落とし穴27掘:新人さん歓迎会

新人さん歓迎会



side:ジェシカ



私の常識はどこにいってしまったのでしょうか?

現在、私の目の前ではリーアが、このウィードが私たちとは別の大陸にあると説明しています。


別の大陸? そんな馬鹿な。と、思っていたら、異常な精度の地図を見せて、海を挟んで私の知っている? 大陸と、ウィードがある大陸を見せてくれました。

遺跡、いや、ダンジョンの機能を使って、私たちの大陸では失われて久しい転移ゲートで、その大陸間を移動してきたとのこと。


まだ、まだそれはいいとしましょう。

一番の問題はウィードのトップクラスの重鎮たちが、なぜ私たちの大陸にやって来たのかということです。

その軍事力の一端は見せてもらいました、姫様が率いる精鋭軍が赤子のようにあしらわれたのです。

だから、その力をもってすれば、ジルバ帝国はすぐに劣勢に陥るでしょう。

なにせ、物資はウィードから運搬、兵の補充もダンジョンの機能でほぼ無限に引き出せる。

いえ、正直に言いましょう。ウィードに侵略の意思があるならば、ジルバ帝国どころか、その周辺国家は瞬く間に落ちます。

ですが、ユキたちはそんなことはせず穏便にことを済まそうと必死でした。


そこがユキたちの目的につながります。

ユキたちは神から……本物なんです、あれは本物だと認めるしかないんです。

その神から、魔力枯渇を大陸規模ではなく、世界規模で止める使命を受けていました。

そのため、ウィードのある大陸で魔力枯渇問題を一部解決したとして、魔力枯渇現象が著しい私たちの大陸へは原因と改善方法を調べるために来たそうです。

ですが、どこに原因が眠るかもわからない状況で、ウィードという魔力を膨大に持った一国家が入ると、魔力が枯渇している大陸で何が起こるか予想がつかないと言うことで、少数で調べる調査隊を編成したのです。

ですが少数での調査となれば、周りの関係で調査ができないことがあります。

今回に限っても、亜人の陣営に引き込まれ、ジルバ帝国とことを構える形になってしまっています。

なにが最善かわかりませんが、ユキたちの目的を見れば、他所とケンカ状態になるのは非常に問題だということです。

さらに、姫様のあの魔剣が奇妙だと言っていました。

まさか、あの魔剣に魔力枯渇の原因があるとは思えませんが……少しでも情報が欲しいユキたちからすれば、多方面から物事を考えるは当然だと思います。


「……なんでこんなことに……」


私は庁舎の会議室で説明を受けて、頭を抱えていました。

ただの傭兵団から、世界規模の問題に巻き込まれることになってしまった。


「なんだ、信じたのか?」

「あったりまえです!! 見てください私のステータス!!」


そうして、私は自分のステータスをユキに見せます。

鑑定スキル持ちだと言うので、最初から私や姫様の戦力は筒抜けだったのでしょう。


「レベル54です!!」

「うん、レベル高いよな」

「ユキがそれを言いますか!! と、それはいいです。問題はここのリリーシュ様の加護です!!」


私が指さしたところには、リリーシュの加護という、破格のスキルがついていた。

全ステータスの底上げに、安産、無詠唱、回復魔術中級までと、もう無茶苦茶です。


「それを、この場にパッと現れた人がポンとくれたんです。何を疑えと!!」


まさか、信仰もしていない、他所の大陸の女神から加護をもらうことになるとは思いませんでしたよ!!


『ユキさんが連れて来たなら安心ですねー。私の加護上げますんで役立てください。なにかご用があれば、ウィードの教会で司祭を勤めておりますのでー。ではではー』


こんな感じで消えていったんです!! しかも、神がウィードに、司祭で教会にご在宅とかなんですか!?


「ま、あきらめろ。俺よりは状況はマシだから」

「……まあ、異世界から連れて来られたのですからね」


更に、このユキは異世界から神によって呼び寄せられたと言うのだ。

私の大陸でも、異世界から召喚された勇者を中心とした国があるが、ここまでの栄えようは見たことが無い。

多分、このユキは異世界人の中でも格別の存在なのだろう。


「俺から言えることは、この情報を書き出して姫さんが理解できるかだが……」

「無理です。私でも現物を見て説明されたから納得できたんです。それを、手紙だけでなんて伝わりません」



side:ユキ


ですよねー。

ある意味、一番の情報漏洩策だよな。

相手の理解できない情報だけを扱う。

ま、向こうに転生とか地球から呼ばれた人間がいれば別だろうけど。

地球でいうなら、UFOにさらわれた。ってやつだよな。絶対信じてもらえんわ。


「というか、この話を手紙だけで信じる奴がいれば、それは頭のネジが飛んでるな」

「ですね」


だが、現地人でこの内容を即座に理解を示すなら、俺にとってとても欲しい人材になるな。


「さて、ユキさん説明はこんなところでしょうか?」

「そうだな。リーアが大体説明してくれたし、あとは現物を見るのが一番だよな。百聞は一見に如かず」

「なんですか、最後の言葉は?」

「俺の世界の諺でな。百聞は数多聞くって意味だな、実際百回聞くわけじゃない。そして一見ってのは一目見ること。つまり……」

「何度も説明を受けるよりも、実際に見たほうがいい。ということですね」

「理解の早いことで」

「いえ、理にかなった言葉かと。しかし、今までの情報では理解しにくいことがまだあるわけですね……」

「そりゃ、最初に言った通り、ここの話は基礎知識だしな。後日ウィードの成り立ちとかも学ぶことになるぞ」

「そうですね。この大陸の情勢や歴史も頭に入れないといけないですね」

「……この歳で、学ぶことになるとは、世界は広いですね」

「人間死ぬまで勉強だからな」

「その通りだと思います」

「ま、人生は死ぬまでの暇つぶし。と言う人もいるけどな」

「それは、なにか心無い言い方ですね」

「そうか? 勉強と暇つぶしの違いだけだろ? 俺は勉強より、暇つぶし感覚なんだよな」

「なぜ? と聞いていいでしょうか?」

「息がつまるだろう? 死ぬまで勉強なんて。俺は死ぬまで、こうやって嫁さんたちと仲良く時間を潰すよ」


俺はそう言ってリーアをお姫様抱っこする。


「うーん。ユキさんの気持ちはわかりますが、私たち、お嫁さんとしましては、死ぬまでユキさんと一緒ですかね」

「そりゃ嬉しいね」

「……人それぞれと言うわけですか」


そんな雑談をしていると、アスリンたちから連絡がくる。


「晩飯の用意ができたみたいだな」

「アスリンちゃんたちどんな料理を作ったんでしょうね?」

「普通に料理できるからな。不味い物はないと思うぞ」

「あの子たちの手料理ですか。……よし、それで一旦落ち着きを取り戻しましょう」


ジェシカ残念。

ウィードの食文化はジェシカのところと雲泥の差ですよ?



そして、旅館……もとい自宅に帰る。


「お兄さんお帰りなさい」

「ユキさんお帰りなさい」

「今日はお酒もたっぷりありますよー」

「これ、ミリー。お主は程々にしておけよ。酔っぱらって妾たちのお腹に危害を加えるなら、外で寝てもらうからな」

「お帰りなさい。旦那様怪我はありませんか?」

「お帰りなさいませ、シェーラ様たちは料理を頑張っておられました。冷めないうちにどうぞ」


帰ると、いつものように妊娠組とサポートのミリーが出迎えをしてくれる。


「どうも、この度、ユキの捕虜となりましたジェシカです。ところで、ユキとは、会話から察するに……」

「ええ、私たちはお兄さんの奥さんですよ。と、兎人族のラッツと申します」

「ちなみに、妊娠中なので待機なのじゃ。ジェシカのことは聞いておる。ようまあ、ユキにケンカを売るきになったのう。名前はデリーユ。人族でそこのリーアとは対の魔王じゃな」

「っ!? ご挨拶どうもありがとうございます。私としても、ユキたちの力を知っていたら挑みませんでしたから」


そんな感じで、嫁さんたちとは普通に問題なく会話を交わしている。


「そういえば、セラリアはどうした?」


こういうのは、迎えにでるのが正妻としての務めだとか言って。


「今来たわよ。夫のあなたをほっとくわけないじゃない」


そう言って、セラリアが顔を出す。


「で、なんで剣を握っている?」

「素振りしてたのよ」

「いや、妊娠中だし安全にな……」

「だめよ。たま○クラブにも書いてあったわよ。適度な運動をした方が好ましいって」


いや、お前の素振りは限界まで振るのがデフォルトだろうに。


「さて、ジェシカ。私がユキの正妻で、ウィードの女王を勤めているセラリアよ」

「し、失礼をいたしました!!」


その場で即座に膝をついて頭を下げる。


「といっても、ウィードの運営は民が中心だから、実質お飾りなんだけどね。今はまだ私が動く必要があるけどあと数年もすれば、私は正真正銘のお飾りになるでしょうね」

「……?」


そんなことジェシカに言ってもわからんぞ。

今日ウィードに来たばかりなんだし、向こうも絶対王制が普通なんだから。


「あら、ごめんなさい。細かいことは置いておいて、ユキの手助けをしてくれるなら、私はジェシカを信用するわ」

「……ありがたいお言葉ですが、女王の発言としては軽率ではないかと」

「ぷっ、ごめんなさい。私の部下のクアルみたいね」

「失礼な。申し遅れました、私がセラリア様の部下でクアルと申します。ジェシカ殿の言い様は当然かと」

「あらそう? なら、王族と部下の食事は同じではまずいと思うのだけど?」

「それはダメです。この国の方針は平等にです。差を求めてはいけません」

「まったく、都合のいい」

「それはそのままセラリア様にお返しします。剣を振るなど無理をなさって……」


そのままクアルの御小言がはじまるが、セラリアは無視してジェシカに話しかける。


「まあ、こんなところよ。色々違いすぎて戸惑うかもしれないけど、頑張ってね」

「はっ、お気遣い感謝いたします」

「とりあえずは、晩御飯が楽しみね。色々な意味で……」

「?」



その後、ジェシカは晩御飯を倒れるまで食べた。

流石に逆流はしなかったが、翌日布団で寝ているはめになる。



世の中、やっぱり飯が心をつかむのにだいじだよな。

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