落とし穴55堀:何を飲もうか?

何を飲もうか?



Side:フィーリア



「はふっー。寒いのです」


季節はすっかり冬。

年越しも終わって、お正月も通り過ぎて、本格的に寒さが到来したのです。

ここ数日で一気に冷え込み、冬になってしっかりと雪が積もったウィードはすっかり、一面真っ白になっているのです。


「寒いねー」

「そうねー」

「そうですね」

「そうだね」

「……寒い」


今は学校が終わって、ヴィリアやヒイロと一緒に遊んでいるのです。

最近は学校に週2、3回ぐらいしか顔を出していないので、一緒にいる時間が少ないのです。

だから、こうやって、仲の良いヴィリアとか、ヒイロと一緒に遊んで学校のことを聞くのですけど……。


「寒すぎるのです。今日は喫茶店にでも行くのです」

「うん。それがいいと思う。寒すぎるから風邪ひいちゃう」

「そうね。喫茶店にでも行きましょう」

「はい。それがいいでしょう」

「きっさてん?」

「聞いたことない。なにそれ?」


んにゅ?

ああ、そう言えばヴィリアとヒイロは知らないのです。


「えーと、お茶を飲むお店なのです」

「うん。お菓子とかもあるよ」

「2人の言う通り、美味しいお茶やお菓子を食べるところよ」

「ユキさんが前々から言っていた軽食屋さんですね。そこでお話をしたり、ゆっくりするのが目的の場所です」


そう皆で説明すると、2人は少し不安な表情になり……。


「えっと……、そう言うお店は高いんじゃ……」

「お小遣い今月もう少ない」


そんなことを言ったのです。

うん。納得なのです。

普通は高いと思う。しかーし、なんていったって、兄様が考えた場所が高いわけないのです!!

あ、高級店も作っているってラッツ姉様やミリー姉様は言っているけど、それはまあ今は無しなのです。


「大丈夫なのです。りーずなぶるな価格で提供すると兄様が言っていたのです」

「私も行ったことあるけど、そんなに高くないよ」

「そうねー。ちょっと高いお菓子2つ分ぐらいかしら?」

「そのぐらいですね。でも、私たちが誘いましたし、私たちが奢りますよ」


シェーラの言う通りなのです。

2人の分は私たちが出すのです。


「あ、そんな……」

「やったー。お小遣い少ないから助かったー」

「こら、ヒイロ!! お小遣いの管理はちゃんとしなさいって……」

「ヴィリお姉、五月蠅い……。今月はお正月とかで色々使うのは仕方ないの」


うん。

それは仕方ないのです。

出店で色々美味しいものを食べているとお小遣いなんてすぐになくなるのです。

と、思うのですけど、ヴィリアはお姉ちゃんとしてヒイロを叱る意味もよく分かるのです。

……うにゅー、どうしたらいいんだろう?

アスリン、ラビリス、シェーラもどう声をかけていいかわからず、ヒイロがお説教されている姿を見ているだけです。

これで、ヒイロが反省して涙目にでもなればよかったのですが、特に堪えた様子もないのです。

……最近、ヒイロはヴィリアから姉離れをしているようで、少し反抗期みたいなものなのです。

そんなことを考えつつ、2人のやり取りを眺めていると……。


「ん? こんな寒空の下で何してるんだ? 遊ぶ相談か?」


兄様がやってきたのです!!


「あ、ユキお兄様……その、えと……」


ヴィリアは分かりやすくもじもじし始めて、ヒイロはパッと顔を綻ばせて……。


「ユキお兄!! ヴィリお姉がいじめる!!」


そう言って飛びついたのです。

無論、兄様はヒイロを問題なく抱き上げます。

……ずるいのです。


「いじめる?ヴィリアが?ちゃんと理由があるんだろう?」

「はい!! その通りです!!ヒイロが今月のお小遣いがもう乏しいっていうのでちゃんと管理しなさいって言っていただけです!!」

「そうなのか?」

「……お正月が悪い」


ヒイロは流石にヴィリアや兄様に嘘をつくことはないです。

顔をそらして、ちゃんと白状します。


「ははっ。そうだな。お正月は使っちゃうよな。ま、でもヴィリアのいうことも分かるだろう?」

「……うん」

「なら、今度からちゃんと管理するって言えばいい。ヴィリアだって、お金を使うことに反対はないはずだ。なあ?」

「あ、はい。ただ、ユキお兄様から貰ったお小遣いを無駄に使うのが……、その、あれなだけで」

「ヴィリアみたいにガッチガチにしなくてもいいとは思うけどな。子供の内に毎月のお小遣い使い切って、極貧のお金がない苦しみを味わっておくといい」

「それはいい」

「それは遠慮します」


2人そろって否定の声をあげるのです。

そういえば、2人ともスラム暮らしで、お金がずっとない状況だったはずです。

お金の大事さはよくわかっているのです。


「で、お小遣いの無駄遣いはいいとして、その話からどこかに食べに行く予定でもあったのか?」

「あ、そうなのです。喫茶店に行こうと思ったのです」

「ああ、なるほどな。そりゃ、ヴィリアたちのお小遣いにはちと響くな。よし、俺も少しのんびりしようと思っていた所だ。俺の奢りで喫茶店に行こう」

「「「やったー!!」」」


やっぱり兄様は優しいのです。

……?

あれ? そう言えば、兄様に何か足りない気がするのです?



「クリーナさん!! いくらドッペルとはいえ、ユキ様の護衛をすっぽかすなんて何を考えているのです!!」

「……私のミスは認める。しかし、私はすっぽかしてはいない。ユキと一緒に図書館で調べ物をしていて、気が付けばユキがいなくなっていた」

「それは、貴女の読書中毒のせいでしょう!!」

「ん。肯定、流石は私の夫。私のくせをよく見抜いている」

「誰でもわかりますわよ!!」



あー、護衛のお姉様たちがいなかったのです。

今日は、サマンサお姉様とクリーナお姉様だったのです。


「兄様、あんまり姉様たちに心配かけちゃだめなのですよ?」

「だめだよー。お兄ちゃん」

「そうね。やっぱり首輪が必要かしら?」

「首輪ですか……ちょっとナールジアさんに相談してみましょう」

「え? え!? ユキお兄様に首輪ですか!? そ、そんなのだ、駄目……です?」

「……ヴィリお姉、変態」


こんな騒がしい合流があったのですが、あとは普通に喫茶店についたのです。


「なんかお洒落です」

「……苦いコーヒーのにおいがする」

「ははっ、ヒイロにはちょっと匂いがきつかったか? まあ、甘い飲み物もあるから大丈夫だと思うぞ」


ヒイロにはちょっとコーヒーの香りは早いみたいなのです。

私たちみたいな立派なれでぃーに相応しい飲み物なのです。


「本当に、コーヒーのいい香りですわね」

「ん。しかも1つ2つの香りじゃない、色々な豆の香りがする。これが喫茶店。……本を読むのに飲み物は厳禁だと思ってきたけれど、最近揺らぎつつある……」

「別に、貴重な本でないのなら、くつろげる体勢で読んでいいんじゃないか? コーヒーや紅茶には集中力を増すとかいう話もあるしな」

「そうですわね。私も紅茶を飲みながら、本をというのはありますし。確かに集中して読める気がします」

「ん。それはいいことを聞いた、今度やってみる」


皆そんな他愛もない話をしながら空いている席につく。


「ユキ様、いらっしゃいませ。ほかの皆さまもよくいらしてくれました」

「どうも。どう? そろそろ2か月ぐらいだと思うけど?」

「そうですね。まだ二か月と思った方がいいでしょう。物珍しさで来るお客さんも多くいます。でもちゃんと、リピーターも見受けられます。ラッツ様曰く半年以降が勝負だと」

「まあ、そうだよな。今のところ特に問題はないわけだ?」

「はい。多少、お客様が食事の量に不満をいうことはありましたが」

「そりゃ、喫茶店の方針とは違うしな」

「ですね。ああ、あと、ガルツの陛下や王子様、王女様がお忍びで来られていますね」


うにゅ?

シェーラちゃんのお父さんに、お兄さん、お姉さんが来ているのです?


「どういうことですか?」


あ、シェーラちゃんが顔をひくつかせてる。

これは怒るよー?


「さあ、私にはそこのところは。私も高級喫茶店をおすすめしたのですが、顔を合わせると面倒なのが多いと言われていて……」

「「「ああ、なるほど」」」


私やアスリンには分からないけど、お兄ちゃんやラビリス、シェーラは分かったみたいで納得したのです。


「と、長話が過ぎたな。えーと、皆はどれが飲みたい?」


兄様がメニューを机に広げて聞いてきます。


「うーん。私はカフェオレ!!」

「あ、私もアスリンと同じなのです!!」

「私はエスプレッソかしら。豆はお任せするわ」

「私は……紅茶のダージリンで」

「ああ、私もシェーラ様と同じで」


ここまではスラスラ注文を言ったのですが、後の3人は続かなかったのです。


「えーと、どれが美味しいんでしょうか?」

「……ここに来てオレンジジュースはつまらない」

「ん。ヴィリアやヒイロに同意。どれがいいかわからないし、飲んだことがあるのを頼むのは違う気がする」


なるほどなのです。

わざわざ喫茶店にきて、お店で買える飲み物を飲むのは確かにつまらないのです。


「うーん。それなら……マスター、ココアブレンドの奴を甘めで。それから調整していけばいい。俺はブラックの豆はお任せで」

「かしこまりました」


そう言って、マスターさんはカウンターに戻って飲み物を作り始めるのです。


「そういえば、クリーナは普通に2人の名前を呼んでいたな。もう知り合いだったか?」

「ん。肯定。アスリンたちから既に紹介されている。2人とも可愛いから好き。友達」

「はい。クリーナさんには勉強を教えてもらっています。凄く教え方が上手いんですよ。きっといい先生になれると思います」

「……うん。クリーナお姉は教え方が上手」

「あらあら、クリーナさんは教職でも目指しますの?」

「ん。少し悩んでいる。子供たちと触れ合うのは、思った以上に新鮮」

「そっか、なら今度学校に顔を出してみるか」

「ありがとう。ユキ」


おおっ、クリーナ姉様は先生になるのですか。

きっといい先生になるのです!!


「じゃ、お2人と初対面なのは私だけですわね。初めまして、わたくし、ユキ様の側室でサマンサと申します。これからよろしくお願いいたしますわ」

「ひゃ、ひゃい!! よろしくお願いします!!」

「……お姉緊張しすぎ。サマンサお姉よろしく」

「ふふっ、ヒイロの言う通りですわ。そう硬くならず、ヴィリアもそうなのでしょう?」


サマンサ姉様がヴィリアの耳元でそっと呟いたのです。

やっぱり誰でもわかるのです。


「あ、あの……、その、ご、ごめ……」

「いいのですよ。貴女の目は確かなものです。わたくしも保証いたしますし、応援いたしますわ」

「何かアクセサリーの相談か? そう言うのは確かにサマンサとかが適任だろうな」

「「「……」」」


訂正するのです。

兄様だけがわからないのです。

まあ、兄様にはちみっこを女性として扱わないという、不思議な性質があるみたいですから、しかたないのです。

私たちも苦労したのです。

そんなことを話している内に、飲み物ができて、並べられていきます。


「ご注文は以上でお揃いでしょうか?」

「はい。どうもマスター」

「いえ。ではごゆっくり」


不意に、外を見ると雪の降る勢いが増していて、なんというか別世界を眺めているようなのです。


「絵本の中みたい。この中と、外が別世界にみたいに感じる」


私の心を読んだようにクリーナ姉様がそう言って、皆が窓の外に広がる雪が織りなす景色を見ます。


「そうだな」

「綺麗だねー」

「外の人は寒そうだけどね」

「ラビリス、それは言ってはいけません」

「喫茶店、いいですわね」

「あ、このココアブレンドって美味しい」

「……私は少し苦い」


私もカフェオレを飲んで、ホッと一息つくのです。

こんなのんびりした日もいいと思うのです。



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