第178掘:ジルバ帝国の落日 序章

ジルバ帝国の落日 序章



side:ミスト



「おー、ここがジルバ帝国の王都ねー」

「どうですか、凄いでしょう。あなたたちはこんな国とことを構えると言ったのです。今からでも遅くはありませんわ。私からとりなせば、将軍職には取り立ててもらえるでしょう」

「いや、馬鹿だろ。文字通り俺に手も足も出なかった魔剣使いがなに言ってんだか。なんだ、またボコボコにしてほしいのか? カヤ」

「……任せて」

「冗談ですわ!!」


私たちは、ユキが率いる傭兵団の隊長格をつれてジルバ帝国王都へと戻ってきました。


「お姉様、そんなことで騒ぐより、私たちはどうやって王に軍壊滅の説明をするか考えなくてはいけません」


そう、ユキたちを突き出して、傭兵団に負けましたなどと言っても信じて貰えない。

ましてや、ユキたちを突き出すなんてことは出来はしない。

それは、捕虜の日々で実感した。

最初こそは魔剣を返却され、力を取り戻したと思っていましたが、そんな力はユキたち傭兵団にとってはあってもなくても些細なことだと分かりました。


「そ、それもそうですわね。しかし、この有様ではまともに説明もできませんわ。ねえユキ、マーリィみたいにオークの首を揃えてくれたら助かるのですが?」


お姉様の案は妙案だと思います。

そうすれば、大規模なオークの群れを迎撃したとして、私たちの軍が壊滅状態なのは言い訳が立つのですが……。


「え、今から王都内でどうやって、オークの首を揃える気だ?」

「それは……」

「というか、王都について今更だな」

「「……」」


私とお姉様は閉口してしまいます。

捕虜から解放されると言われ舞い上がっていました。帰ってからのことを考えていなかったのです。

というか、なにをどう説明すればいいのかもわかりません。

だって、あの村から王都の近くまでマローダーと言う乗り物で僅か3日ほどで着いたのです。

本来であれば、早馬に乗ったとしても1週間はかかる距離です。

生き残った兵士は解放され、フェイルの街へ先行して戻るように私たちが指示したのですが……、まさか、私たちが先に王都につくことになるとは……。

おかげで先に報告だけして、様子を見ることもできず、いきなり王に直接報告する羽目になったのです。

これでは、証拠が全くなくなにも信じてもらえませんし、信じて貰えたとしても、これでは失態で魔剣と領地を取り上げられてしまいます。

魔剣はともかく、ようやく故郷の領地が私たちのおかげで経済的に傾いていたのをなんとか建て直したのです。

今領地を取り上げられれば、今までの苦労が水の泡になってしまいます。


「嘘の報告すればいいじゃん。なんてことはできないわけだ」

「……当然ですわ。マーリィのことを調べた私が言うのもなんですが、魔剣の所持者になりたい者や、私たちの戦果に嫉妬している者も数多います」

「つまり、下手に嘘の報告をすれば更に首を絞めることになるってことか」

「……はい。隠ぺい出来る程のことであればいいのですが……」


5000の兵が1000になったことを隠すことはできない。

持っていった武具も奪われましたし、兵糧も同じく。

武具や兵糧は返却が義務とされています。

武具は整備や、この国の印などがあり、専用のもので王の管理するところと言う事。

兵糧は当然残れば、国が再び保管し、戦や災害など有事のために貯蔵するのが当然です。

1つ2つ、10や20ぐらいならどうにでもなりますが、1000単位の損失は隠しようがありません。

すぐに、足を引っ張る連中の耳に入り報告されるでしょう。


「ふむ。で、2人はどんな処罰が下されると思っているんだ?」

「……ただの敗走ではないのが痛いですわ……」

「……命令無視の全軍での強制捜索、そしてオークではなく1500ほどの傭兵団と亜人に敗北。そして、5分の1まで兵力を減じる失態。物資も殆ど奪われたことを鑑みますと……」

「運が良くて、降格処分と領地没収。悪ければ斬首ですわね」

「それは助けて解放した意味がないな。そうだな、これから俺たちに協力を継続してくれるなら、首をつないでやれると思うがどうする?」

「本当ですの!?」

「……何が目的でしょうか?」


お姉様は喜んでいますが、私はこのユキが、ただ憐れみでそんなことを起こすわけないと知っています。

そして協力の継続。

あの魔剣を調べ続けるということ、それになんの意味があるのか未だ教えてもらっていません。

なにか、とんでもないことに首を突っ込んでいる気がするのです。

と、そんなことより、簡単な問題があります。


「自分から言っておいてなんですが、目的はいいでしょう。協力するだけで首を繋げるのですから。しかし、どうやって私たちの命を助けるつもりですか? 国相手にそんな事ができると思っているのですか?」


そう、いくらユキの率いる傭兵団が強いとはいえ、国相手をできるわけがありません。


「まあ、出来ると思うけどな。こういう1人が殆どの権限を握っているのは色々攻略のしようがあるんだよ。信じる信じないはそっちの勝手だが、このままじゃ放り出されることは確実なんだろ?」

「……放り出されるならまだマシですわ。魔剣を取り上げられたとしても、今まで積み上げてきた戦果は本物ですわ。それを放逐できますわけありませんわ」

「足を引っ張る連中に殺されるか、どこかの貴族に囲われるか、果ては一兵士として使い潰されるか……どのみち、私たちは死ぬしかありません」


兵士として死ねるならまだマシだろう。

最悪は性奴隷みたいに扱われ、ごみの様な扱いで最期を迎える可能性もあります。


「それならなおのこと俺に任せてみればいい。特に2人になにかしてもらうことはないしな」

「え?」

「いや、私たちの手を借りずにどうやって私たちの問題を解決するつもりなのですか?」

「それは、まだ秘密だ。2人はとりあえず1週間後ぐらいに早馬で来たってことで王城にくるといいさ。1週間ぐらいなら身を隠せるだろう?」

「え、ええそのぐらいなら問題ありませんわ」


なにを言っているのか私には理解できませんでした。

てっきり私たちの報告についてきて王に喧嘩を売るような発言をすると思っていたのですが……。

これでは王城に立ち入ることすらできません。


「なら、待っててくれ。俺の作戦も必ず成功するわけじゃないから、他の作戦でも考えててくれ。よし、じゃあ皆いくか」

「「「はーい」」」


そして、私たちは王都の人混みへと消えるユキたちを見送ったのでした。




side:ユキ



「ねえ、ユキよかったのかしら? あの2人がいれば王城の中の道案内はいらなかったのに」


ラビリスが俺の頭の上でそんなことを言う。


「そうですね。道案内を別に雇うのは面倒だと思いますけど?」


横にいるリーアがそうつぶやく。


「大丈夫だって。ユキさんのことだから考えがあるんだって」


そうやって自信満々なリエルが言う。

いや、なんでリエルが自身満々やねん。


「……で、どうするの?」

「どうするんっすか? というか、おいらやここじゃ毛嫌いされている亜人連れているから悪目立ちしてるっすよ?」


カヤとスティーブがこれからのことを聞いてくる。


「そうだな。スティーブはともかく嫁さんたちが変な目で見られるのはあれだな。丁度案内の兵士も来たことだし……」


俺が人混みに視線を向けると、奥から声が聞こえてくる。


「どけ、ここらに亜人を首輪をつけず連れまわしている馬鹿がいると聞いた。どこだ!!」


なんか偉そうな人がきたよ。

これは当たりかね?


「ま、あの姉妹が俺たちに協力しているとばれたらあれだしな。協力していることがばれるにしても、俺たちが全部掌握したあとがいいだろう?」

「ああ、それはそうですね」


トーリが納得して頷く。


「ふふふ……ユキってば面白いことを考えているのね」


ラビリスが俺の心を読んで面白がっている。


「じゃ、堂々と王城へいって王様への謁見を果たしますかね」

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