第177掘:ウィードの最近とこれから

ウィードの最近とこれから



side:ユキ



俺たちは魔剣の話と今後の方針を決めた後、久々にのんびりしていていた。

ここのところ研究や、ジルバ帝国対策と忙しかったしな。


「そう言えば、魔族の件とかどうなったんだ? 特に問題があるような報告は受けていないが、進展の話もめっきり聞かないんだが?」


俺は宴会場で嫁さんたちとお茶を飲みつつそんな話をした。

因みにエリスは、つわりがひどいのでそのまま自室で休んでいる。


「ああ、それはわざとカットしてるのよ。ユキたち新大陸冒険組には余計な不安は与えるべきじゃないでしょう」

「ん? セラリアの言い方だと問題があったのか?」

「いえ、特にはないわ。ユキが先手で、後退してくるルーメル侵攻軍の指揮系統つぶして回ったおかげで、魔物は離散。侵攻していた魔族は魔王城の落城を聞いて軒並み降伏。ほぼ戦闘はなかったわ」

「ほぼってことはあったのか?」

「それは勿論よ。リリアーナを追い落とした奴らは、普通に降伏したらただでは済まないでしょうから、必死に抵抗するわよ。まあ、あっさり捕縛されたけどね」

「そりゃ、一応デュラハンやリッチとか入れてたからな」

「普通のデュラハンやリッチじゃないけどね。普通なら一匹で災害レベルよ」

「それでもスラきちさんや、スティーブよりは下なんだよな」

「ああ、そう言えばスティーブもそこまでの怪物だったわね。なんか召使いのイメージが強くてそう見えないわ」


ああ、スティーブってセラリアにとってそう言う扱いなのね。

頑張れスティーブ。



「へくしっ……」

「隊長風邪ですか?」

「いや、また大将かセラリア姐さんが変なことを企んでいる気がするっす」

「がんばってください」



とまあ、そんな感じで魔族領は現在落ち着き始めているそうだ。

監視としてエルジュがリリアーナの補佐について、各国の王もそれに賛同、魔族の真実も各国の精鋭が自国に戻って伝え始めて、今回の戦を知って好感を示している。

魔族嫌いも確かにいるが、個人の戦力は普通より遥かに高いのが多い種族なので、各国の軍などは積極的に魔族の引き入れや政策を王に進言しているだと。

現金なものというか、狙ってやったのだが、ここまで効果的だとあれだよな。

俺がリリアーナを追い落とした一因でもあるから仕方ないと納得しておくか。


「そう言えばさ、勇者タイキの方はどうなったの? キユとコヴィルが王様たちを追い落とすのを手伝ったまでは聞いたけどそれからはさっぱりだよね?」


リエルが思い出したように言う。


「それは俺から話そう。なにせ俺の同郷だからな。タイキ君の方は王を追い落としたあとは、タイキ君を中心になって政治を執り行っている。タイキ君的にはウィードみたいにしたいらしいが、国民的にはタイキ君が国を救ってくれたんで、そのまま治めて欲しいって希望で一杯なんだ」

「まあ、勇者だし、それなりのことはしてるから同然じゃないかな?」

「その通りだな。ここまでやっておいて、後は好き勝手やってくれは無責任すぎるから、とりあえずタイキ君を王代として国の立て直しをやっている所だ。ランクスの王族はプライドだけは高かったらしくて、随分所領は荒れてたみたいだ。タイキ君の手付かずの場所も多いからその前面支援が今の仕事だな」

「はぁー、表だって色々やると本当に大変なんだね」


リエルがなんとなくではあるが、俺が裏方でコソコソやっている理由を理解し始めたかな?


「リエルの言うとおりね。こういう国の一大事に勇者タイキみたいに表だって動いてしまうと、それ以外に基本身動きが取れなくなるものよ。だからユキは、今までの問題を、ユキ個人やウィード単体で処理しようとはしなかったのよ。ウィードを作ること自体、ユキの故郷と同様、民衆に政治を任せるという最終目標を掲げているから、このウィードの女王である私もそこまで忙しいわけではないわ。魔王への侵攻作戦も戦力から言えば、ウィードだけで済んだのだしね」

「使えるところは使って、自分は身軽でいるって感じなんだね?」

「まあ、リエルの言う通りだな。新大陸の方でもそういうスタンスで行かないと、国なんて作ってたら面倒にしかならないからな。ジルバ帝国か亜人、それか両方に停戦でも締結させて俺たちが自由に動けるようにするのが一番好ましい」

「ああ、そうすれば僕たちが面倒を見なくていいわけか」

「今日の魔剣の報告で、取るべき行動もみえてきたからな。並行して魔力枯渇の原因は継続して調べていくが、前任のダンジョンマスターがどういった方針で魔力枯渇を防ごうとしたのかを調べるのも悪い選択ではないだろうよ」


ルナの管理はグダグダだが、まあ世界維持もルナの趣味みたいなものだしな。

そっぽ向かれたらそれでおしまいなわけだ。

ここで何かを言うこと自体がお門違いでスケール違いなわけだ。

こっちは死活問題でも、ルナにとっては、道端に咲く枯れかけた花に対してもっと綺麗になればいいなーと思うぐらいの話だろう。

普通の人なら道端の枯れかけた花なんて無視するし、なにか行動を起こすとしても、花をもっといい土地に植える方が楽だし、わざわざ土壌の改善を望んだりはしない。

ルナという、上級神と自称している生き物にとっては、星の環境や人なぞ、下手すれば道端の花以下の可能性すらある。

現在みたいに色々情報のやり取りができるだけ僥倖だろう。


「なるほどねー。僕たちより前にここで魔力枯渇を調べていた人なら、絶対僕たちより調べたことは多いはずだよね。それを探すってことか。うん、納得」

「ま、これで原因がわかるとも思えないが、こっちの情報量が一気にあがるとは思うしな」

「そうね。それが間違っているか正しいかはこちらで判断すればいいだけだし、私たちとは違った視点で調べていたりするかもしれないわね」


セラリアの言う通り、別の視点で魔力枯渇を調べていたのなら、俺たちではたどり着けない情報まで握っている可能性が高い。

ルナの最初の情報では死亡したとしか聞いてなかったから、重要視していなかったが、引継ぎと言うべき形になっているから前任のダンジョンマスターの情報は非常に重要だ。

ほとんどルナは知らないけどな。


「というか、ルナは前任のダンジョンマスターが、魔力枯渇に対して動いていると知っていたわけではなかったみたいだし、しかたないんじゃない?」

「ルナは、ただダンジョンを運営するべしって言っただけみたいだしな。しかし、非効率なダンジョンコアを使った魔剣を作って行動していたんだから、何かしらに気が付いたんだろう」

「その可能性は大きいと思うわ。でもただ単に作っていただけという可能性もあるわよ?」


セラリアの言う通り、ただ魔剣を作りましたという可能性もある。

現地人だし、まずは戦力増強という形でやらない可能性もないわけではない。

でも、俺は前任者が魔力枯渇に対して何らかの行動を起こした結果が魔剣だと思っている。

あんな、ダンジョンで魔力を稼げない、剣で直接切り付け、命を奪わないと魔力を回収できない非効率な物を、希少すぎるダンジョンコアで作る意味が無さすぎる。

とにもかくにも、前任者を調べれば色々情報も集まるだろうし、魔力枯渇に関係あるにしろ無いしろ。

それを集めてから別の方向へ方針を転換しても問題ないわけだ。

今のままでは地道に研究をするしかないのだから、分かりやすい目標ができたのはありがたい。


「こちらとしても研究するしか方法がないんだから、目的ができるのは悪い事じゃないだろう」

「まあ、そのとおりね。でも、その場合ザーギス率いる研究班を残すとして、あなたが実働部隊ということになるでしょう?」

「そりゃな。ザーギスは魔族だし下手な場所へ行けばなにが起こるかわからん。こっちは身体を完全に化けるドッペルだからな。人となにもかわらん体だ、俺が動くしかないだろう」


俺がそう言うと、セラリアは少し考えて口を開く。


「……やっぱり手を付けやすいのはジルバ帝国かしら?」

「だな。亜人たちは勢力が弱すぎる。大きい範囲で情報収集するのなら、ジルバ帝国を狙うのがいいだろうな」

「ん? ユキさんジルバ帝国を倒すつもりになったの?」

「いやいや、違うよリエル。ただ単に情報を集めるならジルバ帝国が近辺じゃ一番いいだろうって話だ」

「ああ、そうだねー。というか一応亜人たちがいるあの場所もジルバ帝国領ってことになってるみたいだしね。もうこうなったらジルバ帝国に直談判とかできたらいいのにね」


……直談判?


「あれ? 冗談だよ? そんなことすればジルバ帝国に僕たちのことばれるし、亜人たちに大規模な討伐軍が送られるかもしれないんだよね?」

「あなた、姉妹をどうやってジルバ帝国に送り戻すか、考えていたわよね?」

「ああ、ある意味ジルバ帝国を裏からこっそりするのに丁度いいかもな」


2度に渡って魔剣使いを迎撃、軍を壊滅させた実績。

これを使えばある程度話はできるだろう。

そろそろ迎撃もめんどくさくなってきたんで、ジルバ帝国がまだケンカを売ってくるなら潰そうかと相談していたところだ。

だが、それではジルバ帝国にすむ一般人に面倒が降りかかる。

なら、もう俺たちを敵対認識させなければいい。

無論、俺たちの保護下にある亜人たちも含めて。

ま、一方的な約束取り付けだし、向こうは何らかしらの行動をとってくるだろうが、ダンジョンの方は落ちるわけないし、第6次防衛ラインまで落ちるならすぐに撤退と伝えてある。

直談判にいく俺たちがどうにかなるわけもないが、万が一があってもドッペルだし、御礼参りでもしてやればいい。

直接ジルバの王に脅しをかけられるいいチャンスだろう。

都合よく、王に会えそうな2人がいるし。


「それなら、姉妹にはどう動いてもらうのがこちらにとって都合がいいかしら?」

「戦いにはならないほうが楽だしな。こちら側についてもらって、王を脅す側にきてくれるといいな」

「それが一番ね。そのまま王都を落として、その王を傀儡にしてもいいけど、色々面倒よね。向こうから協力してくれる方がいいわ」


俺とセラリアはそう言って笑う。


「うわぁ、怖いな2人とも。オリーヴとミストも可哀想に……。僕はなにもしてあげられないや」

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