第173掘:実験交渉

実験交渉



side:ユキ



「さて、お2人とも体の調子はどうだ?」


俺は現在、魔剣使いの姉妹の所へ来ている。今後の展開をどうするか決めるために。

いや、正直ジルバ帝国と開戦でも問題ないんだ。姉妹が連れてきた軍は全滅に近い状態にしてしまったし、嘘の報告を姉妹にさせたとしても、遠からず大規模な調査隊がくることになる。

どう嘘をつかせても、軍のほとんどが壊滅した事実は消しようがない。

流石の俺も、命を復活させることはできないし、ルナは怪しいが、この世界でそんなことをしていないところを見るとやる気はないんだろう。

人が生き返るようになれば、それはそれで問題だからな。

と言うわけで、ジルバ帝国に俺たちのことがばれるのも時間の問題と言うわけだ。

俺が今回直接手を下したわけだが、スティーブたちに任せてもこの結果は変わらなかっただろうし、面倒には変わりないのだ。


「……。兵の皆はどうなりましたの」


俺が色々考えている内に、ようやくオリ○ーじゃなくてオリーヴは口を開いた。

俺への返事ではなくて質問だったがな。


「どうなったかは知っているんじゃないか?」


もう、殆どが木端微塵に生き残りも大怪我。

あ、相変わらず、その兵士たちの食い扶持は自分たちで賄ってもらっている。

鹵獲して、それを配給している状態。いちいちウィードの財布を開ける必要も義理もないからな。

攻めてきたんだし。こっちが損をする理由はない。


「……あなたは私たちを捕縛後、兵への治療を部下に言っていました。生き残りはいるのですか?」


今度は妹のピクミ○、ミストが話しかけてくる。


「はぁ、とりあえず俺の質問に応えるのが先な。色々な意味でそっちに選択権はないのを自覚しろ」

「あんな卑怯な真似をしておいて!!」

「お姉様、落ち着いてください」


ありゃ、結局卑怯者扱いか。


「元気はありそうだな。だが卑怯者はいただけない。どこが卑怯だった? というか、絶対勝てるって言ってたのはそっちだろ? というか、そっちは俺たちよりも5倍近くも戦力集めて負けたんだ。どっちが卑怯者かね?」

「それは、兵法というものですわ!!」

「なら、少数で勝った俺も兵法だ。だれが、真っ当にぶつかり合うかよ。全滅するのが目に見えてるのに」


いや、真っ向からぶつかっても俺たちウィード組は1人も討ち取れないと思うがな。亜人はともかく。


「ぐっ」

「ま、そっちがなにを言っても状況は変わらん」

「では、あなたはなにをしに来たのですか?」


ミストがこちらを睨み付けている。


「自己紹介をな。あの時はそっちはまくしたてるだけだったから、こっちが自己紹介する前につぶしたけど、いまなら普通に話せると思ってな」

「……オリーヴ・メルトといいますわ」

「……私は妹のミスト・メルトと申します」


2人も嫌々ながらもとりあえず自己紹介をしてくれる。

俺はそっちの名前は知ってたけどな。


「俺は……そうだな、この傭兵団のリーダー、ユキと言う」

「……お前はわかっているのか? これで確実にジルバ帝国に敵対したのだぞ」

「で? そっちが攻めて来たから迎撃した。その結果だ。ジルバ帝国が攻めてくるならまた殲滅してやろう。同じように馬鹿みたいに兵士連れてくるだけだろうから。狙いやすいったらありゃしない」

「……あの攻撃は何度でもできるものなのですか」


ミストがこちらをしっかり見つめて質問をしてくる。

これは探ってるな? どうやれば勝てるのかを。

うんうん、これぞ人の道だね。あきらめないで、手段を模索する。

文明こそ遅れているが、そう言うところはこのミストという子はあるらしい。

これが、強者やチートを凌駕しうる根源だ。

というか、強者とか天才とかチートは人が呼んでいるだけで、自分から自称してる奴はそうそういないよな。いや、ギャグで俺って天才じゃね? とかはやるけど。

と、質問に答えてやるかね。


「何度でもできる。あれよりも激しくもな。ちなみに最大射程5キロぐらいだから、大軍がくるなら、適当に引き寄せて、一気にドーンだな」

「「……」」


姉妹はそろって俺の発言で絶句している。

姉妹的にはあの攻撃は切り札であり、一回きりと思っていたけど実は無限とはいかないが、ここら一帯を耕すぐらいはできる。……予算の関係上ってやつだ。

だから、地球からすれば前時代的……は一次大戦と比べても失礼だな。古い戦法、数を集めて隊伍を組む戦い方では勝負にならん。


「だから、そうだな。君たち姉妹があることに協力してくれるなら、生き残っている兵士を連れて帰っていいとしよう」


うん。捕虜にしても、いずれ物資はなくなるし、ウィードから供給しないといけない。

それはお断りなので、帰ってもらう。

姫さんの時と同じ方針だな。

それが一番時間稼げるし、お金もかからない。


「……兵はやはり生きていますのね」

「何人残ったのですか?」

「1023人。思いの外生き残ってよかったな」


実は、姉妹を捕縛したあと、スティーブたちに怪我の治療を後回しに姉妹が連れてきた兵士をある実験に使った。

その成果が1023人というわけだ。

俺の回復魔術が凄いと言うのがわかった。

これまで、人に回復魔術がどれほど効くのか曖昧だったが、俺の回復魔術は少し桁が違ったらしい。

本来、四肢欠損はエクストラヒールでも治せないものらしいが、俺のエクストラヒールでは治せることが分かった。

つまり、四肢欠損した兵士は無くなった四肢が完全に治ったのだ。

なぜ、このような違いが出たかザーギスと考察中だが、多分、人体の認識だと思う。

ルナ曰く、俺の能力はこの世界にある便利そうな力を適当につぎ込んだだけなので、オンリーワンな能力は無く、単純に差がでただけだと言う。

だから、人体の認識じゃないかと思ったわけだ。

そもそも、この世界の回復魔術は本当に回復魔術なのかという……。

あ、いかんいかん。

今は姉妹と話しているんだった。この件はまた別のところで話そう。


「「……」」


しかし、姉妹は未だに悩んでいるみたいだな。


「……協力とは何か聞いていいでしょうか?」

「当然の質問だな。なに、簡単なことだ。魔剣を調べたいんで、実験に付き合ってくれ」

「なんという罰当たりな事を!! あれは、始祖様がもたらした秘宝なのですよ!! それを実験だなんて!!」

「いや、実戦で使って壊れる可能性を無視するのはいいのかよ」


しかし、ジェシカから聞いた通りみたいだな。

あれからジェシカに魔剣について話してもらったのだが、魔剣は遥か昔、始祖と呼ばれる人が亜人に対抗するために鍛え作った伝説の武器だという。

いや、人が作ったんだから伝説もなにも、ただの人造武器じゃん。

その始祖に関してだが、全くの情報無しだ。

伝承は色々あるが、当時の亜人との戦いの関連で、始祖は人々の中では英雄扱いで、どんな人だったか? という記述は素晴らしい人である。としか残っていない。

まったく、調べるのに苦労する。

歴史研究とかしている人は実に大変だとわかる。


「お姉様落ち着いてください。私たちに魔剣を返すと言っているのですね?」

「そうなのか!?」

「そりゃ魔剣を使えるのは君達2人だけだ。返さないと実験ができない。ああ、解放するときに魔剣も一緒にもっていっていいぞ」


詳細は不明でも、この大陸じゃ文字が読めない一般人ですら知っている内容だ。

そんなのを手元に残せば必ず変な事態になる。

魔剣を求めてジルバ帝国以外の国が来たりな。


「実験、それを手伝えば本当に生き残った兵と魔剣を返して、解放してくれるのですね?」

「ああ」

「私たちが暴れないともかぎりませんわよ」


姉のオリーヴが言うが、しょぼい魔剣をもって暴れても被害はスティーブが焦げるぐらいだろう。


「いや、暴れてもいいけど。怪我しないようにな」

「へ?」

「俺に傷一つつけられない奴らが他のメンバーをどうにかできるわけねーし」

「お姉様、大人しくユキの提案に従いましょう。悔しいですが、私たちでは歯が立ちません。何か問題を起こして魔剣を取り上げられれば問題です。兵の命もかかっています。どうか我慢してもらえませんか?」

「……ミストがそう言うのでしたら。わかりましたわ。ユキの提案をお受けいたします」

「よし、交渉成立だ。細かい書類は後でもって来させるから、それに署名してくれ」

「「え」」


だれが口約束だけで済ますかよ。

書類に残せばあとで色々利用できそうだしな。

ま、その可能性に気付くかどうかはしらないが。


「実験は明後日から行うから、まあ、それまではゆっくりしててくれ。あ、無茶な実験はしないから。協力と言っても命を奪う内容でもないし、書類にそこら辺も書いてあるから」


大事だよね。書類。

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