第323堀:美しき女の友情よ永遠なれと今後の予定

美しき女の友情よ永遠なれと今後の予定



Side:セラリア



『ヒフィー、コメット、アウトー』


目の前に映る画面には、そんな映像がライブで流れている。

ルナの声によって、罰ゲームを遂行するスティーブたち。

特製の牢屋の超性能により、牢屋の形が必要に応じて変形し、拷問……、いや罰ゲームを実行しやすい、お尻だけを突き出すような形になる。

勿論、こんな摩訶不思議意味不明牢屋を作るのは、ナールジアさん。

その提案をしたのは、夫。

と、そんなことを考えている内に、罰ゲームが迫ることに叫び声を上げる女性が2人。


『ル、ルナさま!! しょ、正気に戻ってください!! こんなことをしている暇はないのです!!』

『あははは!! 何言ってるのよ、まずはその牢屋から出なさいって。自力で出られないなら、このゲームを続けるわよ!!』

『ちょ、絶対自分の趣味はいってるよね!? わ、私は降参するから、勘弁して!! お、お尻が限界!! もうひりひりするよ!! というか、タイゾウさんだけなんか罰ゲーム回避してない!? 差別じゃない!?』

『差別というより、日本のネタのゲームが多いからねー』

『そうですな。納豆とかわさびとかからしなどは久々に食べれて嬉しかったですが、コメット殿たちには合わないようですな』

『まあ、そうかもね。でも!! おでんのからしが駄目とか!! おでんへの冒涜よ!! 私がそんな横暴許しはしないわ!! あと、コメットの降参は却下よ!! 連帯責任!! ヒフィーの側に付いたなら、最後まで付き合いなさいな!! やれ!! しもべたちよ!!』

『『『へーい』』』



バシンッ!!



『『きゃん!!?』』


先ほどからこの2人の罰ゲームを見ているけど、可愛い声で鳴くわねー。


『ぬふふふ……。いいわね!! もっといい声で鳴きなさい!! ったく、ガキみたいに強がりばかり言って、穏便に済ませたい私の手を煩わせるんじゃないわよ!!』


訂正、あの駄目神と同じ趣味とか、夫に知られたら、嫌われるわ。断じて私はあの駄目神と同じ趣味ではない。可愛いもの趣味と言っておこう。

あと、後半の内容は、どこの社会も一緒ということだ。

調整をしている上司の鬱憤が噴出している。

……アーリア姉さまに、こんな事されないわよね?

……いや、やられても文句を言えないほど、厄介ごとを押し付けた記憶はあるけど。

今度、菓子折りでも持って、ご機嫌を伺いに行こう。

ヘタすれば、夫に私の妙な情報を流される可能性もある。

それだけはなんとか阻止せねば。


『えーと、次のゲームは……と。イナゴの佃煮ね!! うん。これは私も苦手だわ!! 頑張りなさい!!』

『そ、そんなご自身も食べられないようなものを出すなんて!!』

『お、横暴だ!! というか、ヒフィーさっさと参ったって言ってよ!! 私を巻き込むなよ!!』

『あ、あなたねぇ!! こんなにあっさり負けを認めていいの!? ユキ殿は遊び半分なのよ!!』

『いや、つまり私たちはユキ君の遊び半分にも抵抗できないってことだろ?この妙な牢屋からも脱出できないし……って、タイゾウさんイナゴの佃煮食べてる!?』


うわっ、私でも映像を見て食べる気がしなかったのだが、それをタイゾウはむしゃむしゃと普通に食べている。


『あー、タイゾウは二次大戦末期の日本だっけ?』

『左様です。まあ、その前からイナゴの佃煮は有りましたがな。あの食糧難で、私も初めて口にしましたが、別に問題なく普通に美味しいですぞ?食えない物ではありませんので、物の試しに食べてみてはどうでしょうか? ヒフィー殿、コメット殿。どうせ食べなければ、罰ゲームです』

『そうね。残り時間も1分切ってるし、そろそろ1個ぐらいクリアしたらどう? お尻も限界でしょ? 痔になるわよ?』


そして、そのイナゴの佃煮を決意を秘めた目で見つめているは、コメット。

いや、死体なのに、決意を秘めた目ってなんだろう?


『コ、コメット? あ、あなたまさか!?』

『私はヒフィーの意地っ張りに付き合っていられないよ!! わ、私は食べる!!』

『や、やめなさい!! 死んでしまいます!!』


コメットはリッチでアンデッドでしょうに……。


『……毒物ではないのですが』


少し悲しそうなのは、残りのイナゴの佃煮を食べているタイゾウ。

まあ、自国の食べ物を悪く言われると悲しいわよね。

……本人もゲテモノ食いというのは分かっているから、怒ったりはしないのだけど。


『あ、いえ。決してタイゾウ殿の国を悪く言ったわけでは……』

『いえいえ、分かっております。しかし、早く食べなければ時間が……』


タイゾウがそう言った瞬間に、ルナが喜々として叫ぶ。


『はーい、時間切れー!! ヒフィー、コメット、アウトー』

『くっ、これも試練。私は耐えて見せます……』

『私食べてたよ!! ねえ、ルナさん!?』

『いや、ちょこっと足かじっただけでOKになるわけないじゃない。あと、ヒフィーの反応がいい加減つまらなくなってきたから、ほかの罰ゲームだすわ』


『『ええ!?』』


同時に驚く2人。

そして始まる言い合い。


『こら、ヒフィーのせいで変な罰ゲームが始まるじゃん!!』

『わ、私のせいではありません!! 私を置いて逃げようとしたコメットへの天罰です!!』

『なにが天罰だよ!! もろ物理的だし、ルナさんがヒフィーの反応がつまらないって言ってたじゃん!! この頑固者、わからずや!!』

『なんですってー!!』


……だめだこの2人。


『はいはい。仲良く喧嘩するのはいいけど。これに着替えなさい』


そう言って、ルナがスティーブたちに持って行かせたものは、水着。

ビキニタイプ。


『こ、こんなハレンチなもの着ません!!』

『へー、最近はこんなものが流行っているんだ。ふむふむ、見た感じ、水につけても透けないから、水に入るための服って感じかな? ちゃんと局部は隠しているし、これなら、可愛いからいいんじゃないかな? どうせ、嫌だって言ったら無理やり引ん剝かれそうだしね』

『なっはっはっは!! 裸にしてあげるわよ!! 水着はなし!! 私は眼福だからOK!! タイゾウに見られたいなら、着替えなくて裸になるのも手ね!!』


この駄目神はもっとだめだ。

変態の素質もあったのか……子供たちとの触れ合いは監視の元に行わないと教育上悪そうだ。

悪のりがひどいから。この駄目神。


『ふむふむ。思ったより動きやすいね。水浴びにももってこいだね。すぐ乾きそうだし』

『コ、コメットは恥ずかしくないのですか? 女性がこんな肌を露出するなんて……』

『いや。水浴びの時は全裸だけど、そこら辺はどうなのよ? そう言う意味で言えばこれはかなり凄い発明だよ? 着飾れるし、いいと思うけど。あと私は美少女だし?』

『うるさい。この研究馬鹿』

『なんだってー!?』

『はいはい。そんなことはいいから、あとはこれに牢屋ごと入れるから』


そう言って、スティーブたちが湯気が立つほど熱いお湯が入った、透明の箱を持ってきていた。


『なんですかこれ?』

『お湯かい?水浴びしろってこと?』

『まあ、それは変わらないわね。でも、ちょっと熱めにしているわ。火傷はしない程度にね。で、その判断を今渡されたボタンで、相手を上下できるわ』

『『!?』』


2人の顔がこわばる。

2人の足元には湯気が出る熱そうなお湯。

そして、それを操作できるボタンが手にある。

直ぐにお互い、ボタンの下を押して、相手を先に落とそうとするが動かない。


『こらこら、醜い争いしてるんじゃないわよ。これからの罰ゲームはこれだって話。そして、今回は2人ともアウトだから……。ポチっとな』

『『へ?』』


そうして、降下する牢屋。

当然、お湯につかるように配置している。


『熱い!?』

『ちょ、ちょ!! 熱い!! 熱いって!? 死体はちゃんと冷凍保存しないと!?』


もう、ビキニ水着の色気なんてどこにもない。

お湯に足が半分まで浸かって、熱さに耐えかねて、ピョンピョンしている姿に笑うことはできても、色気はない。


『あひゃひゃひゃ!! じゃ、10秒きっちり浸かりましょうねー』

『『ま、まっ』』

『まちませーん』


そう言って無慈悲に降下する牢屋。


『『あっつー!?』』


そして10秒後、そこには肌がほんのり赤く染まって色っぽいはずなのに、悲しい姿の美女が牢屋の中でぐったりしていた。


『あっはっはっは!! ひー、お腹痛い!! よし、しばらくはこの罰ゲームでいくわよー!!』


まだまだ、この駄目神の遊びは終わらないようだ……。


「お、まだやってるのか。効果覿面だな」

「あなたがそう仕向けたんでしょう?」


そう言って振り返ると、夫がツヤツヤした表情でこっちを見ていた。


「子供たちは?」

「もう寝たよ。こりゃ、シャンスやユーユ、シャエル、エリアも近々しゃべりだすんじゃないか」

「そうねー。おばあさまから、1人喋りだすとあとから続くって話も聞いたことがあるわね」


夫は戻ってきてから、ルナとバカ共はほっといて、娘たちからパパと呼ばれて、顔をだらしなくさせて、ずっとつきっきりだった。

私たち妻はほったらかし。

今夜は、私たちもツヤツヤにしてもらいましょう。自分だけ満足とかないわ。

ま、そこは寝るときに忍び込めばいいだけだし、今は……。


「で、あなた。ルナに任せて引き延ばしているけど? どう収拾をつけるつもりなのかしら?」


そう、あんな茶番劇より、今回の問題、戦争をどうやって回避するのか? その代案がないかぎり、ヒフィーの立場上納得はできない。


「ほら、ヒフィーたちが量産した魔剣の正体が分からなくて、一応各国に調査命令だしただろう?」

「ああ、そういえばそんなことしていたわね」

「それで、ヒフィーが恐らく手を回していたんだろうな。各都市のならず者の一派に魔剣が配られていた。手としては悪くない」

「は!?」

「ヒフィーもちゃんと考えて、世界を相手に回すつもりだったらしい。まあ、その配った魔剣は出力は更に落ちるらしいけどな。これで、精神制御の関連の実験も兼ねていたんだろうな。これで、仮想敵対国の大御所は各首都の混乱で、手がいっぱいにということになるわけだ」

「なるほど。それなら大国を相手にして、十分立ち回れるわね。で、その魔剣を持っている、ならず者でも利用するのかしら?」

「そういうこと。リリアーナたち魔族と魔王を切り離したような作戦だな。ヒフィーは魔道具で変装した偽物か、魔剣で操られていたってことにして、アグウストとの戦争回避に使う。アグウストに潜伏している、魔剣を持っているならず者の集団の情報をリークすればいいだろう。あとは、各国に魔剣を持つ集団がいるという情報をそこで流して、ただのならず者の集団でなく、それをまとめるデカい犯罪組織でもいるって感じにすればいい」

「それで、アグウストは納得するかしら?」

「恐らく納得する。わざわざ使者を送り出しているから、今回の事に疑問を持っているんだよ。まあ、国のトップが押さえられたということを突いて、多少なりそこら辺で文句をいうぐらいはするだろうが。アグウストに攻め込んだのは、ヒフィーの正規兵でなかったのが幸いしたな、元々盗賊だったみたいだしな。たぶんヒフィー側で捕まえて実験していたんだろうよ」

「ああ、そう言えばそんな報告があったわね。なるほど、それなら犯罪組織がバックにいるって方が逆に納得がいくわね。ついでに、アグウストからしたら自国にもその魔剣をもった集団が潜伏してるのだから、そっちの対応が先ね。文句を言おうにも自分たちも懐に飛び込まれているから、イーブンって感じかしら」


相変わらず悪知恵が働くわね。

というか、ヒフィーがそこまで裏の方まで手を回しているとは思わなかったわ。


「まあ、ミノちゃんがちゃんと仕事してくれてたおかげなんだよな」

「ミノちゃんが?」

「ああ。俺の命令のあと、こっち側、つまりダンジョン側で用意した魔剣とか魔道具をエナーリアに友好の証として渡しただろう?」

「ええ」

「それを横流しとか、解析されたとかいう可能性を考慮して、かなり深く調べてもらったら……」

「そのならず者の集団に行きついたってわけね」

「そういうこと。で、エナーリアについてはその集団は既に潰している。ちゃんとエナーリアの将軍や兵士に花を持たせてな。プリズム将軍が先陣を切って壊滅させたんだと」

「あらあら。あの子も元気ね。その結果、友好国に魔剣を持った犯罪組織が潜伏していたって親書でも送りつけるように言ったのかしら?」

「そうそう。これで、アグウストやヒフィーだけの話ではないということになるわけだ。各国が協力して、この魔剣を持つ架空の犯罪組織に対して協力体制をとることになる。一番厄介な敵になりかねないからな。ま、スムーズにいけばだが」


ちゃんと、今後の展開も考えているし、聞いた限り問題は無さそうね。

あとは……。


『さあ、この熱湯に浸かっていた時間だけが、問題に答えられる時間よ!! 無論、答えられなければ、2人とも熱湯行き!! じゃ、まずは2人で協力して、問題に答えられる時間を稼ぎなさい!! お互いの牢屋操作ボタンは持っているわね? 同時にやると、私がどっち見ていいかわからないから、まずはヒフィーから熱湯風呂に浸かりましょうか』

『そ、そんな!?』

『任せてヒフィー!! 私がちゃんとボタンを操作して、問題に答える時間を稼いでみせるよ!! あ、ルナさん。問題に答える時間ってどれぐらいるのかな? 流石にそれは教えてほしいんだけど』

『あー、問題は全5問ね。そうねー、これぐらいなら精々30秒かしら? 問題を読み上げているときは時間は経たないから心配しなくていいわよ。ま、余裕を持って50秒を2人で稼げばいいんじゃないかしら?』

『な、なるほど!! いい、コメット。半分、半分で行きましょう!! 25秒よ!!』

『え? ヒフィーが50秒稼げばいいじゃん。君のせいで私もまき込まれてるんだし!!』

『あ、こ、こら!! あ、あつい!? コメット!! 冗談ですよね!? ちゃんと25秒で……』


ヒフィーの訴え虚しく、25秒を過ぎても、牢屋が引き上げられることはない。

終わったのは、42秒。

ヒフィーはもう泣いてるんじゃないかしら?


『いやー、ごめんね。ヒフィーなら耐えられると思ったんだよ。ほら、でもヒフィーが頑張ったおかげで、僕は8秒でいい』

『はいはい。じゃ復讐どうぞ、ヒフィー』

『……』

『あれ? ヒフィー、笑顔が怖いけど、ちゃんと8秒であげてよね? あっつ!? ちょっとまった、もう上げて時間は十分だろ!!』


無論、ヒフィーが8秒であげるはずもなく、同じ秒数しっかり浸けて、引き上げた。


『ヒフィー、君とは一度しっかり話し合う必要があるね。まさか神様とあろうものが、ここまで意地汚いとは思わなかったよ』

『それはこっちのセリフです。コメットがまさか、ここまで友達がいのない馬鹿だとは思いませんでしたよ。失望しました』


『『ああ!?』』


にらみ合う2人。


『ひー、おかしい!!』


そして笑う駄目神。



「ねえ。何か憎しみが芽生えてそうよ? ちゃんとこっちの提案受けてくれるのかしら?」

「別に、拷問でもない、冗談の部類だ。実行しているのは、俺じゃない、ルナだし、グダグダいうなら、この映像を2人に鑑賞してもらって、ポープリたちに上映するとでもいえば心折れるだろ」

「いや、心折るつもりなのね」


しかし、忘れ去られているタイゾウは……。


『かぁー、風呂はこう熱くないといかんな!! 気持ちがいい!!』


普通に熱湯風呂を楽しんでいるので、今回のゲーム不参加になっている。

タフね。

江戸っ子っていうんだったかしら?



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