第328堀:空いた時間のご褒美とおまけ
空いた時間のご褒美とおまけ
Side:ミリー
「お願いします!! どうか、どうか、陛下にはこの話はご内密に!!」
そう言って頭を下げているのは、どこかの国の魔剣使いでラライナって言う女性。
うん。笑ったわ。
腹の底から笑ったわ。
いや、現場では笑わなかったけど、心の底では大笑いしたわ。
だって、ヒフィーの尻拭いで演技って方針を固めて、エリスに根回しの適当な説明を頼んで、私まで、信憑性を持たせるために、巻き込んだって言うのに……。
結果は色々な意味で大惨事。
演技が上手くいくか心配していたヒフィーの努力は水泡と帰し、少し泣いていた。
ラライナはリーアと賭けトランプをしていて、ヒフィーに全く気が付かず。
間違っても、ラライナが動き出さないように、足止めの方法を考えていたんだけど、まさかリーアのトランプが嵌るとは思わなかったわ。
しかも、リーアに予想通りの大惨敗。
なぜか知らないけど、リーアって引きが強いのよね。
だから、山札から手札を揃える系のトランプゲームはご法度。
つまり、ポーカー、ブラックジャックなどはきつい。
最初から札が全員に配られているのが勝利の可能性あり。
大富豪、ダウト、七並べとかね。
私達全員でリーアを警戒して、手札を封じられるから。
と、話がそれたわね。
そんな、大暴投の明後日方向への失態をお互い見せたためか、特に問題なくスムーズに戦争は第三者が裏で糸を引いていたという話でまとまった。
ラライナが大失態して、頷くしかできない状況だったからある意味では大成功だったのでしょうけど。
お互い、痛い所には触れないように会話していたしね。
で、その結果、私の前で頭を下げているラライナが出来上がったわけ。
私のことは勘違いで、アグウストの王様の密偵みたいな扱いになっているし。
あの時の失態を報告されると思って説得しているというわけだ。
まあ、私もあんな痴態をユキさんに報告されると思ったら、なんとしてでも止めるわね。
……最悪、口を封じることも考えるわね。
「大丈夫よ。そんなことしている暇はないから」
「暇があれば報告するのか!?」
うん、本人にとっては死活問題だから簡単には流せないわよね。
「あー、言い方が悪かったわ。今後絶対、誰にも言わないわ」
「ほ、本当か?」
「口で言っても心配よね……。そうだ、今度王都のおすすめの酒屋で奢って。それが黙っている対価でいいわ」
「分かった。いい酒屋を知っている。ミリー殿もきっと気に入ると思う」
「ええ。楽しみにしているわ」
ふう。
これでラライナの気が済むからいいでしょう。
でも、私たちは本当に、そんなことをしている暇すらなさそうだけどね……。
「ま、当分は色々忙しいでしょうから、今のうちに休んでおきなさい」
「ああ。戻ってからが本番だな。……戦闘の誤解と、裏で糸を引いている者たちへの調査及び対策。これだけ国々をひっかきまわしてただで済むと思うなよ……」
ラライナはそう言って、ワイちゃんの籠から、アグウスト国の方を見つめてそう言う。
これからが本番。
私たちにとってもそうなのよね。
本当に黒幕というか、こっちが用意しなくて済んだのだからいいんだけど、相手の動きどころか、どんな組織が裏にいるのか全く分かっていない。
ナールジアさんやザーギス、新たに加わったコメットがその組織の魔剣を調べているみたいだけど、それで全部わかるわけないし、各国にいる魔剣を持った潜伏者を潰さないといけない。
しかも、その国に協力して、私たちも情報を得て先回りしなければいけないという難易度だ。
普通は無理。
だけど、ユキさんのおかげでそこら辺は快適に動き回れて、情報の収集、隠蔽が簡単にできる。
既に、アグウスト、ランサー魔術学府、ジルバ、ローデイ、各首都内の魔剣を持つ、ならず者たちの所在は確認している。
ならず者たちは情報をある程度外部から収集した後、私たちがこっそり襲撃して、壊滅寸前まで追い込んでから、国へ情報提供して確保させる予定だ。
エナーリアの件も、実はミノちゃんが軒並み、強い奴らをぶっ飛ばしていて、その後、エナーリアに花を持たせるため、プリズム将軍に連絡して残党を排除させて、魔剣も渡して良い分だけ残しておいたのだ。
無論、怪しい奴は捕まえてこってり絞っている。
すでに、アグウスト内の魔剣を持つならず者の話は、手筈通りに、ヒフィーからラライナへ伝えられていて、戻ればすぐにアグウストはならず者に対して手を打つだろう。
それと同時に他の勢力が動くと非常に厄介なことになりかねないので、残っている霧華の集めた情報をもとに、デリーユ、ラッツが動いているから問題ないだろう。
私も、アグウスト首都についたらすぐにそちらへ合流して状況把握をしないといけない。
「しかし、ミリー殿が先にヒフィー神聖国に乗り込んでいるとは思わなかった。あの話の後すぐと言ったところか?」
「ええ、そんなところね」
実際は、ラライナが言い負かされた後にユキさんが作ったダンジョンからぽんっときただけ。
おかげで、私がアグウストの調査を霧華に全部任せる形になった。
「今回のミリー殿の活躍、ちゃんと陛下にお伝えしておく」
「うん? ああ、ちょっとまって、それは駄目」
「なぜだ?」
「……まぁ、いいか。私はユキさんの所の密偵みたいなものよ。陛下とは関係ないわね」
「は? では、父の店での一件は?」
「ただ単に、同行者になりそうなラライナの実力が知りたかったって所かしら? 足を引っ張られるのもごめんだしね」
「あ、足を引っ張られるというのは……。まさか、ミリー殿ではなく?」
「勿論、この中で一番実力が低いのは、アマンダとエオイドを抜けばラライナ、貴女よ?」
私がそう言うと、ラライナは顔をギギ……とさび付かせた様子で、炬燵でのんびりしている皆を見てから、またこちらに視線を戻す。
「まさか、あの線の細さでか?」
「いや、それを言ったら、貴女もでしょう?」
今のところ、魔剣使いの女性は、男勝りというわけではなく、しっかりとした美女が多い。
無論、ラライナもだけど。
私が冒険者ギルド時代に見た、こう……男性と見紛うような豪快な女性冒険者が魔剣を持っていたというのを見てはいない。
多分、コメットがノリで、スタイルが一定以上の人だけを女って認識する様にしたんじゃないかしら?
あと、魔力と魔術の才能。
全員が全員、見たところスタイルはそれなりだし、ペッタンコはエージルだけ。
……? 例外はやっぱりいるわね、スタイルははずれかな?
って、そういえば魔剣のほうは、聖剣使いとポープリが作ったんだっけ?
ま、後で聞いてみましょう。
「いや、そんなまさか。しかし、ミリー殿が嘘を言うわけも……」
横では、私の言葉に少し混乱しているラライナがいた。
……なんというか、どうにかして自分で処理しようとするタイプか。
王様はそれを知っていて、親父さんに会ってこいと言ったのだろう。
「はいはい、そんなことは後で模擬戦でもして確かめればいいでしょう?」
「そ、そうだな。今はそれどころではない。だが、終わった後に確かめてみよう」
なんというか、騎士としてのアイデンティティーが揺らいでるみたいね。
……私たちを相手にしたら、そんなプライドは木っ端みじんになっちゃうわよ。
ユキさんに至っては、プライドは捨てて、肥料にしたほうが、腹も膨れていいとかいいそうだけど。
「おーい。2人とも、そろそろ中に入って温まったらどうだ?」
「はい。そうさせていただきます」
そう言って、ラライナは直ぐに炬燵の部屋に戻る。
それと入れ替わりにユキさんがこちらに来る。
ラライナって、ユキさん相手には傭兵団の団長として敬意を払っているのよね。
真面目というか、お固いというか……。もうちょっと柔軟性をもってほしい。
「ラライナ殿はどうしたんだ? 変にこちらを気にしていたみたけだけど?」
「ああ、ただ単に、ラライナが一番弱いですよって言ってあげただけですよ」
「そういうことか。本人は目利きがあるつもりだからな。俺たちのことは線が細いって言ってたし、今回の使者の件も俺たちにほぼ任せきりで、色々首を傾げているんだろうよ」
「なるほど」
「俺としても、ラライナ本人はいたって真面目で有能だと思うぞ」
「私もそう思います。だけど……、彼女が今回一番蚊帳の外ですよね?」
「……。間違っても本人に言うなよ」
「言いませんよ。信じてもらえないですし」
仮に信じたりしたら、あの性格からして、魔剣置いて引退するとか、処罰求めそうでめんどくさい。
「と、そうだ。さっき連絡が来た。アグウストの方は、今から突入するそうだと」
「そうですか。情報通りなら問題ないと思いますけど……」
「大丈夫。やばかったら逃げろって言ってるしな。ランサー魔術学府の方は、すでにポープリたちが身内だし、ほぼ好き勝手できるおかげで、潜伏している奴らは既に捕縛完了だと」
「トーリたちもいますからねー」
「ジルバの方も、発見しているが、こっちが動けていない」
「なぜですか?」
「表向き残っているのが、ザーギスとスティーブだけだからな。街の警備に対して、変に王様へ注意は促せない。一応、ジルバ内では、調べ物ばっかりで外に出ていないからな」
「ああ、そこら辺で内通を疑われると」
「そういうこと。ジルバの一件で俺たちは力を誇示して立場を得たけど、そのせいで俺たちを嫌っている人物もそれなりにいる。下手にこの件に真っ向からかかわると面倒なことになる」
「それで、ジルバの方はどうするんですか?」
「そこでだ、ジルバ殴り込みの時にいなかったミリーたちに行ってもらおうと思う。ベータンのときは活躍したけど、ジルバの方に情報は伝わっていないしな。ミリーやデリーユには申しわけないけど、ジルバの方も頼みたい。部下のデュラハンアサシンのサポートは付けるから」
「一応指揮官がいるってことですね?」
「そういうことだ。頼めるか?」
「勿論構いませんよ」
そう言って私はユキさんの腕に絡みつく。
「あ、ごめん。思ったよりも冷たくなっているな」
「え、わひゃ!?」
抱き着いた私から冷気を感じ取ったのか、私の絡みつき攻撃を解いて、後ろに回って抱きすくめてきました。
……ああ、あったかくて、ユキさんのいい匂い。
「はぁ、のんびり新婚旅行ってわけにもいかなくなったな」
「ですね。でも、こうやって気遣ってくれますから、私としては満足ですよ。あなた」
空の風景を、夫に包まれながら見る。
ああ、なんて幸せなんでしょう。
「あー、ミリーさん、ずるい!!」
「リーア、落ち着いて。私たちは……護衛として、傍にいないといけません」
「ん。ユキは妻たち全員の物。ユキも私たち全員に平等にハグしないといけない。だからハグを要求する」
「クリーナさんの言う通りですわ。ユキ様、次はぜひ私に!!」
「……ミリーもだけど、貴女たち、この寒空の中でよくそんなに元気ね。ユキさんも風邪をひきますから、一緒に炬燵入りましょう?」
あ、エリスって寒がりだっけ?
そんなことを考えていると、皆が集まってきてもみくちゃにされる。
でも、嫌な気分じゃない。
いつものじゃれ合い。
うーん、幸せ。
さぁ、とりあえず、私たちの新婚旅行を台無しにしてくれた連中は、ぼっこぼこにしてあげるわ。
「リーア殿、皆も、一緒にトランプしましょう!! ヒフィーでの負けを取り返します!!」
そんなことを、炬燵に入ったラライナが言っている。
「「「……」」」
全員でその言葉に顔を見合わせる。
また負けたいのかと?
「今度は負けません!! みんなでやればいいのです!!」
リーアとの一騎打ちを避ける戦法か。
「さて、皆、どうせまだ時間はあるんだ。ラライナ殿が負けを取り返したいって言ってるから、付き合ってやろう」
「「「はい」」」
さ、今のうちに家族団欒を楽しみますかねー。
ラライナには犠牲になってもらいましょう。
教えてあげるわ。山札を全部配る系のゲームは、ひそかな連携が可能だということを!!
「……俺、なんか仲間はずれだよな。アイリ……寒いよ。炬燵の中なのに寒いよ」
……タイキさん、ドンマイ!!
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