第165掘:隔絶
隔絶
side:ユキ
さて、姫さんたちは脱走したし、村とも一旦決着がついた。
あとは防御陣を構築して、敵の大軍に備える準備をするだけだな。
亜人への呼びかけは村長たちに任せよう。
こちらから行くにはまだまだ情勢が不安定すぎるし、本音を言えば戦力は既に整っているのでいらねー。
と言うことで、今、一番やるべきことは、敵対勢力になるジルバ帝国の情報を握る元ジルバ帝国、風姫騎士隊所属、ジェシカ・ワイドちゃんと仲良くすることだ。
情報は金より大事って言うしな。
「さて、ジェシカ。君はこれからどうするつもりだ?」
とりあえず、彼女の意思を大事にしよう。
好感度アップへの第一歩、気遣いと言うやつだ。
捕虜とはいえ、逃げ出さない限りは大事な情報源でもあるし、特に俺たちがジェシカから被害を受けたわけでもない。
軍で攻められはしたが人的被害はなかったしな。物資も殆ど減ってない。
勝利後にスティーブたちを労うために高級酒を出したぐらいだ。あと、捕縛用の2500人近くのロープと物資運搬の労力かね。ああ、治療費もか?
本来であれば無視できない消費なのだが、俺にはダンジョンというDPを使った物資補充方法があるため問題にならない。
そのDPが枯渇するような事態は余程じゃないかぎりありえないから。ウィードの住人一万と3千人強が俺たちを支えてくれる。
「どう、とは?」
「捕虜とはいえ姫さんとの約束もある。逃げ出さない限りは変な命令をするつもりもない。ジェシカの意思を尊重する。ま、情報は出来るだけ教えて欲しいが」
「ジルバ帝国を攻める気ですか?」
「いや、防衛のためだな。見ての通り数は少なすぎるからな、ついでに立場上は人族の敵になってるから、自分から仕掛けるのは愚の骨頂だろ?」
「その通りです。私も死亡したと報告されるので、逃げると言うことは他国へ行かなければいけません。ジルバ帝国には今までお世話になっています。他国に降る理由はありませんね。姫様とのお約束通り、ユキを籠絡か、ここの情報を集めることに専念させていただきます」
「ふむ。堂々と間諜宣言か。余り深いところには入れられないぞ?」
「でしょうね。ですからリーダーであるユキの籠絡に勤めさせてもらいます。好きにしていいんですよ? 心配はいりません、暗殺なぞいたしません。ユキやリーア、そしてこの傭兵団は私が身を捨てて手に入れてもおつりがきます。望むのでしたら、ユキを心から愛してみせましょう」
うへぇ。生粋の軍人と言うべきか、生真面目さんやな。
と、そこは置いておいて、指定保護をかければ保護にもなるし、首輪をつけることにもなるし、俺たちの安全にもつながる。
この姿勢なら指定保護を受けそうだな。やってみるか?
「そうだな……、俺の指定保護を受けるなら、それなりの情報を見せてやってもいい。どうする?」
「その指定保護とはなんですか?」
やっぱり即座に頷くような相手じゃないか。
「そうだな。詳しく元から説明するとすごく面倒なんだ。簡単に言えば奴隷の首輪があるだろう? あれの簡易版みたいなものだ」
「奴隷の簡易版? なにがどう簡易なのですか?」
とりあえず、指定保護の付加能力を教えていく。
おさらいのために、ダンジョン内では殺傷行為は無理、移動の制限、情報の口外制限、指定保護同士の遠距離連絡、無論俺への攻撃も禁止。
ダンジョン云々は言っても意味が解らないだろうから、ダンジョン以外の説明をしていく。
「ふむふむ、大体、奴隷の首輪と差異はありませんね。違いがあるとすればユキが温情により制限を緩和してくれる点ですか」
「まあそうだな。とは言え、なにもない場所に放置する事すらできるからな。ある意味では奴隷の首輪より厳しい制限があると言ってもいいだろう」
エルジュは奴隷の首輪より軽いと言ったが、それは保護される側ならな。
束縛されるのであれば、奴隷の首輪より厄介な代物なのだ。
「ですが、ユキたち傭兵団の強さの秘密を教えてくれるのですね?」
「秘密ってわけでもないんだがな」
とりあえず、見せても頭がパンクするだけだから、面倒なんですよ。
ジェシカですら追いつかないだろうから、他の姫さんとかに見せても理解できないだろう。
ある意味、そういう才能もあるとみてジェシカを捕虜にとったのだ。
「その反応は、指定保護を受けるってことでいいか?」
「はい、お願いします」
とまあ、あっさり指定保護は受け入れられた。
オリエルぐらいだよな、反発したのは、まあ立場の違いか。
「と言うことで、これから俺たちの仲間? になるジェシカだよろしくしてやってくれ」
「「「はーい」」」
「うっす」
嫁たちは普通だ。
スティーブはなんか戦った本人だから気まずそうだ。
モーブたちは頷いただけで特に興味もなし、本来の戦場はこんなもんだろうな。
一々恨みをもってもあれだしな。
というか、モーブたちはわざと避けてるよな。下手なこと言わないように。
「ジェシカさん、私はシェーラと申します。色々お話を聞かせて貰えればうれしいです」
「ジェシカお姉ちゃん、私、アスリンって言います。よろしくお願いします」
「わたひはフィーリアです!!」
「ラビリスよ。……クスッ」
トーリたちと挨拶を交わした時と違って、なぜかシェーラたちと挨拶を交わしてるジェシカは心なしか顔が固い気がする。
「あ、はい。よろしくお願いします」
やっぱりなにか固いな?
子供が苦手か? 一旦アスリンたちを遠ざけて話してみるか。
「アスリンたちは、ジェシカの歓迎会の準備だ。俺は案内と説明してくるから、今日のご飯はアスリンたちが頑張ることになる。今までの勉強の成果を見せてくれ」
「「はい!! 頑張ります!!」」
「わかりました。ごゆっくり」
「ユキ、また面白い子連れて来たわね」
そう言って、年少組は旅館に戻っていった。
その姿を見送っているジェシカに話しかけようと……。
「ユキ!! なんでこの傭兵団はあのような子供を連れているのですか!!」
え、なに怒ってるの?
「戦いは私たち大人がするべきもので、未来を担う子供たちは、せめてその時が来るまで健やかに過ごすべきです!! なぜ、このような戦場に連れて来たのですか!!」
あー、なるほど。本当に生真面目さんかい。
「言ってることはわかるが、立ち寄った村に放置もそれはそれでまずくないか? その村が今後も無事とは限らないし」
「わかっています。が、ここは近いうちにもっと大きな戦いが起こります」
「あれ、誤魔化せるんじゃねえの?」
「ユキはわかって言っているでしょう。ジルバ帝国だって一枚岩でないのです。姫様の失脚を狙っている奴らだっている」
「だろうな。精々時間稼ぎがいいところだと思っているよ」
「だったらなぜ!! このような……」
「心配するな。あの子たちが望んだことだし……」
「そんなわけがありま……」
そして、ジェシカを黙らせる一言を言う。
「聞いてなかったのか? 姫さんの本隊つぶしたのは俺たちと、あのアスリンたちだぞ」
「なっ!?」
「最初から言ってるだろう? 姫さんたちは障害になりえない。が、敵対すると動きにくいから、穏便な措置を取っているって」
そしてリーアがジェシカの手を引っ張る。
「……どこに?」
「知りたいんでしょう? ユキさんが、私たちがなぜこのような常識を覆す様な戦力を持っているか?」
「……ああ」
「なら、ついてきてくださいな。アスリンたちもご飯を作って待っています。冷めないうちに、案内してあげますね。いいんですよね、ユキさん?」
「おう、久々にウィード見学と行きますか。あ、スティーブ防衛ぬかるなよ?」
「へいへい、いってらっしゃいっす。あ、あとスーパーラッツでチョコフレー○買ってきてください」
あー、あれ食べるのかお前。
そんな約束をしつつ、ジェシカを連れてダンジョンの中に入っていった。
「はい、ここがダンジョンの中にある街。私たちの大陸で一番発展していると言っても過言ではない、ウィードです」
「……」
ジェシカは既に目が点になっている。
一応、説明をなるべく省けるように、庁舎に連れて来たのだが、庁舎は4階建ての現代ビルに近いしな。
外も普通にコンクリートの道と、現代風民家、及び商店が広がっている。
「さてさて、これがパンフレットになります。えーと、まずは3ページを開いてください」
「……」
言われるがままにページを開く。
うん、夢だとか言わないぶんクラックやアルシュテールとかよりはマシだろう。
「ウィードの人口は常に増え続けています。見ての通り、他所とはかけ離れた、むしろ隔絶した環境なのです。パンフレットには総人口1万3千と書いてありますが、つい先日の住民票受理で1万7千人を越えました」
「え、ちょっとまて、なんでそんなに人口が増加してるんだ?」
「え? リリアーナさんから具合の悪い人や、生活がキツイ人はダンジョンのゲートで送られてきてるじゃないですか」
マジか!!
そこら辺はセラリアとかエリスに任せっぱなしだからな。
お役所仕事とかメンドイし!! たらいまわしの名所だよなあそこ。いや、地球の日本のお役所な。
「……あの、遺跡の下にこんな街が広がっていたのか……」
「ん?」
「あれ?」
ああ、ダンジョン自体がないから、転移ゲートすらしらないのか。
というか、そこからどう説明したものか……。
「リーア、ウィード紹介は一旦置いとけ。やっぱり事前説明がいる」
「そうですね。庁舎の空き部屋借りてきます」
「なんですか? 遺跡の地下ではないのですか?」
「いや、あっているというか、間違っているというか」
別の大陸ですって言って信じられるのか?
やっべー、やっぱり文明格差のある相手に自分のことを伝えるのは非常に難しい。
「ユキさん3階の会議室借りてきましたよー」
「おう、なら行くか」
「ちょっと待ってください。先ほどの説明なら、この庁舎といいましたか? この場所は民を情報を管理する場所なのでしょう? そこの場所をあっさり借りられるとはユキたちはいったい……」
「あー、うん。そうだな。一応ウィードでの自己紹介をしておこう。ウィード軍、参謀にして、魔物軍大将、そして直轄軍副将のユキだ。政治関連は殆どかかわっていないが、ウィードではそれなりの重鎮だな」
「私は、そのユキ参謀の秘書兼護衛、そして妻の1人でリーアといいます」
「なっ……」
そりゃ、驚くよな。
傭兵団かと思いきや、他国軍のお偉いさん。
「あ、そうだ。情報を姫さんに渡したいだろうから、普通に手紙出していいよ」
こういう思いやりは大事だよね。
「だ、誰も信じてくれるわけないじゃないですかーーーー!!」
うん、そう思うよ。
ここの内容書いても頭がおかしいとしか思えないからな。
「とりあえず、これは序の口だ。まずは基礎知識を学ぶぞ」
「そうですね。気が付かない場所で常識が違う可能性もありますし、一旦お勉強ですね」
「こ、これが、序の口!? ひ、姫様。私たちの相手は、伝説の魔王なのかもしれません……」
おう、嫁から勇者認定された次は魔王様とか、俺もジョブチェンジに事欠かないね。
「ジェシカさん失礼なことは言わないでください」
「す、すまない。あまりに、予想外で……」
ありゃ、リーアが変なところで叱るな?
デリーユだって魔王だし、俺が魔王って言われても問題はないと思うが?
「ユキさんは既に私という勇者と、デリーユさんという魔王を妻にしてくれているんです。勇者様や魔王様でも間違いではありませんが、それは過少評価です!!」
あ、そっちね。
ジェシカは首を錆びたブリキのおもちゃみたいにギギ……と向けて……。
「リーアの勇者云々は……」
「……ああ、事実だ」
俺が答えると、ジェシカは頭を抱えて蹲る。
「ありえない。でも目の前の風景は現実。でも、流石に勇者とか……、さらに魔王? 嘘よ。でも、あの強さとか、ちょっとまって、ならユキはそれよりも上? なんですか、その生物は? ドラゴン? ああ、ドラゴンなら勇者や魔王より強くても不思議じゃないですね。彼はドラゴンでこの街は……」
あ、混乱している。
こりゃ、晩御飯間に合うかなー。
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