第169掘:開戦前 前日
開戦前 前日
side:ユキ
あれから一か月たちました。
ああ、ジルバ帝国が再び動き出しましたって話からな。
その間、俺とザーギスは魔力枯渇の原因をずっと究明し、ある程度の安全ラインを見出した。
そして、ようやく魔剣というオーパーツを抱えたサンプルがくる。
あ、忘れそうになるけど、亜人たちは一応俺たちの言うことは聞いている。
未だに獣人組の嫁さんにちょっかいだしたり、俺がわざと表に出てないのをいいことに好き放題悪口を言っていたりするのだが、それはすべてトーリ、リエル、カヤが叩き潰している。
数にすれば1300ほど集まった。
隠れ住んでいる亜人たちの総数からすればまだ500分の1もいない。
と言っても、ウィードがある大陸とほぼ同じ大きさで、亜人の数が50万前後しかいないというのは、かなり魔力枯渇が酷いとわかるだろう。
その50万が正しい数字ではないだろうが、長老や、集まってくれた亜人たちが知ってる限りでは、そのぐらいの数が纏まってではなく、分散して隠れ住んでいるのだ。
最早、亜人の力では人という数の力にはどうしようもない状態だ。
この1300という数字は総数であって、戦力ではない。この内戦闘に耐えうるのは800ほど。
残りの500は女子供老人などだ。戦う家族についてきたという奴だ。
ま、本来であればこの500もほとんどが戦闘に参加する予定だった。しかし、俺たちの基準に達していなかったので、今後戦う仲間を喰わせていくために、畑を耕したり、狩りにいそしんだりしている。
ウィードが支援してもよかったのだが、未だに人に対する嫌悪がある亜人が多く、表面上俺たちに従っているだけなので、変に俺たちの力の一端を見せるわけにはいかない。
物資が自由に手に入るのと分かれば、好きなだけ要求しそうだしな。俺たちを都合のいい道具と見てるのもいるし。
異文化交流が難しいことを実感するわ。
魔力の枯渇原因がわからないし、無下にできないのが面倒だよな。
「うぃーっす。大将、取りあえず布陣すみましたよ」
「おう、お疲れ。相手の数はどうだ?」
「大体5000前後って所ですかね。事前情報と同じっす」
「モーブたちは?」
「予定通りに亜人たちと一緒にいますよ。あれで、少しは人族のこと見直してくれるといいんすけどね」
モーブたちはドッペルを使っての諜報活動はしないで、ここ数か月、実際には3か月ほどだが亜人と一緒にいてもらって信頼関係を築くように言っている。
もう、俺たち人族への恨みつらみは凄いもので、だいたい初めて俺たちと顔を合わせる奴は顔をしかめる。
だから、どうにかしようと、戦闘訓練兼信頼関係を作る役としてモーブたちを亜人と一緒にしたのだ。
報告からすればモーブたちと釜の飯食って酒を飲んだやつは、大体仲良くなっているらしい。
こういうのはやっぱり、大人の対応の仕方があるよな。
「まあ、少しは改善すればいいよな。流石にアスリンたちを入れてもイメージ改善にはならんからな」
「そりゃ、ちびっこたちはアスリン姫だけっすからね。人族は」
「ラビリスもフィーリアもシェーラもこっちじゃ亜人だからな」
「実は、そのことでアスリンを除け者にしようと馬鹿な亜人の大人がいまして」
おいおい、アスリンみたいな子にそんなことするのかよ。
「無論、ラビリス、フィーリア、シェーラにボコボコにされましたっす」
「おう、そいつは生きてるのか?」
いや、死亡報告などは聞くようにしているから、死んでないのはわかっているが、つい聞いてしまうのが人間の心だよな。
「生きてますよ、一応」
「一応ってなんだよ」
「そりゃ、ラビリス姐さんがいましたからね。あのちびっこメンバーの纏め役で、大将の代わりも務まるアスリン姫大好きっこが、なにもしないわけないっす。公衆の面前で、ぼっこぼこにして、裸にひん剥いてつるしたっす。子供を虐めましたって張り紙されて」
「おぅふ」
「おいらも流石にあそこまでやらないっす。それで、流石にいままで普通に接していたアスリン姫への仕打ちと、全裸につるされたのと、ちびっこにボコボコにされて、引きこもりになってるっす」
「おお、引きこもりだけで済んでるんだな」
逆に驚いた。
日本でそんなことが露見すればもうその場所で住んでいられないぞ。
強いんだな。いつか社会復帰したら優しくしてやろう。
「話がずれたな。で、進軍しているオリ○ーとピク○ンはどこらへんだ?」
「あ、ずれてたっすね。あの進軍速度だと明日の昼ぐらいっすね」
「やっぱり、軍の移動は遅いな。車って便利だよな」
「そうっすね。それを言っておいて、おいらたちには剣と魔術で戦えっていうんすね?」
「理由は前も言ったけどな、相手にごねられないため、こっちの手札を晒さないため、と色々理由があるわけよ」
「わかってますっすよ。大将が出るのも不味いっすからね。リーア姐さんはともかく、ジェシカ姐さんが出ると、逃がしたマーリィ姐さんの立ち場が危うくなりますっす」
「そこら辺もあるんだよな。一応ジェシカも俺の側近扱いだしな」
「正直私も実戦で自分の力がどこまで上がっているのか試したいのですが……」
「姫さんに迷惑かけるぞ、必ず」
「……はい、遺憾ながら今回は我慢いたします。ユキも戦闘に出ないようですし、セラリア様も安心されるでしょう」
「というかさ、なんでセラリアをそこまで丁寧に扱ってるんだ?」
「それは、ウィードの女王陛下ですからね」
「それで言えば俺は同じぐらい偉いんだが」
「わかっていますが、ユキはそういうスタンスなのでしょう。それに比べて、セラリア様は王として振る舞っております。それに対しての敬意は必要かと。あと、姫様に似ていますので、いや姫様の成長した姿と言いましょうか?」
「ああ、やっぱり姫さんとセラリア似てるのね。中身」
「ええ、元武闘派と言う話でさらに実感しましたね。姫様は貴族の1人で、公爵家ではないものの、遠縁で一応、万が一の王位継承権が存在しますから」
「似てるなー」
「はい」
セラリアも戦闘大好きだからな。
姫さんと顔合わせたらどうなるものやら。
そんな風に、雑談をしていると、一緒にいたリーアが話しかけてくる。
「さて、もういい時間です。明日が戦いなんですから、将軍様たちはお休みくださいな」
「将軍って実感ないっす」
「そりゃ、ウィードじゃ将軍っていうより便利屋だしな」
「あそこでは軍の必要性が殆どないですからね」
そんなことを話しながら、俺たちは各々の寝床に戻って明日に備えた。
あー、敵軍の話は殆どしてないな。
すまん、あまり重要視してねーや。
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