嘩、ではなく、腕試しをしようと誘われたものだ。

黙っていれば、本当に窓際の令嬢みたいな人なんだけどなー。

口を開けば残念というやつだね。


「ということで、プリズム。一度仕合でもしないか?」

「……本当にあなたは相変わらずですわね。もうちょっと、立場に相応しい立ち居振る舞いを覚えてはいかがですか? あ、仕合は遠慮いたします。ようやく平和になったとこに火種はいりません」

「硬いこと言わずに。やろう。別に、友人同士の鍛錬と同じだ。なあ?」


そう言って、同意を求めるように、ヒヴィーアの方向を向くが……。


「「駄目に決まっています」」

「いや、ジェシカまで声を揃えて言わなくても。というか、いつの間に」


マーリィの言う通り、いつの間にか、ジェシカがヒヴィーアの隣に立っていた。


「私も、一応、ジルバからウィードへ派遣された外交官の一人ですからね。我が国からの来客があるのなら、出迎えますよ」


道理だね。

僕がプリズムたちを迎えに来ていると同じ理由だ。


「ということで、うちのマーリィ様がご迷惑をおかけしました」

「申し訳ございません」


そう言って、ジェシカとヒヴィーアが深々と頭を下げて謝罪する。


「お2人とも、大変ですわね」

「あれ? 何か私が悪いみたいな話になっていないか?」

「「「悪いんですよ」」」


うん。ある意味、マーリィのおかげで周りの人々の心が1つになっている。

こういうのも才能なんだろうな。私はごめんだが。


「あっはっは。綺麗に声が揃ったな。やはり私たちは仲よしということだな。で、プリズムの後ろにいるのが、聖剣使いだな。久しぶりだな。ライト・リヴァイヴ」


で、そのマーリィはプリズムたちの非難をものともせずに、プリズムの後ろに控えているライトへと目を向ける。

そういえば、マーリィはライトのことを知っていたね。

ライトが待ち構えていた砦に攻め込んだんだから。

うーん。これは不味いかな? ライトが大人しくできるのか?

そんな感じで、少し警戒してライトの反応を見ていると。


「どうも、マーリィ将軍。あの時はお世話になりました」

「気にするな。それよりも、元気そうで何よりだ」

「はい。まあ、ちょっと問題があってこのようになりましたが」

「なに、気にするな。ライトが偽物などと言う奴らには、聖剣を使って見せて、度肝を抜けばいいさ。そのあと、久々に手合わせでもしよう」

「あー、それはちょっと……。聖剣を使うわけにもいきませんし」

「流石に聖剣を使えとはいわない。普通の木剣でだ」

「それなら構いません。あの時みたいにですね」

「そうだ」


んー? なんか、警戒しているどころか、仲が良さそうな感じだよね?

一体なにがどうなってるんだ? 何かトラウマが発現しないかと心配もしていたんだけど……。


「あのー、ライト君。なにか、マーリィ将軍と親しげだけど、どこでそんな機会が?」


マーリィとライト君の関連性がさっぱり分からない。

捕虜扱いになった時ぐらいしか、顔を合わせる機会はなかったはずだけど、違うところで接触していたのかな?

そう思ってプリズムに視線をやるが、ふるふると首を横に振る。

プリズムも知らないか。


「あ、はい。実は、ジルバ軍に捕まっていた時に、とても良くしていただきまして、その時に仲良くなりました」

「捕虜とはいえ、勇敢に戦ったものたちだからな。しかも、ユキ殿たちの兵器の攻撃を受けて、一気に壊滅してしまって、かなり恐慌状態でな。一般兵の酷い者に至っては、精神が壊れてしまった者も多数いた。そんな兵士に鞭打つことはできなかった。私は砦でオリーヴと一緒に慰撫を行っていたわけだ」


あー……、超納得。

いや、自分はユキ殿たちと正面から戦うようなことはなかったけど、ウィードに訪れて兵器の性能がどれだけ凄いかは知識として知っている。

それを、実際に真っ向から受けたんだから、そうなる人物がいてもおかしくないね。


「まあ、そのおかげで、どうもあの国境争いに疑問を持ってしまって、話し合いで何とかならないかと、上に相談してしまいまして……」


あー、やっちゃいけないことをしちゃったわけだ。

敵国への譲歩やスパイ疑惑を持たれたのか。


「道理で戦線から外されたわけね」

「まあ、そのライト君が更迭された後、程なくして和解が成ったからこうして出てこられたわけか」


主にユキのおかげだけど、それでクビが繋がったのか。

聖剣使いは精神錯乱とか報告を受けていたけど、なるほど、ある意味精神錯乱だねー。

そんなことを考えていると、マーリィも反応する。


「なんだ、そんなことになってたのか。ライト、そういうことは迂闊にいうモノではない。下手をすれば首が飛んでいたぞ」

「あはは……。反省しています」


だが、そのことを聞いた、後ろの2人は違う。


「マーリィ様。捕虜を勝手に出して、訓練などと、何を馬鹿なことを……」

「あの時なぜか大人しいと思っていれば、そんなことを勝手にしていたんですか……」


ジェシカとヒヴィーアはこめかみを押さえていた。

頭の痛い上司だねー。


「まあ、私のことはいい。それで、聖剣のお披露目に関しては問題無いのか? そういうことをやってしまったのであれば、風当たりは強いはずだが?」

「……どうなんでしょうか? 私はここ最近、プリズム将軍の付き添いという形になっていますので、よく周りの状況は分からないのです」


ああ、確かにそりゃそうだ。

スパイ疑惑のある兵士を自由にさせるわけないよね。


「プリズムは知らなかったわけ?」

「ライトを預かったのは一か月ぐらい前よ。だけど、そんな事情は聞いていなかったわ。多分、今後の友好関係が始まる上で、必要な部分もあったのでしょうね」

「なるほど。これから仲良くなる分には問題無いからね。ついでに教会がぎゃーぎゃー言い始めたから、ライトはそのための牽制材料ってことだ」

「え? 教会がどうかしたのですか?」


どうやら、ライトは聖剣のお披露目会の意味も知らされていないようだ。

なので、とりあえず簡潔に、現在エナーリアは王家と教会の間で亀裂が入っていることを伝える。


「……そうですか。私が負けたせいで」

「いや、別にライトのせいじゃないよ。ただの権力争い。というか教会の下っ端の危機感が問題かな?」


元々あった心配事が今回の大陸間交流で噴出した感じなんだよね。


「どういうことだ? エナーリアの教会との折り合いが悪いのは聞いているが、詳しいことは知らないのだ。問題が無ければ教えてくれないか?」


しかし、マーリィは知らないようだ。

まあ、ジルバの方は、ヒフィー神聖国からの派遣だしねー。

自国にその勢力がないから実感はないか。


「別に調べればすぐわかることですから、いいですよ。簡単にいうと、大陸間交流が始まることによって、エナーリア教会では、治療費の稼ぎが減るのではという心配が起こっているのです」

「うん。わからん。もうちょっと簡単に言ってくれ」


これ以上ないぐらい、簡単に説明した気がするけど、マーリィには伝わらなかったようだ。


「……あなたは。はぁ、えーと、どういったらこれ以上分かりやすくなるのかしら?」

「そうだねー。マーリィ。エナーリアにある教会、スィーア教会は知っているかい?」

「ああ、それは知っている。エナーリアの祖である、スィーア・エナーリアの教えを受け継いでいる教会だろう?」

「そうそう。王家とは別に、癒し、つまり、治療を主に行って、民との対話に重きを置いているんだ」

「それは知っている。王家は威厳を持たなければいけないし、非情にならなくてはいけない時もある。だから、分かりやすい優しさや慈悲を国の代行で行うために、王家と教会は別れたと聞いている」


なんだ、意外と理解力もあるし、勉強もしているんじゃん。

で、そこまでわかっていて、なんでさっきの話がわからないに繋がるんだ?


「だが、それと治療費の稼ぎは何も関係ないだろう? 大陸間交流もだ」

「ああ、そっちか……」

「癒しが国の方針で行われている以上、金銭の収支は、大幅に赤字でもない限り気にしようもないだろう? なのになぜ、スィーア教会は騒いでいる?」

「上の方は特に心配していないんだけど、下の方は、君たちが利用している、ヒフィー神聖国に要治療者を奪われると思っているんだよ」

「そこが分からん。確かに、ヒフィー神聖国、スィーア教会は回復魔術や医療の大家だ。だがなぜ、要治療者が奪われるという発想になる。お互いで分担しあい、けが人をより多く救えることになる。これのどこに治療費の関係がある?」


収支の関係を完全に考慮の外に置いているわけか。

だから、不思議と理解に苦しむわけだ。


「どこの国も、人も、慈善事業だけじゃ、食っていけないんだよ。働いて、お金を貰って、それで生活をする。だから、商売敵と距離が近くなることに恐怖を感じているんだよ」

「ああ、それで慌てているのか。しかし、ヒフィー神聖国はエナーリアよりはずっと小国だぞ?」

「でも、ヒフィー神聖国は曲がりなりにも国が行っているからね。こっちはただの一国の国教というだけ」

「下は路頭に迷う心配があるわけか。それで揉めていると」

「そうそう。王家がどう判断するか分からない。聖剣使いを投入しておいて負けて、ベータンは奪われたし、聖都には魔物を使った犯罪組織には殴り込まれたし、失態続きなんだよ」

「そう言われると、確かに信用が無いな。で、今回の聖剣使いのお披露目はその失地回復のためでもあるわけか」


そうそう。

だから、ここで聖剣のお披露目をして、エナーリア王家を各国から支持してもらい、教会は黙るしかなくなるというわけ。


「そういうことよ。なによ。わかっているじゃない」

「すまんな。どうも、国が行う治療とお金が結びつかなくてな。しかし、それならヒフィー神聖国に願い出ればいいだけではないか?」

「それはないわよ。あくまでもそう言う不安を煽ってエナーリアの主導権を握りたい連中がいるだけで、実際はそう言う問題はないのよ。なのに、そこでヒフィー神聖国に治療地域とか価格の話し合いをこっちから持ち掛けたら、逆に問題があるんだろうとか思われるわ。向こうも勢力拡大を狙っていたらここぞとばかりに攻めてくるでしょうし」


ヒフィー殿は悪い方には見えなかったけど、部下も同じとは限らないしね。

で、そんなことを話し込んでいると……。


「色々お話があるのは分かりますが、とりあえず、宿泊施設へご案内いたします」

「あっ、忘れてた。話すなら宿にいってからだね」


ということで、聖剣お披露目会の滑り出しは順調といえる形で始まった。


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