第175掘:魔剣の秘密 中章
魔剣の秘密 中章
side:カヤ
皆がユキの言葉に驚いている。
それもそうだ、ダンジョンコアを材料として作った武器など今まで聞いたことはない……。
しかし、ユキ曰く、武器としての性能はあまりよろしくない。
いや、それは姉妹が実験で魔剣を使っていた時に分かった。
だって、私の炎魔術の方が強いもの。ユキのレベル強制引上げも原因の1つだけど、根本的な魔術のレベルが違うような気がする。
資料に目を通しながら、私は実験の時のことを思い出していた。
当時、私はユキに呼び出されて、実験場所に赴いていた。
そこには、あの姉妹とザーギス、護衛のリーア、ジェシカ、そしてちびっこ4人がまっていた。
「お。カヤごめんな」
「……気にしないで、ユキからお稲荷さん作ってもらうから」
「おう。まかせとけ」
「あ、お兄ちゃん私も!!」
「兄様!!」
「ユキさん私も!!」
「酷い男ね。カヤだけなんて……」
うん、相変わらずユキの周りは騒がしい。
嫌いではないけど、静かな方がいい私は、布団の中以外ではあまりユキにべったりではない。
リエルとかは不思議がっているけど、こういう距離もいいのだ。
「はいはい、みんなの分も作るからな。さあ、今からお仕事だから邪魔しないようにな?」
「「「はーい」」」
ユキはちびっこに言い聞かせて、私に向き直る。
「とりあえず見学者がいるけど大丈夫か?」
「ん、問題ない。みんなにはいい勉強になると思う」
ちびっこたちはユキの補佐でレベルだけは高いが実戦経験が圧倒的にたりていない。
少しでも、その経験を増やすことは大事だと思う。
私と姉妹の実験が役立つなら利用するべきだろう。
「ねー。ユキさん僕へのご褒美はないの?」
横で同じく実験に参加するリエルが抗議の声を上げる。
「リエルはあとでお刺身の盛り合わせだ」
「うん。がんばるよー!!」
安い女ね、リエル。
……私も人のことは言えないか。
「で、トーリはステーキでいいか?」
「あ、はい。わざわざありがとうございます」
で、トーリは自己主張しなさすぎ。
お肉好きはなにも恥ずかしいことじゃないのに、ユキの前では淑女を目指してる。
布団ではわんわん激しく鳴いてるのにね。
「さて、そっちの準備はいいか?」
「……ええ、構いませんわ」
「……あの、一応魔剣を使うのですから、子供があまり近くでは……」
と、今日のメインである姉妹を忘れていたわ。
2人とも私たちの日常に追いついてないみたい。
まあ、当然ね。見た目は本当にアスリンたちは子供なんだし。
あれで私たちよりレベルが上だから、経験と技量以外はまけているわよ。
アスリンたち相手に、あの2人ではなにも出来ないと思う。
「そうだな。お姉さんたちがこう言ってるんだ。もう少し離れてみような」
「「「はーい」」」
「「……」」
大人しく言うことを聞くのだが、この場にいること自体が問題なのか微妙な表情のままだ。
「じゃ、始めるか。ほれ、魔剣だ」
ユキはそう言って、ひょいひょいとアイテムボックスから魔剣を取り出して、姉妹に放る。
「!?」
「え、自分でアイテムボックスの魔術をつかえるのですか!?」
「そりゃ使えるわ。一々驚くなよ。そっちと俺たちの差は既に実感しただろう?」
確かにユキのアイテムボックスは珍しいスキルではあるが、私たちの大陸にいないわけではいない。
この大陸では珍しいを通り越しているみたいだけど。
「そんなことはどうでもいい。魔剣に変わった感じはあるか?」
「……ミスト、大人しく現実を受け入れましょう」
「……はい、お姉様」
ユキに言われて魔剣を振ったり、わずかな炎や水を発生させている。
ふうん、殆ど魔力を使わず魔剣の力で魔術を発動しているみたい。
リーアの武器や鎧とは違うタイプね。
リーアの勇者装備はリーアの魔力を吸ってようやく起動するようになっている。
私たちもそれぞれ専用の武器や鎧が更新されて渡されてるけど、それも自分たちの魔力を供給して動くタイプだ。
今、民間向けに開発している魔力無しで明かりが灯る電気のランプみたいなもののようなのだろう。
例えはあれだろうけど、そんな表現が正しいと思う。
「特に問題はありませんわ。しかし、実験と言っていましたので、魔剣は既にバラバラにされたとも考えましたわ」
「そうですね。なにも問題はないようです」
「じゃ、実験は問題ないな」
「かまいませんわ」
「よし。ならまずは、魔剣で得意な技でも見せてくれ。必殺技とかはいいぞ、戦う者としては奥の手は見せたくないだろうからな」
ユキはそう言って姉妹から離れる。
意外、いきなり斬りかかってくるかと思っていたのに。
「そう睨まないでくれます? 私たちとて捕虜の自覚はありますのよ」
私たちにきつい目で見られていたのを知っていたのか、そうやって、何もしないとアピールをする。
「……私たちは一応見張り。きつい目で見られて当然」
私はそう言ってオリーヴに言い返す。
あなたたちから戦を仕掛けておいてなにを馬鹿なことを。
私個人としては、こんな私利私欲で戦を起こすやつなんて嫌いだ。あの、ロワールを思い出す。
「これぐらいは我慢しろ。戦を仕掛けて、捕まって、五体満足なんだからな。別に暴行もされてないし、お前たちの軍よりましだろう?」
「……」
「お姉様これは仕方がありません」
否定しないのね。
ふん、やっぱりそんなものね。口でなにかいっても実行するような力が伴っていない。
ユキは余程なことが無い限り拷問なんてしないわ。というかそんな手間をかけないから。
そんなやりとりの後、姉妹は魔剣の技を見せてくた。
「わーすごいです!!」
「兄様もあんな武器が欲しいですか?」
「ふむふむ」
「……ユキが欲しがる武器はもっとえげつないわよきっと」
そんな感じで、ちびっこたちが姉妹の魔剣をみてきゃっきゃと騒いでいるけど、監視で情報収集している私たちとしては微妙だ。
今の所、魔術のレベルを超えるようなものはない。
利点としては、発動するための魔力が限りなく少ない感じがする。
さっき見たとおり、私たちが魔術を使うより圧倒的に消費魔力がすくない。
魔力感知のスキルで魔力の流れが分かるので、これは間違いない。
私たちの大陸でいう杖に該当するのだろうか?
私が得意な棒術も、発動のための魔石をつけて魔術を使いやすくしていたし、そんなものだろうか?
でも、単純に力が違う? 桁が違うっていうんだっけ? そんな感じがする。
「ふむふむ、ザーギスどうだ?」
「そうですね。なんというか期待外れと言いましょうか……」
ユキとザーギスも私と同じ感想を抱いているようだ。
やっぱり、なにか物足りない。私たちが強くなりすぎたのかな?
「……いいでしょう。敗れはしましたが、魔剣と私たちの力を見くびられてはジルバ帝国の名折れ」
「お姉様……わかりました。全力を見せましょう!!」
そして、馬鹿2人は実験場を覆うほどの魔力を魔剣から引き出し、炎と水の魔術を発動させただけど……。
ボシュ
バチャ
そんな音と共に魔力の流れが消えた。
「なにやってるんだ。そんな魔力で魔術使ったら爆発するわ。機材と資料が無駄になるからやめろ」
「あ」
「え」
「まったく。こんなに早く頭に血が上ってどうするんだよ。で、ザーギスどう思う?」
ユキが魔力消失の魔術を使ったのだと思う。
私の夫ながら恐ろしい、あれでは魔術は完全に使えない。
デリーユの様に、身体能力と身体強化の魔術ができれば問題ないが、まだ私たちはデリーユの半分も制御が上手くいかない。
「ふむ、確かに規模は素晴らしいですが個人で再現は容易いですし、ユキや私といった魔術に長けている者ならもっと早く、規模も大きくできるのでは?」
「というか、溜めが必要な行動がいただけん。爆弾落とした方が早くね?」
「それはその通りですが、それができるのはユキだけと言っておきましょう。とりあえず、あれがダンジョンコアを使って魔力を引きだしているのは当たりでしょう。姉妹の魔力量ではあの大規模な魔術を発動できない。ユキがコアの制御を奪ってみては?」
「それも考えたんだが、まだ管理者がいるとしたらこっちのことがばれそうだしな。そこらへんが問題だ」
「ああ、なるほど。ではこっちで同じ物でも作ってみますか?」
「それが一番だろうな。あとは、軽く実戦でも見てみるか。あの時は完封したしな」
「そも戦いになればそれが一番ですがね」
2人が話し終えて、私たちに視線が向く。
「ということだ、さっきの通りリエルとカヤ、姉妹の相手を頼むよ」
「まかせてー」
「わかった」
私たちが姉妹の前に立つと、姉の方が少し不機嫌になる。
「いいのかしら? 亜人が相手だと手加減が難しくなりましてよ?」
私を無視してユキに話しかける。
この女、気安くユキに話しかけるな。
「……あ? ああ、まあ頑張ってくれ。カヤ、殺すなよ」
「……半殺しにする」
「あら、できないことは言うべきじゃなくてよ」
そして次の瞬間、オリーヴを私はふっ飛ばしていた。
「お姉様!?」
「あーあー、カヤだめだよ。姉妹の魔剣の使い方みないといけないんだから」
「あ、ごめん忘れてた」
私は壁にふっ飛んだオリーヴを立たせる。
「うぐっ……」
「……骨が折れてる。はぁ、ヒール」
仕方ないから回復してやる。
回復魔術って便利、使える様にしてくれたリリーシュ様に感謝しよう。
ルナは……まあどうでもいいや。
「……ほら、続き。ちゃんと魔剣を使って攻撃してくれないと私が困る。さっきの攻撃は防げないようだから、手加減するから」
「て、手加減!? ひゃわ!?」
仕方ないので稽古のように棒術で軽くオリーヴに撃ち込んでいく。
その日、オリーヴは魔剣を使用することなく倒れた。
ミストの方はうまくリエルがやってたみたい。
おかげでお稲荷さんが少なかった。
まったく、明日はちゃんと魔剣を使わせよう。
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