落とし穴56堀:猫は喜び庭駆け回り 犬は炬燵で丸くなる

猫は喜び庭駆け回り 犬は炬燵で丸くなる



side:リエル



「さぶっ!?」


僕はそんなことを叫んで、朝目が覚めた。

そう、寒いのだ。

とてつもなく……。


「なんでこんなに……」


不思議に思って部屋の温度計を覗くと、0度と表示されていた。


「はい!? え? えーっと、0度って水が氷になる温度だよね!?」


僕だってちゃんと勉強しているから、こういうこともわかる。

世界の魔力がーとか、いまいちピンと来ないけど、ユキさんが喜んでくれるなら、役に立ちたいもんね。

トーリやみんなに後れを取るつもりはないよ。

だって私もユキさんが大好きだから。

そんなことを寝起きで考えていると、冷気が体を包み、冷静になる。


「うっ、さむっ。そんなことはいいんだ。えーと、0度ってことはそれだけ外が寒いってことだよね?」


僕の部屋は基本的に寝る前に暖房とか切ってしまうから、朝は冷たくなっているんだけど、これはない。

ものすごく寒い。

とりあえず、枕元に置いている半纏を羽織り、冷気が包む部屋を歩いて窓のカーテンを開ける。


「わぁ……」


そこには一面真っ白な雪景色が広がっていた。

ウィードは気候的に雪は積もるけど、ここまでがっしり積もるのは珍しい。

ちょっと足跡が付くぐらいの10cm以下の積雪ぐらいなんだけど、これは違う。

目の前の知っている中庭の景色が変わっているんだ。

つまり、積雪がすごいってこと。

とりあえず、どれぐらい積もっているのか確認するために、中庭に出る用の下駄をはいて出る。


ズボッ。


「あははは!! すごいすごい!!」


足の膝近くまで埋まった。

大体30cmぐらいかな?

ここまでのは珍しいね。


ビュウ……。


そんな音と共に風が吹いて、ちょっと冷静になる。


「あ、ははは……。寒い。部屋でちゃんと着替えよう……」


パジャマはあったかいけど、やっぱりちゃんと防寒着にしないと寒いや。

僕は冬でも上を着込んで、下はハーフパンツなんだよね。

動きにくいから、あとユキさんを誘惑するため。

ということで、雪につっこんだ足は生で突っ込んでいるから非常に冷たい。


「うわー、びちょびちょ。拭かないと」


中庭から部屋にもどると、足は雪にまみれて濡れていた。

これは、着る服は水をはじくのがいいかな?

とりあえず、暖房を入れて、部屋を暖めながら、外に出るための防寒具に着替える。

普通なら、すぐに朝ごはんなんだけど、今日は朝早く目覚めたみたいでまだ5時。

これだとユキさんも朝ごはんの支度で起きてないはずだし、ちょっと様子を見るついでに外で遊んでこよう。


ガチャ……。


廊下に自分が扉を開けた音が響く。

まだ、外も薄暗いせいか、廊下は暗く、冷気をため込んでいて静まり返っている。

みんなも寝ていて、誰もいない世界に僕1人だけみたい。

こういうのもたまにはいいかも。

そして、廊下を静かに歩き出す。

窓の外から覗く景色は雪一色。

早く外に出たくなるけど、皆を起こすわけにはいかないし、静かに歩く。


ガチャ……。


そうやって歩いていると、扉が開く音が聞こえる。


「誰か起きたのかな?」


そう思って、音の聞こえた方を見てみると、アスリンとフィーリアがしっかり着込んで、ラビリスの部屋から出てきていた。

今日はラビリスの部屋でみんな寝てたのかな?

でも、2人だけみたい。

ラビリスとシェーラはどうしたんだろう?


「あ、リエルお姉ちゃん、おはよー」

「リエル姉様、おはようなのです」

「うん。おはよー。2人ともこんな早くにどうしたの?」


2人とも、普通なら朝はユキさんのお手伝いだけど、どう見ても外にでる準備をしている。

何かあったのかな?


「お外がすごいの!! 雪が沢山積もってるの!!」

「そうなのです!! でも、ラビリスとシェーラはまだ眠たいみたいで、私たちだけで見てくるのです!!」

「なるほど。僕と一緒だ。一緒に行こう?」

「リエルお姉ちゃんも行くの? 行く行く!!」

「一緒に行くのです!!」


2人だけだと心配ってわけじゃないけど、楽しいことはみんなでやるほうがいいよね。

お母さんも言ってたし、ユキさんもそういってるし、私も嬉しい。

そして2人と手をつないで、玄関からでようとすると……。


「あれ、扉があかないよ?」

「んー!! あれ? 本当だ。どうしてだろう?」


アスリンが扉が動かないのを、不思議そうにしている。

僕も引き戸が開かないのは不思議で首をかしげていると、フィーリアが引き戸の下を見て顔を上げる。


「わかったのです。雪が積もって固まっているのです。だから、玄関側にレールがある扉を動かせば……」


ドサドサドサ……。


「うにゅー!? つ、冷たいのです!?」


扉は開いたけど、前に積もっていた雪が支えをなくして、そのままフィーリアに降り注いだ。

まあ、ちょこっとだけだけど。

すぐにフィーリアにかかった雪を2人で払ってあげる。


「ありがとうなのです。と、お外なのです!!」


フィーリアはお礼を言うなり、外が気になるのか飛び出していく。

僕たちもそれを追いかけようとしたんだけど……。


ズボッ、ズボッ……。


「うー、動きにくいのです」

「あわっ、あわわっ。大変だね」


僕でもひざ下ぐらいだったから、小さい2人にはかなりきつい高さだよね。

2人とも、ゆっくりゆっくり、前に進んでいく。

そのペースに合わせて僕もついていく。


「はふぅ。すごいのです!! 雪だるまが作り放題なのです!!」

「そうだねー。学校でみんなでいっぱい作ろう」

「フィーリアは加減しようね。お城が一個できそうだから」


フィーリアは前の冬の時、ユキさんが用意した雪の山でかまくらじゃなくて、要塞ができてたから。

あれは僕も驚いたよ。

もう、魔術とかを全力で使うと、フィーリア1人で、城塞が1日で出来そうで怖い。

日本の歴史で読んだ一夜城をリアルで作りそう。


「お城がいいのです?」

「いや、邪魔になるからちゃんと加減しようねって話だよ」

「わかったのです。加減するのです」


うん、素直だからいいんだけどね。

さて、そろそろ戻ろうかな。

寒くなってきたし、皆も起きる頃だ。


「お、よーく積もってるな」


そんな声が聞こえて振り返ると、そこにはユキさんが玄関から顔を出してこちらを見ていた。


「あ、お兄ちゃん」

「兄様!! 雪がすごいのです!!」

「おはよー、ユキさん」

「おう。おはよう。雪を見に行ったのはわかるけど、そろそろご飯の準備だ。2人とも手伝ってくれるか?」

「「うん」」


そういって、2人は玄関へ戻っていく。

そうだ、僕も手伝おう。


「ユキさん僕も手伝うよ」

「そうか、リエルもよろしくな。よーし、頑張って朝ごはん作るぞー」

「「「おーー!!」」」

「はい。頑張りましょう」


そうやって返事をすると、いつの間にかキルエがいて返事をしていた。


「あ、おはよう。キルエ。いつの間に?」

「おはようございます。リエル様。たった今来ました。ラビリス様とシェーラ様はさすがにこの寒さにこたえている様で、お料理の手伝いは遅れるみたいです。申し訳ありません、ユキ様」

「謝ることじゃないって。この寒さなら仕方ない。キルエとゆっくり料理ができる時間が増えたと思えばいいだろう?」

「……はい。その通りです」


キルエったら嬉しそうな顔しちゃって。

わかるよー、鉄仮面のメイドさんしてても、奥さん仲間の僕にはわかるよー!!

ユキさんにそんなこと言われて嬉しくないわけないもんね。

ということで、いつもより少ないメンバーで朝食を作って、いつもの宴会場に運んできたんだけど……。


「ありゃ? 半分ぐらいしか来ていないな」

「まだラビリスちゃんが来てないね」

「呼びに行くのです!!」

「シェーラ様を見てきます」


そういって3人はすぐに呼びに宴会場を出ていく。


「おーい、リーアは起きてるのか?」

「……あ、ユキしゃん? 一緒にねます?」

「こら、起きてください」


ペンとジェシカに頭を叩かれるリーア。


「いったー!? ひどいよジェシカ!?」

「ひどいよではないです。もっとしっかりしてください」

「クリーナさんも頭ぼさぼさですわよ?」

「サーサリに整えてもらっているサマンサに言われたくない」

「はいはい。サーサリ」

「はい。お任せください。失礼しますねクリーナ様」


なんか、ほかのみんなも結構この寒さにこたえているようだ。

あれ?

そういえば、トーリがいないや。


「ねえ、エリス。トーリは?」

「そういえば見てないわね。ミリー、みた?」

「いいえ。ラッツは?」

「こっちも見てないですね。カヤはどうですか?」

「……知らない」


ありゃ?

皆知らないみたい。

これはまだ寝ている?


「ユキさん、ちょっとトーリを見てくるよ」

「ああ。ご飯が冷めない内に連れてきてくれ」

「うん。わかったよ」


そういって、僕は宴会場を出て、トーリの部屋に向かう。


「おや、どうしたんじゃ?」

「まんま?」

「デリーユの言う通り、リエルがこの時間にここにいるのは珍しいですね」

「まま!!」


すると、その途中でデリーユ、ルルア、セラリアに会った。

子供たちはしっかり暖かい服装になっているから、大丈夫そうだ。


「おはよー。リエルママだよー。と、まだトーリが起きてないみたいなんだよ。だから起こしにね」

「あら、珍しい。ま、リエルが起こしに行くから大丈夫でしょう。私たちは宴会場に行きましょう。サクラたちが風邪をひいちゃうわ」

「うん。大丈夫だよ。またね、サクラ」

「まんまー!!」


そんな感じでセラリアたちと別れて、トーリの部屋の前。


「おーい。トーリ、もうすぐ朝ごはんだよー」


……しーん。


「あれ?」


なんか反応がないな?

まさか部屋の中で倒れてたりする?


「入るよー?」


とりあえず、心配なのでそのまま入る。

鍵はついているが、基本的に身内ばかりだから、鍵はかけたりしない。

だから問題なく中に入れる。


「トーリ? って、ベッドにいない?」


部屋の中に入ってトーリのベッドを見ると、すでにもぬけの殻でそこにはトーリの姿はなかった。

あれ? どこに行ったんだろう?


ガタッ。


「……リエル?」

「あ、そんなところにいたんだ。何やってるの?」


音がした方向を見れば、炬燵の中から手だけをひらひらさせているトーリがいた。


「……寒い。外に雪があんなに……。私は今日休む……」

「あー、そういえば雪は苦手だっけ?」


確か、冒険者時代に雪山に薬草を取りに行くクエストで、ごうごうと吹雪いて、トーリの耳が凍傷になりかけたんだっけ?


「私のお耳が取れる。痛い。ユキさんに嫌われちゃう……」


あ、すっかりトラウマみたい。

去年の雪とか反応してなかったから大丈夫かと思ってたけど、雪の量の問題か。

あと、ユキさんが用意したってのが大きいかな。

ま、とりあえず……。


「はいはい。炬燵からでて。みんな待ってるよ」

「きゃー!? 寒い!! 寒いから!! 凍死しちゃう!!」

「しないしない。それだけ着込んでれば平気だから。はい、行くよ」


そんな感じでトーリと僕の立場が逆転した珍しい日だった。

おかげで、僕の仕事が増えたから、後で埋め合わせしてもらおう。



……普通、逆じゃないかな?



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