第327堀:ケーキの恨みと女子会

ケーキの恨みと女子会



Side:ラビリス



「退屈だねー」

「退屈なのです」


アスリンとフィーリアがそう声をあげる。

現在アグウスト首都に残っているちびっこメンバーは暇を持て余していた。

仕方のないことなのよね。

私たちは現在アグウストの王城の客室で4人ぼっち。

アグウストの王様が戻ったことで、王城は一息ついてはいるけど、いつ戦争になってもいいように準備をしているから、城内の兵士はピリピリしている。

ユキたちと魔剣使いの使者の交渉次第で色々大きく動くと思うわ。

まあ、既にルナが混ざってしっちゃかめっちゃかになっているみたいだけど。

……いかなくてよかったわ。


「そうですねー。ラッツさんもルルアさんもファイゲルさんの所へ行ってしまわれましたし、デリーユさんは霧華さんと調査にいっていますし……」


シェーラの言う通り、ラッツとルルアはファイゲルさんの所へ無線機とは別の、カメラの交渉に向かっている。

勿論、サマンサの親の公爵家からの品物と言ってだ。

この前は、緊急事態で話が中断してしまったから、多少落ち着いている今の内に話をしてしまおうと、行ってしまったのよね。

デリーユも霧華と組んで、ユキから頼まれた調査の援護に行っている。

ユキたちが戻れば色々動くことになるだろうし、今のうちにアグウストでやっておくべきことはしておかないと、ということで動けるラッツとルルア、デリーユなどは忙しそうだ。


……ちっちゃい私たちはこうやって、お部屋に缶詰だけど。


下手に外に出ると、変な厄介ごとに巻き込まれるだろうし、2人もそれが分かっているようで、文句を言いつつもお部屋でトランプなどをしてのんびりしている。

私もシェーラもそのトランプに加わって、ぼーっとしているというわけだ。


「正直、ウィードの方に戻って学校行った方がマシね。それか、一緒にヒフィー神聖国の使者に行けばよかったわ」

「ヴィリアちゃんと遊べばよかったなー」

「兄様と一緒に行きたかったのです」

「まあまあ、こういう経験もたまにはいいでしょう。はい、あがりです」

「「「あ」」」


そう言って、私たちをたしなめていたシェーラが大富豪でしれっと一番で上がった。


「うにゅー!! 負けないよ!!」

「お菓子は渡さないのです!!」

「私もボヤいている暇はなさそうね」


いい加減暇すぎて、ミリーたちがよくやっている賭けも混ぜていたのだが、油断しすぎてシェーラを1位上がりさせてしまった。

今日のお菓子はショコラケーキ、これを半分奪われるのは何としても阻止しなければいけない!!

最下位が半分取られるから、何としても2位、3位で上がらないと!!



「んー、美味しいねー」

「美味しいのです」

「ええ、とっても美味しいですね」

「……シェーラ」

「駄目ですよ。最下位になったのはラビリスなんですから」


ううっ、ひどいわ。

私のショコラケーキが半分無くなっている。

そう、私は接戦の末敗れて、シェーラにショコラケーキを半分奪われた可哀想な女の子。

……いいわよ。ダイエットだって思うから。

と、自分をごまかして、少ないケーキをちまちま食べていると、いきなり部屋の扉が開かれる。


「甘い、いい匂いがするな!!」


いきなり入ってきた失礼な輩は、ユキやタイキと同じ年頃と思しき体格の少年だった。

身なりはそれなりによくて、兵士でもないのに王城内で帯剣をしているから、それなりに偉い人なのだろう。

で、その男は、唖然としている私たちの元へとツカツカ歩いて来て……。


「これが、匂いの元だな」

「「「あ」」」


ひょい、ぱく。


あろうことか、私の小さくなったケーキ半分が、クソ野郎の口の中に消えた。


「おおー、美味いな!! 残りもよこせ!!」


そう言って、残りのケーキに手を伸ばそうとするが、流石にそんなことを二度も許すことはなく、3人は直ぐにお皿を持って逃げる。


「こら、逃げるな!! 無礼者が!! そんな美味い菓子はお前等にはもったいない、俺によこすといい」


……よし、ころ……すのはやめておいて、ぶっ飛ばそう。


バキィ!!


「へぶっ!?」


ゴロゴロ……ドン!!


右ストレートだけでよく転がったわね。


「ストラーイクだね」

「ストライクなのです」

「ですね。きっとピンがあれば全部倒れています」


うん。私もそう思うわ。

ま、そこは置いておいて……。


「で、貴方は誰かしら?女性の部屋に入ってきて、物を奪うとか」


ウィードじゃ現行犯逮捕よ。

スィーツ強奪もあるから重罪ね!!


「……き、貴様!!俺にこんなことをしてただで済むと思うのか!!」


……ああ、そう言うタイプ?

とりあえず、私は起き上がれないでいる男に近づいて顔を踏みつける。


「ただで済むわけがないでしょう!!さっさと私のケーキ返しなさいよ!!あと、私たちが部屋でくつろぐ姿見たんだから、土下座して感謝しなさいよ!!」

「き、貴様!? へぶっ!?」


あー、腹が立つ。

ユキ以外の男に見られるのが不快なのは分かっていたけど、今回のは格別に腹が立つ。

私のケーキは食べられるし、この野郎私を押しのける際に、おっぱいに触ったのよ!!

肘が。

処刑よ。

故意ではないとはいえ、処刑。裁判は要らないわ。

もう一発、踏みつけてやろうと、足をあげたそのとき……。


「貴様!!坊ちゃまに何をしているか!!」


そんな声が聞こえて、何か風を切る音が聞こえる。

そのまま弾いてもいいけど、色々な意味で、憂さ晴らしと、さっきの落とし前はこのくそ野郎では埋まらないからもっと遊びましょうか。

そう思って、身を引く。

すると、今までいた場所に銀線が走り、剣を振りぬいた動作でとまる兵士みたいな人がいる。


「あらあら、無手の子供相手に随分ね?こっちのクソ野郎が無礼を働いたのよ?」


私は挑発するように笑いながらそう告げる。

この手合いにはこういうのがいい塩梅で効くでしょう。


「ち、違う!!このガキがいきなり殴りかかってきたんだ!!斬り捨てろ!!」

「「「はっ!!」」」


そう言われて、お連れのほかの兵士たちも同じように剣を抜く。

確認をとるような奴らはいないか……。

ま、それなら遠慮はいらないわね。




「ううっ……」

「ぐ……」

「ば、馬鹿な……」


物の数秒で10人はいた兵士は廊下に綺麗に倒れていた。

だめねー。訓練が足りないわ。

さ、あのクソ野郎の続きを……。


「う、動くな!!こいつがどうなってもいいのか!!」

「あら?」

「うにゅ?」


けっこう素早いのね。Gかしら?

気が付けば、いつの間にか、部屋へ入ってアスリンを抱き上げて剣を首筋へ向けている。

でも、それって逆効果なのよねー。

ほら、アスリンの陰から十魔獣たちがもぞもぞ湧いて……。


「何の騒ぎだ!!ラビリス大丈夫か!?って、アスリンに何をしているか!!ヒッキー!!」


忙しいわね。イニス姫様。

まあ、おかげで大義名分の元、ボコボコにできそうね。

面倒な後始末はイニス姫様に任せましょう。

で、それはいいとしてヒッキーって凄い名前ね。


「どうも何もありません。そこの怪物が暴れていたので、討伐しようとしているのです!!」


……いうにことをかいて怪物とか、失礼極まりないわね。


「怪物などとふざけたことを言うなバカ者が!!この子供たちは私の客人であり、竜騎士殿の学友だ!!というか、どこが討伐だ!!どこからどう見ても、無手の子供相手に負けたようにしか見えんわ!!恥を知れ!!」

「ひっ!?」


イニス姫様の怒気に驚いたのか、剣を更にアスリンの首へ近づけ……。


「いたいよぉ!! おっぱいさわらないでぇ!!」


胴体を握りしめすぎて、アスリンのおっぱいを思いっきり掴んだようで、アスリンが痛がる。

私もその瞬間殺そうかと思ったのだが……。


ゴキン!! ゴリッ!! ベキン!!


そんな音がして、ヒッキーの片腕がジグザグに折れ曲がり、首に当てていた剣はへし折れ、アスリンはヒッキーの腕から離れて、着地する。


「は?」


唖然とした声を上げたのはイニス姫様だけ、私たちはすぐにアスリンの傍に近寄る。


「うぎゃぁぁっぁぁーー!! う、腕がぁぁ!? 私のうでがぁあぁ!!」

「うるさい!!」

「うるさいのです!!」

「黙っていてください。変態!!」


ゴス!! バキ!! ドス!!


私たち3人の攻撃でヒッキーを黙らせる。


「ふぇーん。おっぱいがいたいよぉー」

「た、大変なのです!! ルルア姉様に連絡を取るのです!!」

「ルルアってどこに行ってたかしら? コールで……」

「駄目です、人目があります」


あ、そうだった。

泣きじゃくるアスリンをとりあえず宥めつつ、ヒッキーとかいうクソ野郎を蹴りだす。

廊下にいる兵士も動き出されると非常に迷惑なので、そのまま魔術で麻痺させて、眠らせる。

そんなことをしている内に、アスリンは泣き止んでいた。


「くすん」

「大丈夫なのですか、アスリン?」

「ヒールは効いていますか?」

「うん。くすん。もう痛くないよ。ありがとう」


ようやく笑ってくれたアスリンに3人で安堵する。

もう少しで十魔獣がこの城を吹き飛ばしていたところね。


「で、イニス姫様。私たちをどうしますか?」

「あ、ああ。心配はいらん。どう見てもヒッキーが悪い。この件で其方が咎められるような事はない。私が直々に言っておく。あと、このバカが迷惑をかけてすまん!!」


……本当にイニス姫様はこういうところまっすぐよね。

私たちに頭を下げるなんて、凄いことだと思うわ?


「緊急事態で非常招集をかけた結果、こんな馬鹿が来たのだ。こいつは地方の公爵領のバカ息子でな。散々甘やかされてきたのか、常識をしらん。媚びへつらうことだけは得意だがな」

「で、私たちはこのことを、ユキさんやポープリさんに報告していいわけですね?」


シェーラはと言うと……。

そんな言い訳はどうでもいいんだよ。

大事な妹泣かせた落とし前はどうするつもりだ?頭下げただけでおさまると思ってるのか、おい? ああっ!?

って感じの絶対零度の視線をイニス姫様に向けている。

同じお姫様だから、そこら辺は遠慮なくガンガン攻めるわね。


「危害を加えられたのに、謝罪だけですますとでも?」

「い、いや、待ってくれ!! ちゃんとヒッキーは処分する!!君たちやユキ殿たちにはちゃんと謝罪と何かしらの賠償も支払う!!だから、そんな報告はしないでくれ!!」


イニス姫様が顔を青くしてそんなことを口走る。

まさか、子供と思っていた子がこんなことをペラペラよどみなく言うとは思ってなかったのだろう。

あと、こんな報告をされれば、非常にアグウストの立場が悪くなる。

シェーラ相手になあなあで済ませようと思ったのが間違いね。

いえ、アスリンを泣かせておいて、私のケーキを奪って、乙女のおっぱいを触った罪は重いわ!!



その後、ラッツやルルア、デリーユが戻ってきた後、本格的に今回の問題の謝罪と賠償について話し合われて、ヒッキーのクソ野郎は公爵領の後継ぎから外され、王都からすぐに帰された。

イニス姫様が可哀想とアスリンやフィーリアは言っていたが、元々はそう言う管理をできていないイニス姫様たち上の人も悪いのだ。

だからきっちり搾り取っておくわ。

これが、ユキの為にもなるのだから。



そうして、その夜。

私たちは問題が起こってもすぐにわかるように、イニス姫様の寝室の隣に部屋をうつされた。

下手にバカ共が侵入できないようにとの配慮から。


「おおーーー!!これは美味いな!!これをあのヒッキーはいきなりかっさらったのか。これは極刑ものだな!!」


そんなことをいって、ことの発端であるショコラケーキを一緒に食べながら言う。


「あはは、美味しいのは認めますが、いいのですか? 公爵の息子にあのような処罰は色々荒れるのでは?」


ラッツはそう言いつつ、御代わりのケーキをイニス姫様のお皿に乗せる。


「構わん。あいつらは昔から目の上のたんこぶでな。ある意味今回のことで権力を大幅に減らしてやれたから、ラビリスたちには感謝したいぐらいだ。まあ、あんな目に合わせて本当にすまない。ごめんな。てっきり、私の方に来るかと思っていたのだが、ケーキに釣られるとは思わなんだ。ま、この美味さなら釣られるのはわかるが」


そっちも色々大変なのね。

そういえば、ラッツやルルアから聞けば、賠償の殆どはその公爵から巻き上げたって話だし、本当にどうにかしたかったのね。


「ううん。おかげでイニスお姉ちゃんと一緒にケーキが食べられるからうれしいよ」

「うれしいのです」

「うん。ありがとう。私もお前たちとのんびりケーキが食べれて幸せだ。横の部屋に招くなんてこんなことがない限り無理だしな。ある意味ラッキーだ」


こうして、イニス姫様の親友という立場が公に認められることになったわけだけど。

……ユキはちょっと嫌がるかもね。




「んー!! 美味しい!!」




でも、ケーキは美味しいの。

皆で幸せは分け合わないとね。

クソ野郎以外は。



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