第322堀:そんなことより

そんなことより



Side:ユキ



「うひゃひゃひゃ……、ひー! お腹痛い!!」


横で下品な笑い声をあげているのは駄目神ルナである。

さて、なぜこの駄目神で、駄女神なルナが笑い転げているかと言うと……。



「出しなさい!! こんな卑怯なことで決闘を汚すのですか!!」


そうのたまって、鉄格子を両手で握り何とか一人用牢屋から出ようとするのは、ヒフィーとかいう神様(笑)である。

駄目神より、上か下かと言われても正直甲乙つけがたい。

どっちとも俺から見れば厄介ごとを運んできた生物にすぎない。


「放出系の魔術やスキルも封じられているねー。どうしたもんかね。というか、見事にはまったねー。あっはっは」


そう言って、一人用の牢屋で1人呟いて、笑っているのは、この新大陸のダンジョンマスター前任者でアンデッド、リッチのコメット。

この人も俺から見れば、ヒフィーやルナとおんなじだ。

まあ、どちらかというと、研究者寄りなので、この人も巻き込まれという感じはするが、今は敵に回っているから仕方ない。


「まさか、こんなにあっさり終わるとはな。お互いの実力を見せるのだから、こういう罠も実力の内だな」


納得しているのは、モトメさん。

この戦いの被害を最小限に抑えるため、俺とモトメさんが表と裏のような感じで、どっちにひっくり返ってもいいように、布陣していてくれた。

まあ、最も、この結果を見る限り、年寄りの冷や水、とりこし苦労と言ったところだろう。

そっち側に付いた過去の自分を恨んでそのまま一緒にいてくれ。




さて、あのルナの決闘開始の合図から何があったのかと言うと。


簡潔に、突っ込んでくる、モトメさん、それから魔術を撃ちながら突っ込むコメット、そして何やら空に浮き始めたヒフィー。

それに対応するために、すぐにダンジョン改築改造のスキルを持って、魔術、スキル放出を封じた。結果コメット魔術が消えて驚く、ヒフィー落下、そして、モトメさんは昔懐かし、ボッシュートへご案内で終了して、驚いたり、落下して固まっている2人も同じようにボッシュートして終わり。

ね? 簡単でしょう?

俺にとっては常時使っている、罠のオンパレードというか、ごく一部だ。

過ぎた技術をに頼る人たちは、たまに古典的な罠に引っかかったりするのだ。

というか、こんな罠に引っかかるとか論外、脱出もできないし。


「ルナさま!! ユキ殿は明らかに決闘を汚しました!! 笑っておられないで、すぐに処罰を!!」


ヒフィーは自ら神様(笑)の力で脱出できないのか、ルナにそんなことを言う。

いやー、神様って高密度な魔力の集まりだって予想はついてたし、さっきのモトメさんの一定以上の魔力分解かある種の信号を妨害するスキルかわからんが、それで魔力が減衰してたって叫んでたし、もしかしていけるかなーと、思って強化型のザーギスや真黒、魔王四天王(笑)どもを捕らえた時の一人用檻? 牢屋を改造したものである。

もうちょっと、頭捻って、自分で脱出するとか考えない?


「あははは……!! ちょ、ちょっと待ってヒフィー、お、お腹が……」


駄目神は今の状況がツボらしく、蹲って、地面を片手で叩き始めた。


「……っ。ユキ殿!! こんなことをして恥ずかしくないのですか!! 納得できると思うのですか!!」


ヒフィーはルナに助けを求めるのは、今は無理だと判断したのか、俺へ直接文句を言う。


「いや、3対1で仕掛けてきてるんだから、トラップとかじゃないと対応できませんよ? というか、3人がかりでトラップに引っかかるのは、どうかと……」

「決闘でそのような卑怯なことを!! 3人でかかってこいというのは、私たちを一網打尽にするための姦計だったのでしょう!!」

「いやー、言っての通り、3人とも引っかかるのは予想外でして。しかも、引っかかってから、脱出できないで叫ぶだけ。これじゃー、俺と勝負する以前の問題でしょう。それともなにか?そこのルナに、3人でかかってトラップに引っかかって、勝負に持ち込むことすらできないのに、この大陸を任せてくれとかいうつもりですか?すみませんが、俺にはそこまでの根性はないですわ」

「そ、そんなことは有りませんとも、見ていなさい!! こんな牢屋すぐに破って……、むー!!」


そんな可愛い声を上げて、また柵を掴んで踏ん張っているヒフィー。


「時間がかかりそうなので、破ったらそこのルナに言ってください。その時に続きをしましょう。ちょっと用事がありますので戻ります」


実はこの状況、俺にとっては大歓迎であった、今、急いで家に戻りたい俺にとっては、ヒフィーがまだと言ってくれる方がいいのだ。

なぜかと言えば、俺が勝っても負けても、結果この後の予定を詰めるための話し合いに行かなければいけない。

つまり、帰れない。

だが、この状況はヒフィーが参ったというまで、続くのだ。

俺は、言ったように、ルナに監視を任せて戻れるのだ。


「このような大事を決することより大事なことがあるのですか!!ふざけないでください!!そのような覚悟しかない者にこの大陸を任せるわけにはいきません!!」


と、ヒフィーの尤もな意見が飛び出てくる。

確かに、ヒフィーの言っていることは正しい。

が、それは前提に俺が望んでこの世界に来ているという条件がいる。

さて、俺は望んできていたのだろうか?


否である。


では、その原因は誰にあるだろうか?


「やかましいわ」

「え?」


俺はすごく不機嫌にその言葉を吐き出し、その声音にヒフィーが驚いたように硬直する。


「いいか、お前たちの意見もクソもない。全部却下だ。こうやって、穏便に済ませているだけ感謝しろ、バカ共が」

「なんですって!?」

「そもそも、俺がこっちに来たのは、お前らがしくじったからだろうが!!」

「……」


ヒフィーが絶句する。

そう、元々の原因はヒフィーたちにある。

俺が来る前に何とかしていればよかっただけ。

どんな御大層なお題目掲げても、既に俺の意見を、却下出来る立場ではないのだ。

いや、本当のところをいえば、部下の管理をできなかったルナが悪いんだが、あれにはちゃんと意趣返しも用意している。


「いいか。俺はお前等の尻拭いでこっちの新大陸にきてるの!! もう、嫁さんたちも俺の担当大陸にいるの!! 子供もいるの!! 今日喋ったの!! だから俺は帰るんだよ!! なんだ、それとも、我が子をほっといて、お前らの時間つぶしに付き合えってか? ああ!?」

「ユキさん。落ち着いて、落ち着いて」


俺が語気を荒げていると、タイキ君が駆け寄ってきてどうどうと言っている。

だが、ここまで言ったんだから最後まで言わせてもらおう。


「大義を掲げる前に、散々迷惑かけてる俺に謝罪の1つでもしろ、このバカ共が!! 何かを成す以前の問題だろう!! ちゃんと道理は通せ!!」


そもそも、自分の仕事のミスで他人を巻き込んでおいて、家族団欒を邪魔することなど、ナンセンスである。

人としての人格を疑うレベルである。

どこかのブラック企業でも、奥さんの出産などと言ったら「俺に任せて行って来い!!」というイケメンがいるのだ。

人の幸せは一緒に祝うのだ。あ、子供関連に限りな?

で、大陸を救うと豪語している連中が、そんな度量も示せないでどうする。


「あ、あう……」


ヒフィーはルナと違ってここら辺の良識はあるのか、俺から言われて現状を知って、口を開けないでいる。


「え、何? あの子たち喋ったの!?」

「ほれ。これがその映像」


そう言って、俺はコールのメールに添えつけられた映像を再生する。

そこには、セラリアに抱かれたサクラとルルアに抱かれたスミレが画面を見つめている姿が映っていて……。


『さ、パパに話かけてごらんなさい』

『はい。あっちに向かってですよ』


そう言われて、サクラとスミレが口をたどたどしく開く。


『ま、ま?』 

『まんま?』


喋っている、喋っている!!

娘たちがちゃべっていますよ!!


「うっわー!! くぁわいいわね!!」


それは俺の娘だから当然である。


『パパでしょう?』

『パパですよ』

『う? ママ?』

『まま?』

『うーん、さっきはパパって言ったんだけどね』

『きっと旦那様の写真を見て言っていましたから、目に見えてないとダメなんじゃないでしょうか?』

『あー、そうかもね。というわけよ、お仕事から帰ったら娘たちがパパって呼んでくれるわよ』

『はい。お仕事忙しいかもしれませんが、頑張ってください。スミレもサクラも、みんなみんな、パパ、旦那様の帰りをまっていますから』


そう言って、セラリアとルルアが子供たちの手を取って手を振って映像が終わる。


「というわけだ。俺は一時も早く、子供たちと会わなければいけない」

「納得したわ。私もついて行くわよ」


誰がそんなことを認めるか。


「馬鹿。ルナは決闘の見届け人だろ。ヒフィーたちが参ったと言うまではここに残らなきゃだめだろう。時間制限も特に決めてないしな」

「は!? ユ、ユキまさか!!」

「まさか、上級神である女神ルナ様が自分で言ったことを反故にするわけないよな?」

「ぬぐぐぐ……」

「それとも、敵前逃亡として俺を負けにするか? ヒフィーたちの勝ちにしてもいいんだぜ? その後は、ルナがちゃんとヒフィーたちと話し合って仕事三昧だろうけどな」

「こ、この!!」


こんなやかましい生物を家に連れて帰ってたまるものか。

子供たちにどんな悪影響があるかわからない。

まあ、本気を出して仕事放棄をしかねないので、予防策は打っておこう。


「心配するな。飯とかはここに届けさせる。あと笑いもちゃんととる」

「笑い?」

「ああ。お前等用意を」

「「「うぃーっす」」」


そう言って出てくるのは、スラきちさん、スティーブ、ジョンの魔物たち。

そして、予定通りに、まずは捕まっている3人に向かって、ある紙を貼って行く。


「ぶっ、ぶぁひゃひゃ……!! や、やめて、お、お腹がいたいから!!」


いきなり下品な笑い声をあげたのはルナ。

どっからどう見ても駄目神である。

で、どのような紙が貼られたのかと言うと……。


ヒフィーには「興奮中、手を出さないでください。危険です」動物園の貼り紙のような感じ。

コメットには「吐きますので、餌を与えないでください」さっきの実績からの貼り紙だ。

モトメさんには「年寄りです。そっとしておいてください」……あれ、なんかモトメさんのが一番ひどい気がするわ。


文言はスティーブたちに任せたが、かなり的確というか、辛辣だな。

ま、こいつらも今日非番で連れ出したから、鬱憤がたまってるんだろうけどな。


「げ、君は……」

「あ、どうも」


そんな挨拶をしているのは、コメットの腕を切り落としたジョンだ。

わざとなのか、コメットの貼り紙をしに行ったのはジョンだが、コメットもそれを覚えていたようだ。


「……まさか、ユキ君の?」

「そうですよ。よくもまあ、ユキ大将に喧嘩売る気になりましたね。まあ、同情だけは…だけはしますよ」


そう言って、カメラの準備に取り掛かる。


「え、え? ど、どういうことだい!? ユキ君!?」


自分たちがどうなるのか不安になってきたのか、コメットがたまらず俺に質問してくる。


「いや、ヒフィー殿が参ったというまで、ルナが退屈しないように催しをするだけですよ?」

「……催し、ね。それって……」

「はい、もちろんヒフィー殿たちが迷惑かけているんですから、体を張ってください」


そう言って、俺がスティーブから受け取ったくじ入れをルナに渡す。


「なにこれ?」

「あの3人に対する罰ゲームかね。くじ引き方式だ。そっちの気が済むまでやってやれ、その途中で脱出したら俺が戻ってくるし、降参しないなら、ずっと罰ゲームができるわけだ。罰ゲームの道具関連はこの3人が全部準備して実行するから」

「ああ、笑ってはいけないみたいな?」

「そうそう」

「うっひゃー!! 楽しそうじゃない!!」


ここに鬼畜駄目神が爆誕した。

即座に、くじ箱に手を突っ込んで、くじを引き、中身を確かめる。


「えーと、何々? タコを食べる。できなければケツバット!! なははは!! さっそく準備にかかりなさい!! いい、ヒフィーとコメットを特にカメラ回しなさい!! タイゾウはタコでは動じないだろうから!!」


ノリノリである。

さ、俺は帰ろう。

嫁さんと子供が待っている。

タコを持ったスラきちさんとすれ違い、後ろから甲高い叫び声が聞こえてくる。

……内陸の人間だから、タコを食う習慣がヒフィーたちにはなかったか。

ま、あとで録画したのを本人たちにも見せるという罰も入れるべきかねー。

そんなことを考えながら、俺はいつの間にか、走り出していた。



「いま帰るからな!!」



大事なのは、バカ共より家族なのは、だれにとっても当然なのである。




「はい、ヒフィー、コメット、アウトー」

「ルナ様!! こんな悪魔を食べられるわけがありません!!」

「ちょ、ちょっとジョン君だっけか? 君の力でお尻を叩かれると吹き飛びそうなんだけど? え? 手加減する? いやいや、その前に乙女であって、君はオークで……。待った、まったーーーー!!」


バシン!!


「はうっ!?」

「いったーーーー!?」


「……醤油とわさびはあるかい?」

「ほいっす」

「あ、どうも。いやー、久々のタコは美味いね」



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