第174掘:魔剣の秘密序章

魔剣の秘密序章



side:トーリ



今日、私はユキさんたちに呼び出されました。

ウィードの特別会議室に集合ということなのでよほどの事なのだと思います。

魔剣使いの姉妹を捕縛して1週間とそこいらなのですが、それだけ重要な情報が集まったということでしょう。

ちなみに、特別会議室というのは、王様たちと話をしていた会議室よりも遥かに警備が厳重な場所です。

ここに入れるのは、私たちユキさんのお嫁さんたちと、ユキさんが一緒に連れてきた人のみになります。

ここに足を踏み入れる人は、ユキさんの正体を知っている人に限られます。


彼がなにを神から託され、なにをなそうとしているのかを。


だから、各国の王様ですらこの場には相応しくありません。

魔力枯渇という、世界規模の命題を扱っているのですから。

ジェシカさんは新大陸での重要な情報源と協力者なので、この会議に参加しております。

まあ、指定保護もされていますし、問題はないでしょう。仕事も真面目にこなすので好感がもてます。

新大陸で亜人と分類される私たちにも普通に接してくれます。

というか、正直、私たち獣人族のお嫁さんメンバーですら、亜人たちは苦手です。

ユキさんが言うように、積み重ねられた恨みというのがあるのでしょうが、私たちが強いと認識した途端求婚をして来たり、人を倒そうなどと言ったり、最後には私たちの大事な夫であるユキさんを貶したりするので何度かぶっ飛ばしています。

全部の亜人がそう言うわけではないのですが、私たちの前に出てくるのはそう言うのが多いのでうんざりです。

リエルもカヤも色々イライラしています。

セラリアと相談しているのですが、建国するにしろ、ユキさんの意思がそれなりに傾かないと維持できないのであまりお勧めをしないとのこと。

確かに、いまのまま亜人を国民とした国を作っても、内側が纏まっていないので内政をする私たちやユキさんが大変なことになります。

かといって他所の国を乗っ取るとして、ダンジョンがあるこの地点を守らなければならず、防衛はまあいいとして、私たちが助けた亜人たちを放りだす結果になってしまいます。

うん、ユキさんの言う通り見捨てておけば色々動きやすかったと思います。

こんな状況ですけど、ユキさん曰く、俺たちが連続でジルバ帝国の撃退を成功させているので、最近は亜人の反発が少なくなっているらしいです。

……あまり実感がないのですが、だって求婚ばかりくるんです。

ユキさんは、トーリが美人だから。って言ってくれて嬉しいのですが、そこらの男にそんな好意を向けられても全然嬉しくありません。ユキさんに茂みに押し倒されて、ことにいたるならいくらでも来てほしいのですが。


とまあ、こんな感じで会議が始まるまで妊娠待機組と話をしてるのです。


「はぁ~。トーリたちも大変ですね。兎人族の私も同じ扱いになるのでしょうね」


ラッツがウサミミをゆらゆらさせて、さっきの話から自分も想像したのか苦笑いになっています。

なお、妊娠3か月と宣告されてから、更に3か月ほど経っているのでラッツのお腹も目に見えて大きくなっています。


「あ、冗談でも新大陸に来ようなんて思わないでください。ユキさんの子供を身籠っているなんて知られたら、堕ろせとかいわれますよ」

「は? ぶち殺しますよ」

「うん。僕もぶち殺すけどさ、そんな子供に悪影響がありそうな場所に来ないでってトーリはいっているんだよ」

「ああ、なるほど、わかりました。ある程度落ち着くまで、新大陸にはいきません」

「そうねえ。私も様子を見に行きたかったのだけれど、そんな状態じゃやめておいた方がよさそうね」


横で話を聞いていたセラリアもやれやれと頭を振って新大陸に来るのをやめると言う。

他のルルアやデリーユ、エリス、キルエも残念そうだが大人しくしてることにしたようです。


「あ、そういえばさ、キルエってなんでシェーラより先に妊娠したのさ? 立場的に結婚式も辞退したのに」

「それは……」


キルエがお腹をさすりながら説明しようとすると……。


「それは私が頼んだことなのです」

「シェーラが?」

「はい。私はユキさんの側室として来ていますから、正室のセラリアより先に妊娠するのはよろしくないのです」

「え、でもさ、一応表面上、セラリアが女王なんだから関係ないんじゃない?」

「それでも、ガルツとしてはユキさんの子供を先に身籠ったということで、なにかの譲歩を求めたり、ウィードでの私の発言力を上げようと画策する可能性があるのです。最悪、生まれた私の子供に要らぬことを吹き込むでしょう」


うーん、政治の難しいところですね。


「そうなのよね。ユキや私たちは正室とか側室とか関係ないのだけれど、表向きには私が正室、ルルア、シェーラが側室、他が愛人というか、まあそんな感じになっているわ」

「……と、国の関係上、シェーラ様が妊娠するのは、セラリア様がご出産した後と言うことになります。ですから、シェーラ様からせめて私は愛の赴くまま子を成してほしいと言われたのです」


なるほど。うん、愛の赴くままって素晴らしいです。我慢しなければいけないシェーラは少し可哀想です。私たちも落ち着いたらユキさんとの子供作ろう。ばんばんするんだから。


「新大陸へ行っているお主らも無事でなによりじゃ。して、この会議室に呼んだユキはまだこないのか?」


デリーユがそう言って辺りを見回すと、会議室の扉が開きユキさんが入ってきます。

リーアが資料をもってザーギスが機材を運んでいます。


「おう、待たせた。みんな座ってくれ。ってもう座ってるな。リーア、ジェシカ資料を。ザーギス、こっちは一緒に準備するぞ」

「「わかりました」」

「はい」


ジェシカも最近はユキさんの補佐が板についてきました。

まあマーリィさんの側近だったのですから、慣れているのもあるのでしょうけど。

そんなことを考えていると、手元に資料が回ってきます。

最近はこれが普通です。

ですが、昔はこんな上品質な紙は見たこともありませんでしたし、書きなぐって捨てることや、今みたいに資料として簡単に使う事はありませんでした。

さて、思い出に浸るのは終わりにして、資料に目を通しましょう。

お仕事は大事です。ユキさんの妻なのだから、夫の頑張りを蔑ろにしてはいけません。


タイトルは『魔剣の構造』と書いてあります。


「魔剣って、そこのジェシカの上司だったお姫様が持っていたやつよね?」

「いや、お姫様のセラリアがいうなよ」

「今は女王よ」

「そうだったな。と、その姫さんが持っていた奴で間違いないが、今回の資料はまた別の魔剣だ」

「ああ、そういえばジルバ帝国から欲を出した連中が攻めてきたらしいじゃない。その時?」

「そうだ。その時に魔剣をこちらでまた確保したので、今回はしっかり調べさせてもらったわけだ」

「ここに集めたってことはそれなりの情報が手に入ったってことかしら?」

「それなりだな。まあ、原因かどうかはまだまだこれからだけどな。とりあえず資料を見てくれ」


そう言われて、再びみんな資料に目を通します。

えーと、基本的にはナールジアさんの作るエンチャント剣には及ばない粗悪品と呼んでいい物だが、ある一点だけ上回っている個所がある。


「え」

「ユキこれは本当なのかのう?」


全員がある一点で目がとまってデリーユが疑問を口にする。

その一点とは……。


「魔剣の魔力供給源は中央の魔石……ダンジョンコアだ」


そう、ダンジョンマスターがダンジョンを動かすときに必要となる、DPをルナさんからもらう手段。


「ダンジョンコアを使った魔力貯蔵、魔力の総量だけは、ナールジアさんが作った剣より遥かに上だ。なにせ、このウィードのダンジョンコアですら貯蔵量がいまだに増え続けているからな」



いったいどういう事なのでしょうか?

ダンジョンコアを材料に? だれが、なんのために?

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