第172掘:魔剣と姫

魔剣と姫



side:ユキ



さて、嫁さんたちはあの適当な説明で納得してくれた。

人間って、納得できないことが実際に起こると、自分の解釈で勝手に自己解決してしまうもんだ。

そうしないと心が安定しないからなんとか。


「ふぅん。ユキの若気の至りってこと? さっきの戦いは?」

「ま、そんな所だと思ってくれ」


正直、あんな士気の上げ方をする姉妹を普通に下しても、きゃいきゃい言って話にならなそうだからな。

自分たちは絶対勝てると言質とって、完膚無きまでに叩き潰した方が後々やりやすそうだったんだよな。

亜人は怖気づいてしまうし、あのまま戦闘して被害が大きかったら今後の亜人との交渉に問題がでる。

ああいうタイプはプライドを粉々にした方がよい。

どのみち駄々をこねるのなら、ポイすればいいだけだし。


「あらひどい」

「でも、駄々をこねるのをほっといたら、ラビリスたちが姉妹を折檻するんだろう?」

「それは当然ね」

「でも、なんで姉妹やジェシカの嫁入りのOKが出るんだ? というか、他に嫁が増えたりしたら皆の相手をする回数が減るんだぞ? なんか間違ってないか?」

「そうねえ。そこは問題なのだけど、ユキが無理しないためね。お嫁さんの私たちが沢山いれば、ユキは優しいから私たちを大事してくれるでしょう?」

「そりゃ、嫁さんは大事にするわ」

「だからよ。たーくさんお嫁さんが、ユキが大好きーって子がいれば変に無理をしないでしょう? 出来た子供も放っておいたりしないでしょう?」

「そりゃな」

「ユキがね、世界を救うために連れて来られたって聞いて、ユキの心に触れてわかったの。ユキは静かに暮らしたいんでしょう?」

「それができないからな。最悪ルナが俺をつぶしに来る」

「ユキは不老なんだから、ゆっくりやればいいじゃない。私たちもルナに掛け合って不老にしてもらったもの」

「おい!?」


マジか、ラビリスが不老になっただって!?

これは他の嫁さんもか、あー、俺からさっさと釘打っておくべきだった。


「大丈夫。私は後悔していないわ。この姿から成長しなくていいの。種族的にもう子供産めるし、ユキと出会った姿でずっといるのは素敵よ。ああ、でもアスリンとか複数人はまだ不老化してもらってないわよ。アスリンはきっとボインボインになるわ。楽しみね」

「アスリンは成長すると見てるのか」

「それは当然。あの子おっぱいが成長してるのよ、あの体型で。きっと成長すれば胸は私に並ぶぐらいになるんじゃないかしら」


それはそれは、アスリンは逸材だったか。


「で、あの姉妹はどうするのかしら?」

「一旦普通に話すよ。そのためにわざわざ60億なんて言ったんだからな」

「その60億の意味がよくわからないのだけれど?」

「比喩みたいなものだからな。60億って俺の故郷とあの姉妹が400万といったジルバ帝国。これを聞いてピンと来ないなら、それでいい。セラリアは感覚的に分かってたみたいだけどな。そしてこれを体感して理解した姉妹は震えてるんじゃないか?」

「?」

「つまりだ。60億の人々を養える国、世界があるってことの宣言だったんだよ。400万の国が相手になると思うか?」

「数では無理ね」

「数は分かりやすいよな。でも、それだけじゃない。60億ってことはそれだけ色んな技術や知識が磨かれているってことだ」

「つまり、あの姉妹はユキを通して、ちきゅうの人たちに敗北したってことかしら?」

「ああ、たかが400万だ。確かにその中にも天才や特殊な才能を持つものもいるだろう。だけど、それなら60億の俺たちの方が有利ってことだ。圧倒的に数が多いからな。生まれてくる技術や知識もそれにつづく。絶対ではないけどな。数があるほうが可能性が高い。事実、俺の故郷の戦い方にあの姉妹、ジルバ帝国は全くなにもできなかった」

「一方的だったわね」

「俺が物資が沢山あるとか、そんなのは二の次なんだよ。どのような方法で戦うか、その考え方が大事なんだ。剣を振るうより銃の方がいい。これは俺の世界では当然だ。俺がチートだから勝てた、当然だ。なんて言うのは馬鹿だ。わかるだろう? 確かに強力な武器があれば強い。だけど1人じゃ無理だ。だから俺は魔物に知識を教え込んで軍を組織したし、命令1つですぐ攻撃できるようにした。これは、チートではなくて、故郷の知識のおかげだ。これを俺1人の成果だなんて言えない。俺はどこからどう見ても60億の一片なんだよ」

「ユキがいつも自分は大したことはないって言っているのはそのせい?」

「ああ、殆どは俺からでた案じゃない。故郷で学んだ知識だ。大したことをしているのは、この知識を積み重ねた俺たちの先人たちだ。そして、今も未来を目指す人たちだ」

「ユキは故郷では普通だったって言ってたわね」

「おう。ただの一般人。普通に暮らしてたよ」


普通に働いて、たまの休みにゲーム沢山したり、昼寝したりするのが趣味なただのおっさん。


「うん。あなたは間違いなく60億の一片ね」


俺のイメージが伝わったのだろう。

ラビリスはそう言って笑った。


「そういえば、ユキは姉妹と話すって言ったけど。何を目的に? 魔力枯渇の話につながるの?」

「つながる。というか、この魔力枯渇した大陸でなんであの魔剣が普通に稼働するか不思議すぎるんだよ」

「そんな資料見たわね」

「皆には一応資料として渡しているけど、わからんだろ?」

「ごめんね、ユキ。頭が悪くて」

「それは適材適所ってやつだ。こういう分析は俺やザーギスに任せとけ」

「ふふっ、やっぱり素敵よ。で、魔剣が問題なのね?」

「ああ。というか、あの魔剣の発動条件とかも不思議なんだよ。ジェシカから聞いただろう、あの魔剣の不思議な話」

「ええ。魔剣は常に姫と共に目覚める。かしら?」

「そう。なぜか魔剣は女性限定で歴代使われている。前回の姫さん、マーリィの魔剣は警戒をして迂闊に触れないようにしていたし、情報も欲しかったからほぼなにも研究はしていない。ただ、ジェシカからの情報で魔剣と女性という話がでてザーギスも何かあるのではと睨んでいる」

「それが枯渇の原因と思ってるの?」

「いや、そこまでないと思うが、それなりの情報になると思う。だから、今回の姉妹は本当に丁度よかったわけだ」

「ユキにかかれば由緒正しい魔剣と姫もただの情報ね」


ラビリスが言った事になにか引っかかった。


「ん? ユキ、なにか引っかかってるわね。……由緒正しいじゃないかしら? ここでユキの考えが乱れてる」

「由緒正しいってたしか出所がはっきりしていることだよな?」

「ええ、人なら生まれ。物ならいつ手に入ったとかかしら?」


ラビリスに言われてピンときた。


「魔剣は誰が作ったんだ?」

「……ジェシカに聞いてみましょう」


俺たちは鑑賞会に参加しているジェシカに会うため、部屋を出て行った。



なんのために、誰が魔剣を作ったんだ?

流石に、勝手に出来るような代物じゃないしな。

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