第325堀:バカと天才と変態×3=?
バカと天才と変態×3=?
Side:コメット
「うっひゃー!!すごい!!すごいね!!こいつぁすげえ!!」
私、大興奮!!
緊急事態なんだけど、私は胸の高鳴りが抑えられず、思わず叫んでいた。
だって仕方ないじゃないか。
目の前に広がるのは、私が見てもさっぱり構造や使い方が分からない、器具や道具、武具が山ほど並んでいる。
研究者として、これほど心躍るものがあるだろうか!!
しかも、どれも高度な術式が組み込んである、超が付くほどの高性能なものだ!!
「コメット、落ち着きなさい!!今は、あなたの興味よりも優先するべきことがあるのです」
「分かってるって、おーー!!なんだあれ!!なんだあれ!!」
「……まあ、私も叫びたい気分ですから、コメット殿の気持ちも分かるのですがな」
「タイゾウ殿まで……」
さてさて、私たちは今、あの話し合いから一転、私たちが関与していない魔剣のことを調べるため、すぐにその魔剣が保管してあるウィードの研究室へと来た。
しかし、その場所の凄いこと。
想像を絶するというか、私たちが勝てなかったのも道理というほどの高度な研究所だ。
「しかし、国相手に魔剣を分けてもらえる立場って凄いね」
私は先頭を歩いているユキ君にそう言う。
「別段なんてことはありませんよ。分けてもらってないですから、向こう側はこっちのアイテムボックススキル保持を知りませんからね。大量に置いてあった魔剣の半分を回収しただけです。突入した部隊は最初から半分が実数だと思うだけですよ」
「ああ、なるほど」
そっか、この時代はそう言うスキル持ちもそうそういないのか。
随分、魔力も衰退しているなー。
本格的にこの研究所で頑張らないと不味いって感じだな。
「まとめて回収できたのは運がよかっただけでしょうね。ほかの国の調査で引っかかっているのが、ヒフィーと、別からの支援を同時に受け取っているとも限りませんし、後手に回りそうです」
確かに、エナーリアの方はユキ君の伝手や私たちの関連で、力を入れて調査をしていて偶然見つけられただけ。
ほかの国も同じように調べているだろうが、動員できる人数も限られるし、暗躍している相手に対して、先手を打つのは難しいだろうね。
「と、こっちです」
そう言ってユキ君は、扉の前にある変な四角柱の上に手を置くと扉が開いた。
……どういう仕組みだ?
まじまじと見ると、何かしらの魔術的構造があるのが分かる。
……見たことがある、ベツ剣に施していた、魔力による個人識別だ。
なるほど、こうやって機密を守ることにも使えるのか。
でも、何か魔力とは違う掌を読み取るって言う構造もあるけど、何の意味があるのかな?
「ほら、興味があるのは分かりますが、後にしなさい。今は一刻も早く、魔剣の違いや出所を調べるのが先です」
「あ、うん。ごめん」
ヒフィーに怒られて、我に返り、後に続く。
で、その中で更に私は驚くことになる。
「ようこそ。ウィード技術魔力開発研究室へ」
そこには、私の大陸では滅んだと言われている妖精族がいたのだ。
ヒフィーも驚きのあまり言葉を発せないでいる。
「私は、ここで武具開発担当をしております。ナールジアと申します」
小さいお人形のような彼女はそう言って頭を下げる。
「あ、これはご丁寧に。私はタイゾウ・モトメと申します」
「はい。存じております。ユキさんや、タイキさんの国からいらした知恵者と」
「ははっ、凄い紹介をされたものだ。コホン、ご期待に応えられるよう、粉骨砕身の覚悟で協力する所存です」
「お話ができる時を楽しみにしております」
「私もです」
なぜか、タイゾウさんは特に驚きもなく妖精族と話をしている。
……ああ、タイゾウさんは呼び出されたから、彼女の希少価値を知らないのか。
「で、そちらのお二方は固まっているようですが、妖精族は新大陸では珍しいのですか?」
「す、すみません。既に私たちの大陸では滅んだと言われて久しいので」
「うん。私も見るのは初めてだよ。文献で知っているぐらいだからさ」
「なるほど。そちらの魔力枯渇は本当に深刻なようですね。明日は我が身。どうかお2人もご協力願えないでしょうか?」
「はい。もちろんです。と言いましても私は大陸で国を守って行かねばならなりません。こちらの、死体娘が研究所へ行きますのでよろしくお願いいたします」
「死体娘ってなんだよ!! 私はコメット。そして、こっちが駄目神のヒフィー。私がベツ剣いや聖剣と魔剣の開発者で、ユキ君の前任者だよ」
「ふふっ、仲がいいですね。これからよろしくお願いいたします」
ナールジアさんはいい人そうだ。
ヒフィーなんかよりもずっと気が合いそうだね。
あの目は開発者、研究者、職人の目だ。
だって、お互い顔を見合わせただけで、自然と笑みがこぼれたんだ。
多分、彼女は私にとってエターナルフレンドになりそうだ。
「ナールジアさん。で、あの馬鹿は?」
私たちが一通り挨拶を終えると、ユキ君がナールジアさんに話しかける。
あの馬鹿?
他に誰かいるのかな?
そう言えば、ナールジアさんは武具開発担当って言っていたっけ?
ということは、この研究所の所長さんが別にいるのか。
「ええ、もうすぐ来ると思いますよ」
そうナールジアさんが答えた瞬間後ろの扉が開かれて、なんかひょろひょろな青白い男が入ってきた。
「ゾンビ?」
「人を勝手にあなたと同じような死体と一緒にしないでいただきたい。ま、高位のリッチのようですが」
お、あっさり私の正体を見破った。
体からにじみ出る魔力も相当だし、この人が所長かな?
もう、このユキ君たち相手に鑑定は意味ないし、感覚で測るしかないんだよな。
ユキ君たちは既に鑑定に対する防壁も張っていたみたいで、私があった時に鑑定したのはダミーだった。
いや、私も隠していることを考慮して、二重に見破りをしたけど。
それ自体を「二重で見破るなら、三重に隠していればばれない」という何とも単純な方法で防いだ。
服を脱がされるなら何重にも着ればいいじゃない。って発想。
普通、ステータスって二重でしか隠さないから、それで見破ったと思い込んでしまった。
まあ、ユキ君たちは鑑定されるステータスが一定の法則でループし続ける妨害をしているから、本当のステータスは見破りなどのスキルでは判別不能。どれが本当か分からないしね。
「おい、遅いぞ」
「仕方ないでしょう。あれもこれも仕事回しておいて……。人使いが荒いですよ」
「その人員の補給だ。喜べ」
「はあ、そうだといいのですが。ナールジアさんとか、武具開発ばっかりの職人馬鹿だし……」
「何か言いましたか? ザーギスさん?」
ジャコ、ガシャ、ジャキン……。
そう言ってナールジアさんが突如虚空から、恐らく銃と思しきものを十挺ほど取り出し、背中からザーギスと名乗った男に向けていた。
「何も言っていませんとも。しかし、また新型が増えていますね。形状からしてミニガンやグレネード系ですか?」
「はい。魔力を薬莢の代わりに勝手に撃ち出す仕組みになっていますから、魔力が少しでもあれば、弾だけで済む優れものですよ」
「それだと、魔力がなければガラクタですねー」
「無論、薬莢付きも装填できるに決まっているじゃないですか」
ガシャン。
「リロードしていませんか?」
「何か私の作った物に不満がありそうなので、実演して見せるのがいいかと」
「それ、私の方へ向いていますよね?」
「実体験のほうが、よりご理解いただけるかと」
うん。
とりあえず、あの巨大な銃器が火を吹くと、こっちまで被害が及びそうだ。
「はいはい。それまでにしてくれ。で、紹介しよう、このひょろひょろの青白いゾンビと見紛うような容姿をしたヤツだが、この研究所の所長だ。専門は魔力研究だ」
「……否定してくださいよ。はぁ、ご紹介に預かりましたザーギスです。ようこそ新大陸の方々。さて、散々漫才もしましたし、本題に入りましょう。ナールジアさんお願いします」
「わかりました」
そう言って、恐らくナールジアさんが魔力を使って動かしているのだろう、奥の箱がひとりでに浮かんで、こちらにふわっと来る。
魔力操作の延長だろうけど、手足のようによく動かせるなー。
流石、魔力の塊って文献にあるぐらいだから、これぐらいはたやすいのかな?
で、その箱から出てきたのは、魔剣が二振り。
「こっちが、私が作ったやつだね」
私は迷いもしないで、すぐに右の魔剣を手に取る。
精神制御関連の術式は無効化されているけど、ただ魔力が通らないようにしているだけだ。
こんな芸当はナールジアさんか、ザーギス、ユキ君ぐらいしかできないだろう。
「流石にすぐわかりますね」
「当然。自分の手掛けた物だからね」
「ふむ。ちゃんとした研究者のようですね。これなら話が早い」
「というか、そっちの別口の魔剣。構造が無茶苦茶だよ」
私がそう言うと、3人がウンウンと頷く。
「そうなのですか?」
「私にはそこら辺はよくわからないな。説明お願いできますかな?」
ヒフィーとタイゾウさんは分からないようで、首を傾げている。
まあ、見た目は変わらないからね。
「簡単に言うと、構造が無茶苦茶というか、単純すぎる」
「それでは無茶苦茶ではないんじゃない? シンプルなのでしょう?」
「ヒフィー、単純というのは聞こえがいいかもしれないけど。例えば、血液に人の魔力がたまりやすいし、応用しやすいからって、体に穴開けて、血を好きな時に取り出せるようにするかい?」
「……それはしないわね」
「私の魔剣の場合は、ベツ剣と、ポープリたちが作った魔剣を参考にして、魔力の融和性が高い金属、刀身に簡易な術式を組み込んで、はめ込んだダンジョンコアから魔力を抽出するような形をとっているんだ。だけど、この魔剣は、ダンジョンコアに直接簡単な術式を書き込んで、刀身の一部を突き刺して、機能させている。これじゃ、コアの摩耗率が高いし、刀身で斬り合ったときの衝撃がもろにコアに来る。これは無茶苦茶だよ」
「なるほど、それは無茶苦茶ですな」
「似ている使い方としては、スィーアやキシュアたちに直接ダンジョンコアを埋め込んで使用させている感じかな? まあ、こっちは魔力制御を行う負担が大きい分、こっちの魔剣とは難易度が桁違いだけど」
「あう……」
私がスィーアたちのことを言うと、ヒフィーが申し訳なさそうな顔になる。
ま、本人たちが望んだことでもあるし、責める気は毛頭ないんだけどね。
一応、それを施した皆はユキ君に保護されたみたいだし。
「と、コメットはこういう意見だが、2人はどうだ?」
「同じです」
「こっちも同じく。が、そうなると、簡単に言えば使い捨て前提です。これをよそにばらまいていることから考えると、これを作った大本は、より性能が高い魔剣を有していて、それだけ生産できる体制を整えていると考えるべきでしょう」
確かに、最新兵器をよその国のならず者に渡すとかはありえない。
最低でという話になる。
「ということだ。こっちはどこが大本か調べるから、コメットはこの2人と協力して、この武器の特色とかを更によく調べてくれ。発展系の予想は当然、無効化の方法とかな」
「なるほどね。了解したよ。こっちは任せてくれ」
「コメット、ちゃんとするのですよ?」
「分かっているって。そっちだってこれから演技本番だろう?私たちのほかに、こんなものを作っている連中がいるんだ。このまま開戦したら、これを作った連中に注意しなくちゃいけないし、最悪、こいつらと全面戦争だ。その時の被害は正直想像ができない。裏で秘密裏に片付けるために、そっちの演技が一番大事だよ」
「わ、わかっていますとも」
……大丈夫かな。
研究室から出ていくヒフィーがカチカチなんだけど。
「まあ、ユキさんがいるから大丈夫でしょう」
「そうですね。あの方なら、口八丁手八丁、物理的、魔術的にどうとでもできます」
「それ、万能じゃない?」
「いえいえ、ユキさんの体は1つしかありませんからね。こうやって役割分担しないと、すぐに倒れちゃいますよ」
「ですね。なるべく、ユキの負担を減らさないといけません。さて、そのために仕事にさっそく取り掛かりたいのですが……」
「何か問題があるのかい?」
私が不思議に思っていると、2人がにこやかに笑って。
「「まずは知識の差異がどれほどか、軽く勉強しましょう」」
「のった!!」
そうだね!!
まずはそこを調べないと、お互い何を言っているかわからないとかあるよね!!
だから、これからナールジアさんの武器や、ザーギスの研究内容を調べまくるのは、お仕事!!
決して、趣味ではなく、ヒフィーの後押しになるのだ!!
「「「ふふふふふ……」」」
こいつぁ、楽しくなってきたぜ!!
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